くろかみ。
─憂鬱だ。
ああ、今日も憂鬱だ。あいつは私を人として見ていないんだろう。私が一体何をしたというのだろう。ボロボロにされた鞄を見つめ、思う。
「…買ってもらったばかりだったのに」
思わず呟いた。悔しくて、悲しくて、辛すぎて涙も出ない。
ああ、なんであんな奴が生きてるんだろう、何故なんだろう。
そればかりが巡る、いつもの帰り道。
…でも今日は少し違う。噂話を聞いた。とても気になる噂話を。
「―あのね、復讐をしてくれる神様がいるんだよ、あの交差点の所の神社に。」
誰が言ったのか分からない。でも確かに聞いた。
耳に残った。渇望してた話を。
まさかいつも前を通っている神社にそんな神様がいるなんて知らなかった。小さい時に、縁結びの神様がいるって父親から聞いた記憶しかなかったのに。
そんな事を考えてる間に神社正面の信号あたりまで来た。赤信号だ。今日は長く感じる赤信号。
早くそっちに行きたい。
目を閉じ、深呼吸をし、鞄の紐を強く握る。
しばらくして車のエンジン音が聞こえ、前を向く。普段より広く大きく見える鳥居に向かって足を進める。
ドキドキと鼓動が早くなる。落ち着いて私。
自分に言い聞かせてみたが駄目で、鳥居の側で足を何かにぶつけてよろけてしまった。
「わっ…」
体勢を整える為、慌てて鳥居に手をついた。と同時に視界に人影が映る。
陽も沈みかけている時間。ぺったりと張り付けた様な笑顔でこちらをじっと見ている、異様に長い黒髪の女の子。真っ白いキャミソールに、少し見えるショートパンツ。そして裸足。
―その子が笑顔のまま淡々と言う。
「お願いはありますか?」
私は一瞬呼吸が止まった。─ああ、あれホントなんだ。理解した。何故だか分からないが、理解出来た。
そう感じて直ぐに口が動く。
「…わ、私、虐められてて。今日も買ってもらったばかりの鞄。あの、お母さんに買ってもらったんですけどっ…それをあいつ…あいつを!こっ、殺して下さい!」
ぐちゃぐちゃな感情のまま言った。
「あいつさえいなければ!私は──」
「はい。わかりました。因果応報です。」
私の言葉を続ける間を潰すように神様は言った。
―変わらず笑顔だった。私にはこの上ない救いの笑顔。私は涙がいっぱいだった、前が見えない程に。
「あ、ありがとうございま…」
涙を拭いながら感謝を口に出した時には神様は居なくなっていた。神様と話したのはほんの一瞬だった筈なのに、周りは真っ暗になっていた。私は暫くぼうっと鳥居を見つめた後に帰路についた。母に鞄を見せないように部屋に戻り、お風呂に入り、食事をし、ベッドに潜り込んだ。
─嬉しい。これで私は救われるんだ。また涙をいっぱいにして寝た。
そして翌朝。それは登校して直ぐに聞こえた。
「―ってコンビニあるじゃん?〇〇さんがさ、そのコンビニ前の道で車に轢かれたって!」
「身体ぐちゃぐちゃだったって!見たって先輩が言ってた!」
「マジ?!…うぇ…ヤバイじゃんそれ…」
皆がその話題でいっぱいになっていた。泣いている子やパニックになってる子も居た。
色んな声や音が聞こえる中、私は…私が高揚しているのを感じていた。
──やった、やった、やった。もう怖くないもう痛くないもう辛くない。ざまあみろ。
その後は終業まであまり記憶がない。先生が泣いてる子を慰めていたのだけは覚えている。校門を抜け、家路につく。
あいつはもう居ないんだと思うと脚が軽い。脚取りも自然と速くなって、にやけてしまう。
地面を向いて口を押さえる。声を出して笑いたいが我慢しなければ。もうすぐ交差点、ちゃんと前を向いて歩こうと思った矢先。
―視界に足が見えた。…裸足だ。ゆっくりと顔を上げた。
そこにはぺったりと張り付けた笑顔の女の子。異様に長い黒髪の女の子がそこにいた。
また呼吸が止まった。でも、あの時とは違う気がした。何故だろうか、今度は分かりたくない。理解したくない。けれど、お礼を言わなきゃと思った。かみさまだから、お礼を。
「…あり―」
「〇〇さんに」
かみさまが言う。私の言葉を掻き消しながら。鼓動が早くなる。この先を聞きたくない。
「貴女が殺してくれとお願いした、と伝えました。そうしたら貴女を殺してくれとお願いされたので」
かみさまが続ける。淡々と。視界にチカチカと赤いランプが見える。
「殺しますね。」
張り付けた笑顔のまま──
ドンッ。鈍い音、誰かの悲鳴。
聞こえるかみさまの声。
「ね、因果応報です。」
ああ、今日も憂鬱だ。あいつは私を人として見ていないんだろう。私が一体何をしたというのだろう。ボロボロにされた鞄を見つめ、思う。
「…買ってもらったばかりだったのに」
思わず呟いた。悔しくて、悲しくて、辛すぎて涙も出ない。
ああ、なんであんな奴が生きてるんだろう、何故なんだろう。
そればかりが巡る、いつもの帰り道。
…でも今日は少し違う。噂話を聞いた。とても気になる噂話を。
「―あのね、復讐をしてくれる神様がいるんだよ、あの交差点の所の神社に。」
誰が言ったのか分からない。でも確かに聞いた。
耳に残った。渇望してた話を。
まさかいつも前を通っている神社にそんな神様がいるなんて知らなかった。小さい時に、縁結びの神様がいるって父親から聞いた記憶しかなかったのに。
そんな事を考えてる間に神社正面の信号あたりまで来た。赤信号だ。今日は長く感じる赤信号。
早くそっちに行きたい。
目を閉じ、深呼吸をし、鞄の紐を強く握る。
しばらくして車のエンジン音が聞こえ、前を向く。普段より広く大きく見える鳥居に向かって足を進める。
ドキドキと鼓動が早くなる。落ち着いて私。
自分に言い聞かせてみたが駄目で、鳥居の側で足を何かにぶつけてよろけてしまった。
「わっ…」
体勢を整える為、慌てて鳥居に手をついた。と同時に視界に人影が映る。
陽も沈みかけている時間。ぺったりと張り付けた様な笑顔でこちらをじっと見ている、異様に長い黒髪の女の子。真っ白いキャミソールに、少し見えるショートパンツ。そして裸足。
―その子が笑顔のまま淡々と言う。
「お願いはありますか?」
私は一瞬呼吸が止まった。─ああ、あれホントなんだ。理解した。何故だか分からないが、理解出来た。
そう感じて直ぐに口が動く。
「…わ、私、虐められてて。今日も買ってもらったばかりの鞄。あの、お母さんに買ってもらったんですけどっ…それをあいつ…あいつを!こっ、殺して下さい!」
ぐちゃぐちゃな感情のまま言った。
「あいつさえいなければ!私は──」
「はい。わかりました。因果応報です。」
私の言葉を続ける間を潰すように神様は言った。
―変わらず笑顔だった。私にはこの上ない救いの笑顔。私は涙がいっぱいだった、前が見えない程に。
「あ、ありがとうございま…」
涙を拭いながら感謝を口に出した時には神様は居なくなっていた。神様と話したのはほんの一瞬だった筈なのに、周りは真っ暗になっていた。私は暫くぼうっと鳥居を見つめた後に帰路についた。母に鞄を見せないように部屋に戻り、お風呂に入り、食事をし、ベッドに潜り込んだ。
─嬉しい。これで私は救われるんだ。また涙をいっぱいにして寝た。
そして翌朝。それは登校して直ぐに聞こえた。
「―ってコンビニあるじゃん?〇〇さんがさ、そのコンビニ前の道で車に轢かれたって!」
「身体ぐちゃぐちゃだったって!見たって先輩が言ってた!」
「マジ?!…うぇ…ヤバイじゃんそれ…」
皆がその話題でいっぱいになっていた。泣いている子やパニックになってる子も居た。
色んな声や音が聞こえる中、私は…私が高揚しているのを感じていた。
──やった、やった、やった。もう怖くないもう痛くないもう辛くない。ざまあみろ。
その後は終業まであまり記憶がない。先生が泣いてる子を慰めていたのだけは覚えている。校門を抜け、家路につく。
あいつはもう居ないんだと思うと脚が軽い。脚取りも自然と速くなって、にやけてしまう。
地面を向いて口を押さえる。声を出して笑いたいが我慢しなければ。もうすぐ交差点、ちゃんと前を向いて歩こうと思った矢先。
―視界に足が見えた。…裸足だ。ゆっくりと顔を上げた。
そこにはぺったりと張り付けた笑顔の女の子。異様に長い黒髪の女の子がそこにいた。
また呼吸が止まった。でも、あの時とは違う気がした。何故だろうか、今度は分かりたくない。理解したくない。けれど、お礼を言わなきゃと思った。かみさまだから、お礼を。
「…あり―」
「〇〇さんに」
かみさまが言う。私の言葉を掻き消しながら。鼓動が早くなる。この先を聞きたくない。
「貴女が殺してくれとお願いした、と伝えました。そうしたら貴女を殺してくれとお願いされたので」
かみさまが続ける。淡々と。視界にチカチカと赤いランプが見える。
「殺しますね。」
張り付けた笑顔のまま──
ドンッ。鈍い音、誰かの悲鳴。
聞こえるかみさまの声。
「ね、因果応報です。」
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