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嶺咲 ウルスラ
「さようなら」
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嶺咲 ウルスラ
黄色いレインコートを着た私は処刑台に居る彼女を見詰めて呟いた。
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ある教会でメイドをやっている19歳の少女が居た。
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嶺咲 ウルスラ
「今日も詰まらないわ。ずっと言えないまま過ごすのかしら」
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溜め息をついて掃除をしていると、
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十三宮 伊豆守 聖
「いつもあなたは詰まらないと思いながら、過ごしているわね、あずさ」
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嶺咲 ウルスラ
「ひ、聖様…申し訳御座いません…」
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ひょっこり後ろから現れた魔法使い、聖に呟いた一言がバレていないかヒヤッとした。
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十三宮 伊豆守 聖
「何故、あずさは詰まらないと思うの?」
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嶺咲 ウルスラ
「何故と言われると何と言えば良いか…大変難しい事なのですが…」
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十三宮 伊豆守 聖
「言葉にできる範囲で結構よ」
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嶺咲 ウルスラ
「その、胸が…胸の中が[#ruby=澱_おり#]のように濁るような気分になるのです…」
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十三宮 伊豆守 聖
「それはどういう時にその気分になるの?」
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嶺咲 ウルスラ
「聖様が…近いはずなのに遠く感じるのです…」
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教会で慕われている聖様が何故か疎ましく感じてしまう。
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十三宮 伊豆守 聖
「あずさ…私を遠く感じる事が悲しく思うのね」
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嶺咲 ウルスラ
「分かっているのです。聖様はこの教会を支えている魔法使い様だと」
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嶺咲 ウルスラ
「でも…この言葉に出来ない気持ちが苦しいのです」
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十三宮 伊豆守 聖
「それはあなたが人一倍私を大事にしている証拠よ」
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嶺咲 ウルスラ
「大事にしている…」
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何だか、同じようで違う…。
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でも聖様がそう言われるのであればそうなのだろう。
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何時まで、何処まで聖様の元に居られるか分からないのだ。
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言われた事が私が思っていた事だ。
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でも分からない…。
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下を向いて泣きそうな私を見た聖様は、
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十三宮 伊豆守 聖
「私達が離れる時、私達が迷う時」
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十三宮 伊豆守 聖
「何度も繋がれるように入ればいいのよ」
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私に言ったのだ。
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聖様の体温に抱き締められながら、言えなかった気持ちが涙となって溢れていた。
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でも、長くは続かなかった。
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グリモワールを撫でながら思い耽った。
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平穏を望んだは実際誰かによる命や心を消耗した。
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変わったように見せていたが実際は変わっていなかったのだ。
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享楽とは偽りだという事に。
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「ここを出て行こうか、綻ぶ前に」と。
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都合のいい願いを何度も願うのであった。
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表面だけ綺麗に見えている世界で、聖様は良いと思えるのか。
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心がすり減りながら周りが傘を差している中感じてしまった。
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禅定門 念々佳
「土砂降りだわ」
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須崎グラティア優和
「急いで帰りましょう」
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美保関 少弐 天満
「雨なんて嫌だわ!」
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教会のメイド達がそう呟きながら駆けて行く。
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嶺咲 ウルスラ
「本当にこれでいいの…?」
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十三宮 伊豆守 聖
「あずさ?」
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嶺咲 ウルスラ
「聖様…また胸が濁った気持ちになるのです」
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十三宮 伊豆守 聖
「そう…なら私もあずさと一緒に雨に打たれるわ」
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嶺咲 ウルスラ
「聖様…」
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差していた傘を閉じて一緒に雨に濡れる聖様が居た。
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十三宮 伊豆守 聖
「さあ、手を繋いで帰りましょう」
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さっき思っていた濁りが、願いが叶ったように消えていった。
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濡れたまま教会に着いた頃には、宴が始まっていた。
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十三宮 伊豆守 聖
「あずさ…私と踊ってくれませんか?」
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手を差し伸べた聖様、その温かさに触れた私は、
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嶺咲 ウルスラ
「ええ、喜んで」
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にこやかに周りの目もくれず、二人で踊り明かしたのだ。
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そう魔女として追放されるまでは…。
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十三宮 伊豆守 聖
「この教会に魔女が居ます。あずさ、貴方です」
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嶺咲 ウルスラ
「な、なぜ…聖様…、そう仰るのですか…?」
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十三宮 伊豆守 聖
「グリモワールの研究をしているでしょう?」
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嶺咲 ウルスラ
「書物として読んでいるだけで、実際に使えるのではないのです…私は魔女ではありません…!」
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十三宮 伊豆守 聖
「皆、見ていなさい。あの本が赤く燃えるわ」
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嶺咲 ウルスラ
「そ、そんな事は…!」
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その瞬間、いつも聖様をそばに感じられるように持ち歩いていたグリモワールが赤く燃え出した。
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嶺咲 ウルスラ
「な、なんで…も、燃えるの…?」
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瀬笈 緋夏麗
「燃え出したぞ! 魔女だ!」
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嶺咲 ウルスラ
「ち、違う…! 違うの…!」
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燃え出した事実を受け入れなかった私はそのまま教会から逃げ出した。
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森の中を必死で走った。
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嶺咲 ウルスラ
(なんで…! なんでこうなるのよ…!)
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いつも聖様、あなたと。
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泣いて、笑って、怒って、いつも歌って、踊って、話していたかっただけなのに。
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なんでそれが許されないの。
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なんでどうして…。
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許さない…。
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ずっと貴女と居るのは私だ。
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これがまさに愛なのだ。
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それを妨げようとする者は例え聖様でも許さない。
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ユダとして。
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街を警護している男に話し掛けた。
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嶺咲 ウルスラ
「あの教会に本物の魔女が存在します」
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宇喜多アミール清真
「それは本物か?」
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嶺咲 ウルスラ
「はい、私は彼女の中を知るため様々な事を聞きました。誠で御座います」
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宇喜多アミール清真
「信じ難いのだが」
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嶺咲 ウルスラ
「あの教会で実際に本を燃やしたのは魔女で御座います」
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嶺咲 ウルスラ
「私を魔女に仕立て上げ、追放したので御座います」
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宇喜多アミール清真
「ほう…確かではないが情報として受け取る」
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目の前に銀貨30枚を入れた袋を渡してきた。
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嶺咲 ウルスラ
「ありがとう御座います」
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嶺咲 ウルスラ
「魔女が如何に悪であるか、裁判をし裁いて欲しいのです」
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宇喜多アミール清真
「確かに魔女は裁かれるべきだな」
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と男は呟いた。
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こうして売り続けた事により今か今かとその時は近付いた。
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ああ、やっとあなたは私によって裁かれるのだ。
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愛おしい聖様。
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黄色いレインコートを着て処刑台を眺めた。
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十字架に括り付けられ、魔女、聖の前は業火に包まれた。
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民衆の暴言に振れもせずただ手を前に出して彼女は呟いた。
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十三宮 伊豆守 聖
「あずさ…最後まで見ているかしら」
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なんと哀れだろう。
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最後の最後まで私の事を騙し続けた彼女が呟いた。
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その言葉を聴いてフードを脱いで私は聖様がその場に居るかのように教会で踊った踊りを始めた。
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裁判中に踊り出した私を見た人は何か言っているが私には届かない。
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踊り終えるまで足を止めずに居た。
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この誰も知り得なかった感覚を教えてくれてありがとう。
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この憎しみが愛なのね。
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魔女、聖。
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私にこの気持ちを。
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この感覚を…生きている全てを。
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正しくしている。
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十三宮 伊豆守 聖
「さようなら」
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