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●電車
(罰小話。)



フワフワとした気持ちで、隆平は目が覚めた。

カタンカタンと揺れる電車の中は、夕方でギュウギュウに混んで居た筈なのに、いつの間にか人がまばらになって、同じ車両に離れてぽつぽつと座る人が数人見受けられる程度にまでなっていた。

それをぼんやりと眺めて、隆平はふと自分の身体の右側に大層な重みを感じ、寝ぼけ眼で隣に顔を向けた。
そこには自分に寄り掛かる黒い影。


やすたか


口に出したつもりだったが、自分でも聞こえない程小さな声だった。

隣には、無防備な顔の康高が、隆平に寄り掛かってぐっすりと寝込んで居た。

隆平の覚えて居る限りでは、混雑時偶然空いた席に押し込められ、彼は目の前の吊革に掴まりながら何やら小難しい本を読んで居た筈だが…。

いつの間にか座れたらしい。

康高が電車でうたた寝をするなんて珍しかった。
彼は専ら、電車の心地好いリズムにウトウトとしている隆平を起こすのが毎度の役目だ。
それに、仮に途中隆平が目を覚ましても、康高は大抵起きている。


それが今は、すぅすぅと寝息を立ててなんとも気持ち良さそうに寝ている。

「やすたか」

先程よりも少し大きな声を出してみたが、康高が起きる気配は無い。
頭が覚醒仕切れないまま、隆平もつられて目を閉じると、直ぐに睡魔が訪れる。

またウトウトとしていると、間延びしたアナウンスの声が聞こえて、隆平はうっすらと目を開けた。

そうだ、降りなきゃ行けない駅はどこだったっけ。

ここは何処だろう。


「康高」


睡魔と戦いながら隣りで熟睡している康高の膝を軽く叩く。

「…やすたか」

どうしてこんなに眠いんだろう、と隆平は目を擦るが、頭がトロンとして瞼を閉じてしまいそうになる。

降りなくてはいけないのに。

「…やす…」

呟こうとして、叩いて居た康高の腿に、ぱたりと手を置いた。

もう眠くて眠くてたまらなかった。


カタンカタンと揺れる電車に、隆平は目を閉じる。
アナウンスが何処か遠くに聞こえた。


あったかい。


そう思ったのと同時に、隆平は右側にじんわりと感じる暖かさに、睡魔の原因を見出し、意識を手放した。


夕焼けの中をゆっくりと、電車はカタンカタンと進んで行く。

それはなんとも言えず優しくて、心地好かった。






その後、やっと目覚めた康高が、下車駅から十数箇所も過ぎた小さな駅で隆平を叩き起こしたのは、それから数十分後のことだった。



おしまい。
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