TRAIN

見据えた向かい側のホームで、浩太は見慣れた姿を見つけた。

菊池はいつもと同じような顔で、不敵な笑みを携えながら浩太を見ていた。
そして浩太に向かって、口を開いた。

ゴッと、すさまじい風が吹いて、高スピードの新幹線が目の前を通過し、向かい側のホームは見えなくなってしまった。
それからゆっくりとスピードを落としながら停車する。

辺りがざわめき立ち、車内へ人が乗りこんでゆくのが見える。
浩太はそれを見据えたまま、微動だにすることができなかった。

やがて、西行きの最終便の新幹線はゆっくりと動き始めた。
ウィイインと起動音が響き、やがて加速につれ、長い胴体が引きずられるように通過してゆく。




最後の車両が見えなくなった向かい側のホームには、誰も残っていなかった。




シーンとしたホームに聞こえるのは、去って行った新幹線のゴーっという風を切る音だけ。


浩太はぺたり、と床に座り込んだ。
自然と涙があふれてきた。

駅にたった一人。
浩太は取り残された。

泣いても何も変わらないことは分かっている。
これからはそれぞれの道を歩いてゆくだけのこと。
ずっと一緒というわけにはいかない。
彼には彼の、そして自分には自分の道がある。

わかっているのに、浩太の涙は止まらなかった。
声をあげて泣いた。

これから先に待ち受けている、菊池のいない世界を思って泣いた。
そして同時に、自分が見ることの無い、未来の菊池のことを思って。

浩太は泣いた。














「はい、ジャスト3分、と。」
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