TRAIN


突然拉致され、無理やりセーラー服を着せられた浩太は、体育館の舞台に上げられた。
そこに待っていたのは百人近いギャラリー。
浩太は着崩れたセーラー服に、裸足のまま、四方八方から野次と罵声を浴びせられた。
逃げようにも、上、下、両そでに沢山の見物客が押し寄せ、完全に包囲された舞台の上は、ネズミが這い出る隙間もない。
男も女も、浩太を見ておおいに笑い、バカにした。

「ほら!!男が好きだって言うから女の子の服貸してやったんじゃん!!」

「よかったなぁ、女の子になれてさ!!胸に肉まん詰めればもっとマシになったんじゃねぇの!!?」

かあ、と浩太は顔を赤くした。
ぶるぶると拳が震えたのは恥ずかしさのためだけではない。囃したてる連中を前に、浩太はギリギリと歯を噛みしめて悔しさで視界が歪むのがわかった。

どうして同性を好きだということだけでこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。
誰かに迷惑をかけているわけではないのに。

「(誰かを好きでいることの、一体何が悪いんだ…!!)」

唇を噛みしめていた歯から、じわ、と鉄の味が口の中に広がった。
涙がこぼれた。

だが、それだけでは終わらなかった。浩太が最も恐れていたことが起こってしまった。

吉田が舞台に担ぎあげられたのだ。

「先輩…。」

周りの歓声に、浩太が青ざめた顔で蚊の鳴くような声を絞り出すと、吉田は汚いものを見るような目で、浩太を上から下まで値踏みするように眺めた。
その顔にははっきりと不快と嫌悪の表情が見て取れた。
そしてその直後、吉田は周りの観客と一緒になって、浩太をバカにしたように笑った。

浩太の心臓が苦しくなった。

足元が異常なほど震えていた。噛み合わせた歯がガチガチと音を立てて鳴った。
真っ暗闇の中に一人でぽつんと立っているような感覚に陥った。

「おら、舞台を整えてやったんじゃねぇか!!早く告白しろよ!!」

「黙んなよ!!変態!!」

野次とともに、ボールが浩太目がけて幾つもとんできた。
体育館倉庫にあったものを、焦れた観客が投げつけてきたのだ。
その一つが浩太の頭を直撃し、よろ、と体制を崩した浩太を見て爆笑が起こる。
浩太はもはや絶望のふち立たされ、何も考えることができず頭を押さえて、舞台の下で「告白!告白!」と声を一つにして騒ぎ立てるギャラリーの声に涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら耳を塞いだ。

そして、誰も居ない舞台の後方へ後ずさろうとした、そのときだった。



「…菊池…。」



舞台に群がるギャラリーから後へ少し離れた所に、菊池が一人で立っていた。
菊池は舞台にいる浩太を見て、叫ぶでもなく、助けるでもなく、ただ、じっと浩太を見て、ふいに口を開いた。

それは、大勢の声によって、聞こえることはなかったが、浩太には、菊池が何を言ったのかが分かった。




『前に、進め。』
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