【善法寺伊作前提】忍び怪談
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【第三夜】
(今夜も保健室にやってきたあなた。
相変わらず隈を作った目で伊作を睨むと、彼は薬草を揉みながら苦笑いで返した)
こんばんわ。
夕べは“安心”して眠れた?
ごめんよ、そんなに怒らないで。
でも、前のお話の女の子もきっと、安心したんだろうね?
怖い思いをして、助けて欲しくて、頑張って…
竹谷くんの顔を見て、安心して笑ったんだろうね?
竹谷くんも久々知くんと話して安心したんだろうね…
誰も悪くないのに“安心”するって怖いことだよね。
君は夜中に血まみれの人が窓に張り付いていたらどうする?
ふふ、そうだよね。普通は怖くて逃げちゃうよね。
昨日のお話は、幽霊は出て来ないけどすっごく怖いお話しだったから、今日はちょっと切ないお話を聞かせてあげるね?
これは二年生のちょっと意地悪な男の子が体験したお話しです…
【虫の知らせ】
俺には大好きなの祖母が居た。
祖母は賢明で、優しく、とても芸の立つ人で良く舞を見せてくれたりした。
昔はとても綺麗な人だったと聞かされていたもんだから「僕はおばぁちゃん見たいな人と結婚するんだ!」なんて…そんな恥ずかしい事も言ったもんだ。
まぁ、余り認めたくはないけど俗に言うおばぁちゃん子だった俺は、とんでもない甘ったれで…虐められっ子だった…
なんだよ…なんか文句あるか?
んで、その上泣き虫でよく泣かされては祖母に泣き付いていた。
そんな時に祖母が言うセリフはいつも決まっていて…
「ろじちゃん、男の子はね、泣かないの…
悔しかったらね、その分 沢山努力しなさい?
泣いてる暇があったら沢山勉強して、ケンカもして、そして一番になって見返してやりなさい??」
強く諭す祖母の眼は、今でも鮮明に俺の記憶に残っている。
優しさの中に厳しさを交えて、祖母は沢山の事を俺に教えてくれた。
そんな祖母が亡くなったのは俺がまだ学校に入学する前の事だった。
その年は冬が開けるのが遅く、春になると言うのにまだまだ寒い夜だった。
余りの寒さに目を覚ますと、寒いはずだ・・・見ると戸が開いていたのだ。
しかし不思議な事に、戸の向こうの庭に人が立って居るのが見えた。
一瞬ギョッとしたが、それが祖母だとわかって俺はのろのろと起き出し、そして鞋をはいて庭に出る。
真っ暗なはずの庭なのに不思議と祖母だけは暗闇のなかでもはっきりと見えた。
「おばぁちゃん…こんな夜中にどうしたの?」
見れば、祖母はとても綺麗な着物を着込み、大量の荷物や花を抱えて居た。
しかし、俺が話し掛けてもただニコニコと微笑むだけで一向に口を開いてくれない祖母。
「すっごい綺麗な着物着て…今日は何かあったっけ?」
微笑むだけの祖母。
「……?荷物重くない?僕持とうか!」
少し困った顔をして、尚も微笑む。
変だとは思いながら祖母に近付こうと足を動かすが、どうもおかしい事に目の前に居るはずの祖母となかなか距離が縮まらないのだ。
だんだん不安が大きくなった俺はとうとう泣き出してしまい、息が上がるくらい全力で走った。
「おばぁっ…ちゃん!おばぁちゃん!!
ハァッハァッ…っ…おばぁちゃん!!!」
それでも縮まら距離に疲れて地面にへたりこんで泣いていると、フワッと…何か暖かいものが頭を撫でた。
慌てて顔をあげると微笑む祖母が俺の頭を撫でて何か言った。
音を発しないその言葉。
しかし俺はちゃんとわかった。
『ろじちゃん、泣かないの』
だって、おばぁちゃんがその眼をする時はいつもそう言うのだから。
「うん、僕…なかないよ…」
その言葉を聞くと祖母はニッコリ笑って雪のちらつく冬の空に消えた。
ちん とん しゃん…
聞き慣れた三味線の音と共に一瞬だけとても綺麗な若い芸者さんが見えた。
その翌朝、庭に居たはずの俺はいつの間にか自室の布団の中に居た。
戸も閉まっていて、泣いている母を見て状況を確認していた。
祖母が亡くなったのだ。
布団の中で眠るように亡くなって居たのだと言う。
発見当初、祖母は舞踊用の着物など着て居なかった。
しかし葬儀の日、柩の中の祖母は夢に出て来た着物を着ていた。
持っていた荷物もみんなそっくりそのままで、よくある話し…きっとこれが“虫の知らせ”と言うやつだったのだろう。
祖母は、逝く前に最後のあいさつに来てくれていたのだ。
それを理解して、棺の前で一晩中泣き明かした。
祖母との約束。泣くのは、これが最後・・・
それから俺は泣かなくなって、勉強だって運動だって町で一番になった。
これが俺の人生の大きな分岐点だったのだと思う。
そして…
「君…忍者にならぬか?」
忍者の学び舎の創立者から声をかけられたのは、それから直ぐの事だった。
俺は今、特待生二学年い組として忍びの勉強をしている…
「あ!池田三郎次だ!!
さっきの落とし穴はあんただったんだな!!」
あ~うるさいのが来た…
左から乱、きり、しん。
あんな単純な落とし穴に引っ掛かるなんて…
「これだからアホの一年は組は…
悔しかったらやり返してみろよチビっ子共」
そうだ…悔しかったらやり返してみろよ。
これから先の道は忍びの道。“悔しかった”では済まないのだから…
2年い組
池田三郎次
(今夜も保健室にやってきたあなた。
相変わらず隈を作った目で伊作を睨むと、彼は薬草を揉みながら苦笑いで返した)
こんばんわ。
夕べは“安心”して眠れた?
ごめんよ、そんなに怒らないで。
でも、前のお話の女の子もきっと、安心したんだろうね?
怖い思いをして、助けて欲しくて、頑張って…
竹谷くんの顔を見て、安心して笑ったんだろうね?
竹谷くんも久々知くんと話して安心したんだろうね…
誰も悪くないのに“安心”するって怖いことだよね。
君は夜中に血まみれの人が窓に張り付いていたらどうする?
ふふ、そうだよね。普通は怖くて逃げちゃうよね。
昨日のお話は、幽霊は出て来ないけどすっごく怖いお話しだったから、今日はちょっと切ないお話を聞かせてあげるね?
これは二年生のちょっと意地悪な男の子が体験したお話しです…
【虫の知らせ】
俺には大好きなの祖母が居た。
祖母は賢明で、優しく、とても芸の立つ人で良く舞を見せてくれたりした。
昔はとても綺麗な人だったと聞かされていたもんだから「僕はおばぁちゃん見たいな人と結婚するんだ!」なんて…そんな恥ずかしい事も言ったもんだ。
まぁ、余り認めたくはないけど俗に言うおばぁちゃん子だった俺は、とんでもない甘ったれで…虐められっ子だった…
なんだよ…なんか文句あるか?
んで、その上泣き虫でよく泣かされては祖母に泣き付いていた。
そんな時に祖母が言うセリフはいつも決まっていて…
「ろじちゃん、男の子はね、泣かないの…
悔しかったらね、その分 沢山努力しなさい?
泣いてる暇があったら沢山勉強して、ケンカもして、そして一番になって見返してやりなさい??」
強く諭す祖母の眼は、今でも鮮明に俺の記憶に残っている。
優しさの中に厳しさを交えて、祖母は沢山の事を俺に教えてくれた。
そんな祖母が亡くなったのは俺がまだ学校に入学する前の事だった。
その年は冬が開けるのが遅く、春になると言うのにまだまだ寒い夜だった。
余りの寒さに目を覚ますと、寒いはずだ・・・見ると戸が開いていたのだ。
しかし不思議な事に、戸の向こうの庭に人が立って居るのが見えた。
一瞬ギョッとしたが、それが祖母だとわかって俺はのろのろと起き出し、そして鞋をはいて庭に出る。
真っ暗なはずの庭なのに不思議と祖母だけは暗闇のなかでもはっきりと見えた。
「おばぁちゃん…こんな夜中にどうしたの?」
見れば、祖母はとても綺麗な着物を着込み、大量の荷物や花を抱えて居た。
しかし、俺が話し掛けてもただニコニコと微笑むだけで一向に口を開いてくれない祖母。
「すっごい綺麗な着物着て…今日は何かあったっけ?」
微笑むだけの祖母。
「……?荷物重くない?僕持とうか!」
少し困った顔をして、尚も微笑む。
変だとは思いながら祖母に近付こうと足を動かすが、どうもおかしい事に目の前に居るはずの祖母となかなか距離が縮まらないのだ。
だんだん不安が大きくなった俺はとうとう泣き出してしまい、息が上がるくらい全力で走った。
「おばぁっ…ちゃん!おばぁちゃん!!
ハァッハァッ…っ…おばぁちゃん!!!」
それでも縮まら距離に疲れて地面にへたりこんで泣いていると、フワッと…何か暖かいものが頭を撫でた。
慌てて顔をあげると微笑む祖母が俺の頭を撫でて何か言った。
音を発しないその言葉。
しかし俺はちゃんとわかった。
『ろじちゃん、泣かないの』
だって、おばぁちゃんがその眼をする時はいつもそう言うのだから。
「うん、僕…なかないよ…」
その言葉を聞くと祖母はニッコリ笑って雪のちらつく冬の空に消えた。
ちん とん しゃん…
聞き慣れた三味線の音と共に一瞬だけとても綺麗な若い芸者さんが見えた。
その翌朝、庭に居たはずの俺はいつの間にか自室の布団の中に居た。
戸も閉まっていて、泣いている母を見て状況を確認していた。
祖母が亡くなったのだ。
布団の中で眠るように亡くなって居たのだと言う。
発見当初、祖母は舞踊用の着物など着て居なかった。
しかし葬儀の日、柩の中の祖母は夢に出て来た着物を着ていた。
持っていた荷物もみんなそっくりそのままで、よくある話し…きっとこれが“虫の知らせ”と言うやつだったのだろう。
祖母は、逝く前に最後のあいさつに来てくれていたのだ。
それを理解して、棺の前で一晩中泣き明かした。
祖母との約束。泣くのは、これが最後・・・
それから俺は泣かなくなって、勉強だって運動だって町で一番になった。
これが俺の人生の大きな分岐点だったのだと思う。
そして…
「君…忍者にならぬか?」
忍者の学び舎の創立者から声をかけられたのは、それから直ぐの事だった。
俺は今、特待生二学年い組として忍びの勉強をしている…
「あ!池田三郎次だ!!
さっきの落とし穴はあんただったんだな!!」
あ~うるさいのが来た…
左から乱、きり、しん。
あんな単純な落とし穴に引っ掛かるなんて…
「これだからアホの一年は組は…
悔しかったらやり返してみろよチビっ子共」
そうだ…悔しかったらやり返してみろよ。
これから先の道は忍びの道。“悔しかった”では済まないのだから…
2年い組
池田三郎次