TRAIN
ガタン、と一際電車が揺れた。
カーブに差し掛かったらしい。
それに合わせ、菊地が両腕を組んだ体制で身体を浩太の方に傾けながら口角をあげた。
「…ま、なんにしてもよ、あの後お前が一世一代の勇気を振り絞って吉田に告った後、『くたばれクソ野郎!!』ってボールをぶん投げた時は流石の俺もシビれたね。」
「告白してから気が付いたんだよ。なんじゃこりゃ、ってな。」
「ふっきれたんだな。」
「プッツンしたんだ。」
真顔で返した浩太に、菊池は愉快そうにゲラゲラと笑った。
体育館で、菊池の言葉に奮いたった浩太が、啖呵を切るように告白した次の瞬間、彼はあろうことか自分が告白した相手を数秒で振ったのだ。
浩太が渾身の力を込めて投げた固いバレーボールを顔面に食らった吉田は、鼻血を吹きながら舞台に倒れた。
あとに残ったのは静まり返った観客達と、ぐしゃぐしゃの顔のまま、ゼェゼェと肩で息をしている浩太だけだった。
周りの観客がポカンとした中、連中の後で見物していた菊池だけが、満足そうに笑った。
その後、菊池は見物人たちを片っ端から殴り飛ばして舞台まで駆け上がると、いつも通りの顔で、ニヤッと笑い「やればできるじゃねぇか」と浩太の頭をグリグリと撫でた。
『あいつらの顔見たか!?お前の勝ちだぜ、浩太!!』
菊池はどこまでも嬉しそうな声でそう言うと、腕に持っていた浩太の学ランを彼の頭から被せると、舞台から飛び降りて、振り返った。
『行こうぜ。』
菊池の言葉に浩太はガシガシと顔を袖で涙を拭くと力強く頷いて、一歩を力強く踏み出した。
そのとき、誰も浩太を笑う者はいなかった。
それから、浩太を揶揄する連中は激減した。
ごくたまに、思い出したように浩太と菊池がデキている、という噂が何度か流れたりしたが、二人にとって、それは笑いの種にしかならなかった。
浩太は、もう下を向くことはなかった。
「…あの時にさ…おれを囃したてた奴の中に、『女になれてよかったな』って言ったやつがいたんだ。フツーに考えてさ、男が男を好きになるっていえば、オカマが思いつくんだろうな。奴らにしてみれば。」
「…。」
「実は、中学ん頃から、おれもそうなのかなって思ってた。おれ、女の子になりたいのかなって。」
浩太は静かな声で話し続けた。
「中学ん時に好きになった奴は、同じクラスの女の子が好きだったんだ。髪が長くて、セーラー服がよく似合ってた。おれは、真っ黒のズボンに詰襟。だから、その子がすげぇ羨ましかったんだと思う。」
ふ、と浩太が上を見た。
「でもさ、あの時セーラー服を着て気が付いたんだ。ああ、違うんだって。」
ヒラヒラと揺れるスカートは、自分に相応しい服ではなかった。
まして、セーラー服を着て、相手が自分を好きになってくれるわけがない。