健やかなる時も病める時も
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胡桃と原田が恋人同士になったのは、街がクリスマス一色に染まる季節だった。
師走半ば、会社の忘年会で、胡桃が同僚の平助にこぼした恋愛相談がきっかけとなり、あれよあれよという間に原田との距離が縮まったのだ。
そして、クリスマスイブ。
互いの都合がちょうど合うのがこの日だった、という偶然もあるのだが、記念すべき初めてのデートがイブ……となれば、やはり特別な想いに胸は高鳴る。
薄曇りの空が広がる昼下がり、駅のコーヒーショップの前で、二人は落ち合った。
ジングルベルのメロディーが流れる中、楽しげな人波を眺めていた原田が、胡桃の姿を見つけて歩み寄る。
「んじゃ、出かけるとするか。胡桃は、どこか行きたいとこあるか?」
「いえ……」
俯きかげんで、なんとなく元気がない胡桃の様子に、原田は、彼女の顔を覗き込んだ。
「どうした?顔色があんまりよくねぇな」
胡桃の額に手を当てた原田の表情が曇った。
「胡桃……おまえ、熱あるじゃねぇか!」
「え……あの……ちょっと寒気がして頭がボーッとしますけど「完全に風邪ひいてんじゃねぇか!!」」
原田は胡桃の手をギュッと握ると「帰るぞ」と踵を返した。
手を引っ張られながら、胡桃が声を上げる。
「帰りたくありません!原田さんとの、初めての約束なのに……」
立ち止まった原田が振り返れば、今にも泣き出しそうな瞳が彼を見上げていた。
小さく息をついた原田は、握っていた胡桃の手を離すと、彼女の頭をクシャッと撫でた。
「約束なんざ、これからいくらだって出来る。とにかく、体を治すのが先決だろ?」
「でも……せっかく会えたのに……」
立っているだけでもつらいはずなのに、尚も一緒にいたいと望む胡桃に、原田は嬉しさを感じながら柔らかな笑みを浮かべた。
「無理して街を出歩くだけが、デートってもんじゃねぇと思うぜ?俺が胡桃を看病する……それだって、二人一緒にいるんだから、デートにゃ変わりねぇはずだ」
「……はい……」
再び歩き出そうとした時、足元のふらついた胡桃を、原田が抱き止めた。
「すみません……」
「いや、その体調で歩くのは辛ぇよな……悪ぃ、しばらく我慢してくれ」
彼は、胡桃を横抱きに抱き上げた。
街行く人々から、ため息に似た静かなどよめきが起きているのが、胡桃の耳にも届く。
長身でどこからどう見てもイケメンの原田が、昼の往来で女子をお姫様抱っこ……
目立ちすぎるほどに目立ち、誰もが見惚れる光景であるのに決まっている。
何度も「すみません」と呟く胡桃に、早足で歩きながら、原田が言う。
「おまえは、自分がこうと思ったら、とことん突き進んじまうとこがあるからな。それがおまえの良いところでもあるんだが、今日は駄目だ」
「はい……」
張り詰めていた気持ちがゆるんだのか、ぐったりと俯く胡桃。
原田は、彼女を抱える腕に力を入れた。
「そんなにガッカリすんなって。俺がちゃんと側にいてやるから」
胡桃の部屋。
「とにかく、今日はおとなしく寝てろ」
「うぅ……せっかくのクリスマスなのに、本当にごめんなさい……」
しょんぼりと呟く胡桃の瞳が潤んでいるのは、熱のせいだけではないだろう。
彼女はさらに、言葉を絞り出すように続ける。
「私なら大丈夫です……よくなるまで、おとなしく寝てます。ですから……原田さんは、永倉さんたちと楽しいクリスマスイブを過ごしてください」
鼻まで布団をかぶった胡桃の傍らで、原田は小さく微笑んだ。
「大切な女がつらい思いしてんのに、この上寂しい思いをさせて、自分だけ飲みになんざ行ける訳ねぇだろ?」
「でも……」
さっきまでは、体調の悪さをおしてでも、原田と一緒にいたいと譲らなかった胡桃。
だが、こうなった以上、寝込んでいる自分のそばにいさせては、原田のクリスマスイブが台無しになると気を揉んでいるのだろう。
――もっと、ワガママ言っていいんだぜ?――
原田は、そう胸の内でつぶやく。
「ここにいたいってぇのは、俺の意志だ。だから、胡桃が気に病む必要はねえ。そうだな……なんなら、裸で添い寝してやろうか」
「やめてください……余計に熱が上がっちゃいます」
「はは、冗談だ。それはまた、体調がよくなってから、追々な」
「………………」
返事に困った胡桃が黙りこむ。
ちぃっとからかいすぎちまったかな……そう呟き、原田は苦笑する。
「なぁ、胡桃」
「はい」
胡桃は、節々の痛む体を、やっとの思いで動かすと、原田の方を向いた。
「おまえの体は、おまえひとりのもんじゃねぇ。俺のものでもあるんだからな」
胡桃の頭をそっと撫でながら、原田は穏やかに続ける。
「体だけじゃねぇ、心もだ。おまえの心は、いつだって俺が独り占めしていてぇんだ」
「原田さん……」
戸惑うように目を上げた胡桃の額に、原田は自分の額をコツンと当てた。
「だから……無理も我慢もだめだ。胡桃……おまえにゃ、いつだって、そのままのおまえでいてほしいんだよ」
「……ありがとう、ございます……わっ!?」
涙まじりだった胡桃の声が、驚きの声に変わった。
「なにしてるんですかっ原田さん!?」
ベッドの側にいたはずの原田が、布団をめくって、ベッドの端に横になろうとしていた。
「ん?いやぁ、俺も眠くなっちまってな……裸じゃねぇから、問題ないよな?……悪ぃ、もうちっと、そっちに寄ってもらえるか?」
「えぇっ!?だめですよ、こんなに近くじゃ、風邪がうつっちゃいま……す……!!」
頬に落とされた軽い口付けに、熱で赤みを帯びていた胡桃の顔が、さらに赤くなった。
「平気だって。唇は、風邪が治ってからにするからよ」
「…………」
「風邪には、あったかくして寝てるのが一番だ。ほら」
有無を言わさず腕枕をする原田に、胡桃は戸惑いつつ、頭をあずけた。
やがて、胡桃の体から力が抜けた。
静かな寝息を聞きながら、原田は、ひとつ深呼吸をする。
――これから何度だって、一緒にクリスマスを過ごすんだ。最初のクリスマスが、風邪ひいて布団の中ってのも、なかなか貴重な思い出になると思うぜ――
胡桃の寝顔を覗き込むと、原田は満足そうに目を閉じた。
*
師走半ば、会社の忘年会で、胡桃が同僚の平助にこぼした恋愛相談がきっかけとなり、あれよあれよという間に原田との距離が縮まったのだ。
そして、クリスマスイブ。
互いの都合がちょうど合うのがこの日だった、という偶然もあるのだが、記念すべき初めてのデートがイブ……となれば、やはり特別な想いに胸は高鳴る。
薄曇りの空が広がる昼下がり、駅のコーヒーショップの前で、二人は落ち合った。
ジングルベルのメロディーが流れる中、楽しげな人波を眺めていた原田が、胡桃の姿を見つけて歩み寄る。
「んじゃ、出かけるとするか。胡桃は、どこか行きたいとこあるか?」
「いえ……」
俯きかげんで、なんとなく元気がない胡桃の様子に、原田は、彼女の顔を覗き込んだ。
「どうした?顔色があんまりよくねぇな」
胡桃の額に手を当てた原田の表情が曇った。
「胡桃……おまえ、熱あるじゃねぇか!」
「え……あの……ちょっと寒気がして頭がボーッとしますけど「完全に風邪ひいてんじゃねぇか!!」」
原田は胡桃の手をギュッと握ると「帰るぞ」と踵を返した。
手を引っ張られながら、胡桃が声を上げる。
「帰りたくありません!原田さんとの、初めての約束なのに……」
立ち止まった原田が振り返れば、今にも泣き出しそうな瞳が彼を見上げていた。
小さく息をついた原田は、握っていた胡桃の手を離すと、彼女の頭をクシャッと撫でた。
「約束なんざ、これからいくらだって出来る。とにかく、体を治すのが先決だろ?」
「でも……せっかく会えたのに……」
立っているだけでもつらいはずなのに、尚も一緒にいたいと望む胡桃に、原田は嬉しさを感じながら柔らかな笑みを浮かべた。
「無理して街を出歩くだけが、デートってもんじゃねぇと思うぜ?俺が胡桃を看病する……それだって、二人一緒にいるんだから、デートにゃ変わりねぇはずだ」
「……はい……」
再び歩き出そうとした時、足元のふらついた胡桃を、原田が抱き止めた。
「すみません……」
「いや、その体調で歩くのは辛ぇよな……悪ぃ、しばらく我慢してくれ」
彼は、胡桃を横抱きに抱き上げた。
街行く人々から、ため息に似た静かなどよめきが起きているのが、胡桃の耳にも届く。
長身でどこからどう見てもイケメンの原田が、昼の往来で女子をお姫様抱っこ……
目立ちすぎるほどに目立ち、誰もが見惚れる光景であるのに決まっている。
何度も「すみません」と呟く胡桃に、早足で歩きながら、原田が言う。
「おまえは、自分がこうと思ったら、とことん突き進んじまうとこがあるからな。それがおまえの良いところでもあるんだが、今日は駄目だ」
「はい……」
張り詰めていた気持ちがゆるんだのか、ぐったりと俯く胡桃。
原田は、彼女を抱える腕に力を入れた。
「そんなにガッカリすんなって。俺がちゃんと側にいてやるから」
胡桃の部屋。
「とにかく、今日はおとなしく寝てろ」
「うぅ……せっかくのクリスマスなのに、本当にごめんなさい……」
しょんぼりと呟く胡桃の瞳が潤んでいるのは、熱のせいだけではないだろう。
彼女はさらに、言葉を絞り出すように続ける。
「私なら大丈夫です……よくなるまで、おとなしく寝てます。ですから……原田さんは、永倉さんたちと楽しいクリスマスイブを過ごしてください」
鼻まで布団をかぶった胡桃の傍らで、原田は小さく微笑んだ。
「大切な女がつらい思いしてんのに、この上寂しい思いをさせて、自分だけ飲みになんざ行ける訳ねぇだろ?」
「でも……」
さっきまでは、体調の悪さをおしてでも、原田と一緒にいたいと譲らなかった胡桃。
だが、こうなった以上、寝込んでいる自分のそばにいさせては、原田のクリスマスイブが台無しになると気を揉んでいるのだろう。
――もっと、ワガママ言っていいんだぜ?――
原田は、そう胸の内でつぶやく。
「ここにいたいってぇのは、俺の意志だ。だから、胡桃が気に病む必要はねえ。そうだな……なんなら、裸で添い寝してやろうか」
「やめてください……余計に熱が上がっちゃいます」
「はは、冗談だ。それはまた、体調がよくなってから、追々な」
「………………」
返事に困った胡桃が黙りこむ。
ちぃっとからかいすぎちまったかな……そう呟き、原田は苦笑する。
「なぁ、胡桃」
「はい」
胡桃は、節々の痛む体を、やっとの思いで動かすと、原田の方を向いた。
「おまえの体は、おまえひとりのもんじゃねぇ。俺のものでもあるんだからな」
胡桃の頭をそっと撫でながら、原田は穏やかに続ける。
「体だけじゃねぇ、心もだ。おまえの心は、いつだって俺が独り占めしていてぇんだ」
「原田さん……」
戸惑うように目を上げた胡桃の額に、原田は自分の額をコツンと当てた。
「だから……無理も我慢もだめだ。胡桃……おまえにゃ、いつだって、そのままのおまえでいてほしいんだよ」
「……ありがとう、ございます……わっ!?」
涙まじりだった胡桃の声が、驚きの声に変わった。
「なにしてるんですかっ原田さん!?」
ベッドの側にいたはずの原田が、布団をめくって、ベッドの端に横になろうとしていた。
「ん?いやぁ、俺も眠くなっちまってな……裸じゃねぇから、問題ないよな?……悪ぃ、もうちっと、そっちに寄ってもらえるか?」
「えぇっ!?だめですよ、こんなに近くじゃ、風邪がうつっちゃいま……す……!!」
頬に落とされた軽い口付けに、熱で赤みを帯びていた胡桃の顔が、さらに赤くなった。
「平気だって。唇は、風邪が治ってからにするからよ」
「…………」
「風邪には、あったかくして寝てるのが一番だ。ほら」
有無を言わさず腕枕をする原田に、胡桃は戸惑いつつ、頭をあずけた。
やがて、胡桃の体から力が抜けた。
静かな寝息を聞きながら、原田は、ひとつ深呼吸をする。
――これから何度だって、一緒にクリスマスを過ごすんだ。最初のクリスマスが、風邪ひいて布団の中ってのも、なかなか貴重な思い出になると思うぜ――
胡桃の寝顔を覗き込むと、原田は満足そうに目を閉じた。
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