TRAIN


「前に進めってお前が言って、顔を上げてみたら、おれは、おれのままで良いんだって、思った。」

浩太の言葉に、菊池は「そうさ」と呟いた。

「どっかによ、だぼだぼなズボンに詰襟のお前が良い、って奴がきっといる。」

「もう学ランなんか着ることねぇけどな。」

浩太の言葉に菊池が思い出したように「そういやそうだったな」と楽しげに笑った。

「ちなみにさ。あれ…正直なとこ、どうだった?」

「正直なとこ?」

「あん時の勝負服だよ、おれの。」

加えて「いっちょうらのセーラー服」と付け足したので、菊池がちら、と浩太の顔を見ると、彼は何やら企んだような顔で菊池を見ていた。
それに、応える様にニヤ、と笑った菊池は視線をまっすぐに戻すと、大げさに腕を組み、「言うまでもねぇ」ときっぱりと言い放った。

「死ぬほど似合ってなかったに決まってんだろ。」

それを聞くや否や浩太が耐えきれないと言ったように吹き出した。
それから嬉しそうにケタケタと笑いだした。


浩太の頭の中で、女子高生たちがこちらに向かって手を振っている。
可愛い顔で、とても無邪気に。

浩太は女子高生に、「じゃあな」と笑って手を振り返した。







◆   ◆   ◆




『終点、終点、どなた様もお忘れ物のないようにお願い致します。』

二時間弱の二人旅を終えて、浩太と菊池はホームに降り立った。
浩太の荷物に比べ、菊池の荷物は少なく、「一泊二日の旅行気分かよ」浩太が言うと、本人は「現地調達するからこれで良いんだ」と笑った。


大きな駅構内を歩きながら、浩太と菊池は新幹線のホームに入る。
思えば高校時代、菊池とここへ何回も来たが、今日は勝手が違っていた。

それぞれに乗る電車の時刻を確認すると、5分違いで、菊池の新幹線の方が先に出るようだ。どちらもそれが最終便なので乗り過ごすわけにはいかない。
菊池の新幹線は発射までもう10分を切っていた。

「じゃあな、浩太。」

「うん、じゃあな。」

ホームへ上る階段を前にして、菊池がいつもとかわらない口調で呟いた。
まるで、また明日学校で会うような軽い挨拶だった。
菊池の向かう新幹線のホームには、どんどん人が流れてゆく。

「浩太、寂しくなったら俺を呼べ。3分でお前の所まで行ってやる。」
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