TRAIN
「…。」
気が付けば浩太は覚束ないながらも、自分の意思で彼女達に手を振っていた。
ピンポン、ピンポンとチャイムが鳴って、ドアが閉まり、電車が動き出す。
車内は賑やかな若者がいなくなり、一気に静寂を取り戻した。
それはまるで何かの魔法のようで、浩太はもう見えなくなった駅のホームの方を見ながら、先程の女子高生の笑顔を思い出していた。
電車の走行が軌道に乗ると、浩太が誰に言うわけでもなく、ぽつりと呟いた。
「…かわいいな、女の子って。」
その言葉を聞いた菊池は、「おうおう、今頃気が付いたかよ」と笑う。
「女を笑わせるのは全世界の男の使命だ、よーく覚えとけ。」
腕を組んで力説をした菊池は満足げに頷いたがその直後、彼は真顔に戻り、自分の掌をぼんやりと眺めている浩太を覗きこむと、首を傾げた。
「なんだよ、いまさら軌道修正か浩太。男の本能が目覚めるには少し遅ぇぞ。」
「いちいちうるさいな…。」
「違うのか。」
「…ちげーよ。」
「ふーん。」
なんだよ、と答えた菊池の言葉を耳にした浩太は、じっと自分の掌を眺めたまま、黙って何か考え込むように電車の外へと視線をうつす。
それからしばらく沈黙が続いた。
外は、少し風が強くなってきたようだった。
◆ ◆ ◆
「あのさ、おれ…。」
改めて言うことじゃないかもしれないけど、と浩太は前置きをおいて、目の前の菊池を見据えた。
自分を閉ざして誰にも心を開こうとしなかった浩太に、菊池は根気よく付き合った。
誰もがやめろ、とか時間の無駄だ、と菊池を止める中、彼は「うるっせーんだよ。」と一蹴するだけで全く取り合わない。
どんなに浩太に拒まれても、菊池は諦めない。
そして浩太を裏切るような真似は絶対にしなかった。
いつだって菊池は浩太の傍で、彼の味方についていた。
「行こうぜ、浩太!!今行かなきゃお前は一生後悔する!!」
そう言って嫌がる浩太を強引に自転車の後ろに乗せて、菊池はいろんなところへ連れて出かけた。