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まだ寒さの残る、花の金曜、春の宵。
今を盛りと咲き誇る桜も、週末の雨で粗方散ってしまうだろう、というのが、天気予報のお告げだ。
「新八、ちょっと遠回りしていかない?」
「ん?俺は構わねぇけど……どうかしたか?」
荷物は車のキーのみ、帰り支度をパパッとすませた新八が、コートを羽織りながらバッグを抱える私に、問いかけるような視線を向ける。
「あのね、桜の見頃が今日までみたいだから、コンビニの近くの公園で、ちょこっとお花見していきたいなあ……なんて」
「お、いいじゃねぇか!酒は飲めねえけど……ついでにコンビニで、家飲み用の酒やらつまみやら、買って帰ろうぜ」
こじんまりとした広告代理店。
アットホームなこの会社で仕事をするうち、特に気さくに話せる新八と、プライベートでも親密な関係になった。
今や、年がら年中一緒に過ごしているような感じだ。
近藤社長の方針で、今月は“残業減らそうキャンペーン”(まんまじゃん……)が行われている。
それでも、仕事の鬼の土方さんや、いろんな案件を抱えてる原田さんは、残らざるを得ないみたいだけど……
「土方さん、左之、悪ぃな。お先にあがらせてもらうぜ」
「お先に失礼しまーす」
がっつり残業組の二人にそう声をかけながら、ほどほどのところで仕事を切り上げた新八と私は、そろって会社を後にした。
数分歩いた駐車場に、新八の車が停めてある。
そちらに向かうためには、会社を出たら右に曲がるのが常なのだが、今日は反対方向に足を進める。
ひんやりする指先に、思わず手をこすり合わせれば、新八の大きな温かい手が、私の手を取る。
「カイロなんて気の利いたもんは持っちゃいねえからよ、これで我慢してくれ」
「ありがと……あったかい」
新八の手を両手で握ると、ニカッとお日様みたいな笑顔をくれた。
ほどなく到着したのは、周囲をぐるりと桜で囲まれた小さな公園。
「お~、絶景かな絶景かな」
手をかざし、おどけた調子で辺りを見渡す新八。
目の前の樹に駆け寄り、視界いっぱいの桜花を見上げながら、私はわき上がってくる想いを口にした。
「夜桜って、なんだか不思議だよね。手を伸ばせば届くはずなのに、触れてはいけないような気がするんだ……」
まだ冷たい春の夜風に、白い花びらが揺れて舞う。
夜空に溶けそうな桜を見上げる私の背後に、新八が黙って歩み寄る。
しばらくそのまま、二人で桜を眺めていた。
時折吹く強い風は、冬の名残を留めている。
ザザアッ――
「ひゃっ!」
一際激しい突風に、身をすくめて目を瞑った……途端、背中に懐かしい温度を感じた。
私を包み込む温もりは、もちろん、愛する人。
なぜだろう。
いつもの新八とは、どこか違う気が……
「梅ちゃん、だめだ!」
「……へ?」
がっしりと背中から抱きしめられ、身動きできないまま微かに首をかしげれば、回された腕には力が込められる。
「梅ちゃんが行っちまったら、俺は……」
「…………あの……新八?」
しばしの沈黙の後に、新八は、らしくないため息まじりの声でつぶやいた。
「……梅ちゃんが、どっかに連れてかれちまうんじゃねぇかって……急にそんな気がしてよ」
「心配……してくれたの?」
肯定するように、新八の腕に力が込められ、ますます彼に密着する。
愛しさが込み上げてきて、私は、体の前に回された新八の手に自分の手を重ねた。
「私が新八から離れることなんて、絶対ない……一人でどこかに行っちゃうなんてこと、あり得ないから」
いつだって、安心して背中をあずけられる存在、それが新八。
もしも、私を彼から引き離そうとする何かがあるならば、相手が誰であれ何であれ、私はとことん闘うんだから……
「梅ちゃん」
「ん?」
「そろそろ……帰らねぇか?」
切なげな声をもらした新八が、私の肩にあごを乗せたはずみで、私の重心は崩れ、後ろに揺らいだ。
……ん?ちょ……ちょっと、これは…………
「……新八のバカ!エッチ!」
「……んなこと言ったって、しょうがねぇだろ!?」
私は、はぁ~とため息を吐く素振りをしながらも、新八の照れた顔を思い浮かべて、込み上げてくる笑いを噛み殺した。
腰に当たっている新八の息子さんが、思いきり自己主張をしているのだ。
「しょうがねぇだろ、梅ちゃんが可愛すぎるんだからよ」
繰り返される『しょうがない』に、苦りきった表情の新八が、容易に想像できた。
「もう……新八ってば」
一瞬ゆるめられた腕の中で、私は彼に向き直った。
「新八ったら、正直過ぎ!!昼間だったら、通報されちゃうんだから……あ!コンビニ!!」
「……やめといた方がよさそうだな」
「……だよね」
情けない声を上げる新八に、「で、でもねっ」と私は続ける。
「大丈夫、ビールもチューハイも冷えてる(はずだ)し、とっときの四合瓶も隠してあったはずだし」
「いや……酒より先に、こいつを何とかしてやらねぇと」
「あ~……うん、そうだよね……」
彼の部屋に着いたら、きっと当たり前のように肌を重ねて、いつもの週末のようにお泊りして……。
そう言うと同じことの繰り返しのようだけど、ちょっと違うんじゃないかな、と思う。
時が流れるにつれて、蕾だった桜が咲き誇り、そして散っていった後には、青々とした葉桜が現れるように……
私たちの関係も、現在進行形。
毎日、新しいお互いを、そして自分を見つけたその先には……
「ねえ、そろそろ私、新八のおうちに居ついちゃいたいんだけど」
「ちょっと待った!梅ちゃん……その続きは、俺からちゃんといわせてくれよ。ってか、とにかく今は、早く車にたどりつかねぇとな!」
やや体を屈めるように歩く新八に、私は腕をからませ、答えた。
「車の中じゃイヤだから、部屋まで我慢してよね」
「わ、わかってるって」
私の腕をほどき、肩に手を回しグイッと引き寄せる新八に、素直に身を任せる。
少しずつ、進んでく。
ちょっとずつ、変わってく。
そして、私たちの目指す先に待っているのは、きっといつだって……
『笑顔でいられる幸せ』に決まってるよね!
*
今を盛りと咲き誇る桜も、週末の雨で粗方散ってしまうだろう、というのが、天気予報のお告げだ。
「新八、ちょっと遠回りしていかない?」
「ん?俺は構わねぇけど……どうかしたか?」
荷物は車のキーのみ、帰り支度をパパッとすませた新八が、コートを羽織りながらバッグを抱える私に、問いかけるような視線を向ける。
「あのね、桜の見頃が今日までみたいだから、コンビニの近くの公園で、ちょこっとお花見していきたいなあ……なんて」
「お、いいじゃねぇか!酒は飲めねえけど……ついでにコンビニで、家飲み用の酒やらつまみやら、買って帰ろうぜ」
こじんまりとした広告代理店。
アットホームなこの会社で仕事をするうち、特に気さくに話せる新八と、プライベートでも親密な関係になった。
今や、年がら年中一緒に過ごしているような感じだ。
近藤社長の方針で、今月は“残業減らそうキャンペーン”(まんまじゃん……)が行われている。
それでも、仕事の鬼の土方さんや、いろんな案件を抱えてる原田さんは、残らざるを得ないみたいだけど……
「土方さん、左之、悪ぃな。お先にあがらせてもらうぜ」
「お先に失礼しまーす」
がっつり残業組の二人にそう声をかけながら、ほどほどのところで仕事を切り上げた新八と私は、そろって会社を後にした。
数分歩いた駐車場に、新八の車が停めてある。
そちらに向かうためには、会社を出たら右に曲がるのが常なのだが、今日は反対方向に足を進める。
ひんやりする指先に、思わず手をこすり合わせれば、新八の大きな温かい手が、私の手を取る。
「カイロなんて気の利いたもんは持っちゃいねえからよ、これで我慢してくれ」
「ありがと……あったかい」
新八の手を両手で握ると、ニカッとお日様みたいな笑顔をくれた。
ほどなく到着したのは、周囲をぐるりと桜で囲まれた小さな公園。
「お~、絶景かな絶景かな」
手をかざし、おどけた調子で辺りを見渡す新八。
目の前の樹に駆け寄り、視界いっぱいの桜花を見上げながら、私はわき上がってくる想いを口にした。
「夜桜って、なんだか不思議だよね。手を伸ばせば届くはずなのに、触れてはいけないような気がするんだ……」
まだ冷たい春の夜風に、白い花びらが揺れて舞う。
夜空に溶けそうな桜を見上げる私の背後に、新八が黙って歩み寄る。
しばらくそのまま、二人で桜を眺めていた。
時折吹く強い風は、冬の名残を留めている。
ザザアッ――
「ひゃっ!」
一際激しい突風に、身をすくめて目を瞑った……途端、背中に懐かしい温度を感じた。
私を包み込む温もりは、もちろん、愛する人。
なぜだろう。
いつもの新八とは、どこか違う気が……
「梅ちゃん、だめだ!」
「……へ?」
がっしりと背中から抱きしめられ、身動きできないまま微かに首をかしげれば、回された腕には力が込められる。
「梅ちゃんが行っちまったら、俺は……」
「…………あの……新八?」
しばしの沈黙の後に、新八は、らしくないため息まじりの声でつぶやいた。
「……梅ちゃんが、どっかに連れてかれちまうんじゃねぇかって……急にそんな気がしてよ」
「心配……してくれたの?」
肯定するように、新八の腕に力が込められ、ますます彼に密着する。
愛しさが込み上げてきて、私は、体の前に回された新八の手に自分の手を重ねた。
「私が新八から離れることなんて、絶対ない……一人でどこかに行っちゃうなんてこと、あり得ないから」
いつだって、安心して背中をあずけられる存在、それが新八。
もしも、私を彼から引き離そうとする何かがあるならば、相手が誰であれ何であれ、私はとことん闘うんだから……
「梅ちゃん」
「ん?」
「そろそろ……帰らねぇか?」
切なげな声をもらした新八が、私の肩にあごを乗せたはずみで、私の重心は崩れ、後ろに揺らいだ。
……ん?ちょ……ちょっと、これは…………
「……新八のバカ!エッチ!」
「……んなこと言ったって、しょうがねぇだろ!?」
私は、はぁ~とため息を吐く素振りをしながらも、新八の照れた顔を思い浮かべて、込み上げてくる笑いを噛み殺した。
腰に当たっている新八の息子さんが、思いきり自己主張をしているのだ。
「しょうがねぇだろ、梅ちゃんが可愛すぎるんだからよ」
繰り返される『しょうがない』に、苦りきった表情の新八が、容易に想像できた。
「もう……新八ってば」
一瞬ゆるめられた腕の中で、私は彼に向き直った。
「新八ったら、正直過ぎ!!昼間だったら、通報されちゃうんだから……あ!コンビニ!!」
「……やめといた方がよさそうだな」
「……だよね」
情けない声を上げる新八に、「で、でもねっ」と私は続ける。
「大丈夫、ビールもチューハイも冷えてる(はずだ)し、とっときの四合瓶も隠してあったはずだし」
「いや……酒より先に、こいつを何とかしてやらねぇと」
「あ~……うん、そうだよね……」
彼の部屋に着いたら、きっと当たり前のように肌を重ねて、いつもの週末のようにお泊りして……。
そう言うと同じことの繰り返しのようだけど、ちょっと違うんじゃないかな、と思う。
時が流れるにつれて、蕾だった桜が咲き誇り、そして散っていった後には、青々とした葉桜が現れるように……
私たちの関係も、現在進行形。
毎日、新しいお互いを、そして自分を見つけたその先には……
「ねえ、そろそろ私、新八のおうちに居ついちゃいたいんだけど」
「ちょっと待った!梅ちゃん……その続きは、俺からちゃんといわせてくれよ。ってか、とにかく今は、早く車にたどりつかねぇとな!」
やや体を屈めるように歩く新八に、私は腕をからませ、答えた。
「車の中じゃイヤだから、部屋まで我慢してよね」
「わ、わかってるって」
私の腕をほどき、肩に手を回しグイッと引き寄せる新八に、素直に身を任せる。
少しずつ、進んでく。
ちょっとずつ、変わってく。
そして、私たちの目指す先に待っているのは、きっといつだって……
『笑顔でいられる幸せ』に決まってるよね!
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