春(le printemps)
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ここは『patisserie VERT(パティスリー・ヴェール)』
パティシエ沖田の瞳の色と同じ『緑色』を名前に冠した、隠れ家的なケーキ屋だ。
春めいた風が街行く人を明るい気分にさせる、三月のはじめ。
ホワイトデーを控え、ショーケースのケーキたちも華やかな春の装いに衣替えの時期だ。
定番商品に加え、季節限定のケーキとして何を選ぶか。
いくつかの案を示して、沖田が販売スタッフの千鶴に意見を求めている。
「僕としては、“春乙女スウィーツの乱”ってコンセプトでいこうと思ってるんだ」
一瞬考えてから、千鶴が吹き出す。
「プッ……なんだか沖田さんらしくないセンスですね……」
「……別に、我慢しないで笑えばいいじゃない」
チラッと千鶴を見やって、沖田が腕組みしながら息を吐く。
さすがに笑うのはまずいと気付いたらしい千鶴は、咳払いをひとつしてから居ずまいを正した。
「そういえば、お店のケーキの名前も、案外日本的ですよね。もっと、片仮名のフランス語的な名前がついてるのかと思ってました」
今度は、沖田が小さく吹き出した。
「プッ………あのさ、千鶴ちゃん。発音しにくい片仮名ばっかのメニューだらけで、君はちゃんとオーダーとれるのかな?」
「た……確かに……」
「お客様に『おすすめはどれ?』って聞かれた時に、君がかまないで答えられるようにって配慮もあるんだけどな」
「はい……ありがとうございます」
「それにさ、やっぱり、親しみやすさって大事だと思うんだよね」
沖田の瞳が、少年のように輝く。
千鶴はひそかに顔をほころばせた。
『スウィーツが、そして仕事が大好きでたまらない』といった彼のそんな表情は、いつも、千鶴の胸の内を暖かく甘い気持ちで満たしてくれるのだ。
沖田が続ける。
「例えば、誰かに伝えたい時に『あのお店のジュレ何とかいうやつ』なんて言うより『パティスリーヴェールのオレンジゼリー』って言ってもらった方が、鮮やかに伝わりそうだと思わない?」
「なるほど……お客様に『また食べたい!』って思っていただくには、そういう心配りも大切なんですね」
「ただ、そうだな……コンセプトを“乙女”限定にしちゃうと、島田さんみたいな男性のお客様には、ちょっと……って感じになっちゃうかもしれないね」
「では、こうしたらいかがでしょう」
千鶴は満面の笑みで、踊るように両腕を広げた。
「乙女である私が春の店内に革命を巻き起こし、このようなケーキのラインナップになりました!……とか」
「あははは、真面目な顔してそんなこと言う?」
一瞬目が点になり大笑いを始めた沖田に、千鶴は不服そうな視線を向ける。
「私は、いたって真面目に言ってるんですけど」
「まあいいや、コンセプトは別に、僕たちのモチベーションだけの問題だから。……あ!今ので作りたいものが浮かんだ。ちょっと材料発注しないといけないから、調べてくれる?」
数日後。
「千鶴ちゃん、これ、どうかな?」
「わあ、春のおすすめの新作ですね」
千鶴の顔がパアッと明るく輝く。
「これからの季節……今までと違う世界に踏み出す人も多いし、真っ白なカンバスを、新しい色で染めていくってイメージだからね。パンナコッタの白をベースに、『期待と不安の入りまじった時を、まっすぐ前に進んで行くぞ!』って気持ちを表現してみたんだ」
ニコニコしているように見えるけれど、沖田の目は真剣そのものだ。
『お仕事に対する沖田さんの姿勢、私も見習わなくちゃ』と思いつつ、千鶴は背筋を伸ばした。
「では、いただきます」
フワッと香る春の色……
「桜ですね」
「うん、どこかの誰かが別の世界で過去に言ったかもしれないけど、千鶴ちゃん……君には桜がよく似合うからね」
「あ……あの」
千鶴は、スプーンを持つ手を宙に浮かせたまま沖田にまっすぐ顔を向けた。
「私、桜の舞い散る様が大好きなんです。だから、桜が似合うって形容していただけるのは、とても嬉しいです。ただ……」
「ただ?」
「その風景の中には、私一人じゃなく、沖田さんにも一緒にいてほしいです」
そしたらきっと、すごく幸せな気持ちになれますから……
そう呟きながら、目をそらす。
クスリと笑みをこぼしながら、沖田が千鶴の頬を人差し指でつつく。
「僕の作るスウィーツには、君に喜んでもらいたいって想いがこもっているんだよ。桜がよく似合う、僕の千鶴ちゃんのために……ね」
目を丸くして沖田を見つめる千鶴の頬は、あっという間に桜の色に染まる。
「とにかくっ……春のおすすめは、これで決まりですね!」
「そうだね、じゃあ早速明日から」
街には華やいだ春の空気が漂い、沖田と千鶴の間にも、甘くあたたかな風がそよ吹く。
出会いの季節を彩る桜をモチーフにしたスウィーツ、期間限定で発売中!
本日のおすすめ…桜のパンナコッタ
*
パティシエ沖田の瞳の色と同じ『緑色』を名前に冠した、隠れ家的なケーキ屋だ。
春めいた風が街行く人を明るい気分にさせる、三月のはじめ。
ホワイトデーを控え、ショーケースのケーキたちも華やかな春の装いに衣替えの時期だ。
定番商品に加え、季節限定のケーキとして何を選ぶか。
いくつかの案を示して、沖田が販売スタッフの千鶴に意見を求めている。
「僕としては、“春乙女スウィーツの乱”ってコンセプトでいこうと思ってるんだ」
一瞬考えてから、千鶴が吹き出す。
「プッ……なんだか沖田さんらしくないセンスですね……」
「……別に、我慢しないで笑えばいいじゃない」
チラッと千鶴を見やって、沖田が腕組みしながら息を吐く。
さすがに笑うのはまずいと気付いたらしい千鶴は、咳払いをひとつしてから居ずまいを正した。
「そういえば、お店のケーキの名前も、案外日本的ですよね。もっと、片仮名のフランス語的な名前がついてるのかと思ってました」
今度は、沖田が小さく吹き出した。
「プッ………あのさ、千鶴ちゃん。発音しにくい片仮名ばっかのメニューだらけで、君はちゃんとオーダーとれるのかな?」
「た……確かに……」
「お客様に『おすすめはどれ?』って聞かれた時に、君がかまないで答えられるようにって配慮もあるんだけどな」
「はい……ありがとうございます」
「それにさ、やっぱり、親しみやすさって大事だと思うんだよね」
沖田の瞳が、少年のように輝く。
千鶴はひそかに顔をほころばせた。
『スウィーツが、そして仕事が大好きでたまらない』といった彼のそんな表情は、いつも、千鶴の胸の内を暖かく甘い気持ちで満たしてくれるのだ。
沖田が続ける。
「例えば、誰かに伝えたい時に『あのお店のジュレ何とかいうやつ』なんて言うより『パティスリーヴェールのオレンジゼリー』って言ってもらった方が、鮮やかに伝わりそうだと思わない?」
「なるほど……お客様に『また食べたい!』って思っていただくには、そういう心配りも大切なんですね」
「ただ、そうだな……コンセプトを“乙女”限定にしちゃうと、島田さんみたいな男性のお客様には、ちょっと……って感じになっちゃうかもしれないね」
「では、こうしたらいかがでしょう」
千鶴は満面の笑みで、踊るように両腕を広げた。
「乙女である私が春の店内に革命を巻き起こし、このようなケーキのラインナップになりました!……とか」
「あははは、真面目な顔してそんなこと言う?」
一瞬目が点になり大笑いを始めた沖田に、千鶴は不服そうな視線を向ける。
「私は、いたって真面目に言ってるんですけど」
「まあいいや、コンセプトは別に、僕たちのモチベーションだけの問題だから。……あ!今ので作りたいものが浮かんだ。ちょっと材料発注しないといけないから、調べてくれる?」
数日後。
「千鶴ちゃん、これ、どうかな?」
「わあ、春のおすすめの新作ですね」
千鶴の顔がパアッと明るく輝く。
「これからの季節……今までと違う世界に踏み出す人も多いし、真っ白なカンバスを、新しい色で染めていくってイメージだからね。パンナコッタの白をベースに、『期待と不安の入りまじった時を、まっすぐ前に進んで行くぞ!』って気持ちを表現してみたんだ」
ニコニコしているように見えるけれど、沖田の目は真剣そのものだ。
『お仕事に対する沖田さんの姿勢、私も見習わなくちゃ』と思いつつ、千鶴は背筋を伸ばした。
「では、いただきます」
フワッと香る春の色……
「桜ですね」
「うん、どこかの誰かが別の世界で過去に言ったかもしれないけど、千鶴ちゃん……君には桜がよく似合うからね」
「あ……あの」
千鶴は、スプーンを持つ手を宙に浮かせたまま沖田にまっすぐ顔を向けた。
「私、桜の舞い散る様が大好きなんです。だから、桜が似合うって形容していただけるのは、とても嬉しいです。ただ……」
「ただ?」
「その風景の中には、私一人じゃなく、沖田さんにも一緒にいてほしいです」
そしたらきっと、すごく幸せな気持ちになれますから……
そう呟きながら、目をそらす。
クスリと笑みをこぼしながら、沖田が千鶴の頬を人差し指でつつく。
「僕の作るスウィーツには、君に喜んでもらいたいって想いがこもっているんだよ。桜がよく似合う、僕の千鶴ちゃんのために……ね」
目を丸くして沖田を見つめる千鶴の頬は、あっという間に桜の色に染まる。
「とにかくっ……春のおすすめは、これで決まりですね!」
「そうだね、じゃあ早速明日から」
街には華やいだ春の空気が漂い、沖田と千鶴の間にも、甘くあたたかな風がそよ吹く。
出会いの季節を彩る桜をモチーフにしたスウィーツ、期間限定で発売中!
本日のおすすめ…桜のパンナコッタ
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