まいぶぅむ


暦の上ではもう春だというのに、まだまだ厳しい寒さが続いている。


風の強い日には、無月が人間だった時に暮らしていた家で

わりと暖かな日には蒼玉の湖のほとりの日溜まりで

私達が、今はまっていること

それは―――


「瑠璃、幅はこのくらいでよいか?」

「わあ~綺麗に編めてるね。さすが無月!」


そう、『編み物』だ。

寒い時期、コタツでぬくぬくしながら編み物をするのが好きだった私。

だから、先日自分の世界に出かけた時に、編み針やら色とりどりの大量の毛糸やらを持ち帰ってきたのだ。


お裁縫が得意なだけあって、無月はすぐに編み物をマスターしてしまった。

彼の手から器用に紡ぎ出されてゆくのは、私のマフラー。

お互い相手のためにマフラーを編んで、出来上がったら交換しよう、ということになっている。


「無月に使ってもらうんだ、って目標があった方が、楽しく編めるんだよね」

ちょっと休憩して、肩の凝りをほぐしながら、無月に声をかける。

彼は束の間手を止めると
「ああ。我も、この布がそなたを温め、彩るのが楽しみだ」
そう言って微笑んでくれた。


だいぶ日が長くなってきたとはいえ、夕刻になると、あっという間に風の冷たさが増す。

「久遠のお手伝いもしなくちゃいけないから、私そろそろ帰るね」

私は、広げていた道具をかごの中に片付けた。

「もうすぐ出来上がるから…今晩、がんばって仕上げちゃおうかな」

「では、我もそうしよう」

私の言葉に、無月が同意する。

無月の編んでいるものも、もう、かなりの長さになっている。
この分なら、余裕で今日中に完成するだろう。

私は、わくわくする胸をおさえながら言った。

「じゃあ、私明日も来るから…その時に交換しよう?」

「心して仕上げておこう」

無月は、いつもの優しい笑顔で返してくれた。



屋敷に戻ると、私はそのまま自分の部屋に向かった。

「なんじゃ、おぬしは!?やっと帰ってきたと思ったら、部屋に直行とは!少しは夕ご飯の支度を手伝っ……こりゃ!瑠璃っ!?」

「ごめんね、久遠。あとちょっとなの」

久遠のお手伝いをしなくちゃいけないのはわかってるんだけど…
今日は月讀さんもお留守で、きつくお説教される心配はないから…

「本当にごめん!今日だけだから」

そう叫んで、私は襖を閉めた。


部屋にとじ込もって最後の仕上げをする。

無月に贈る、手編みのマフラー。

我ながら、なかなか満足の出来栄えだ。

明日には、このマフラーは無月のものになるんだよね。


深夜。
大切な人への贈り物であるそれをたたんで枕元に置き、私は眠りについた。



翌日。

「無月、よく似合うよ」

「そなたの心がこもっているからな、暖かさもひとしおだ」

私が編んだ薄水色のマフラーが、無月の襟元を飾る。

「我からも、そなたに…」

無月がフワッと広げた藤色のマフラーが、私の肩にかけられる。

ん…?
マフラーにしては、ちょっと長すぎるような気がしないでもない……

そんなことを考えているうちに、私に巻かれた長すぎるマフラーの反対側は、無月の首に巻かれていった。

二人の距離が、一気に縮まる。

同じマフラーでつながれた、恋人どうし。

ちょっぴり照れくさい…

戸惑う私の気持ちを知ってか知らずか、無月がまっすぐに私を見つめる。

「こうすれば、より暖かいと思ってな」

至近距離でにっこりと微笑まれ、私の頬は熱くなる。

「ぅ…うん!すごくあったかいよ」

マフラーを鼻の辺りまで引っ張り上げて、赤いであろう顔を慌てて隠す。

「そうか、それはよかった」

気恥ずかしいけど…
嬉しいのも事実。

「ふふ、無月。これなら、どこに行くにも一緒だね」

彼の腕にしがみついたら、驚いて頬を染めながらも
「そうだな」
と頷いてくれた。



十日ほど後。

風が柔らかさを増して、春の足音が近づく蒼玉の湖。

今日も二人で編み物にいそしむ。

私達の、あたたかなマイブーム。
いや、二人だから『アワーブーム』かな。

いつまでも、こんな穏やかな時間が続きますように…

ぼんやりと無月の手元を眺めていたら、私の視線に気付いた彼は、問いかけるような笑みを投げかける。

応えるように、私も微笑み返す。

そんな繰り返しで

時折、目を上げて無月の顔を見つめながら、私は心をこめて編み針を動かす。

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