-
-
そして始まった反撃準備
-
~これは、地球が迎えるであろうもう一つの物語~
-
収容エリアS区にて。
-
松山 なつき
「蘭香さん」
-
桜橋 蘭香
「お、どうしたの?」
-
3か月も経てば様子見をしていても、もうすっかり打ち解けてしまうものだ。
-
桜橋母娘がセーフであるという意味の収容区域に移動したその翌月、その知らせはやって来た。
-
遊理が学校へ行ったタイミングで隊員が紙を渡す。
-
松山 なつき
「桜橋さん達のDNA鑑定終わりました……時間かかりましたよ……全く……」
-
桜橋 蘭香
「ごめんね、こうでもしないと私も色々分かんないからさ」
-
以前倒されミンチと化した東山の血肉と桜橋母娘の血液を取ってDNA鑑定を蘭香から直々に依頼され、それについての報告だった。
-
結果、桜橋母娘と東山備中にはしっかりと血縁が確認された。
-
しかし……。
-
松山 なつき
「……これ、どれも地球上に存在しないDNAデータなんですよ。なんか色々化けてデータ見れなくて、エラー吐きまくって。遊理ちゃんを通して3人が血縁である事がやっとかっと分かるくらいで」
-
桜橋 蘭香
「まーしょうがないよね、一応これでも私達は別の星で生まれた生命体だから……」
-
苦笑いでデータを眺める蘭香に、誰もが抱えているであろう疑問を松山なつき隊員がぶつけた。
-
松山 なつき
「……宇宙とか、遠い星とか、メタバースワールドって本当に存在するんですか?」
-
桜橋 蘭香
「するよ。星によっては生命体も存在してるし、東山はメタバースワールドの、またその奥……アンダーギャラクシーの出身だという事までは判明してる。地球にその情報があまり無いのは、宇宙規模での条約とか色々なものが追い付いていなくて、こうやって支援に来るまでに結構な時間が掛かっちゃったからなんだ」
-
パサ、とデータ結果の書かれた紙を置いて、蘭香は隊員達の方を向き、苦笑いをもう一つ。
-
そして深呼吸をした。
-
桜橋 蘭香
「何も、この地球だけじゃない。他のメタバースワールドや、バーチャルスペース。果てはこの地球を含む太陽系のどこかでアイツは破壊の限りを尽くしてる……地球はまだ壊されてないだけ助けられるし、私としても壊されるのは非常に癪なんだ……」
-
悔しそうな顔をして拳を握る蘭香の瞳に涙が揺れる。
-
その姿に隊員は言葉を失う。
-
涙を自ら拭い、再び苦笑いをしながら、彼女は語り始めた。
-
桜橋 蘭香
「……そうだな、私の出自を語る事としようか……」
-
桜橋 蘭香
「全ての宇宙はベースサーバープラネットより始まりなるものであると私は母星で学んでいるよ」
-
桜橋 蘭香
私は、バーチャルスペースと呼ばれる星態系の中にある、サレリクルという星で生まれた。
-
桜橋 蘭香
幸い、色んな意味で進んでいるから、他の星の存在や、宇宙犯罪について知る事も多かったよ。
-
桜橋 蘭香
私は地球という星を知った時、感動したのが忘れられないくらいには色んな情報が明瞭に飛び交っていたんだ。
-
桜橋 蘭香
地球は美しいが故に宇宙規模で守られ続けていて、その星やそこに住む生命体に異常を起こされないように、不可侵条約があって、誰も近付けず、でも守れるように太陽系という別の世界に書き起こして、科学というものを生み出して、それを太陽系に埋め込んだのがベースサーバースペースって言う宇宙歴の話を私は母星で学んだし、そこから太陽系自体の介入を禁止されているって言う事も一緒に学んだ。
-
桜橋 蘭香
ま、せいぜい研修とか、観光で何もしないままそこで過ごすのが許されるくらいの……そうだな、例えるなら……地球は宇宙遺産だという事になるかな。
-
桜橋 蘭香
でもさ、不思議なものでさ。
-
桜橋 蘭香
生命体である限り、似たような思考してるんだよ。
-
桜橋 蘭香
そんな綺麗な星を壊そうとする奴が生まれてしまう。
-
それが、宇宙指名手配システムのイースト ヴィッチ……この星で言う東山備中の存在なんだ。
-
桜橋 蘭香
生命体でありシステムであるアイツはまず元を叩かなければ破壊されない。
-
桜橋 蘭香
クローンの雑魚が無限に生成されるだけなんだけど、アンダーギャラクシーから既に逃亡していて、今はどこに潜んでいるかも分からない。
-
桜橋 蘭香
そして、雑魚の大発生が一番頻発しているのが、この地球なんだ。
-
桜橋 蘭香
アイツがこの星を壊していないのはこの星に生きる美しい女性を襲って恐怖の顔を見たいだけ。
-
桜橋 蘭香
飽きたら、どこぞの星とぶつけるなり隕石落とすなりで木っ端微塵にして、また次の星なり世界なりに行って繰り返す。
-
桜橋 蘭香
サレリクルも強姦被害が無い訳ではないし、どこの星もその恐怖に震えているし、壊された星の事例も報告だけで二桁を迎えていた。
-
桜橋 蘭香
「結果、宇宙全体で議論が起こった。混乱させない為にもスパイで隠密に解決するべきだとか、形ある物は壊れるのだ美しければ尚更とか、色んな話が飛び交ってたよ」
-
松山 いつき
「ま、待って。そんな話、もし本当にあったとしたら貴方、捕まっちゃうし、私達もどうなるか分かんないじゃん」
-
聞くに絶えない顔をして恐怖を抱えた隊員が投げた疑問をサラッと流しているように蘭香は答えた。
-
桜橋 蘭香
「だから、各星の政治家精鋭陣が集まって[#ruby=SWA_セーフワールズアライアンス#]が結成された。これは異星の危機に集まり、臨時的協力や支援を相互的に行い、加えて、地球の保護を最優先にしたものであり、不可侵条約を撤廃した上で新たな異星協力連盟政府として置かれていて、私はそこからこの星の調査・報告・保護を依頼されているんだ」
-
静まり返る部屋、無言の空間。
-
再び蘭香の声が部屋に響く。
-
桜橋 蘭香
「私がSWAに所属してる訳では無いんだけど、なんだろうね……本来聞かせるべきではないこのお話をしたり、技術を可能な限りでこの世界に持ち込んだり、最悪地球を守る為なら異星の技術を使用して良いという特別許可を証明する免許を貰っているんだよ。だから、心配しないで欲しい。私は本当にこの星を守って、あわよくば娘とこの星で暮らしたいだけなんだ」
-
松山 いつき
「貴方……何者なの……?」
-
桜橋 蘭香
「私の本名は、ランファマ チェルメリエ。サレリクルで認められた母の刻印の発明者で技術研究者だ」
-
そう言って紙に視線を戻して、ふと気付いたように蘭香はこちらを向いた。
-
桜橋 蘭香
「ところで、これ……どうやってデータとして収めた?」
-
松山 なつき
「あ……えっと……」
タップで続きを読む