TRAIN
浩太は賑やかなところが苦手だった。
人と接することが苦手だった。
静かなところが好きだった。
一人で遊ぶことが好きだった。
人を貶めるのが嫌だった。
平和に笑って暮らすことを望んでいた。
そんな彼が、賑やかで、毎日激しく感情のぶつけあいをする子供たちから若干浮いてしまうのは仕方がないといえば、仕方なかった。
担任からも「もっと子供らしく元気に」と強要されたこともある。
暗い、と同級生から揶揄されることもあった。
それでも気の合う友達はいた。
浩太と同じような考え方の仲間がいたおかげで、孤立はしなかった。
地味で、目立たない生活だったが、自分の性分に合っていて、浩太にはそれなりに楽しい日々だった。
毎日下を向いて歩いていたが、きれいな石や花を見つけることもある。
悪くないと思っていた。
そんな考えが一変したのは中学2年生のとき。
きっかけは、恋だった。
生まれつき地味で根暗で、引っ込み思案だった浩太は、誰かに自分の想いを告げることをとても苦手としていた。
それは親に対しても友人に対しても同じで、思ったことをすぐに飲み込んで、心の奥にしまってしまう。
それは自分に自信のない浩太が、自分の発言で誰かを煩わせ、嫌われてしまうことを恐れていたことが原因だった。
まして好きなった相手に対し、浩太は目を合せるどころか、話すこともままならない。
自分の気持ちを伝えるなど、臆病な彼には持ってのほか。
てんで話にもならない夢物語だった。
それでも人並みに恋をした浩太は、その相手を思い浮かべると幸せで、一言でも言葉を交わすことができた日には嬉しくて、胸がいっぱいになって、夜も眠れないくらいだった。
最初は見ているだけで幸せだった。
だが、想いが募れば募るほど、浩太は見ているだけがどれほど辛いか痛感し始めた。
赤面して顔を合せることができない自分に苛立つのも無理はない。
もっと、もっと自分が明るくて、堂々と目を合せて話ができたら、と浩太は初めて自分の性格を呪った。
だが、だれにも相談はできなかった。
小学校からの気の合う友達にも、一番信頼している家族にも、誰にも。
言えるはずが無かった。
浩太が好きになったのは、同性だった。
「…。」
気が付くと、電車は駅で停車していた。
ガヤガヤと賑やかな人の気配で目を覚ました浩太は、覚束ない動作で瞬きをすると、傾いていた頭をあげる。