残暑お見舞い~九千人感謝~

今回も、こちらの世界で。

五人の鬼と主人公s、そろって浴衣に身を包み、繰り出してきました街の納涼祭。
駅前の通りを歩行者天国にしての、けっこう大規模なイベント。
たくさんの夜店が建ち並び、夕涼みがてらやってきた大勢の人で賑わっています。


まずは全員で、商店街主催の飲み食い処『まちかど広場』へ。
その後、二手に別れて行動することに。


大人組の面々~祢々斬、無月、竜尊、瑠璃~は、乾杯の後、腰を落ち着けてくつろいでいる。

お子様組~魁童、玖々廼馳、はるか~の三人は、色とりどりのかき氷をたいらげるが早いか、いろんな露店を回りに出かけて行った。

 * * *

「「九千人目のお客様に乾杯~!」」


祢々斬、竜尊、瑠璃はビールで満たされたプラスチックカップ、無月はウーロン茶の注がれた紙コップを手にしている。

「また来年も、こうやってみんなで乾杯出来るといいね」

半分ほどに中身の減ったカップを、両手で包みながら瑠璃が言う。

「大丈夫さ。俺たちのことを思ってくれるお嬢さん方が存在する限り、この世界は無くならない」

薄い笑みを浮かべながら竜尊が答える。

続けて祢々斬が、まっすぐ瑠璃を見つめる。

「いつか別々の道を歩むことになっても、今を共に過ごせていることに変わりはないからな」

「うん……なんだか、しんみりした話題になっちゃったね」

そう言って、瑠璃はビールを口に運ぶ。

その時、妙にテンションの高い声が響いた。

「せっかくの祭り、せっかくの祝い。パア~ッといこうではないか」

「無月!?」

明らかにいつもと違う無月に、瑠璃は目を丸くする。

「我は、そなたさえそばにいてくれれば、それでよい」

突然無月が、カップを持つ瑠璃の手に、自分の手を重ねた。

「ちょっ……?ちょっと、無月、どうしたの!?」

アルコールは飲んでいないはずなのに、無月の顔はほんのり赤い。

よく見ると、彼の前にあるのはビールのカップではないか!
しかも、空になったカップが、いくつか重ねられて端の方に置かれている。

「竜尊!?」「おまえかっ!?」

瑠璃と祢々斬の叫びが重なった。

竜尊は悪びれる様子もなく、愉快そうに笑う。

「無月だって、たまにはハメをはずさなくちゃな?」

「……おまえが責任もって、無月をかついで帰れよ」

そう言うと祢々斬は、何事もなかったかのように、自分のビールを飲みほした。

 * * *

さてさて、こちらはお子様組。


「魁童、ちょっと待ってよ」

「あ?今度はなんだ?」

「りんご飴!りんご飴買わなきゃ」

言いながら、はるかの顔はすでにりんご飴の屋台をのぞき込んでいる。

「たい焼きとたこ焼きと焼きとうもろこし買ったばっかじゃねえか」

呆れ顔で戻ってくる魁童を眺めながら、はるかの隣で玖々廼馳が言う。

「お姉ちゃんが楽しんでくれてて、僕も嬉しいです」

「あ、玖々廼馳、わかってくれる?やっぱり、お祭りに来たら、りんご飴ははずせないよね」

「はい!」


念願のりんご飴を手にして屋台を後にしながら、はるかが満足そうに笑う。

「りんご飴に……たい焼き、たこ焼き、焼きとうもろこし……え~っと、それから…」

玖々廼馳が続ける。

「それから……飴細工、じゃがバター、チョコバナナ、焼きそば……最近見かけるようになった、肉巻きおにぎりも美味しそうですよ」

黙って聞いていた魁童が、大きなため息を吐く。

「ぜ~んぶ、食い物じゃねぇか」

「いいじゃない!お祭りじゃなきゃ、食べられないんだから!」

はるかが頬をふくらませる。

「花より団子か、ま、おまえらしいな」

声をたてて笑う魁童に、はるかが抗議の視線を向ける。

「じゃあ、かっちゃんは、どの屋台に行きたいんですか?」

玖々廼馳の問いかけに、魁童が辺りを見回す。

「そりゃ……」

じっと見つめている二人に向かって、魁童がニカッと笑う。

「納涼祭といえば、金魚すくいにヨーヨー釣り、射的だろ?」

「魁童ってば、私のこと呆れたみたいに言ってくれたくせに、自分だってお子様じゃな~い?」

「は?なんだと?」

あわや険悪な雰囲気……!?
と、玖々廼馳のひとことが絶妙なタイミングで発せられた。

「お姉ちゃん、あそこに綿菓子屋さんがあります!」

「え、ほんと!?」

即座に、はるかが満面の笑みを浮かべる。

「ほらほら、魁童!金魚やヨーヨーもいいけどさ、まずは綿菓子綿菓子!瑠璃さんの分も買ってくから、一緒に来てよ」

「……しょうがねぇなあ」

はるかに背中をグイグイと押され、仕方なく従う魁童。

彼の頬がちょっぴり赤いことに、はるかはまったく気づいていないけれど。

*

やがて、人の流れが、駅前通りから北に入った川の方に向かい始めた。

「あ、そろそろ花火の時間かな。魁童~今何時?」

「ん?……もうじき八時になるな」

はるかのお持ち帰り分の食べ物を、彼女持参のエコバッグに詰め込んで荷物持ちをしている魁童が、腕時計に目をやる。

「お姉ちゃん、竜ちゃんたちとの集合時間ですね」

「うん。橋に行けばいいんだよね」


三人は、露店で賑わう通りから、手筒花火の会場である川へと向かう。

やや離れた川上で披露される手筒花火を、橋の上から見物する趣向となっている。


歩きながら、商店街の一角に目をとめた魁童。

「わりい、先行っててくれ」

「かっちゃん、どうかしましたか?」

不思議そうに振り向く玖々廼馳に、魁童が踵を返しながら答える。

「すぐ追いつくから、大丈夫だ」

「じゃあ……瑠璃さんたち待ってるかもしれないから、私たちひと足先に行ってるね」

「ああ」

そう、はるかに返すと、魁童は人混みの中に姿を消した。



商店街から離れると、急に明かりが少ない夜の空気になった。

橋に差し掛かる手前で、ほどなく魁童が二人に追いついた。同時に、祢々斬と瑠璃が現れた。

「竜ちゃんは、どうしたんですか?」

玖々廼馳が、祢々斬と瑠璃の所に駆け寄った。

それを見送ってから、魁童がはるかの前に何かを差し出した。

「はるか、これやる」

「ん?なあに……わ、可愛いブレスレット」

「せっかく綺麗な格好してんのに、団子ばっかりじゃつまんねぇだろ?」

それだけ言うと、照れくさそうにサッと向きを変えて、祢々斬と玖々廼馳の方に歩き出す魁童。

彼と入れ替わるように、瑠璃が、はるかの傍に歩み寄った。

「はるかちゃん、それ……」

瑠璃が、自分の手首を顔の横に上げて見せた。

「あ、瑠璃さんと色違いのおそろいですね」

「角の手芸品屋さんでね、お店の前にテーブル出して、手作りの天然石ブレス売ってたの」

「そうなんですか、食べ物屋さんにばっかり目がいっちゃって、気がつきませんでした」

「ふふふ、はるかちゃんてば。魁童くんは、ちゃんと気がついたんだね」

「お恥ずかしいです……ところで、瑠璃さんのはローズクォーツですか?」

「うん。みんなと落ち合う前に、祢々斬が選んでくれたんだ」

「なんだか……その時の祢々斬の様子が、目に浮かびますよ。瑠璃さんの浴衣姿に、惚れ直しちゃったんじゃないですか?」

「それを言うなら、はるかちゃんでしょ?」

瑠璃が笑う。

「へ?」

何のことだかわかりかねる、という表情で首をかしげる、はるか。

そんな彼女の耳元に顔を寄せ、瑠璃はそっと耳打ちした。

『魁童くん、いつもと違うでしょ?ちょっと離れて、はるかちゃんのこと、まぶしそうに見てるもの』

「なっ……!?」

慌てて瑠璃を見た、はるかの顔は、みるみる赤くなっていく。

――せっかく綺麗な格好してんだから――

さっきの魁童の言葉が、鮮やかによみがえってくる。


「瑠璃!行くぞ」

「あ、祢々斬が呼んでるから、私あっちに行くね。はるかちゃん、魁童くんとごゆっくり」

小走りに瑠璃が向かう先には、祢々斬に加えて、竜尊に支えられた無月と、玖々廼馳の姿が見えた。

彼らの輪の中にいたはずの魁童は、苦虫をかみつぶしたような顔で、はるかに近づいてくる。

「花火、始まるぞ」

魁童は、はるかと目を合わせず、彼女の隣に立った。



吹き出す火の粉が柱となって勢いよく天に舞い上がり、人々から歓声があがる。

「魁童」

はるかは、荷物を持っていない方の魁童の手に、そっと触れた。

「!?」

驚いた魁童が顔を横に向けると、手筒花火の明かりに、彼女のほの赤い頬が照らし出された。

「魁童、ありがとう」

花火に視線を投げたまま、はるかがつぶやく。

「お、おぅ……」

吹き上げる光のシャワーに目を移した魁童が、自分の指先に触れている温かい手をギュッと握る。

驚いて一瞬体をこわばらせた後で、はるかは、魁童の肩にもたれかかった。



「あ!祢々斬、見て!」

「初々しいな、俺らが出会ったばっかりの頃を思い出す」

「ふふ、幸せになってほしいよね」

二人の後ろ姿を見ながら、祢々斬と瑠璃がコソコソ話をしながら微笑みをかわしていた。

寄り添う本人たちは、まったく気づかなかったけれど。



九千人のお客様に感謝をこめて…

*
1/1ページ