Cherry☆Kiss

今日のおやつは、頂き物のサクランボ。

縁側に並んで座り、甘酸っぱい果実を味わいながら、私と久遠はあることに挑戦していた。

「ぐぬう~難しいのじゃ」
「……できない……」

そう、『サクランボ』と言えば、『ヘタを舌で結んでみる』のが定番。

しかし、これがなかなか難しく、私達はまだ一度も満足に結べなかった。



「お!うまそうなもん食ってんじゃん……ん、おまえら、何しかめっ面してんだ?」

「魁童!……そうだ、魁童もやってみる?」

「へ?何をだ?」

「これじゃ……」
久遠が、ヘタをのせた舌をペロッと出してみせた。

「そうそう、サクランボのヘタをね、口の中で結ぶのに挑戦してるの」

「?それって……なんか意味があんのか?」

「意味というか……サクランボのヘタを舌で結ぶのがうまい人は、キスが上手なんだって」

「キス……?ああ、接吻のことか……って、接吻に上手も下手もあるのか?」

「ん~私もよくはわからないけど……まあ、何事も下手の烙印押されるよりは、上手な方がいいんじゃないかと……」

「ふうん……で、それ結ぶのそんなに難しいのか?おまえら二人そろって不器用なだけじゃないのか?」

「ば……ばかにするでない」

「そうだよ、魁童!……そんなに言うんなら、やってみなさいよ」

「そうじゃそうじゃ、思いきり不器用そうなお主にできたら、何でも言うことをきいてやるのじゃ」

「なにげに失礼なこと言ってねえか……?まあ、おもしろそうだからやってやるよ」

「お主にもできなかったら、わしらの言うことをきいてもらうからの……では、始めるのじゃ!」


久遠のかけ声で、三人無言でサクランボを口にした。




「ん、できたぞ」

「なんじゃと!」
「ふえぇ!?」

「こんなの、簡単だったぜ?」

「ぬおぉ~!わしらがこんなに苦労しても埒があかなかったものを…」

「うぅ~悔しぃ……」
私は往生際悪く、口の中をモゾモゾと動かし続ける。

「へへん、俺様の勝ちってことだな。子狐、目えつぶれ。いいって言うまで絶対開くなよ」

「むうぅ……仕方ないのじゃ」

久遠は目をつぶって向こうを向いた。

「んじゃ……」

魁童は私の頬に手を添えると、そっと口付けた……


いつもなら、チュッと軽く触れるだけのキスなのに、今日は……

魁童の舌が私の唇をこじ開けて入って来たかと思うと、口の中をまさぐる。
目をつぶらせてるとはいえ、久遠もいるのに……

身体中の力が抜けそうになった時、魁童はやっと口付けを終えた。



「…………ほらっ!」

得意げな顔で舌を出した魁童。
その舌には、結ばれたさくらんぼのヘタ。

(!!あ~!私の口の中にあったのを……)

「へっへ~ん、どうだ!?」

まるでいたずらっ子のように瞳を輝かせる魁童に、私は言葉が出なかった。

突然のディープなキスに、私はこんなにドキドキしてしまったのに……今だって、心臓がバクバクいってるのに……魁童ってば、自覚なし!?

何だか悔しい……
よし、ちょっと仕返ししちゃえ。


私は魁童の耳元に思いっきり唇を寄せ、ささやいた。

「魁童のばか、すっごく感じちゃったんだから」

「※!★○?¥☆……ぐっ……げほっげほっ、ごほーっっ」

魁童は思いきりむせながら飛びのき、庭に尻餅をついた。

「けほっけほっ……っいきなり変なこと言うんじゃねえ……ヘタ飲んじまったじゃねえか」

「ご……ごめん……大丈夫?」

「なんじゃなんじゃ?どうしたのじゃ!?」

「な……なんでもねえっ」

状況をのみこめない久遠に、魁童は素早く立ち上がると意地で平静を装う。

「むう……何だかよくわからぬが……わしは、残りのサクランボを食べるとするのじゃ」

「あ、私も食べる~。ね、魁童も一緒に食べない?」

咳き込み過ぎて涙目になっている魁童に、ニッコリ笑いかけてみる。

「お……おう……」

おずおずと私の隣に座る魁童の耳に、私はもう一度顔を近づけ、久遠には聞こえないように囁いた。

「今度は二人だけの時にしてね」

再び赤く染まった魁童の頬は、熟れたサクランボのようだった。

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