旧サイト拍手お礼文

拍手御礼。
隆平と和仁と和田と三浦。オマケで康高。

●猥談


「女の子ってさー…。やっぱおしりだよね…。」

ハァ、とため息を吐きながら、うっとりと雑誌を眺める和仁に、和田が後ろからその雑誌を盗み見る。
すると大きな尻を四つん這いになって突き出している水着姿の女の写真と目が合った。

「なんだ、珍しくフツーのエロ本か。こりゃ雨が降るな。」

「ちょ、やだねー。オレだってたまには普通に女体を愛でたい時だってあるよ。」

失礼しちゃーう、と唇を尖らせる和仁を、和田はうろんな目をして見せた。

和仁がいつも愛読しているのは見るもおぞましい過激なハードプレイ雑誌なのだが、今日はどういう風の吹き回しか、ごくごく普通の成人向け雑誌を手にしている。

いつもと違う行動に、和仁がまた何か企んでいるのでは、と和田は危惧した。しかし当の本人は特に怪しい素振りも見せず雑誌の大きな尻を見てニコニコとしているので、本当にただ女体を堪能したかっただけなのだろう。
それなら特に問題はねーか、と和田は目を細めて和仁の後ろからにゅ、と手を伸ばすと、その卑猥な頁を一枚めくった。
すると「あ!!」と和仁が非難めいた声を出したのが聞こえた。

「ちょと何すんの和田チャン!今オレが可愛いおしりを堪能してたのに!!」

「俺は尻より腰のが好きなんだよ。なんだ、イイ女居ねーな。」

「タダ見しといて言う台詞じゃないんじゃない?」

珍しく唇を尖らせて、肩越しからジト目で和田をねめつけると、和仁は再び水着姿で尻を突き出している女の頁を捲る。
誘うようにして顔だけこちらに向け、恥じらいがあるのか頬がほんのりと赤くなっている姿がいじらしく、確かに可愛いと云えば可愛い。しかし。

「巻頭にしちゃ、ちょっとぽっちゃりし過ぎじゃねぇか…。」

ふくよか、と言えば聞こえは良いが、雑誌に載せれるようなモデル体形とは程遠い。
スレンダーな女が好みな和田は、正直言ってこの肉付きの良さに魅力を感じる事は無かった。
細い腰に手を掛けて引き寄せるながら、くびれから尻にかけてのラインをなぞるのがイイのだ。
すると後ろの和田に凭れ掛かりながら、少女の尻を恍惚とした表情で眺めて、和仁がニヤと笑みを零した。

「やーねー、ぽっちゃりが良いんじゃない。抱き心地が良くて、柔らくってさぁ~。細い女って抱いた瞬間骨が当たって痛いからキライ。だから少しぽっちゃりめでふにゃふにゃしてて、柔らかいおしりが有れば最高。叩いて感度が上がれば尚良し。」

「ばっか、華奢で壊しそうな位のが丁度良いんじゃねーか。」

「いやぁ~相容れないねぇ~。」

「同感だぜ。」

「あ、因みに。」

ニコニコとしたまま、和仁は神業の様なスピードで袋綴じを綺麗に破ると、卑猥な格好をした女性のセミヌード写真(見開き)を手前に座りご飯を食べていた少年の目の前に晒した。

「千葉君はどの部分が好きなのかな~?」

お兄さんに教えてごらん!と、この上良い笑顔で雑誌を掲げた和仁の目の前で、思わぬ破廉恥ページの登場に、隆平は飲んでいた水を盛大に吹き出した。
その水が見開きの頁が濡らし、和仁が「あー」と非難めいた声を出す。

「やーん、千葉君ので濡れちゃったぁ。」

水滴の付いたセミヌード写真を覗き込みながら、和仁が声色を使うと、ボン、と音が聞こえて来そうなほど顔を赤くした隆平が、口から滴る水もお構いなしで、パクパクと口をさせながら僅かに瞳を潤ませた。

それを見た和田が、「かわいそうに…」と遠い目をしながら町で貰ったポケットティッシュを放ってやると、隆平は「あ、すいません」と和田に頭を下げ、貰ったティッシュで濡れた雑誌を拭ったので、和田は生暖かい笑みを零したまま思わず「そっちじゃねーよ」と突っ込んでしまった。

赤い顔のまま雑誌の水滴をふき取る姿を、和仁は笑みを浮かべながら何処か上機嫌で眺めると、自分も一枚ティッシュを手にとって、嬉しそうに隆平の口元を拭ってやる。

「いやぁ、良いねぇ~童貞は反応が純で~。」

心底楽しそうに笑う和仁を眺めながら「悪魔め」と和田は目を細める。
だが口に出したら自分に災難が降りかかる事を知っている和田は、隆平に心の中で謝りながら黙って口を噤んでいようと心に決めた。
そしてお互いに濡れた箇所を拭い終わると、和仁はニコニコ顔を崩さないまま、ぽい、とティッシュを投げ捨てると、首をこてん、と傾げた。

「それで?千葉君はどこが好きなのかな?胸?尻?腰?穴?」

「うぉおおおおおおおおおおおいいいい!!!!!!!!!!!!!!!」

和田は先程の決心を一瞬のうちに忘れ去り、無意識のうちにどこからとも無く取り出したスリッパで思いきり和仁の頭をはたいていた。

「痛!!ちょ、なにすんの和田チャン!!何怒ってんの⁉」

「最後の選択肢なぁああああああ!!!!どんな表現力だおめぇはよぉおおおお!!!!」

「あ、そっか。穴って言っても千葉君は童貞だからまだ」

「やかましい!!!!!」

再びスパン、と小気味良い音をさせながら殴られた和仁は「へぶんっ!!」と妙な音を口から発した。

それで何やら正座をさせられると「穴」という単語はもう二度と使いません、という制約をさせられたらしく、腕組みをしながら仁王立ちで怒鳴りつける和田を前に和仁はしゅん、と項垂れて背中を丸めてしまっていた。

隆平がそれを遠い目で眺めていると、たっぷりと絞られた和仁が唇を尖らせながら隆平の肩を抱いて「ちょっとしたジョーダンなのに、ちょっと怒りすぎじゃない?」と泣き言を零した。

「まぁいいや。そんで、何処がスキなのよ、おにーさん。」

「ぎゃ!!!」

肩を抱かれて問い詰められた隆平は、丁度耳に和仁の息がかかり、全身に鳥肌が立ったのは言うまでもない。
だがこの問いに答えなければ離してくれそうに無い和仁に、隆平は思わず泣き出したい様な気持ちになってしまった。

「ね…」

再び、耳に息が掛かるように問われて、隆平は震えながらも、羞恥心を押し込め、消え入る様な声でなんとか答えた。




「む。胸、です…」





言った後にマシュマロのように柔らかなふくらみを思い出して、隆平は体温が上がってグラ、と僅かに眩暈を覚えた。
先程の和仁と和田の言い争いを思い出しながら、ふくよかな胸は神様が女の子に与えた天上の秘宝、聖なる丘、最後の楽園であると説きたかったが、如何せんこの男にそんな度胸など微塵もあるはずが無い。

「おっぱい!!!おっぱいが好きなんだね!!!!女の子のおっぱいが大好きなんだね千葉君はぁあああ!!!!」

「ぎゃあああ!!!!やめてぇえええ!!!!」

意地悪な顔で声を張り上げてその場に居る全員に公言する様に「千葉君はおっぱいが大好き!!」と連呼する和仁に、隆平はこの世の終わりのような顔をして縋り付いた。

「なんだ。千葉は九条と同類か。」

その騒ぎの中、新しい煙草に火を付けた和田が笑うと、隆平が涙目で「へ」と呟いた。その反応に和仁が苦笑いをしながら肩をすくめておどけて見せる。

「あぁ、九条もおっぱい派なんだよねぇ。でも九条はでかけりゃ良いっつーか。ちょっと美意識に欠けてるっつーか。揉めれば形とか手触りとかまるで頓着しないアバウトな奴だからね~。でも残念だなぁ。お尻仲間が出来ると思ったのに。千葉君、お尻好きそうな顔してるし。」

「何を根拠にまたそんな事を…。」

冷めた表情で和田が先程和仁が放り出した雑誌の連載コーナーを読みながら突っ込みを入れるが、和仁は「だーってさぁ」とため息をつく。

「みんな胸とか腰とかさー。お尻仲間が居ないんだもん。みんな子供だなぁ…女体は全てお尻で決まるものなのに…。」

「け、胸と尻は女の代表部分じゃねーか。腰好きの奴のが少ねーよ。尻だと捻りがねぇんじゃねーか?」

和仁の言い分に苦い顔をして反論をした和田に、和仁は「えー」と非難の声を上げた。隆平はどっちにしろ胸が好きなのはガキなのか、と結論を出して、なるべく会話に入らない様に身を固めて押し黙る。
そこに、屋上の扉が大きく開かれて「ただいまー」と暢気な声が聞こえた。
ん?と隆平と和仁が密着したままで振り返ると、購買での死闘に勝利したらしい三浦が満面の笑みを浮かべ戦利品を腕一杯に抱えて戻ってきた。

「おーおーご苦労さん。」

それに軽く片手を挙げて労いの言葉を掛けた和田は、視線をすぐに雑誌に向けた。そんな和田に構わず、三浦は目をキラキラさせて興奮気味にふん、と鼻を鳴らした。

「今日は男を見せたっす!!なんと!!幻のウグイス餅パンを、残りの一つでゲットしたっすよ!!はいセンパイ!!イチゴロールとモンブランパンとクリームチーズデニッシュ!」

「わーい。」

頼まれたパンをメモを見ながら和仁に渡し、自分の分を隆平に「持ってて」と預けると、三浦は和田に惣菜パンを渡そうとして、和田の持っている雑誌に目を留めた。

「あ!!エロ本!!センパイ!!後でみして!!」

「俺んじゃねーよ。和仁に言え」

「あ、別に見てもいいよー。」

未だ隆平にくっ付いたまま、幸せそうにイチゴロールを頬張る和仁に、三浦は「やったー‼」と万歳して喜んだ。
そうしてニコニコしながら隆平の隣に座ると、隆平が「はい」と渡してくれるパンを受け取って「さんきゅー」と言いながらパンの袋を破った。
それを見た和仁が「あ、」と何かを思い出した様に呟いて、隆平越しに三浦を見た。

「そーいや春樹はさ、女の子の身体でどこが一番スキ?」

口元についたいちごクリームを指で掬って嘗め取る和仁を見て、三浦はきょとん、とした顔をした。
それを耳だけで聞いていた和田は聞くのかよ、とため息をつく。
ガキ臭い三浦の事だから当然胸と言うに違いない、と決め付けてパラ、とまたページを捲る。
すると「えー、好きな部分っすかー?」と三浦の底抜けに明るい声が聞こえ、何やら幼稚園児に卑猥な質問をしているような後ろめたさが過ぎったが、性的な意味合いに全く聞こえないその返答が思わぬ単語を紡ごうとは全く思いもよらなかった。

三浦はいつもと変わらない笑みを携えたままでハッキリと答えたのである。



「そりゃあ、なんつったって、フトモモが1番っす。」



「「「…」」」



瞬間、和仁は手からイチゴロールを落とし、和田は雑誌の真上に煙草を落としてしまった。


「え、なんすか?まさかみんな、胸とか腰とか尻とか言わないっすよね。」


ニコニコとしながらさも当たり前の様な返答をした三浦に、三人はどこかやるせない敗北感を味わったのであった。





おまけ




「なぁ康高。女の子の身体でどこが一番好き?」

「は?」

昼休みが終わり、屋上から帰ってきた隆平が、何やら真剣に間抜けな事を聞いてきて、康高は怪訝な顔をした。
こういう話をする時は大抵鼻の下を伸ばす、と言った顔がぴったりと当て嵌まる隆平が、なぜこんな神妙な面持ちでこんな質問をしてくるのか。

まぁ…おおかた屋上でなにか吹き込まれたのだろう、と見当がついた康高は、大きなため息をつく。

「そんなもんを聞き出してどうしようと言うんだ。」

「いいから!」

どこか焦るように隆平が迫ってきて、顔が近い、と手で押し退けた康高は少し宙を仰ぐと「まぁ…」と考えを巡らせる。

「強いて言えばフトモモかな。」

「っ!!!!!!!!!」

康高の言葉に隆平が何かショックを受けた様な顔をして「くそ!!お前もか!!」と意味不明な言葉を発して悔しそうに机を叩かれ、康高は思いきり怪訝な顔をしたのだった。





おしまい。





おまけのおまけ。

「でも康高がフトモモ好きっていうと、なんかムッツリスケベっぽく聞こえるな。」

「…。」




ほんとにおしまい。




女性の身体で何処が好き?と聞かれて「フトモモ」と答える男は「大人だ…」と尊敬の眼差しを受けるそうです…なんでだろうね。
時系列が分かり難いですが、九条が逃亡最中のある昼の一コマという事で…。
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