TRAIN


タタン、タタンと規則正しく線路を滑り、電車が静かな街の中を滑ってゆく。

それを遠く眺めながら、少年は小さく息をはいて薄汚れた水色の椅子に腰かけた。

閑散とした駅のホームの古びたベンチに座りながら目を閉じると、色んな音が耳に入ってくる。
昼間は聞こえないような小さな音を、静寂の中に研ぎ澄まされた耳が敏感にその音を拾うのだ。
風や、草の、そしてとても遠くから聞こえる救急車のサイレン。

夜の街の音を聞きながら、浩太は消え入るような声で、「静かだなぁ」と呟いた。


18年間、浩太こうたはこの土地で暮らしてきた。

良い思い出は少ない。
だから高校を卒業するのと同時に、ここを出ることを決めていた。

予定の電車の発車時刻まであと5分を切っている。

皮肉だった。
卒業式を終えた時は、この街を出てゆく瞬間を待ちきれないほど待ち望んでいたのに。

今は少し名残惜しいような気がしているのだ。








TRAIN









浩太の意思は固かった。

進学は県外の学校に的をしぼり、早い時期からアルバイトで着々と資金を貯め込んできた。
その上一人暮らしは金がかかるから、と専門学校の合格通知が届くや否や、その付近の知り合いを片っ端から訪ね、一軒屋に住む親戚の家の一室を借りる手はずを整えた。

その計画的かつ綿密な用意周到さに、家族や担任はもちろんのこと、数少ない友達まで呆れた顔をしたのは無理もない。

だがその行動力に、浩太の両親は息子の本気を感じ取り、反対らしい反対はしなかった。
息子の不遇を一番近くで見てきたせいかもしれない。
彼がこの街を出たがっているということは、何年も前から痛いほどわかっていたことだったのだ。

こうして浩太の県外脱出計画は整った。
新しい住所は親だけに残し、ケータイも代え、番号は本当に限られた人間だけに教えた。


びゅう、と風がふいた。
頬を刺すような冷たさに浩太はただじっと眼を閉じて、深く息をはく。


タタン、タタンという規則正しい音が近づいてくる。
街を離れる瞬間は、こく一刻とせまっていた。
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