約束~as time goes by~
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『くされ縁』
そんな言葉がぴったりの、新八と私。
小学校の半ばで転校してきた私が、彼の隣の席に座ったのが、それから長いこと続いていくご縁のきっかけだった。
そのまま高校までずっと一緒で。
大学は、きっと別れちゃうよね…と思っていたけれど、そろって地元大学の同じキャンパス。
(学部は、さすがに違った!)
そして、二人とも自宅から通える会社に就職し、相変わらずのご近所さんだ。
数年前、地区の祭り青年に新八が加入して、ますます地元に根を下ろす感じになった。
祭り青年には、年に一度執り行われる、八幡様の秋の祭典を取り仕切るという大きな役目がある。
しかし、お祭りには直接関係ない時期であっても、けっこう頻繁に集まりがあって、年がら年中、仲間同士で親交を深めているように見受けられる。
新八に連れられ私もそこに顔を出すようになったため、祭り青年の皆さんとは、すっかり気心の知れた関係となっていた。
今年の秋の祭典では、イケメン揃いの彼らの中でも特に抜きん出ている原田さんが総務を務める。
今年副総務の新八は、既に、来年の総務となることが決まっている。
八月に入った辺りからは、祭典に向けて、いよいよ本格的に地区をあげての活動が開始された。
毎日、誰かしらが公民館にやって来て、名簿の作成やら屋台の整備やら、他地区との交渉やら、忙しいながらも楽しそうに動いている。
そんな中、原田さんは時々、公民館に息子の茂くんを連れて来る。
膝の上で大人しく父親たちの雑談を聞いていることもあれば、小学生の太鼓や手踊りの練習を面白そうに眺めて『ぼくもやりたい』って目を輝かせてみたり。
ついでに言えば、原田さんが打ち合わせで忙しい時は、私が茂くんのお守り役だ。
秋が近づくにつれ、原田さんが早い時間には帰れないことも増えた。
そんな時は、彼の愛妻である、まささんが茂くんを迎えに来てくれる。
挨拶などの言葉をかわすうち、気付けばいつの間にか、私は彼女とも仲良くなっていた。
懐中電灯の明かりを揺らしながら手を繋いで帰っていく、まささんと茂くんを見送りながら、胸の奥がホンワカあたたかくなる。
いつか私も愛する人との子供を授かって、あんなふうに歩く日が来るのかな……
あっという間に世間でいうところの夏休みが終わり、いつしかセミの声も聞こえなくなった。
秋の気配をはらんだ風が虫の音を運ぶ。
やがて、空高くいわし雲が泳ぐ季節が巡ってきて、八幡様の祭典が賑やかに行われた。
祭典期間である三日間、当然、新八は出ずっぱり。
二日目の晩なんて、酔いつぶれて会所の前の道路で寝てしまい、連れて帰るのにめちゃくちゃ苦労した。
というか、原田さんが引きずってってくれたんだけど、彼もそこそこの酔っ払いだったため、まあ、その辺は……。
*
そんなこんなで、今年の祭典も無事終了。
日を改めて行われた地区のお偉いさんたちとの反省会の後は、青年だけで飲めや踊れやのお疲れさま会。
お祭りの時は会所となった公民館が、再び賑やかで活気あふれる場所となる。
「おう、新八。来年の総務、期待してるぜ」
「まかしとけって!左之にできて、俺にできないはずはねぇだろ!」
「お、言ってくれるじゃねぇか」
大人になってからは、小学校や中学校の時みたいに同じ空間で長い時間を過ごすってことはほとんどない。
それなのに繰り広げられる、ずっと共にいるかのようなやり取りに、「ああ、これが地元の絆なんだな…」って、何だか誇らしい気持ちになる。
夜半。
大役を果たした原田さんは、みんなから絶え間なく飲まされた末、つぶれてしまった。
他にも何人かが寝込んでしまっている。
「どうする?##NAME1##ちゃん。そろそろ帰るか?」
新八の問いに「うん」と返事をしたら、「んじゃ、帰るとすっか」と彼まで腰を上げる。
「あれ?新八は、お開きになるまでいるんじゃないの?私なら、一人で大丈夫だよ」
そう尋ねれば
「何言ってんだ、こんな時間に、##NAME1##ちゃん一人で帰せる訳ねぇだろ!?」
と怒ったように返される。
「そういえば、今日は新八、そんなに飲んでないんだね。みんな、あんなにヘベレケなのに」
素朴な疑問を口にしてみる。
「それはだな…」
私から目をそらした新八は、長テーブルに突っ伏した原田さんに、穏やかな視線を向ける。
「やっぱ今日は、左之を立てねぇとならなかったからな」
小さく笑って、一瞬考える素振りをみせた彼は
「それによ…」
そう続けてから、酒の席とも思えない真剣な顔で、私の目をまっすぐに見た。
「帰りに##NAME1##ちゃんに話したいこともあったしな」
「話…私に?」
「ああ…とにかく、帰るぞ」
とりあえずテーブルのものを片付け、まだ何やかやと議論している半分酔っ払いの青年数人に後を託し、新八とともにおいとますることにした。
私の家の方向に向かう曲がり角で、新八が立ち止まる。
「##NAME1##ちゃん、ちょっと遠回りしてかねぇか?」
「え?どこに?」
「八幡池の周りをグルッと歩きてぇ気分でな、付き合ってくんねえか?」
「でも…暗いよ?」
八幡様の裏手に大きな池がある。
その周囲が遊歩道になっていて、一応“公園”という名前がついている。
けれど、遊具がある訳ではなくて…言うなれば“お散歩&ウォーキング用公園”?
なんにしたって、こんな遅い時間に歩こうと思う人なんて、そうそういないだろう。
ちょっと腰が引け気味の私を見て、新八がニカッと笑う。
「なあに、こうしてりゃ平気だろ?」
私の手をとりギュッと握った新八に驚いて、思わず手を引っ込めそうになる。
けれど、彼が私の手を引っ張る力の方が強かった。
「んじゃ行くぞ」
「うん…」
もうしばらく新八といられるっていう嬉しさ半分、いつもと雰囲気の違う新八に対する心細さ半分。
手を引かれながら、複雑な気持ちを抱きしめる。
私たちは、お互い無言のまま、公園への道を歩んだ。
*
八幡神社の境内に向かう石段は上がらずに、横道から遊歩道に入る。
所々外灯が灯ってはいるけれど、やはり暗い。
夜の池の水面を見やれば、今にもこの世のものではない何かが手を伸ばしてきて、真っ黒な水底に引きずり込まれてしまうのではないか、という不安に襲われる。
一陣の風が吹き、ススキがザアッと音をたてて揺れた。
「ひゃあっ」
ビクッと身をすくめた拍子に、繋いでいた手が離れる。
「大丈夫か?」
振り返った新八に、私は半泣きに近い声で訴える。
「新八…もう帰ろうよ……」
体ごとこちらに向き直った新八は、そっと私の頭をなでると、ひとつ深呼吸をした。
「こんなとこまで連れて来ちまって悪かったな。俺自身、頭ん中を落ち着かせてから話したかったからよ」
彼の声には、人を安心させる不思議な力がある。
私も深呼吸してから、続きを促すように新八を見上げた。
小さくうなずいて、彼は続ける。
「##NAME1##ちゃん…俺ら、今はそれぞれ自分の家に帰るよな」
「うん」
「そろそろ、二人して同じ場所に帰りてぇ…俺はそう思ってんだけど、##NAME1##ちゃんはどうだ?」
「……それは…同じ屋根の下で暮らす…そういうこと?」
「ああ」
見たことのないくらい、真剣な表情の新八。
やけに喉が渇いて、心臓がバクバクする。
今までずいぶん、新八と一緒に過ごしてきたけれど、こんなの初めてだ。
何か言わなきゃって思うのに、頭がクラクラして考えがまとまらない。
「##NAME1##ちゃん」
夜の空気に溶けていきそうな優しい声と共に、顔を覗き込まれる。
視線が交われば、もう、そらすことなんて出来なくなる。
「俺は、##NAME1##ちゃんが好きだ」
「………」
「##NAME1##ちゃんに、俺の嫁さんになってほしい……いや、俺の嫁になってくれ!!」
「あ……私……」
新八は、最初からそのつもりで心の準備をしてたのかもしれないけど…
いきなりこんなの、ずるいっ!!
なんの気の利いた返事も出来そうにない自分を、少々恨めしく思う。
中途半端に口を開きかけたまま黙り込む私を、新八が黙って見守ってくれている。
――ああ、そうだ。
いつだって、新八が隣にいてくれたから、私は笑顔でいられたんだ。
満たされた気持ちで毎日を過ごせるのも、新八が側にいてくれるから。
空気のように、当たり前すぎて気付きにくいけれど、実はとっても大切な、なくてはならない存在。
これからも、そうであってほしいし、彼にとっての私も、同じようになれたらいいな、って思う。
ずっとずっと、一緒にいたい――
私は、キッと彼の目を見据えた。
「……私も、新八が好き……だからっ…お嫁さんにしてください!」
私の言葉を受けて柔らかく微笑んだ空色の瞳が、一気に距離を縮める。
そっと肩をつかまれ、唇が重ねられた。
*
そんな言葉がぴったりの、新八と私。
小学校の半ばで転校してきた私が、彼の隣の席に座ったのが、それから長いこと続いていくご縁のきっかけだった。
そのまま高校までずっと一緒で。
大学は、きっと別れちゃうよね…と思っていたけれど、そろって地元大学の同じキャンパス。
(学部は、さすがに違った!)
そして、二人とも自宅から通える会社に就職し、相変わらずのご近所さんだ。
数年前、地区の祭り青年に新八が加入して、ますます地元に根を下ろす感じになった。
祭り青年には、年に一度執り行われる、八幡様の秋の祭典を取り仕切るという大きな役目がある。
しかし、お祭りには直接関係ない時期であっても、けっこう頻繁に集まりがあって、年がら年中、仲間同士で親交を深めているように見受けられる。
新八に連れられ私もそこに顔を出すようになったため、祭り青年の皆さんとは、すっかり気心の知れた関係となっていた。
今年の秋の祭典では、イケメン揃いの彼らの中でも特に抜きん出ている原田さんが総務を務める。
今年副総務の新八は、既に、来年の総務となることが決まっている。
八月に入った辺りからは、祭典に向けて、いよいよ本格的に地区をあげての活動が開始された。
毎日、誰かしらが公民館にやって来て、名簿の作成やら屋台の整備やら、他地区との交渉やら、忙しいながらも楽しそうに動いている。
そんな中、原田さんは時々、公民館に息子の茂くんを連れて来る。
膝の上で大人しく父親たちの雑談を聞いていることもあれば、小学生の太鼓や手踊りの練習を面白そうに眺めて『ぼくもやりたい』って目を輝かせてみたり。
ついでに言えば、原田さんが打ち合わせで忙しい時は、私が茂くんのお守り役だ。
秋が近づくにつれ、原田さんが早い時間には帰れないことも増えた。
そんな時は、彼の愛妻である、まささんが茂くんを迎えに来てくれる。
挨拶などの言葉をかわすうち、気付けばいつの間にか、私は彼女とも仲良くなっていた。
懐中電灯の明かりを揺らしながら手を繋いで帰っていく、まささんと茂くんを見送りながら、胸の奥がホンワカあたたかくなる。
いつか私も愛する人との子供を授かって、あんなふうに歩く日が来るのかな……
あっという間に世間でいうところの夏休みが終わり、いつしかセミの声も聞こえなくなった。
秋の気配をはらんだ風が虫の音を運ぶ。
やがて、空高くいわし雲が泳ぐ季節が巡ってきて、八幡様の祭典が賑やかに行われた。
祭典期間である三日間、当然、新八は出ずっぱり。
二日目の晩なんて、酔いつぶれて会所の前の道路で寝てしまい、連れて帰るのにめちゃくちゃ苦労した。
というか、原田さんが引きずってってくれたんだけど、彼もそこそこの酔っ払いだったため、まあ、その辺は……。
*
そんなこんなで、今年の祭典も無事終了。
日を改めて行われた地区のお偉いさんたちとの反省会の後は、青年だけで飲めや踊れやのお疲れさま会。
お祭りの時は会所となった公民館が、再び賑やかで活気あふれる場所となる。
「おう、新八。来年の総務、期待してるぜ」
「まかしとけって!左之にできて、俺にできないはずはねぇだろ!」
「お、言ってくれるじゃねぇか」
大人になってからは、小学校や中学校の時みたいに同じ空間で長い時間を過ごすってことはほとんどない。
それなのに繰り広げられる、ずっと共にいるかのようなやり取りに、「ああ、これが地元の絆なんだな…」って、何だか誇らしい気持ちになる。
夜半。
大役を果たした原田さんは、みんなから絶え間なく飲まされた末、つぶれてしまった。
他にも何人かが寝込んでしまっている。
「どうする?##NAME1##ちゃん。そろそろ帰るか?」
新八の問いに「うん」と返事をしたら、「んじゃ、帰るとすっか」と彼まで腰を上げる。
「あれ?新八は、お開きになるまでいるんじゃないの?私なら、一人で大丈夫だよ」
そう尋ねれば
「何言ってんだ、こんな時間に、##NAME1##ちゃん一人で帰せる訳ねぇだろ!?」
と怒ったように返される。
「そういえば、今日は新八、そんなに飲んでないんだね。みんな、あんなにヘベレケなのに」
素朴な疑問を口にしてみる。
「それはだな…」
私から目をそらした新八は、長テーブルに突っ伏した原田さんに、穏やかな視線を向ける。
「やっぱ今日は、左之を立てねぇとならなかったからな」
小さく笑って、一瞬考える素振りをみせた彼は
「それによ…」
そう続けてから、酒の席とも思えない真剣な顔で、私の目をまっすぐに見た。
「帰りに##NAME1##ちゃんに話したいこともあったしな」
「話…私に?」
「ああ…とにかく、帰るぞ」
とりあえずテーブルのものを片付け、まだ何やかやと議論している半分酔っ払いの青年数人に後を託し、新八とともにおいとますることにした。
私の家の方向に向かう曲がり角で、新八が立ち止まる。
「##NAME1##ちゃん、ちょっと遠回りしてかねぇか?」
「え?どこに?」
「八幡池の周りをグルッと歩きてぇ気分でな、付き合ってくんねえか?」
「でも…暗いよ?」
八幡様の裏手に大きな池がある。
その周囲が遊歩道になっていて、一応“公園”という名前がついている。
けれど、遊具がある訳ではなくて…言うなれば“お散歩&ウォーキング用公園”?
なんにしたって、こんな遅い時間に歩こうと思う人なんて、そうそういないだろう。
ちょっと腰が引け気味の私を見て、新八がニカッと笑う。
「なあに、こうしてりゃ平気だろ?」
私の手をとりギュッと握った新八に驚いて、思わず手を引っ込めそうになる。
けれど、彼が私の手を引っ張る力の方が強かった。
「んじゃ行くぞ」
「うん…」
もうしばらく新八といられるっていう嬉しさ半分、いつもと雰囲気の違う新八に対する心細さ半分。
手を引かれながら、複雑な気持ちを抱きしめる。
私たちは、お互い無言のまま、公園への道を歩んだ。
*
八幡神社の境内に向かう石段は上がらずに、横道から遊歩道に入る。
所々外灯が灯ってはいるけれど、やはり暗い。
夜の池の水面を見やれば、今にもこの世のものではない何かが手を伸ばしてきて、真っ黒な水底に引きずり込まれてしまうのではないか、という不安に襲われる。
一陣の風が吹き、ススキがザアッと音をたてて揺れた。
「ひゃあっ」
ビクッと身をすくめた拍子に、繋いでいた手が離れる。
「大丈夫か?」
振り返った新八に、私は半泣きに近い声で訴える。
「新八…もう帰ろうよ……」
体ごとこちらに向き直った新八は、そっと私の頭をなでると、ひとつ深呼吸をした。
「こんなとこまで連れて来ちまって悪かったな。俺自身、頭ん中を落ち着かせてから話したかったからよ」
彼の声には、人を安心させる不思議な力がある。
私も深呼吸してから、続きを促すように新八を見上げた。
小さくうなずいて、彼は続ける。
「##NAME1##ちゃん…俺ら、今はそれぞれ自分の家に帰るよな」
「うん」
「そろそろ、二人して同じ場所に帰りてぇ…俺はそう思ってんだけど、##NAME1##ちゃんはどうだ?」
「……それは…同じ屋根の下で暮らす…そういうこと?」
「ああ」
見たことのないくらい、真剣な表情の新八。
やけに喉が渇いて、心臓がバクバクする。
今までずいぶん、新八と一緒に過ごしてきたけれど、こんなの初めてだ。
何か言わなきゃって思うのに、頭がクラクラして考えがまとまらない。
「##NAME1##ちゃん」
夜の空気に溶けていきそうな優しい声と共に、顔を覗き込まれる。
視線が交われば、もう、そらすことなんて出来なくなる。
「俺は、##NAME1##ちゃんが好きだ」
「………」
「##NAME1##ちゃんに、俺の嫁さんになってほしい……いや、俺の嫁になってくれ!!」
「あ……私……」
新八は、最初からそのつもりで心の準備をしてたのかもしれないけど…
いきなりこんなの、ずるいっ!!
なんの気の利いた返事も出来そうにない自分を、少々恨めしく思う。
中途半端に口を開きかけたまま黙り込む私を、新八が黙って見守ってくれている。
――ああ、そうだ。
いつだって、新八が隣にいてくれたから、私は笑顔でいられたんだ。
満たされた気持ちで毎日を過ごせるのも、新八が側にいてくれるから。
空気のように、当たり前すぎて気付きにくいけれど、実はとっても大切な、なくてはならない存在。
これからも、そうであってほしいし、彼にとっての私も、同じようになれたらいいな、って思う。
ずっとずっと、一緒にいたい――
私は、キッと彼の目を見据えた。
「……私も、新八が好き……だからっ…お嫁さんにしてください!」
私の言葉を受けて柔らかく微笑んだ空色の瞳が、一気に距離を縮める。
そっと肩をつかまれ、唇が重ねられた。
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