スイート♪ハロウィン
秋晴れの爽やかな日。
この時期、ちまたにはハロウィングッズがあふれている。
今日は、学校帰りに本屋さんへ寄ってみた。
かぼちゃプリンのレシピが載ってる本でもないかなあ~って、授業中に思い浮かんだら、いても立ってもいられなくなってしまったのだ。
行きつけの書店。
自動ドアが開き切らないうちに足を踏み入れ、広い店内をぐるりと見回す。
ん……?何だか見たことのある斜め後ろ姿…
あれは、魁童ではないですか?
よ~し……
「わっ」
「うわあっ!……っと……なんだ、はるかか。びっくりさせんなよな」
近くで本を整頓していた店員さんが、ちらっとこちらを見た。
二人で慌てて頭を下げる。
開いていた雑誌を棚に戻すと、魁童は、平積みの本の上に置いてあった数冊の本を手に取り、小脇に抱えた。
「んんん?なーんの本を買うのかなあ?」
私は、彼の抱えている本を覗き込んだ。
「っお、おいっ、やめろってば」
「………なあんだ、がっかり」
本の題名を確認して、私は大きく肩を落とした。
『物理学基礎の基礎』
『マンガでわかる物理学』
つまり、参考書の類いだった。
「はあ!?がっかりって……何がだよ?」
いぶかしげに私を眺める魁童。
「てっきり、『人に見られるのが恥ずかしい、若気のいたりの本』かと思って期待してたのに」
「ばあか!そんな本、わざわざ本屋で、しかも制服のままで買わねえだろ、普通」
間髪入れずに反論された。
彼の手がふさがってなければ、デコピンでもとんできそうな雰囲気だった。
「まったく……そんなこと考える思考回路の方がよっぽど恥ずかしいんじゃねえか?で、おまえは何の本を買うんだ?」
「あ!ちょっと……」
「なになに?……ハロウィンスイーツ特集……なんだ、料理の本か」
「そう、もうすぐハロウィンだからね。今年はかぼちゃプリンに挑戦するつもりなんだ」
「……食いてえな、かぼちゃプリン」
魁童の目が輝いている。
「ただで?」
「この参考書、ただで貸してやる」
「ブブー、残念でした。私、物理はとってないんだ」
「くそ~……ダメだって言われると、余計に食いたいな」
真面目な顔で唸る魁童に、私はすぐ妥協した。
作ったものを、美味しく食べてくれる誰かがいるってのは、ありがたいことだからね。
「明日、土曜講習の帰りに材料買って、試作してみるからさ……上手く出来たら、魁童んちに届けてあげるよ」
「ほんとか?」
「うん、私は嘘は言わないよ。まあ、楽しみにしてて」
私達は、それぞれ会計を済ませると、帰路についた。
翌日の夕方。
私は、ご近所さんの魁童宅を訪ねた。
「はい、これ……かぼちゃプリン。ハロウィン本番には、何かしらデコレーションしようと思うけど、今日はとりあえずプリン本体のみ」
「お、うまそうだな……こんなにたくさんもらっちまっていいのか?」
半透明のタッパーを横から透かして見ながら、魁童が声をひそめる。
「おうちの皆さんでどうぞ。あ、あとかぼちゃコロッケも作ったんだ、お夕飯の一品に加えてもらって」
「……おまえ、絶対いい嫁さんになるよな」
魁童が、さも感心したようにつぶやいた。
想像もしていなかった彼の台詞に、一瞬目を丸くしながらも、私は素直な気持ちを口にした。
「ふふ、ありがとう……でもね、私、結婚はしなくてもいいかなあ、って思ってるんだよ」
魁童が「?」という表情でこちらを見ている。
「だけど、もし、私をお嫁さんにもらってくれるって人がいたら……どうしようかな…」
私は足元に視線を落としてから続けた。
「その人のために、おいしいご飯を作って帰りを待つ……ってのもいいかもねえ」
「お……俺がもらってやるっ」
「……へ?」
「俺様が、おまえを嫁にもらってやるって言ってんだ」
「……ぷっ」
私は思わず吹き出してしまった。
怒られるかな……と身構えたが、笑われたことはスルーして、彼は頬をちょっぴり赤く染めた。
「そしたら……毎日うまいもん食わせてもらえるんだろ?」
「ああ、それは任せて!……って、ちょっとちょっと……魁童、食べ物優先で、そんなこと約束しちゃっていいのかな?」
「別に……食いもんにつられてる訳じゃねえよ」
「…………」
お互いに何と言っていいのかわからなくなる。
「じゃ……私、帰るね」
「あ、ああ……サンキュー、悪かったな」
挨拶もそこそこに、慌てて外に飛び出す。
人通りがないことを確認して、私は声を出さずに『きゃあ~』と叫びながら、熱くなった頬を両手でおさえた。
魁童ってば、直球すぎだよ……
でも、彼のそんなところも好きなんだけどね。
ハロウィンには、今日より美味しいかぼちゃプリンを作って、魁童のおうちに持って行こう。
そう決心して、私は家への道を歩いた。
*
この時期、ちまたにはハロウィングッズがあふれている。
今日は、学校帰りに本屋さんへ寄ってみた。
かぼちゃプリンのレシピが載ってる本でもないかなあ~って、授業中に思い浮かんだら、いても立ってもいられなくなってしまったのだ。
行きつけの書店。
自動ドアが開き切らないうちに足を踏み入れ、広い店内をぐるりと見回す。
ん……?何だか見たことのある斜め後ろ姿…
あれは、魁童ではないですか?
よ~し……
「わっ」
「うわあっ!……っと……なんだ、はるかか。びっくりさせんなよな」
近くで本を整頓していた店員さんが、ちらっとこちらを見た。
二人で慌てて頭を下げる。
開いていた雑誌を棚に戻すと、魁童は、平積みの本の上に置いてあった数冊の本を手に取り、小脇に抱えた。
「んんん?なーんの本を買うのかなあ?」
私は、彼の抱えている本を覗き込んだ。
「っお、おいっ、やめろってば」
「………なあんだ、がっかり」
本の題名を確認して、私は大きく肩を落とした。
『物理学基礎の基礎』
『マンガでわかる物理学』
つまり、参考書の類いだった。
「はあ!?がっかりって……何がだよ?」
いぶかしげに私を眺める魁童。
「てっきり、『人に見られるのが恥ずかしい、若気のいたりの本』かと思って期待してたのに」
「ばあか!そんな本、わざわざ本屋で、しかも制服のままで買わねえだろ、普通」
間髪入れずに反論された。
彼の手がふさがってなければ、デコピンでもとんできそうな雰囲気だった。
「まったく……そんなこと考える思考回路の方がよっぽど恥ずかしいんじゃねえか?で、おまえは何の本を買うんだ?」
「あ!ちょっと……」
「なになに?……ハロウィンスイーツ特集……なんだ、料理の本か」
「そう、もうすぐハロウィンだからね。今年はかぼちゃプリンに挑戦するつもりなんだ」
「……食いてえな、かぼちゃプリン」
魁童の目が輝いている。
「ただで?」
「この参考書、ただで貸してやる」
「ブブー、残念でした。私、物理はとってないんだ」
「くそ~……ダメだって言われると、余計に食いたいな」
真面目な顔で唸る魁童に、私はすぐ妥協した。
作ったものを、美味しく食べてくれる誰かがいるってのは、ありがたいことだからね。
「明日、土曜講習の帰りに材料買って、試作してみるからさ……上手く出来たら、魁童んちに届けてあげるよ」
「ほんとか?」
「うん、私は嘘は言わないよ。まあ、楽しみにしてて」
私達は、それぞれ会計を済ませると、帰路についた。
翌日の夕方。
私は、ご近所さんの魁童宅を訪ねた。
「はい、これ……かぼちゃプリン。ハロウィン本番には、何かしらデコレーションしようと思うけど、今日はとりあえずプリン本体のみ」
「お、うまそうだな……こんなにたくさんもらっちまっていいのか?」
半透明のタッパーを横から透かして見ながら、魁童が声をひそめる。
「おうちの皆さんでどうぞ。あ、あとかぼちゃコロッケも作ったんだ、お夕飯の一品に加えてもらって」
「……おまえ、絶対いい嫁さんになるよな」
魁童が、さも感心したようにつぶやいた。
想像もしていなかった彼の台詞に、一瞬目を丸くしながらも、私は素直な気持ちを口にした。
「ふふ、ありがとう……でもね、私、結婚はしなくてもいいかなあ、って思ってるんだよ」
魁童が「?」という表情でこちらを見ている。
「だけど、もし、私をお嫁さんにもらってくれるって人がいたら……どうしようかな…」
私は足元に視線を落としてから続けた。
「その人のために、おいしいご飯を作って帰りを待つ……ってのもいいかもねえ」
「お……俺がもらってやるっ」
「……へ?」
「俺様が、おまえを嫁にもらってやるって言ってんだ」
「……ぷっ」
私は思わず吹き出してしまった。
怒られるかな……と身構えたが、笑われたことはスルーして、彼は頬をちょっぴり赤く染めた。
「そしたら……毎日うまいもん食わせてもらえるんだろ?」
「ああ、それは任せて!……って、ちょっとちょっと……魁童、食べ物優先で、そんなこと約束しちゃっていいのかな?」
「別に……食いもんにつられてる訳じゃねえよ」
「…………」
お互いに何と言っていいのかわからなくなる。
「じゃ……私、帰るね」
「あ、ああ……サンキュー、悪かったな」
挨拶もそこそこに、慌てて外に飛び出す。
人通りがないことを確認して、私は声を出さずに『きゃあ~』と叫びながら、熱くなった頬を両手でおさえた。
魁童ってば、直球すぎだよ……
でも、彼のそんなところも好きなんだけどね。
ハロウィンには、今日より美味しいかぼちゃプリンを作って、魁童のおうちに持って行こう。
そう決心して、私は家への道を歩いた。
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