番外編 Halloween
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今年のハロウィンは平日だ。
週末にあたった時の盛り上がりには及ばないけれど、やはり心は浮き立つもので――――
ここパティスリー・ヴェールも、本日はハロウィンイベントデーと銘打ち、千鶴は開店から、午前中でひと通りのケーキ作りを終えた沖田も午後からは仮装で、店に出ていた。ふたり揃って、大人気乙女ゲームの洋装バージョンを身にまとい、仮装というよりコスプレの様相を呈している。
「ありがとうございました!」
用意されていたハロウィン仕様のケーキがすべて売り切れたため、最後のお客様を見送ってから、いつもより早めに閉店準備にかかる。
喜んでしかるべき早々の完売御礼。なのに、なんだか元気のない千鶴に、沖田は首を傾げた。
「千鶴ちゃん、めでたく完売だよ。嬉しくないの?」
「嬉しいですよ!嬉しいんですけど……実は……かぼちゃプリンを買いたかったんです」
「え?かぼちゃプリンは、試作を食べてもらったよね」
不思議そうに尋ねる沖田に、心なしか眉を下げたまま千鶴が返す。
「もちろん、とっても美味しかったです。ただ……ハロウィン用に飾り付けられてケースに並べれられたものを、お客さんとして買って帰りたかったので……」
「なるほどね」
「でも、一人でも多くのお客様に沖田さんのお菓子を召し上がっていただく方が大切ですもんね」
店内のハロウィン装飾を片付け始めた沖田に向かって、千鶴は笑顔を作ってみせた。
「ねえ千鶴ちゃん、今日は何の日?」
「え?ハロウィンですよね」
他に何かありましたっけ?と考え込む彼女の目の前に、小さなジャックオーランタンのオブジェをちらつかせながら、沖田が歩み寄る。
「ハロウィンなら、なにか言うことない?」
「え?……ええと……今日も一日お疲れ様でした?」
「それは毎日だよね。今日はハロウィンだよ?君もちゃんと仮装してるよね」
仮装という名のコスプレではあるが、ハロウィンとしての役目は十二分に果たしていると思われる。
いつもより高い位置で髪を結い、凛とした雰囲気を漂わせながら、千鶴は首をひねる。
「来年のハロウィンも、お願いします……でしょうか?」
自信なさげに答えた千鶴の鼻先に、沖田は手にしていたミニかぼちゃを突きつけた。
「じゃなくって!ハロウィンに仮装した人が言う決まり文句があるでしょ?」
あ、なるほど!と、千鶴が手をたたいた。
「トリックオアトリート!ですね!」
沖田は満足そうな笑みを浮かべると、かぼちゃを引っ込めて、かわりに自身の顔を千鶴に近づけた。
「さて。いたずらかお菓子か……君はどっちがいいの?」
「そこは、ぜひトリートでお願いします」
「そこは、『ぜひトリックを』って言うところなんじゃない?」
沖田は、フフンと笑いをこぼしながら厨房に向かうと、冷蔵庫から取り出してきた小箱を千鶴に差し出した。
「え……なんでしょう?開けてみてもいいですか?」
「どうぞ、ハッピーハロウィン!」
沖田に見守られながら、箱の中を確認した千鶴の顔が輝く。
「ハロウィンかぼちゃプリン!……沖田さん、ありがとうございます」
先ほどまでの覇気のなさが嘘のように、笑顔の花を咲かせる千鶴を見て、沖田は満足そうに胸を張る。
「あ、これも千鶴ちゃん用にとっておいたんだ」
バックヤードに行った沖田が、きれいにラッピングされたハロウィンクッキーを手に戻ってきた。
「千鶴ちゃん、いつも頑張ってくれてるから、ご褒美だよ」
「沖田さん!!ありがとうございます、これからもずっとついていきますっ!」
「ふ~ん、その言葉に偽りはないよね?」
沖田の言葉にハッとした千鶴は、一瞬で冷静さを取り戻す。
「いえ、その……言葉のあやといいますか……」
「頑張ってる千鶴ちゃんなら、前言撤回なんてしないよね。じゃあ、トリックの方も受け取ってもらおうかな」
「え?なんで両方なんですか……!?」
両手を彼女の頬に添え顔を近づける沖田に、クッキーの袋を握りしめた千鶴は目をギュッとつぶる。
「千鶴ちゃんてば、かわいすぎ」
声には出さずに呟いた沖田は、千鶴の頬をつまんで左右に引っ張った。
「!?!?」
驚いて目を開いた千鶴は、飛び退いた拍子にクッキーを落としかけたが、沖田がキャッチして事なきを得た。
「ひ、ひどいです」
両頬を押さえながら目を潤ませる千鶴に、沖田が再び顔を近づける。
「あれ?君は一体、何を期待したのかな」
「な、何も期待なんて……」
真っ赤になって黙り込む千鶴の頭に、沖田がポンと手を置いた。
「ごめんごめん、ちょっと悪ふざけが過ぎたかな。ところでさ、今からお隣に取り置きのケーキを届けないとならないんだ。千鶴ちゃん、一緒に行ってくれるよね?」
「はい、ドラッグはくおうさんですね!」
「「トリックオアトリート〜!!」」
調剤室から慌てて飛び出してきた斎藤が一瞬目を丸くした様子を、千鶴は見逃さなかった。
「一君、これ、土方さんから頼まれてたケーキ。冷蔵庫に入れておいてね。あ、お代は頂いてあるから」
「ああ、礼を言う。忙しい日に悪かったな」
気を取り直してケーキの箱を受け取ると冷蔵庫に収納した斎藤は、ちょっぴり言いにくそうに続けた。
「ところで……ケーキの受け取りについては土方さんから聞いていたのだが、そのような出で立ちで現れるとは予想をしていなかったゆえ……手持ちの菓子がないのだ」
沖田はニヤニヤしながら、千鶴は興味深そうに、斎藤の次の言葉を待つ。
「い、いたずらとは……何をするつもりなんだ?」
「さすが一君、そうこなくっちゃ」
「「え?」」
嬉しそうな沖田に、斎藤と千鶴が同時に首をかしげる。
「ちなみに一君、僕と千鶴ちゃん、どっちのいたずらをご所望なのかな?」
「そんなもの、雪村一択に決まっている!」
「もう、一君たら硬派に見えて、やっぱり女の子のいたずらの方がいいのか〜」
「なっ!?違っ!!消去法だっ!!!総司にいたずらなんぞさせたら、何をしでかすかわからんからな」
「僕って、そんなに信用ないんだ?傷つくなあ」
さして傷ついてもいないような顔の沖田に、斎藤がピシャリと返す。
「普段の言動を思えば、当然のことだ!」
「ふ〜ん、ま、そういうことにしておこうか」
千鶴の背後に回った沖田が、後ろから彼女の肩を叩く。
「ほら千鶴ちゃん、出番だよ」
「え?え??」
沖田と斎藤を見比べる千鶴の背中を、沖田が押しながら言う。
「さあ、君のいたずらセンスの見せ所だよ!」
「え???いたずらにセンスなんて必要あるんですか?」
混乱しながらも斎藤に歩み寄り真正面で立ち止まる千鶴。しかし特に思いつくいたずらもなく、とりあえず、先ほど自身が沖田にされたいたずらを再現する。
「で、では、僭越ながら失礼します」
千鶴は斎藤の頬に手を伸ばすと、左右に引っ張った。
「!??!!」
突然のことに理解が追いつかないらしく、斎藤は顔を真っ赤にして目を白黒させた。
「私のいたずらセンス、いかがでしょうか?」
斎藤の頬を引っ張りながら、千鶴は、やりきった感満載のドヤ顔を沖田に向けた。
その時――――
「おまえら……何やってんだ!?」
「「土方さん!?」」
驚いた斎藤と千鶴が、そろって入り口ドアに顔を向けた。だが、斎藤の頬は引っ張られたままだ。それどころか、千鶴の手には先ほどよりもさらに力が込められている。
「やだなあ土方さん、今日が何の日かくらいはわかってますよね。まったく無粋なんだから」
いつものように、土方に対してわざと棘のある言葉を選ぶ沖田。
「ハロウィンがなんでこんな状態になるってんだ?」
苦虫を噛み潰したような表情で返す土方に、沖田は満面の笑みを向ける。
「そうか!そうですよね、気が付かなくてすみません。土方さんも、千鶴ちゃんからいたずらしてもらいたいんですね」
「ま、待ってください。いたずらのレパートリーが、これ以上ありません」
ようやく斎藤から手をはなして慌てる千鶴と、笑顔をキープしたままの沖田を見比べると、土方は眉間の皺を指で押さえながら深いため息をついた。
「千鶴……最近、総司に染まってきてないか?」
土方の言葉に、斎藤が身を乗り出した。
「雪村っ、総司に毒されてきているのではないか!?」
「一君、何気にひどい言い草じゃない?」
不本意そうに腕組みをする沖田を一瞥してから、土方は棚に並べられたのど飴の袋を手にとった。
「斎藤、後で会計頼む」と言いながら千鶴に歩み寄ると、その袋を差し出した。
「ほら、一応菓子だ。ハロウィンなんだろう?」
「ありがとうございます!……あ、トリックオアトリート、土方さんには言ってませんでしたね」
土方がふっと小さな笑いをこぼした。
「その衣装……よく似合ってるな」
「あ……ありがとうございます」
彼は、照れくさそうな千鶴の頭をポンポンと撫でた。
「ちょっと!?」
目を見開いた沖田が抗議の声をあげようと口を開きかけた時、斎藤が先に声を上げた。
「土方さん!総司たちの衣装には、土方さんや俺のバージョンもあるはずです。来年はこの店でもハロウィンのコスプレを!!」
斎藤の頭の中では、ハロウィンにすべきことが『仮装』から『ゲームのコスプレ』に変換されてしまったようだ。
「……斎藤、お前の方こそ総司に毒されてきたんじゃないか?」
「なっ!?なにゆえっ……」
土方から呆れ混じりの眼差しを向けられ、斎藤が心外だとばかりに叫ぶ。
「あはははは!さすが一君。いいね、来年はおそろいの衣装でコスプレしよう!あ、土方さんは一人寂しく幕末バージョンの和装でも着てたらどうですか?」
「総司、お前は〜〜っ」
ハロウィンの夜が更けていく。
なんとなく眠ってしまうのが惜しくて、ベットに腰かけたまま、千鶴はスマホを見つめる。
せっかくの衣装だからと沖田が撮った写真を、共有してもらったのだ。スクロールしていくと、ドラッグはくおうを訪問する直前の、良からぬことを企んでいそうな沖田の笑顔と、ケーキの箱をかかえる千鶴の緊張した面持ちが現れた。
ホッと息を吐いてスマホを閉じ、その後の皆でのやりとりを思い出して、彼女はクスリと笑いをこぼした。
来年も、それからも、ずっとずっと……
大切な人たちと一緒に過ごすハロウィンが、今から楽しみな千鶴だった。
☆Happy Halloween!!☆
本日のおすすめ…かぼちゃプリン
*
週末にあたった時の盛り上がりには及ばないけれど、やはり心は浮き立つもので――――
ここパティスリー・ヴェールも、本日はハロウィンイベントデーと銘打ち、千鶴は開店から、午前中でひと通りのケーキ作りを終えた沖田も午後からは仮装で、店に出ていた。ふたり揃って、大人気乙女ゲームの洋装バージョンを身にまとい、仮装というよりコスプレの様相を呈している。
「ありがとうございました!」
用意されていたハロウィン仕様のケーキがすべて売り切れたため、最後のお客様を見送ってから、いつもより早めに閉店準備にかかる。
喜んでしかるべき早々の完売御礼。なのに、なんだか元気のない千鶴に、沖田は首を傾げた。
「千鶴ちゃん、めでたく完売だよ。嬉しくないの?」
「嬉しいですよ!嬉しいんですけど……実は……かぼちゃプリンを買いたかったんです」
「え?かぼちゃプリンは、試作を食べてもらったよね」
不思議そうに尋ねる沖田に、心なしか眉を下げたまま千鶴が返す。
「もちろん、とっても美味しかったです。ただ……ハロウィン用に飾り付けられてケースに並べれられたものを、お客さんとして買って帰りたかったので……」
「なるほどね」
「でも、一人でも多くのお客様に沖田さんのお菓子を召し上がっていただく方が大切ですもんね」
店内のハロウィン装飾を片付け始めた沖田に向かって、千鶴は笑顔を作ってみせた。
「ねえ千鶴ちゃん、今日は何の日?」
「え?ハロウィンですよね」
他に何かありましたっけ?と考え込む彼女の目の前に、小さなジャックオーランタンのオブジェをちらつかせながら、沖田が歩み寄る。
「ハロウィンなら、なにか言うことない?」
「え?……ええと……今日も一日お疲れ様でした?」
「それは毎日だよね。今日はハロウィンだよ?君もちゃんと仮装してるよね」
仮装という名のコスプレではあるが、ハロウィンとしての役目は十二分に果たしていると思われる。
いつもより高い位置で髪を結い、凛とした雰囲気を漂わせながら、千鶴は首をひねる。
「来年のハロウィンも、お願いします……でしょうか?」
自信なさげに答えた千鶴の鼻先に、沖田は手にしていたミニかぼちゃを突きつけた。
「じゃなくって!ハロウィンに仮装した人が言う決まり文句があるでしょ?」
あ、なるほど!と、千鶴が手をたたいた。
「トリックオアトリート!ですね!」
沖田は満足そうな笑みを浮かべると、かぼちゃを引っ込めて、かわりに自身の顔を千鶴に近づけた。
「さて。いたずらかお菓子か……君はどっちがいいの?」
「そこは、ぜひトリートでお願いします」
「そこは、『ぜひトリックを』って言うところなんじゃない?」
沖田は、フフンと笑いをこぼしながら厨房に向かうと、冷蔵庫から取り出してきた小箱を千鶴に差し出した。
「え……なんでしょう?開けてみてもいいですか?」
「どうぞ、ハッピーハロウィン!」
沖田に見守られながら、箱の中を確認した千鶴の顔が輝く。
「ハロウィンかぼちゃプリン!……沖田さん、ありがとうございます」
先ほどまでの覇気のなさが嘘のように、笑顔の花を咲かせる千鶴を見て、沖田は満足そうに胸を張る。
「あ、これも千鶴ちゃん用にとっておいたんだ」
バックヤードに行った沖田が、きれいにラッピングされたハロウィンクッキーを手に戻ってきた。
「千鶴ちゃん、いつも頑張ってくれてるから、ご褒美だよ」
「沖田さん!!ありがとうございます、これからもずっとついていきますっ!」
「ふ~ん、その言葉に偽りはないよね?」
沖田の言葉にハッとした千鶴は、一瞬で冷静さを取り戻す。
「いえ、その……言葉のあやといいますか……」
「頑張ってる千鶴ちゃんなら、前言撤回なんてしないよね。じゃあ、トリックの方も受け取ってもらおうかな」
「え?なんで両方なんですか……!?」
両手を彼女の頬に添え顔を近づける沖田に、クッキーの袋を握りしめた千鶴は目をギュッとつぶる。
「千鶴ちゃんてば、かわいすぎ」
声には出さずに呟いた沖田は、千鶴の頬をつまんで左右に引っ張った。
「!?!?」
驚いて目を開いた千鶴は、飛び退いた拍子にクッキーを落としかけたが、沖田がキャッチして事なきを得た。
「ひ、ひどいです」
両頬を押さえながら目を潤ませる千鶴に、沖田が再び顔を近づける。
「あれ?君は一体、何を期待したのかな」
「な、何も期待なんて……」
真っ赤になって黙り込む千鶴の頭に、沖田がポンと手を置いた。
「ごめんごめん、ちょっと悪ふざけが過ぎたかな。ところでさ、今からお隣に取り置きのケーキを届けないとならないんだ。千鶴ちゃん、一緒に行ってくれるよね?」
「はい、ドラッグはくおうさんですね!」
「「トリックオアトリート〜!!」」
調剤室から慌てて飛び出してきた斎藤が一瞬目を丸くした様子を、千鶴は見逃さなかった。
「一君、これ、土方さんから頼まれてたケーキ。冷蔵庫に入れておいてね。あ、お代は頂いてあるから」
「ああ、礼を言う。忙しい日に悪かったな」
気を取り直してケーキの箱を受け取ると冷蔵庫に収納した斎藤は、ちょっぴり言いにくそうに続けた。
「ところで……ケーキの受け取りについては土方さんから聞いていたのだが、そのような出で立ちで現れるとは予想をしていなかったゆえ……手持ちの菓子がないのだ」
沖田はニヤニヤしながら、千鶴は興味深そうに、斎藤の次の言葉を待つ。
「い、いたずらとは……何をするつもりなんだ?」
「さすが一君、そうこなくっちゃ」
「「え?」」
嬉しそうな沖田に、斎藤と千鶴が同時に首をかしげる。
「ちなみに一君、僕と千鶴ちゃん、どっちのいたずらをご所望なのかな?」
「そんなもの、雪村一択に決まっている!」
「もう、一君たら硬派に見えて、やっぱり女の子のいたずらの方がいいのか〜」
「なっ!?違っ!!消去法だっ!!!総司にいたずらなんぞさせたら、何をしでかすかわからんからな」
「僕って、そんなに信用ないんだ?傷つくなあ」
さして傷ついてもいないような顔の沖田に、斎藤がピシャリと返す。
「普段の言動を思えば、当然のことだ!」
「ふ〜ん、ま、そういうことにしておこうか」
千鶴の背後に回った沖田が、後ろから彼女の肩を叩く。
「ほら千鶴ちゃん、出番だよ」
「え?え??」
沖田と斎藤を見比べる千鶴の背中を、沖田が押しながら言う。
「さあ、君のいたずらセンスの見せ所だよ!」
「え???いたずらにセンスなんて必要あるんですか?」
混乱しながらも斎藤に歩み寄り真正面で立ち止まる千鶴。しかし特に思いつくいたずらもなく、とりあえず、先ほど自身が沖田にされたいたずらを再現する。
「で、では、僭越ながら失礼します」
千鶴は斎藤の頬に手を伸ばすと、左右に引っ張った。
「!??!!」
突然のことに理解が追いつかないらしく、斎藤は顔を真っ赤にして目を白黒させた。
「私のいたずらセンス、いかがでしょうか?」
斎藤の頬を引っ張りながら、千鶴は、やりきった感満載のドヤ顔を沖田に向けた。
その時――――
「おまえら……何やってんだ!?」
「「土方さん!?」」
驚いた斎藤と千鶴が、そろって入り口ドアに顔を向けた。だが、斎藤の頬は引っ張られたままだ。それどころか、千鶴の手には先ほどよりもさらに力が込められている。
「やだなあ土方さん、今日が何の日かくらいはわかってますよね。まったく無粋なんだから」
いつものように、土方に対してわざと棘のある言葉を選ぶ沖田。
「ハロウィンがなんでこんな状態になるってんだ?」
苦虫を噛み潰したような表情で返す土方に、沖田は満面の笑みを向ける。
「そうか!そうですよね、気が付かなくてすみません。土方さんも、千鶴ちゃんからいたずらしてもらいたいんですね」
「ま、待ってください。いたずらのレパートリーが、これ以上ありません」
ようやく斎藤から手をはなして慌てる千鶴と、笑顔をキープしたままの沖田を見比べると、土方は眉間の皺を指で押さえながら深いため息をついた。
「千鶴……最近、総司に染まってきてないか?」
土方の言葉に、斎藤が身を乗り出した。
「雪村っ、総司に毒されてきているのではないか!?」
「一君、何気にひどい言い草じゃない?」
不本意そうに腕組みをする沖田を一瞥してから、土方は棚に並べられたのど飴の袋を手にとった。
「斎藤、後で会計頼む」と言いながら千鶴に歩み寄ると、その袋を差し出した。
「ほら、一応菓子だ。ハロウィンなんだろう?」
「ありがとうございます!……あ、トリックオアトリート、土方さんには言ってませんでしたね」
土方がふっと小さな笑いをこぼした。
「その衣装……よく似合ってるな」
「あ……ありがとうございます」
彼は、照れくさそうな千鶴の頭をポンポンと撫でた。
「ちょっと!?」
目を見開いた沖田が抗議の声をあげようと口を開きかけた時、斎藤が先に声を上げた。
「土方さん!総司たちの衣装には、土方さんや俺のバージョンもあるはずです。来年はこの店でもハロウィンのコスプレを!!」
斎藤の頭の中では、ハロウィンにすべきことが『仮装』から『ゲームのコスプレ』に変換されてしまったようだ。
「……斎藤、お前の方こそ総司に毒されてきたんじゃないか?」
「なっ!?なにゆえっ……」
土方から呆れ混じりの眼差しを向けられ、斎藤が心外だとばかりに叫ぶ。
「あはははは!さすが一君。いいね、来年はおそろいの衣装でコスプレしよう!あ、土方さんは一人寂しく幕末バージョンの和装でも着てたらどうですか?」
「総司、お前は〜〜っ」
ハロウィンの夜が更けていく。
なんとなく眠ってしまうのが惜しくて、ベットに腰かけたまま、千鶴はスマホを見つめる。
せっかくの衣装だからと沖田が撮った写真を、共有してもらったのだ。スクロールしていくと、ドラッグはくおうを訪問する直前の、良からぬことを企んでいそうな沖田の笑顔と、ケーキの箱をかかえる千鶴の緊張した面持ちが現れた。
ホッと息を吐いてスマホを閉じ、その後の皆でのやりとりを思い出して、彼女はクスリと笑いをこぼした。
来年も、それからも、ずっとずっと……
大切な人たちと一緒に過ごすハロウィンが、今から楽しみな千鶴だった。
☆Happy Halloween!!☆
本日のおすすめ…かぼちゃプリン
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