桜見舞い
本当なら今頃は、魁童と一緒に満開の桜の木の下で楽しい時間を過ごしていたはずなのに……
昨日やけに喉が痛むと思っていたら、今朝になって急に熱が上がり起き上がれなくなってしまった。
久遠に頼んで魁童に連絡してもらったけれど、前からお花見を楽しみにしていた魁童には、とっても申し訳ないことをしてしまった。
うつらうつらしながら、何だか疲れる夢を繰り返し見る。
熱のせいだと思うけれど……とりとめもないくせに、うなされそうな夢ばかり。
―――浅い眠りを続けていた私は、ひんやりとした心地よい感触を額に感じて目が覚めた。
「……魁童……?」
「よお。大丈夫か……?」
重い瞼を開けると、枕元には魁童の姿があった。
「……ごめんね……桜、見頃だったのに……」
「桜はいつだって見られるさ、それに……」
スラリと襖が開き、満開の桜の枝を生けた花瓶を抱えた久遠が入って来た。
「わあ……きれい」
「はは、そうだろ?」
ちょっぴり得意げに魁童が笑う。
「あ……でもな、桜の木にはちゃんと断ってきたからな。はるかの見舞いだから、枝を切らせてくれって」
魁童は、大胆なようでいて、こういう所はとても繊細だ。
「……うれしいよ……ありがとう、魁童」
身体を起こそうとする私を、魁童が肩を抱いて支えてくれる。
「子狐……今日はいろいろ面倒かけて悪かったな」
いきなり面と向かってお礼を言われ、久遠が目を丸くしている。
「お……お主のためではないのじゃ。はるかのためじゃからなっ」
「ああ、でもありがとうな」
魁童の素直な言葉に、明らかに照れながら久遠が答える。
「ふ……ふんっ!ゆっくりしていくといいのじゃ。その方がはるかの回復も、早くなりそうじゃからな」
「久遠、ごめんね……ありがとう」
「早くよくなるのじゃぞ?……魁童、はるかを頼むぞ」
「ああ……まかせろ」
久遠が部屋を出ると、魁童は、彼の額を私の額にくっつけた。
「けっこう熱があるんじゃねえか」
「……魁童、うつしちゃうといけないから……」
顔をそむけた私を、魁童はギュッと抱きしめる。
「はるかの風邪が俺にうつって、それでおまえがよくなるんなら、そんなにありがたいことはねえ」
「魁童……んっ」
ちょっぴり神妙な顔をした魁童は、私に深く口付ける。
そんなことしたら、本当に風邪うつっちゃうよ……
私の心配を見透かしたように、唇を離した魁童が笑う。
「もし俺が風邪ひいて寝込んだら、その時はおまえが付きっきりで看病してくれるんだろ?」
私は小さく頷いた。
「うん。もちろんだよ」
魁童はニカッと笑うと、私を布団に寝かせた。
「ほら、もう少し寝て早く治せ。こうしててやるから」
ちょっぴり頬を赤くしながら、魁童は私の手を握る。
「俺にとって一番大切なことはさ……はるかがいつも、笑っていてくれるってことだ」
「わかった。ありがとうね……」
握られた手から、魁童のぬくもりが伝わってきて安心したのか、私はすぐに眠りに落ちた。
さっきまでとは違い、心安らかな夢―――魁童と二人で桜を眺めている夢―――を見ながら。
きっと、魁童の暖かな気持ちとお見舞いの桜とが、いい夢を見せてくれたんだよね。
*
昨日やけに喉が痛むと思っていたら、今朝になって急に熱が上がり起き上がれなくなってしまった。
久遠に頼んで魁童に連絡してもらったけれど、前からお花見を楽しみにしていた魁童には、とっても申し訳ないことをしてしまった。
うつらうつらしながら、何だか疲れる夢を繰り返し見る。
熱のせいだと思うけれど……とりとめもないくせに、うなされそうな夢ばかり。
―――浅い眠りを続けていた私は、ひんやりとした心地よい感触を額に感じて目が覚めた。
「……魁童……?」
「よお。大丈夫か……?」
重い瞼を開けると、枕元には魁童の姿があった。
「……ごめんね……桜、見頃だったのに……」
「桜はいつだって見られるさ、それに……」
スラリと襖が開き、満開の桜の枝を生けた花瓶を抱えた久遠が入って来た。
「わあ……きれい」
「はは、そうだろ?」
ちょっぴり得意げに魁童が笑う。
「あ……でもな、桜の木にはちゃんと断ってきたからな。はるかの見舞いだから、枝を切らせてくれって」
魁童は、大胆なようでいて、こういう所はとても繊細だ。
「……うれしいよ……ありがとう、魁童」
身体を起こそうとする私を、魁童が肩を抱いて支えてくれる。
「子狐……今日はいろいろ面倒かけて悪かったな」
いきなり面と向かってお礼を言われ、久遠が目を丸くしている。
「お……お主のためではないのじゃ。はるかのためじゃからなっ」
「ああ、でもありがとうな」
魁童の素直な言葉に、明らかに照れながら久遠が答える。
「ふ……ふんっ!ゆっくりしていくといいのじゃ。その方がはるかの回復も、早くなりそうじゃからな」
「久遠、ごめんね……ありがとう」
「早くよくなるのじゃぞ?……魁童、はるかを頼むぞ」
「ああ……まかせろ」
久遠が部屋を出ると、魁童は、彼の額を私の額にくっつけた。
「けっこう熱があるんじゃねえか」
「……魁童、うつしちゃうといけないから……」
顔をそむけた私を、魁童はギュッと抱きしめる。
「はるかの風邪が俺にうつって、それでおまえがよくなるんなら、そんなにありがたいことはねえ」
「魁童……んっ」
ちょっぴり神妙な顔をした魁童は、私に深く口付ける。
そんなことしたら、本当に風邪うつっちゃうよ……
私の心配を見透かしたように、唇を離した魁童が笑う。
「もし俺が風邪ひいて寝込んだら、その時はおまえが付きっきりで看病してくれるんだろ?」
私は小さく頷いた。
「うん。もちろんだよ」
魁童はニカッと笑うと、私を布団に寝かせた。
「ほら、もう少し寝て早く治せ。こうしててやるから」
ちょっぴり頬を赤くしながら、魁童は私の手を握る。
「俺にとって一番大切なことはさ……はるかがいつも、笑っていてくれるってことだ」
「わかった。ありがとうね……」
握られた手から、魁童のぬくもりが伝わってきて安心したのか、私はすぐに眠りに落ちた。
さっきまでとは違い、心安らかな夢―――魁童と二人で桜を眺めている夢―――を見ながら。
きっと、魁童の暖かな気持ちとお見舞いの桜とが、いい夢を見せてくれたんだよね。
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