みんなでお出かけ〜八千人感謝〜
風の爽やかな初夏の週末。
五人の鬼たちと主人公s、今回はこちらの世界でお出かけします。
祢々斬、竜尊、無月の三人が交代でハンドルを握り、助手席には瑠璃が座る。
魁童、玖々廼馳、はるかの三人は、新作のスナック菓子を広げて、すでに盛り上がっている。
皆を乗せたワンボックスカーは、高速道路を降りると一路、新緑に包まれる山を目指して走った。
自然の中にたたずむ温泉つきの旅館が、今回の宿である。
部屋割りは……
恋人どうしは一緒に、という配慮から『祢々斬、瑠璃』『魁童、はるか』『あとの三人』の合計三部屋を予約してあった。
旅館に到着し荷物を下ろすと、祢々斬と瑠璃は同じ部屋に、あとの五人は何故か、まとまってひとつの部屋にぞろぞろと入って行った。
夕食までの時間は、それぞれ思い思いに楽しんだ。
はるかと瑠璃は、のんびり温泉へ。
魁童と玖々廼馳は、広い庭園の散策。
祢々斬、無月、竜尊の三人は、温泉を上がってから、お子様組に合流し、池の鯉にエサをやったりしていた。
日もだいぶ落ち、夕食の時間。
山の幸をふんだんに用いた、この宿自慢の料理に、皆そろって舌鼓を打った。
豪華な食事を満喫したあと、祢々斬は瑠璃と、あとのメンバーは五人で、それぞれ部屋に戻って行った。
談笑しながら窓の外の風景を眺める祢々斬と瑠璃。
「祢々斬と、こんなふうに過ごせるなんて……なんだか、夢みたい」
「瑠璃……」
祢々斬が、瑠璃の瞳を覗き込むように顔を近づける。
二人の唇が、まさに触れ合おうとした、その瞬間――
ドンドンドン
「おーい、祢々斬ー!!」
賑やかな叫び声と、扉をバンバンと叩く音が鳴り響く。
部屋のドアをノックする、なんて生やさしいもんじゃない。
「ちっ、あの声は魁童だな」
祢々斬が立ち上がって、ドアに向かう。
「そんなに思いっきり叩くな。壊れるぞ」
そう言いながら鍵を開けた途端……
枕を抱えたみんなが、なだれ込んできた。
先頭を切って入ってきた魁童に、言葉にこそ出さないが、祢々斬が抗議の視線を向ける。
ゆっくりと近づいてきた竜尊が、祢々斬の肩をポンとたたく。
「二人でお楽しみのところだったんじゃないか?魁童には、邪魔になるからやめとけって止めたんだが、どうしても全員で枕投げをするって聞かなくてな」
「んなっ!?俺のせいか?そもそもは、竜尊、おまえが言い出したんじゃねえか」
二人をなだめるように前に出た無月が、すまなそうに言う。
「瑠璃、祢々斬、すまないな。そなた達の邪魔になると止めたのだが、竜尊が二人の所に行こうと張り切っていたのだ」
続けて、はるかも枕に顔を半分隠しながら謝る。
「ごめんなさい、瑠璃さん……みんなで枕投げできる機会なんて、めったにないんだって竜尊が力説してて……」
「おいっ、おまえら!これは、魁童が……」
慌てる竜尊に、玖々廼馳がだめ押しの一言を放った。
「竜ちゃん、かっちゃんに責任をなすりつけるなんて……千代に栄えし鬼として、はずかしくないんですか?」
なんだか、収集がつかなくなってきた。
「はるかちゃん!」
「はい、なんでしょう?」
「枕投げは男の人たちに任せて、私たちは一緒におしゃべりしない?」
はるかが、枕を抱えたまま『なるほど』といった表情になる。
「確かに、枕投げでみんなと同等に戦うのは、か弱い私たちには不利ですよね」
瑠璃が、大きく頷いた。
「決まり!こうなったら、女の子どうし、夜通しガールズトークしよっ♪」
「いいですね!では、大急ぎで荷物を持ってきます」
はるかが鬼達に満面の笑みを向ける。
「さあさあ、殿方の皆さんには、お引き取りいただきましょうかね」
「ということで、いいかな?じゃあ、みんなゆっくり休んでね」
瑠璃の笑顔に、仕方なく鬼達は廊下に出た。
*
隣の二人部屋。
はるかが旅行バッグを抱えて出ていくのを見送ってから、ドカッと腰をおろした祢々斬と魁童。
運んできた自分の荷物に肘をつきながら、祢々斬が深いため息をもらす。
「魁童……ったくおまえって奴は……」
「は?」
「おまえらが部屋に押し掛けて来やがった時のことだっ!あの時、俺は瑠璃と……いや、やっぱりいい」
怒っても、最早仕方のないことだ、というあきらめの表情で、祢々斬が弱々しく首を振った。
魁童が、神妙な面持ちでつぶやく。
「何となく、想像ついちまったよ……そりゃ、悪いことしたな」
「いや、みんなで温泉に来たんだから、確かに、みんなで楽しむのが筋なのかもしれないな」
ひとまず自己完結してから、祢々斬が思い出したように言う。
「それはそうと、魁童…おまえはこれでよかったのか?」
「は?これって?なんのことだ??」
「部屋のことだ。おまえは、はるかと二人で泊まるはずだっただろ?」
「………なんだって?」
「俺と瑠璃、おまえとはるかが同じ部屋ってことで、わざわざ部屋を三つとったんじゃないか。まさか、知らなかったのか?」
「いや、夜まで、祢々斬と瑠璃姉を二人にしてやろうって話は聞いてたぞ。けど、寝るのは男と女で部屋を分けるって……」
「誰がそんなこと言った?」
「竜尊……って……あぁっ!!あいつかあ~っ!!」
「俺ら二人とも、してやられたな」
二人そろって、大きなため息をついた。
好きな相手と同じ部屋で過ごせないとはいえ、せっかくの温泉宿。
祢々斬と魁童は、もう一度温泉につかって、旅の疲れを癒してくることにした。
その後は、特にすることもなく、男同士テレビのバラエティ番組を見て時間をつぶしていた。
と、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「開いてるぞ」
「かっちゃん……まだ起きてますか?」
ドアを少し開けて、すき間から玖々廼馳がピョコンと顔を出した。
「おう、どうした?」
玖々廼馳に続いて無月が入ってきた。
「遅くにすまぬ。竜尊が、この部屋に来ていないかと探しに来たのだ」
「いや、いないぞ」「竜尊が、どうかしたのか?」
祢々斬が、二人の来客を交互に見やる。
「飲み物を買いにいくと部屋を出たまま、戻って来ぬのだ」
「近くのコンビニに行くって言ってました……」
「いつの話だ?」
祢々斬が、仲間をまとめるお頭の顔になる。
腕時計をちらっと見て、無月が答える。
「さっき瑠璃の部屋で解散してから、程なくのことであったゆえ……かれこれ、二時間はたっているであろう」
祢々斬と魁童が、顔を見合わせた。
「あいつの行きそうなとこって言ったら……」
「竜尊のやろう、俺様を謀りやがって……」
「行くぞ」
祢々斬が立ち上がって、皆を促した。
*
四人が向かった先は、先ほど全員が閉め出されたはずの女子部屋だった。
「……魁童、玖々廼馳、悪いが頼む」
祢々斬に背中を押され、二人がドアの前で息をのむ。
「さすがに、女人の部屋に我ら大人の男子が踏み込むわけにはいかぬからな」
そう言って、無月は祢々斬の隣に控えた。
玖々廼馳と顔を見合わせた魁童が、遠慮がちにドアをノックする。
ドアを叩き壊しそうだった先ほどとは、えらい違いである。
「は~い、どうぞ」
中から聞こえた瑠璃の声に、お子様組の二人がドアを開けた。
果たして――
そこには、はるか、瑠璃とともに、トランプに興じる竜尊の姿があった。
魁童が、竜尊に詰め寄る。
玖々廼馳も、その後ろに続く。
「おいっ、てめえ!どういうつもりだっ!?」
「竜ちゃん、コンビニに行ったんじゃなかったんですか?」
祢々斬、無月は、部屋の入り口に立ったまま、竜尊を睨み付ける。
「ん?買い物ついでに、お嬢さん方におやすみの挨拶をしてたところだ」
手持ちのトランプに目を向けたまま答える竜尊に、悪びれる様子はない。
「二時間も挨拶してるバカが、どこにいる!?」
祢々斬が怒りを含んだ声で言えば
「実際、目の前にいるではないか」
無月がため息混じりにつぶやく。
男達の会話を気にしつつも、はるかが竜尊の手から、一枚のカードを引き抜いた。
「むぎゃ~~~っ!!また私の負けですかああっ!!?」
ガックリと畳に突っ伏したはるかを、瑠璃が慰める。
「まあまあ、はるかちゃん。たまたまジョーカーに好かれちゃったんだよ」
「どうせ好かれるなら、もっと素敵な人にお願いしたいですよ……」
ババ抜きで最下位決定した、はるかのカードを、魁童が覗き込む。
畳に散らばったそれは、ジョーカーの他にも、やけにたくさん残っていた。
「はるか……おまえ、ジャンケンも弱いけど、トランプもからっきしなんだな」
「ええ、そうですよ、どうせ弱いんですよ私は……七並べも大貧民もババ抜きも……どうせ、私がダントツのビリですよっ」
不貞腐れているのか開き直っているのか、よく分からない態度である。
そんな彼女が、はっと気付いたように顔を上げた。
「そうだっ!魁童と玖々廼馳も、一緒にやろうよ!
祢々斬と無月も!……ふふふ、人数が多ければ、私の負ける確率が減るかもしれない……」
「トランプか、久しぶりだな。よっしゃ、やったるぜっ!」
腕まくりをしながら、魁童がはるかの隣に陣どった。
「僕がんばります……!はるかお姉ちゃんも、がんばってください……」
玖々廼馳も、反対隣に座った。
「おもしろそうだな。ぜひ我も仲間に入れてもらおう」
歩み寄ってきた無月が、竜尊の真正面に正座する。
真っ向勝負を挑むかのようだ。
「祢々斬はどうする?」
瑠璃の問いに、彼は首を横に振った。
「いや……俺は遠慮しておく。今夜は浴びるほど飲みたい気分なんでな」
ズカズカと竜尊に近寄った祢々斬は、酒の瓶や缶ビールが入ったコンビニの袋を、奪い取るように持ち上げた。
「……!おいっ、ちょっと待てよ」
立ち上がろうとした竜尊のシャツの裾を、お子様組の三人が、ガシッとつかんだ。
はるか「勝ち逃げなんて許しませんよっ」
魁童「俺は今、おまえをコテンパンにやっつけたい気分なんだ。まさか、抜けるとか言わねーよな?」
玖々廼馳「竜ちゃん、策士の腕の見せどころですよ?」
いよいよ激突、ババ抜き大会!
熱い火花と共に、今、真剣勝負の幕が切って落とされた……
顔を見合わせ微笑み合った祢々斬と瑠璃は、そっと皆の輪から離れると、隣の部屋で二人、甘い夜を過ごしましたとさ。
めでたしめでたし。
八千人のお客様のご訪問に、感謝をこめて(^з^)-☆
魁童の叫び「あーー!あいつら、いつの間に……!?ちくしょー、祢々斬ばっかり、ずりぃぞ!!(泣)」
*
五人の鬼たちと主人公s、今回はこちらの世界でお出かけします。
祢々斬、竜尊、無月の三人が交代でハンドルを握り、助手席には瑠璃が座る。
魁童、玖々廼馳、はるかの三人は、新作のスナック菓子を広げて、すでに盛り上がっている。
皆を乗せたワンボックスカーは、高速道路を降りると一路、新緑に包まれる山を目指して走った。
自然の中にたたずむ温泉つきの旅館が、今回の宿である。
部屋割りは……
恋人どうしは一緒に、という配慮から『祢々斬、瑠璃』『魁童、はるか』『あとの三人』の合計三部屋を予約してあった。
旅館に到着し荷物を下ろすと、祢々斬と瑠璃は同じ部屋に、あとの五人は何故か、まとまってひとつの部屋にぞろぞろと入って行った。
夕食までの時間は、それぞれ思い思いに楽しんだ。
はるかと瑠璃は、のんびり温泉へ。
魁童と玖々廼馳は、広い庭園の散策。
祢々斬、無月、竜尊の三人は、温泉を上がってから、お子様組に合流し、池の鯉にエサをやったりしていた。
日もだいぶ落ち、夕食の時間。
山の幸をふんだんに用いた、この宿自慢の料理に、皆そろって舌鼓を打った。
豪華な食事を満喫したあと、祢々斬は瑠璃と、あとのメンバーは五人で、それぞれ部屋に戻って行った。
談笑しながら窓の外の風景を眺める祢々斬と瑠璃。
「祢々斬と、こんなふうに過ごせるなんて……なんだか、夢みたい」
「瑠璃……」
祢々斬が、瑠璃の瞳を覗き込むように顔を近づける。
二人の唇が、まさに触れ合おうとした、その瞬間――
ドンドンドン
「おーい、祢々斬ー!!」
賑やかな叫び声と、扉をバンバンと叩く音が鳴り響く。
部屋のドアをノックする、なんて生やさしいもんじゃない。
「ちっ、あの声は魁童だな」
祢々斬が立ち上がって、ドアに向かう。
「そんなに思いっきり叩くな。壊れるぞ」
そう言いながら鍵を開けた途端……
枕を抱えたみんなが、なだれ込んできた。
先頭を切って入ってきた魁童に、言葉にこそ出さないが、祢々斬が抗議の視線を向ける。
ゆっくりと近づいてきた竜尊が、祢々斬の肩をポンとたたく。
「二人でお楽しみのところだったんじゃないか?魁童には、邪魔になるからやめとけって止めたんだが、どうしても全員で枕投げをするって聞かなくてな」
「んなっ!?俺のせいか?そもそもは、竜尊、おまえが言い出したんじゃねえか」
二人をなだめるように前に出た無月が、すまなそうに言う。
「瑠璃、祢々斬、すまないな。そなた達の邪魔になると止めたのだが、竜尊が二人の所に行こうと張り切っていたのだ」
続けて、はるかも枕に顔を半分隠しながら謝る。
「ごめんなさい、瑠璃さん……みんなで枕投げできる機会なんて、めったにないんだって竜尊が力説してて……」
「おいっ、おまえら!これは、魁童が……」
慌てる竜尊に、玖々廼馳がだめ押しの一言を放った。
「竜ちゃん、かっちゃんに責任をなすりつけるなんて……千代に栄えし鬼として、はずかしくないんですか?」
なんだか、収集がつかなくなってきた。
「はるかちゃん!」
「はい、なんでしょう?」
「枕投げは男の人たちに任せて、私たちは一緒におしゃべりしない?」
はるかが、枕を抱えたまま『なるほど』といった表情になる。
「確かに、枕投げでみんなと同等に戦うのは、か弱い私たちには不利ですよね」
瑠璃が、大きく頷いた。
「決まり!こうなったら、女の子どうし、夜通しガールズトークしよっ♪」
「いいですね!では、大急ぎで荷物を持ってきます」
はるかが鬼達に満面の笑みを向ける。
「さあさあ、殿方の皆さんには、お引き取りいただきましょうかね」
「ということで、いいかな?じゃあ、みんなゆっくり休んでね」
瑠璃の笑顔に、仕方なく鬼達は廊下に出た。
*
隣の二人部屋。
はるかが旅行バッグを抱えて出ていくのを見送ってから、ドカッと腰をおろした祢々斬と魁童。
運んできた自分の荷物に肘をつきながら、祢々斬が深いため息をもらす。
「魁童……ったくおまえって奴は……」
「は?」
「おまえらが部屋に押し掛けて来やがった時のことだっ!あの時、俺は瑠璃と……いや、やっぱりいい」
怒っても、最早仕方のないことだ、というあきらめの表情で、祢々斬が弱々しく首を振った。
魁童が、神妙な面持ちでつぶやく。
「何となく、想像ついちまったよ……そりゃ、悪いことしたな」
「いや、みんなで温泉に来たんだから、確かに、みんなで楽しむのが筋なのかもしれないな」
ひとまず自己完結してから、祢々斬が思い出したように言う。
「それはそうと、魁童…おまえはこれでよかったのか?」
「は?これって?なんのことだ??」
「部屋のことだ。おまえは、はるかと二人で泊まるはずだっただろ?」
「………なんだって?」
「俺と瑠璃、おまえとはるかが同じ部屋ってことで、わざわざ部屋を三つとったんじゃないか。まさか、知らなかったのか?」
「いや、夜まで、祢々斬と瑠璃姉を二人にしてやろうって話は聞いてたぞ。けど、寝るのは男と女で部屋を分けるって……」
「誰がそんなこと言った?」
「竜尊……って……あぁっ!!あいつかあ~っ!!」
「俺ら二人とも、してやられたな」
二人そろって、大きなため息をついた。
好きな相手と同じ部屋で過ごせないとはいえ、せっかくの温泉宿。
祢々斬と魁童は、もう一度温泉につかって、旅の疲れを癒してくることにした。
その後は、特にすることもなく、男同士テレビのバラエティ番組を見て時間をつぶしていた。
と、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「開いてるぞ」
「かっちゃん……まだ起きてますか?」
ドアを少し開けて、すき間から玖々廼馳がピョコンと顔を出した。
「おう、どうした?」
玖々廼馳に続いて無月が入ってきた。
「遅くにすまぬ。竜尊が、この部屋に来ていないかと探しに来たのだ」
「いや、いないぞ」「竜尊が、どうかしたのか?」
祢々斬が、二人の来客を交互に見やる。
「飲み物を買いにいくと部屋を出たまま、戻って来ぬのだ」
「近くのコンビニに行くって言ってました……」
「いつの話だ?」
祢々斬が、仲間をまとめるお頭の顔になる。
腕時計をちらっと見て、無月が答える。
「さっき瑠璃の部屋で解散してから、程なくのことであったゆえ……かれこれ、二時間はたっているであろう」
祢々斬と魁童が、顔を見合わせた。
「あいつの行きそうなとこって言ったら……」
「竜尊のやろう、俺様を謀りやがって……」
「行くぞ」
祢々斬が立ち上がって、皆を促した。
*
四人が向かった先は、先ほど全員が閉め出されたはずの女子部屋だった。
「……魁童、玖々廼馳、悪いが頼む」
祢々斬に背中を押され、二人がドアの前で息をのむ。
「さすがに、女人の部屋に我ら大人の男子が踏み込むわけにはいかぬからな」
そう言って、無月は祢々斬の隣に控えた。
玖々廼馳と顔を見合わせた魁童が、遠慮がちにドアをノックする。
ドアを叩き壊しそうだった先ほどとは、えらい違いである。
「は~い、どうぞ」
中から聞こえた瑠璃の声に、お子様組の二人がドアを開けた。
果たして――
そこには、はるか、瑠璃とともに、トランプに興じる竜尊の姿があった。
魁童が、竜尊に詰め寄る。
玖々廼馳も、その後ろに続く。
「おいっ、てめえ!どういうつもりだっ!?」
「竜ちゃん、コンビニに行ったんじゃなかったんですか?」
祢々斬、無月は、部屋の入り口に立ったまま、竜尊を睨み付ける。
「ん?買い物ついでに、お嬢さん方におやすみの挨拶をしてたところだ」
手持ちのトランプに目を向けたまま答える竜尊に、悪びれる様子はない。
「二時間も挨拶してるバカが、どこにいる!?」
祢々斬が怒りを含んだ声で言えば
「実際、目の前にいるではないか」
無月がため息混じりにつぶやく。
男達の会話を気にしつつも、はるかが竜尊の手から、一枚のカードを引き抜いた。
「むぎゃ~~~っ!!また私の負けですかああっ!!?」
ガックリと畳に突っ伏したはるかを、瑠璃が慰める。
「まあまあ、はるかちゃん。たまたまジョーカーに好かれちゃったんだよ」
「どうせ好かれるなら、もっと素敵な人にお願いしたいですよ……」
ババ抜きで最下位決定した、はるかのカードを、魁童が覗き込む。
畳に散らばったそれは、ジョーカーの他にも、やけにたくさん残っていた。
「はるか……おまえ、ジャンケンも弱いけど、トランプもからっきしなんだな」
「ええ、そうですよ、どうせ弱いんですよ私は……七並べも大貧民もババ抜きも……どうせ、私がダントツのビリですよっ」
不貞腐れているのか開き直っているのか、よく分からない態度である。
そんな彼女が、はっと気付いたように顔を上げた。
「そうだっ!魁童と玖々廼馳も、一緒にやろうよ!
祢々斬と無月も!……ふふふ、人数が多ければ、私の負ける確率が減るかもしれない……」
「トランプか、久しぶりだな。よっしゃ、やったるぜっ!」
腕まくりをしながら、魁童がはるかの隣に陣どった。
「僕がんばります……!はるかお姉ちゃんも、がんばってください……」
玖々廼馳も、反対隣に座った。
「おもしろそうだな。ぜひ我も仲間に入れてもらおう」
歩み寄ってきた無月が、竜尊の真正面に正座する。
真っ向勝負を挑むかのようだ。
「祢々斬はどうする?」
瑠璃の問いに、彼は首を横に振った。
「いや……俺は遠慮しておく。今夜は浴びるほど飲みたい気分なんでな」
ズカズカと竜尊に近寄った祢々斬は、酒の瓶や缶ビールが入ったコンビニの袋を、奪い取るように持ち上げた。
「……!おいっ、ちょっと待てよ」
立ち上がろうとした竜尊のシャツの裾を、お子様組の三人が、ガシッとつかんだ。
はるか「勝ち逃げなんて許しませんよっ」
魁童「俺は今、おまえをコテンパンにやっつけたい気分なんだ。まさか、抜けるとか言わねーよな?」
玖々廼馳「竜ちゃん、策士の腕の見せどころですよ?」
いよいよ激突、ババ抜き大会!
熱い火花と共に、今、真剣勝負の幕が切って落とされた……
顔を見合わせ微笑み合った祢々斬と瑠璃は、そっと皆の輪から離れると、隣の部屋で二人、甘い夜を過ごしましたとさ。
めでたしめでたし。
八千人のお客様のご訪問に、感謝をこめて(^з^)-☆
魁童の叫び「あーー!あいつら、いつの間に……!?ちくしょー、祢々斬ばっかり、ずりぃぞ!!(泣)」
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