行く年来る年〜六千人感謝〜
今年も残りわずか。
屋敷では、鬼達も駆り出されて正月準備に大忙しだ。
竜尊と祢々斬が交代で餅をつき、たすき掛けにした瑠璃が返す。
久遠と玖々廼馳が、その餅を丸める。
はじめのうちは魁童も一緒に丸めていたのだが、つまみ食いばかりしてしまうため、はるかに首根っこをつかまれ台所に連れていかれた。
彼の新たな役目は、お節料理を作っているはるかの手伝いだ。
「こっちだって、食いもんじゃねぇか。つまみ食いし放題……あたっ!」
「ふふふ、魁童~!私の監視下で、つまみ食い出来ると思ったら大間違い!そんな暇もないほど、やることいっぱいあるんだからっ!!」
目の前に立ちはだかる、はるかの迫力に
「わ、わかったよ……」
大人しく従う魁童。
「わかればよろしい~!じゃあさ、早速だけど、田作り煎ってるから、焦げないように見ててね」
「おう」
二人の連携で、美味しそうなお節が、次々と出来上がっていく――
台所は、そのような状況。
「俺も随分長いこと生きてきたが、餅つきなんて初めてだな」
杵を振り下ろしながら竜尊が笑う。
「竜尊、初めてにしては、すごく上手だよ」
「そうか?おまえの説明がよかったんだろ」
まんざらでもなさそうな竜尊に、祢々斬が歩み寄る。
「どれ、そろそろ交代だ。ほら、杵をよこせ」
「おまえな……」
祢々斬を睨む竜尊に、瑠璃が声をかける。
「竜尊、お疲れ様!蒸したお米も、これでちょうどおしまいだし……無月の様子を見てきてもらえると嬉しいな」
瑠璃のねぎらいに、仕方なく杵を祢々斬に手渡す竜尊。
「おまえの頼みじゃ、断れないな」
彼は苦笑いを浮かべながら、床の間で花を生けている無月の所に向かった。
門松は数日前に山から材料を調達してきて、皆で拵えた。
「玄関や床の間にも、お正月らしい華やかさがほしいですね」という、家主月讀の希望により、無月が花を生けているのだ。
「無月、調子はどうだ?」
「竜尊か。我の作業は順調だ。餅つきの方は、一段落ついたのか?」
「ああ、祢々斬と交代したところだ。……ところで、正月の飾りにしてはちょっと地味じゃないか?」
「そうか?花の少ないこの時期にしては、華やかだと思うが」
畳の上、和紙を敷いて広げてあるのは、紅い椿、水仙の白と黄色、南天の赤い実に緑の葉。
あとは、青々とつややかな針を持つ松の枝。
首をかしげる無月に、竜尊がいたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。
「うら若い乙女と過ごすんだ、もっと艶やかにしないとな」
「乙女と……?乙女が、ならわかるが……??」
ますます意味が分からない、と首をひねる無月に、竜尊は意味ありげな笑いを投げかける。
「俺はちょっと買い出しに行って来る。あとは頼んだぞ」
あっけにとられる無月を残し、竜尊は一人で出かけて行った。
*
庭に目を移してみると――
「祢々斬も、お餅つくの初めてなんだよね」
「ああ。瑠璃は慣れてるみたいだな」
「地域の餅つき大会ってのが毎年あってね、それを手伝ってたから」
「ふーん……しかし、おまえとこうやって共同作業をすることになるとは、一年前には夢にも思わなかったな」
つかの間、杵を下ろす手を止め、祢々斬が感慨深げに言う。
立ち上がって腰を伸ばしながら、瑠璃が答える。
「ほんとだね。祢々斬と、こんなふうに話して笑い合って……」
互いに微笑みを交わし、見つめ合ったその時――
「こりゃーーーっ!!!なぁにを、二人の世界にひたっておるっ!?」
久遠が二人の間に割って入った。
「わっ!……やだなあ、久遠ってば、びっくりさせないでよ~」
「おい、子狐!邪魔すんな」
「邪魔などしておらん!おぬし達がいちゃいちゃしておって餅がちっとも出来上がらないから、わしらは暇なのじゃ」
「久遠の言う通りです……」
玖々廼馳も、不満そうにつぶやく。
「ごめんごめん……今ついてる分で最後だから、そろそろおやつにしようか?」
「おお、それがよい。今年最後のおやつは、とっておきの芋ようかんなのじゃ」
久遠の機嫌も直ったところで、餅つき再開。
ほどなく、台所の二人が餅の出来具合を見にやって来た。
「やっぱ、つきたての餅は最高だよなっ」
早速つまみ食いをする魁童を横目で睨みながら、はるかが不思議そうな顔で瑠璃に問いかける。
「竜尊は、ここにいたんじゃなかったんですか?」
「無月の様子を見てきてって、頼んだんだけど……そういえば、行ったきり戻って来ないなあ」
餅を頬ばりながら、魁童が言う。
「あいつのことだ、無月を丸め込んで、よからぬことでも企んでんじゃねえか?」
「竜ちゃん、怪しいです……」
玖々廼馳の言葉に、瑠璃もはるかも一気に不安を募らせる。
「見に行った方がいいな」
言うが早いか歩き出す祢々斬。
皆、慌てて彼の後を追った。
玄関に回ると、点々と花びらが散らばっている。
それは、廊下の向こうまで続いていた。
「ねぇ、はるかちゃん、この花びらって……」
「私達の世界ならともかく、ここではものすごく貴重な花ですよね」
祢々斬を先頭に、花びらを辿って、ぞろぞろと廊下を進む。
果たして――
それは、瑠璃の部屋の前で途切れていた。
「えぇ~!?何で私の部屋……??」
「おまえは下がってろ」
瑠璃を背中にかばうように立ち、祢々斬が襖を開け放った。
「「「!!!!!」」」
むせかえるような薔薇の香り。
部屋の中には、大量の薔薇を生けている無月と竜尊の姿があった。
「竜尊……これ……」
「瑠璃、どうだ?おまえのために、花の寝所をしつらえてみたんだ」
「……この薔薇、どうしたの?」
「町の花屋で買ってきた」
「買ってきたって……代金は?」
「後で術士の屋敷の者が来ると言っておいた」
竜尊は懐から紙切れを取り出し、瑠璃に手渡した。
花屋からの請求書らしき紙片に目を落とした瑠璃は、絶句した。
「瑠璃さん、大丈夫ですか?」
「どれ、わしにも見せるのじゃ」
同時に左右から、はるかと久遠が覗き込む。
「なぬーっ!?」
「……ひと月、お水だけで空腹をしのぐ?」
久遠とはるかが顔を見合わせる。
瑠璃も、大きなため息をもらした。
「こんな金額、月讀さんが見たら倒れちゃうよ」
「私がどうかしましたか?」
*
「「月讀さん!?」」
これほど間の悪い男も珍しい。
事の発端である竜尊は、全く悪びれる様子はない。
しかし、この屋敷の住人達は、主の突然の出現に慌てふためいた。
「先ほど花屋の前を通りかかった所、ご主人が大変恐縮してらして、『できれば今年中に』とおっしゃっていたのですが……もしかして、この花の代金のことでしょうかね?」
穏やかな口調の月讀が、かえって恐ろしい。
隠そうにも、証拠はしっかり目の前にある。
瑠璃は観念して、先ほどの紙切れを月讀に差し出した。
「ごめんなさい、月讀さん……お正月だから華やかにって、竜尊が張り切って買って来てくれたみたいで……」
「…………ほぉ……正月準備のために、ひと月の生活費を充てるとは……しかも、瑠璃さんの部屋だけに……」
「まあ、かたいこと言うなよ」
竜尊は、微かな笑みを浮かべながら、月讀に歩み寄る。
「この部屋なら、花の香りが媚薬がわりだ。術士、おまえだって、ここで瑠璃と一夜をともにすればいいじゃないか。そのお代だと思えば安いものだろ……ぃてっ!」
祢々斬と無月が、竜尊の頭に、同時にげんこつを振り下ろした。
「竜尊のバカっ!最低っっ!!!」
瑠璃が顔を真っ赤にして叫べば、こちらも頬を染めた魁童が
「やっぱ、ろくでもねえこと企んでやがったな」
とつぶやく。
「……でも」
皆、声の主に視線を向ける。
はるかは、うっとりした様子で続けた。
「瑠璃さんへの愛が感じられます~」
「はるかちゃん……?」
瑠璃が、はるかの顔色をうかがう。
今日は、お酒は飲んでないはず。
しらふに違いないのに、まるで酔っているかのようにはるかが語る。
「こんなにたくさんの薔薇を贈られたら、女の子はグラッときちゃいますよね」
「おい、はるか……まさか、媚薬の効果ってやつか?」
うろたえる魁童に、玖々廼馳がきっぱりと言う。
「かっちゃん、外に出ましょう」
「お、おう……そうだな……おら、はるか!行くぞ」
「もっと薔薇のお部屋を堪能したいのに~」
未練がましく振り返るはるかの右手を魁童が、左手を玖々廼馳がつかむ。
「そうじゃ、気をとり直しておやつにするのじゃっ」
久遠がはるかの背を押す。
結局、彼女を引きずるような格好でお子様組の四人は部屋を出て行った。
「瑠璃、そなたも……」
「そうだな、とにかくここを離れるぞ」
「あ……う、うん」
無月と祢々斬に手を引かれ、残される二人を気にしながら、瑠璃も廊下へと姿を消した。
「おい、瑠璃……」
皆を追って歩き出した竜尊の帯を、月讀が掴んだ。
「竜尊……あなたには、屋敷での労働をもって、花代を返済していただきましょう」
「なんだと?」
「愛する相手への贈り物だと言うのならば、人の財布など当てにせず、自分で汗を流して稼いだお金で買うものですよね」
「ちっ……仕方ねえ」
「春になるまで働いていただけば、よろしいかと思いますよ。では、早速薪割りを。その後、今晩の年越しそばの準備もお願いしますよ」
「こうなったら、この屋敷に住み込みで……」
「そんなこと、許すわけないでしょう!!!」
そんなこんなで、もうすぐ年越し。
みんなそろって、賑やかに年越しそばをいただいて…
除夜の鐘を全部数え終わる頃には、久遠をはじめ、何人かは既に夢の中。
行く年来る年
一年を顧みて厳かな心境となり、
新しい年を思って晴れやかな気持ちを抱く。
皆様の来年が、実り多く素晴らしい年になりますように……。
そして、六千人感謝です!!
本当にありがとうございますm(_ _)m
*
屋敷では、鬼達も駆り出されて正月準備に大忙しだ。
竜尊と祢々斬が交代で餅をつき、たすき掛けにした瑠璃が返す。
久遠と玖々廼馳が、その餅を丸める。
はじめのうちは魁童も一緒に丸めていたのだが、つまみ食いばかりしてしまうため、はるかに首根っこをつかまれ台所に連れていかれた。
彼の新たな役目は、お節料理を作っているはるかの手伝いだ。
「こっちだって、食いもんじゃねぇか。つまみ食いし放題……あたっ!」
「ふふふ、魁童~!私の監視下で、つまみ食い出来ると思ったら大間違い!そんな暇もないほど、やることいっぱいあるんだからっ!!」
目の前に立ちはだかる、はるかの迫力に
「わ、わかったよ……」
大人しく従う魁童。
「わかればよろしい~!じゃあさ、早速だけど、田作り煎ってるから、焦げないように見ててね」
「おう」
二人の連携で、美味しそうなお節が、次々と出来上がっていく――
台所は、そのような状況。
「俺も随分長いこと生きてきたが、餅つきなんて初めてだな」
杵を振り下ろしながら竜尊が笑う。
「竜尊、初めてにしては、すごく上手だよ」
「そうか?おまえの説明がよかったんだろ」
まんざらでもなさそうな竜尊に、祢々斬が歩み寄る。
「どれ、そろそろ交代だ。ほら、杵をよこせ」
「おまえな……」
祢々斬を睨む竜尊に、瑠璃が声をかける。
「竜尊、お疲れ様!蒸したお米も、これでちょうどおしまいだし……無月の様子を見てきてもらえると嬉しいな」
瑠璃のねぎらいに、仕方なく杵を祢々斬に手渡す竜尊。
「おまえの頼みじゃ、断れないな」
彼は苦笑いを浮かべながら、床の間で花を生けている無月の所に向かった。
門松は数日前に山から材料を調達してきて、皆で拵えた。
「玄関や床の間にも、お正月らしい華やかさがほしいですね」という、家主月讀の希望により、無月が花を生けているのだ。
「無月、調子はどうだ?」
「竜尊か。我の作業は順調だ。餅つきの方は、一段落ついたのか?」
「ああ、祢々斬と交代したところだ。……ところで、正月の飾りにしてはちょっと地味じゃないか?」
「そうか?花の少ないこの時期にしては、華やかだと思うが」
畳の上、和紙を敷いて広げてあるのは、紅い椿、水仙の白と黄色、南天の赤い実に緑の葉。
あとは、青々とつややかな針を持つ松の枝。
首をかしげる無月に、竜尊がいたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。
「うら若い乙女と過ごすんだ、もっと艶やかにしないとな」
「乙女と……?乙女が、ならわかるが……??」
ますます意味が分からない、と首をひねる無月に、竜尊は意味ありげな笑いを投げかける。
「俺はちょっと買い出しに行って来る。あとは頼んだぞ」
あっけにとられる無月を残し、竜尊は一人で出かけて行った。
*
庭に目を移してみると――
「祢々斬も、お餅つくの初めてなんだよね」
「ああ。瑠璃は慣れてるみたいだな」
「地域の餅つき大会ってのが毎年あってね、それを手伝ってたから」
「ふーん……しかし、おまえとこうやって共同作業をすることになるとは、一年前には夢にも思わなかったな」
つかの間、杵を下ろす手を止め、祢々斬が感慨深げに言う。
立ち上がって腰を伸ばしながら、瑠璃が答える。
「ほんとだね。祢々斬と、こんなふうに話して笑い合って……」
互いに微笑みを交わし、見つめ合ったその時――
「こりゃーーーっ!!!なぁにを、二人の世界にひたっておるっ!?」
久遠が二人の間に割って入った。
「わっ!……やだなあ、久遠ってば、びっくりさせないでよ~」
「おい、子狐!邪魔すんな」
「邪魔などしておらん!おぬし達がいちゃいちゃしておって餅がちっとも出来上がらないから、わしらは暇なのじゃ」
「久遠の言う通りです……」
玖々廼馳も、不満そうにつぶやく。
「ごめんごめん……今ついてる分で最後だから、そろそろおやつにしようか?」
「おお、それがよい。今年最後のおやつは、とっておきの芋ようかんなのじゃ」
久遠の機嫌も直ったところで、餅つき再開。
ほどなく、台所の二人が餅の出来具合を見にやって来た。
「やっぱ、つきたての餅は最高だよなっ」
早速つまみ食いをする魁童を横目で睨みながら、はるかが不思議そうな顔で瑠璃に問いかける。
「竜尊は、ここにいたんじゃなかったんですか?」
「無月の様子を見てきてって、頼んだんだけど……そういえば、行ったきり戻って来ないなあ」
餅を頬ばりながら、魁童が言う。
「あいつのことだ、無月を丸め込んで、よからぬことでも企んでんじゃねえか?」
「竜ちゃん、怪しいです……」
玖々廼馳の言葉に、瑠璃もはるかも一気に不安を募らせる。
「見に行った方がいいな」
言うが早いか歩き出す祢々斬。
皆、慌てて彼の後を追った。
玄関に回ると、点々と花びらが散らばっている。
それは、廊下の向こうまで続いていた。
「ねぇ、はるかちゃん、この花びらって……」
「私達の世界ならともかく、ここではものすごく貴重な花ですよね」
祢々斬を先頭に、花びらを辿って、ぞろぞろと廊下を進む。
果たして――
それは、瑠璃の部屋の前で途切れていた。
「えぇ~!?何で私の部屋……??」
「おまえは下がってろ」
瑠璃を背中にかばうように立ち、祢々斬が襖を開け放った。
「「「!!!!!」」」
むせかえるような薔薇の香り。
部屋の中には、大量の薔薇を生けている無月と竜尊の姿があった。
「竜尊……これ……」
「瑠璃、どうだ?おまえのために、花の寝所をしつらえてみたんだ」
「……この薔薇、どうしたの?」
「町の花屋で買ってきた」
「買ってきたって……代金は?」
「後で術士の屋敷の者が来ると言っておいた」
竜尊は懐から紙切れを取り出し、瑠璃に手渡した。
花屋からの請求書らしき紙片に目を落とした瑠璃は、絶句した。
「瑠璃さん、大丈夫ですか?」
「どれ、わしにも見せるのじゃ」
同時に左右から、はるかと久遠が覗き込む。
「なぬーっ!?」
「……ひと月、お水だけで空腹をしのぐ?」
久遠とはるかが顔を見合わせる。
瑠璃も、大きなため息をもらした。
「こんな金額、月讀さんが見たら倒れちゃうよ」
「私がどうかしましたか?」
*
「「月讀さん!?」」
これほど間の悪い男も珍しい。
事の発端である竜尊は、全く悪びれる様子はない。
しかし、この屋敷の住人達は、主の突然の出現に慌てふためいた。
「先ほど花屋の前を通りかかった所、ご主人が大変恐縮してらして、『できれば今年中に』とおっしゃっていたのですが……もしかして、この花の代金のことでしょうかね?」
穏やかな口調の月讀が、かえって恐ろしい。
隠そうにも、証拠はしっかり目の前にある。
瑠璃は観念して、先ほどの紙切れを月讀に差し出した。
「ごめんなさい、月讀さん……お正月だから華やかにって、竜尊が張り切って買って来てくれたみたいで……」
「…………ほぉ……正月準備のために、ひと月の生活費を充てるとは……しかも、瑠璃さんの部屋だけに……」
「まあ、かたいこと言うなよ」
竜尊は、微かな笑みを浮かべながら、月讀に歩み寄る。
「この部屋なら、花の香りが媚薬がわりだ。術士、おまえだって、ここで瑠璃と一夜をともにすればいいじゃないか。そのお代だと思えば安いものだろ……ぃてっ!」
祢々斬と無月が、竜尊の頭に、同時にげんこつを振り下ろした。
「竜尊のバカっ!最低っっ!!!」
瑠璃が顔を真っ赤にして叫べば、こちらも頬を染めた魁童が
「やっぱ、ろくでもねえこと企んでやがったな」
とつぶやく。
「……でも」
皆、声の主に視線を向ける。
はるかは、うっとりした様子で続けた。
「瑠璃さんへの愛が感じられます~」
「はるかちゃん……?」
瑠璃が、はるかの顔色をうかがう。
今日は、お酒は飲んでないはず。
しらふに違いないのに、まるで酔っているかのようにはるかが語る。
「こんなにたくさんの薔薇を贈られたら、女の子はグラッときちゃいますよね」
「おい、はるか……まさか、媚薬の効果ってやつか?」
うろたえる魁童に、玖々廼馳がきっぱりと言う。
「かっちゃん、外に出ましょう」
「お、おう……そうだな……おら、はるか!行くぞ」
「もっと薔薇のお部屋を堪能したいのに~」
未練がましく振り返るはるかの右手を魁童が、左手を玖々廼馳がつかむ。
「そうじゃ、気をとり直しておやつにするのじゃっ」
久遠がはるかの背を押す。
結局、彼女を引きずるような格好でお子様組の四人は部屋を出て行った。
「瑠璃、そなたも……」
「そうだな、とにかくここを離れるぞ」
「あ……う、うん」
無月と祢々斬に手を引かれ、残される二人を気にしながら、瑠璃も廊下へと姿を消した。
「おい、瑠璃……」
皆を追って歩き出した竜尊の帯を、月讀が掴んだ。
「竜尊……あなたには、屋敷での労働をもって、花代を返済していただきましょう」
「なんだと?」
「愛する相手への贈り物だと言うのならば、人の財布など当てにせず、自分で汗を流して稼いだお金で買うものですよね」
「ちっ……仕方ねえ」
「春になるまで働いていただけば、よろしいかと思いますよ。では、早速薪割りを。その後、今晩の年越しそばの準備もお願いしますよ」
「こうなったら、この屋敷に住み込みで……」
「そんなこと、許すわけないでしょう!!!」
そんなこんなで、もうすぐ年越し。
みんなそろって、賑やかに年越しそばをいただいて…
除夜の鐘を全部数え終わる頃には、久遠をはじめ、何人かは既に夢の中。
行く年来る年
一年を顧みて厳かな心境となり、
新しい年を思って晴れやかな気持ちを抱く。
皆様の来年が、実り多く素晴らしい年になりますように……。
そして、六千人感謝です!!
本当にありがとうございますm(_ _)m
*
1/1ページ