TRAIN

菊池は浩太に新しい住所を教えてはくれなかった。
「まだちゃんと決まってねぇんだ」と濁されてしまい、それっきり。

だがお互いに新たな門出を分かち合うため、故郷を出る時間を合せ、同じ電車に乗り合わせることになった。


浩太は、菊池と会うのはこれで最後になるかもしれない、と考えていた。



最初は全く信用していなかった菊池とも、高校の一年目が終る頃には自然と話せるようになり、高校を卒業するころには、浩太にとって一番の友人は菊池になっていた。

言葉には出さないが、それは菊池も同じだ。
不思議な話だったが、根暗な浩太と明るい菊池は妙にウマがあったのだ。


暗闇の中にぽつぽつと灯る中を電車は疾走する。
ぼんやりと眺めていると、まるで宇宙の中を走っているようだ。
隣を見ると、菊池は少ない荷物を足下に置いて、腕を組んだまま眠りに入る5秒前。

こうして電車に一緒に乗るのも最後かもしれないというのに、いつもと変わらない菊池の姿に少しだけ苦笑した浩太は、彼にならって規則的な振動に目を閉じた。

最後だからこそ、今まで通りがいいのかもしれない。

中学に通っていたときは、こうして誰かの隣で安らかに眠ることなんて、浩太は考えたこともなかった。
右隣が温かい。


沈黙が苦ではないのは、家族以外では菊池が初めてだった。




浩太が目を閉じてウトウトとしだしたのを見計らって、菊池は薄らと目を開けた。
それから自分よりも少し下にある浩太の頭に、黙って自分の顔を寄せ、ゆっくりと目を閉じた。











◆   ◆   ◆





生まれつき根が暗かった、というのは、年の離れた兄から耳にタコができるほど、しつこくからかわれてきたことだ。

自分でも分かっている、と浩太はいつも思っていた。

人とどう接していいか分からず、日々下を向いて暮らす毎日。

それでも幼少期、「根暗」という言葉が理解できなかった浩太は、泣かず、喚かずの自分を見て「大人しくてお利口ね」とご近所から褒められて以降は「根暗」=「大人しく利口」なのだと勝手に解釈し、根暗であることをさほど悪くは思っていなかった。


だがそんな状況は小学校に上がってから少し変わる。
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