王様ゲーム
●王様ゲーム
「これより第一回、わくわく!!王様ゲーム大会を開催します!!!」
「…」
ケータイをマイク代わりにして、満面の笑みで叫んだ和仁を、九条と康高は胡乱な目で見つめ、彼の言葉に、わぁい!!と一人喜んだ三浦の頭を和田が無言で殴った。
「痛っ!なんすかセンパイっ!」
殴られた頭を抱えて涙目で訴える三浦に、和田は低い声で「馬鹿は黙ってろ」と凄みを効かせた。しかし三浦は和田の機嫌などはどこ吹く風で「黙れないからバカなんじゃないっすかー。」と笑った。
心なしか和田の眉間の皺が深くなった。胃が痛いのだろう。
そんな周りの様子に構うことなく、和仁が笑顔を崩さないまま、どこからともなく割り箸が入った容器を取り出した。それは明らかに王様ゲームに必需品の「アレ」で、九条、和田、康高が一様に青ざめる。
「いやぁ、みんなやる気みたいで嬉しいなぁ、オレ!」
「お前、この空気読めよ。」
明らかに凍りついたその場の雰囲気にそぐわぬ笑顔で、和田が突っ込むが、和仁は輝くような満面の笑みを携えたままだ。
屋上には隆平、九条、和仁、康高、和田、三浦の6人が円になって座っている。
「大体何でこの面子なんだよ、」
「いやぁ、アンケート結果でさぁ。」
はぁ?と首を傾げる和田に、隣の九条は早くも逃げ腰で先手を打った。
「俺は…帰る。」
「ちょっと待ったぁあ!!」
立ち上がった九条を、和田が慌てて引きとめる。
他の連中はともかく、愉快犯の和仁と、アホの子三浦のフォローは一体誰がするんだ!!俺には耐えられないと、和田は必死で九条にしがみ付いた。
「離せ!!宗一郎!!」
「おめぇだけ逃がしてたまるか馬鹿野郎おおお!!!」
攻防戦を繰り広げる九条と和田をよそに、隆平と三浦は正座して、和仁の話を聞いている。
「良いかい?このゲームは王様だ~れだ、と言いながら好きな棒を取って、王様を決めるゲームなんだよ~。」
「ふむふむ。」
「千葉隆平知ってる?」
「しらない。三浦くんは?」
「大人が飲み会でやってんのを見たことある。バブル期の名残だよな。」
「お前、昭和生まれか?」
三浦の言葉に康高が遠い目をしてツッコミを入れたが、二人の耳には入っていないらしく、和仁の説明を熱心に聞いている。
「王様の棒を当てた人は、何でも命令できて、番号が当たった人は何でも言うことを聞かなきゃならない恐ろしいゲームなんだよ~。例えばオレが王様で三浦が5番で和田が3番だとしよう。それでオレが「5番と3番がちゅ~をする」って命令すれば、三浦は和田とちゅ~しなきゃいけないんだよぉ~。」
「こ…こえぇ…!」
「い…命がけのゲームっすね。」
ごくり、と引きつった顔で唾を飲み込んだ三浦の背中に「どういう意味だ!!」と和田の罵声が飛んだが、誰も相手にはしない。
そんな中、今まで静かにしていた康高が大きなため息を吐くと、何事も無かったように怯えている隆平の腕を掴んで立ち上がらせると、その肩を抱いて屋上の出口に向かいはじめた。
「ちょ!!やっくん!!何で帰ろうとしてんのさ!!」
「行くぞ隆平。聞く耳を持つな。」
真顔で帰ろうとした康高を和仁が必死で止める。
「ちょっと!!サイトの企画なんだから帰られたら困る!」
「知りませんよ。第一この面子で…というかアンタが居る時点で不愉快極まりないんですよ、こっちは。本編以外で話しかけて来るな。」
そう言って、なお帰ろうとする康高の首に腕をまわした和仁が、ひそひそと康高の耳に囁いた。
「いいのかな~?もしやっくんが王様になれたら、千葉君にあんなことやこんな事をしてもらえるんだよ。」
「あんなことやそんなことは互いに思いが通じ合って了承を取ってから行う事に意味があります。こんなゲームであんなことやそんなことをされても嬉しくありませんので。」
「ピュアか!なんなの?やっくん大正生まれか何かなの?」
呆れたように言う和仁の腕を振り払って、康高はメガネを押し上げて、どうも、と答えて振り返る。
「隆平、帰ろう。」
そう言いながら、康高は絶句した。隣に居たはずの隆平が居ない。
慌てて周囲をうかがうと、「イヤぁーー‼」と情けない声が聞こえ、そちらの方に視線を向ける。
隆平は和田により脇に抱えられ、泣きながら康高に助けを求めている。
そしてなぜか三浦が九条を押さえていた。
「ぎゃぁああ!!何するんですか!!助けて康高、殺される~!!」
「コラ比企!!こいつの命が惜しかったら言うことを聞くんだな!!」
「いや、そいつは惜しいですけど、…九条先輩はどうしたんですか。」
「人質っす‼」
事も無げに言った三浦に辺りが静まり帰る。
へぇ…。誰のだろう。
遠い目をした康高に、隆平がぎゃんぎゃんと喚く姿を見て、和仁が腹を抱えてゲラゲラと笑った。そして一通り笑い終えると両手をパンパンと叩きながら「はい決まり~!」と声をかける。
「もうみんな腹くくってよ☆きっと楽しいゲームになるぜ!」
「…。」
康高と和田は虚ろな表情をして同時にため息をせざるを得ない。
嫌な予感しかない。
こうして王様ゲームが始まった!
1/1ページ