たまにはこちらで〜五千人感謝〜

たまには、こちらの世界でお祝いしましょう~!!

という訳で、管理人が手配した貸しきりのお部屋でパーティーです。

せっかくなので、皆さんドレスアップしていただきましょう……

 * * *

「おい、はるか…まだか?」

「ん~ちょっと……焦らせないでよ~、難しいんだから」

はるかが、魁童のネクタイを締めようと悪戦苦闘している。

「こっちをこうして……えいっ!「ぐぇっ」」

ネクタイではなく、魁童の首が絞まったらしい。

「おいっ!殺す気かっ!?」

「待って、今度こそ……」

大真面目な顔で深呼吸をすると、はるかは、ずいっと魁童に近寄った。

「ちょっ……待て、そんなに近づくな」

はるかから不自然に顔をそむける魁童の顔は赤い。

「んもう!まっすぐしててくれなきゃ、うまく結べないよ」

頬をふくらませて、さらに魁童に詰めよった彼女の、今日の出で立ちは……

シフォン素材をあしらった、清楚なワンピース。
普段、カジュアルな服装を好む彼女にしては、珍しい格好だ。

そんなに胸元が開いているわけではないのだが、デコルテの露出面積はわりと大きい。

「だ~!それ以上近寄るな、見えちまうだろ」

「ん?見える?……あ~、普段めったに着ない、女の子みたいな服だからね」

はるかは、魁童の首に巻き付いたネクタイから手をはなすと、ワンピースの身頃をつまんで引っ張ってみせた。

「うわあっ!!バカか、おまえはっ!中が見えるじゃねえか…」

魁童の言葉のおしまいの方は、だんだん弱々しくなっていく。
鼻血を吹きそうなのを、意志の力で必死に耐えている様子がうかがえる。

魁童のそんな煩悩との戦いをよそに、はるかはゆっくり息を吐くと、ビシッと彼を見据えた。

「さて!私は今、正念場なんだから、魁童は目をつぶってて」


必死の形相で再びネクタイと格闘し始めたはるかだったが……

…………
………………

「も~やだっっ!!瑠璃さ~ん」

ついに、祢々斬達と談笑していた瑠璃に泣きついた。




「うぅ……ありがとうございました」

好きな男のネクタイひとつ、まともに締められなかった情けなさと悔しさをかみしめながら、はるかが瑠璃に頭を下げる。

いつもよりドレッシーな装いの瑠璃が、はるかの肩にそっと触れながら微笑んだ。

「ふふ、何だか安心しちゃった」

「え?安心?呆れじゃなくてですか?」

「はるかちゃんにも、苦手なことがあるんだなあって」

はるかは、口を半分開いたまま顔を上げたが、次の言葉が見つからない様子だ。


祢々斬が笑いながら、瑠璃の頭をポンポンとたたく。

「おまえはいつも、はるかのこと羨ましがってるもんな。『しっかりしてて何でも出来る』って」

「もう、祢々斬ってば……」

祢々斬を横目でにらみながら、軽くたたく真似をする瑠璃。

その手をつかむと、祢々斬は、彼女を自分の方に引き寄せる。

「本当のことだろ?……っと……おい、無月!?」

無月が祢々斬を押しのけるように、二人の間に入る。

「瑠璃、気にすることはない。誰にでも、得手不得手はあるものだ」

はるかが首をかしげる。

「あれ?私が不器用だって事が、どうして瑠璃さんを慰めなきゃならない話に変わっちゃったんですかね?」

言われて、無月も納得の表情で頷く。

「ああ、確かにそうだな。はるか、そなたにかけるべき言葉であったかもしれぬ」

「はい、練習します……」

しおらしく頷くはるかに、慣れないネクタイを気にしながら魁童が声をかける。

「毎日練習すればいいだろ?俺様が付き合ってやる」

蝶ネクタイの玖々廼馳が、すかさず声を上げる。

「毎日お姉ちゃんと練習で会えるなら……僕も、そっちのネクタイがいいです……」

「だ……ダメだっ!はるかがこれを結んでいいのは、俺だけだ!」

「かっちゃんばっかり、ずるいです……」

やや不服そうな玖々廼馳。


「ところで……竜尊はどこに行っちゃったんでしょうね?」

はるかのひと言に、皆、はたと気づいた。

そういえば、竜尊の姿が見えない。

「まあ……あいつのことだ。どこかで、よろしくやってるんだろう」

鼻で笑った祢々斬に、玖々廼馳が言う。

「そういえば、竜ちゃん……久遠に何か頼まれてるから、遅くなるって言ってました……」

*

その時、この世界と常盤國とをつなぐ扉が開いた。

「「「竜尊!!」」」

「遅くなったな。ほら、術士から預かってきた荷物だ」

次元を越えて、竜尊が颯爽と担いできたのは、カゴに詰められたたくさんの紅白饅頭だった。

町の菓子屋に頼んだ祝い用の饅頭に、月讀自ら念を込めたのだとか。

「これを、水玉世界に来てくれるお客さんに配るんですね」

玖々廼馳が、小さな包みをひとつ手に取る。

直径五センチ程の紅い饅頭と白い饅頭が、和紙できれいに包まれ、水引で作った飾りがつけてある。

「「わあ~可愛い~!!」」

瑠璃とはるかが同時に叫んだ。

「おまえらがそんなに喜ぶんなら、きっとお客さんにも喜んでもらえるな」

そう言いながら荷物を下ろし終えた竜尊に、瑠璃が声を上げた。

「あ、竜尊!まだいつもの格好だね。早く着替えなくちゃ」

「異界の衣は勝手がわからんな。瑠璃、手伝ってくれるんだろ?」

答えに詰まった瑠璃の前に、祢々斬と無月が進み出た。

「そんなに手助けがほしけりゃ、俺らが手伝ってやるぜ。なあ、無月」

「ああ、遠慮はいらんぞ。かゆいところに手が届くように、しかと面倒をみてやる」

手伝う気満々の二人に、竜尊が舌打ちして顔をしかめる。

「ちっ、野郎の助けなんぞ必要ねえ」

「竜尊、着替え終わってから、ちゃんと確認するから」

「仕方ないな」

瑠璃の言葉に、竜尊は素直に更衣室に向かった。




「瑠璃、どうだ?これでいいのか?」

「わあ~!!素敵!竜尊、よく似合ってるよ」

どこぞのホストみたい……と言いたいのを、はるかはグッと我慢していた。

そんなこととは知らず、瑠璃は竜尊に向き合う。

「襟だけ、ちょっと直すね」

まるで、甲斐甲斐しく旦那様のお世話をする新妻……

「お二人さん、新婚さんみたいですねぇ」

はるかの口から、思わず言葉がもれた。
ギロッと睨んだ祢々斬と無月に気づき、慌てて口を押さえたが、後の祭り。

二人に、頬を片方ずつ引っ張られて、はるかは瑠璃に助けを求めた。

「瑠璃ひゃーん!何らか私、やたらとほっぺたを引っ張られてるような気がするんれすが……」

「そういえば……そうかなあ?ふふ、はるかちゃんのほっぺ、すべすべで柔らかそうだから、みんなきっと触りたいんだよ」

「待てっ……違っ」「わ、我は決してそのような……!?」

祢々斬と無月が、慌てて手を離す。


「いいのいいの、わかってるから」

「「?」」

「『女は若ければ三十点プラス』っていうのが、男心なんでしょ?私はもう、十代は卒業しちゃいましたからね」

瑠璃の言葉に、慌てる祢々斬と無月。

「おい、魁童!おまえがちゃんとこいつの面倒見てないから、こういうことになるんだぞ」

祢々斬が、はるかの頭をワシッと掴み、魁童の方に差し出す。

「ちょっ……何するんですか!?まったく、人をモノみたいに……」

ブツブツ言いながら自分の前に立ったはるかの頬を、魁童が思いきりムニ~と引っ張った。

「いだだだだっ!やめっ……離してってば!」

およそ、お洒落した男女には似つかわしくない光景。


案外短時間で手を離し、魁童が言う。

「俺以外の奴に、気安く触らせんなよ」

「なっ……!?何も、好きで触られた訳じゃ……ぅぐっ」

はるかの口に、紅い饅頭が押し込まれた。

「ほら、これでも食って機嫌を直せ。魁童も、ほれ」

竜尊が、魁童の口に白い饅頭を運ぶ。

「野郎に食わせてもらいたかねえよ!」

魁童は、竜尊の手から饅頭を奪い取って、ひとくちに頬張った。


なかなか美味しいよね、と頷き合う二人に、玖々廼馳が心配そうな目を向ける。

「そのお饅頭……月讀さんの術がかかってますけど……食べて大丈夫ですか?」

「「!!?」」

瑠璃が恐る恐る竜尊に問いかける。

「ねえ、竜尊……お饅頭には、どんな術がかかってるの?」

「子狐の話だと、『好きなものをもっと好きになる』術だとか、なんとか言ってたな」

言ってから竜尊の目が輝いたことに、瑠璃はしっかりと気づいてしまった。

「あ……ちょっと嫌な予感が……」

後ずさる彼女に、竜尊、祢々斬、無月が、それぞれ饅頭の袋を両手に掴んでにじり寄る。

「瑠璃は俺のことが好きなんだろ?」

にっこり微笑む竜尊。

「何言ってんだ、瑠璃が好きなのは俺に決まってんだろ?」

祢々斬が竜尊を押しのければ、無月も負けじと前に出る。

「我への気持ちを、他の者に遠慮する必要などないぞ」



立ちすくんでいた瑠璃だが、大きく息を吸うと、声を張り上げた。

「お客様に配るお饅頭、食べちゃ駄目ーっ!!!」




頬を赤らめ見つめ合う、はるかと魁童はほっといて、パーティーは和やかに進みましたとさ♪

紅白饅頭をどうぞ
  (^ω^)ノ

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