TRAIN

「お、おれは!!」

「おう。」

「お、男、がれ、恋愛、対象、でっ」

「おう。」

「そ、それで、中学のとき、好きな、奴ができて、それがバレて、全校、に広がって、」

「おう。」

「気持ち悪い、って、いじめ、られて…、で、でもそれは、か、変えられない、から…」

だから、と浩太は言った。



「そ、そんな…おれでも、と、とも、友達になって、くれますかっ…」



ひぐ、と涙と鼻水まみれの汚ない顔で、浩太は言いきった。
嗚咽のせいで途切れ途切れになった言葉を懸命につなげ、トラウマで顔が青ざめて震えるほどなのに、浩太は菊池に自分が同性愛者であることを告白した。

隠そうとせずに、菊池を信用して、自ら打ち明けたのだ。

そんな浩太の誠意に、菊池は二カッと笑って「おうっ」と力強く頷いた。
そして、しゃっくりを繰り返して懸命に涙を拭っている浩太に、菊池は自分の右手を差し出した。

「もちろんだ、嫌だっつってももう遅ぇぞ!!よろしくなっ浩太!!」

ニッ、と笑った菊池に、浩太は頑なに握りしめていた拳をといて、彼の右手をとって、それから確かめるように、強く握った。


その時、浩太はぐしゃぐしゃに泣いていたが、最後にとても嬉しそうに笑った。
浩太の敵だらけだった世界に、味方が一人できたのだ。



それからは色んな所に二人で行った。
自転車で行ける所はほとんど行き尽くして。
それでも足りずに、電車にもたくさん乗った。

遠く、遠く。驚くほど遠くへでかけたこともあった。
色々なことがあって、笑って、泣いて、喧嘩もよくした。

それでも。
旅先でどんなトラブルがあったとしても。

浩太の隣には菊池が、菊池の隣には浩太がいた。
帰りはいつだってちゃんと二人一緒だった。


それが、当たり前だと思っていた。






◆    ◆   ◆



『電車をお降りの際は、お忘れ物にご注意ください』

プシュー、とドアが開き、大勢の客が降りて、もともとの閑散とした風景に戻ったのを機に、浩太が思い出したように「羨ましかったんだ」と唐突に呟いた。

「…何がだよ。」

向かいの窓の外を眺めたまま、菊池が訊ねると、浩太もやはり向かい側の窓から望むホームを眺めたまま、質問に応えた。
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