旧サイト拍手お礼文
「あの日あの時あの二人」
その⑧ 三浦と隆平。
「三浦君は、何で不良なんかやってんだ?」
聞かれて、も三浦はきょとん、とした顔をした。
九条が来なくなって三日目の昼休み。
早めに来てしまった屋上で、三浦と隆平は幹部の定位置に座って、ひそひそと話をしていた。
和田が他の組員を制してから、三浦と隆平が二人だけで屋上に来ても、組員達は鋭い目付きで睨んでくるだけで、手を出そうとする者はいない。
突き刺さるような視線に晒されながら、三浦と二人、いつもの場所にちょこんと座る。
できるだけ目立たない様に、と隆平が不良たちに背を向けて座ると、三浦もそれに習って隆平と同じ方へ身体を向けた。
それから三浦は目のあった隆平に、いつもと同じ顔で笑うのだ。
友達に笑いかけるような、人懐っこい顔で。
それを見て、口を付いて出てしまった失礼な質問に、三浦は特に気にした様子も無く、あっさりと「楽しいから」と答えた。
楽しい、と聞いた隆平が「そうかなぁ」と言って眉間に皺を寄せ、首を傾げると、三浦も同じ様に首を傾げた。
「なんで?」
「だって、三浦君って優しいし、なんかあんまり不良っぽくないって言うか…」
「不良だって優しい奴はいっぱいいるぞ。」
「うん、いや、そうなんだけど…イメージ的に…。」
そう言って言葉を濁す隆平の顔を見て、三浦は目をぱちぱちとさせた。
隆平のイメージと言うのは喧嘩や授業をサボる事を意味しているのだろうか。
だが、それとも違う、何か根本的に隆平の言う「不良なんか」というニュアンスに、三浦は浮かんだ疑問を口にした。
「千葉隆平は、不良が嫌い?」
ずばり聞かれて、隆平はう、と口籠る。
自分に良くしてくれる和仁や和田、そして三浦には悪いが、未だ隆平の中で「不良」というカテゴリは「あまり宜しくないもの」として認識されている。
故に、本来なら近付きたく無いし、関わりたくないし、大っ嫌いというのが本音だった。
「なんで嫌い?」
答えずにいると、それを肯定と受け取った三浦が真面目な顔で問いかけてきた。
隆平は少し間をおいて「…うん」と応えた。
「なんか、不良ってさ。おれみたいなの、好きじゃないみたいだから。」
隆平が力無く笑う。
「おれみたいに凡人で、目立たなくて、顔も普通で、喧嘩も強くなくて、地味な奴。そういうのってさ、不良って嫌いじゃん。」
隆平は九条と最初に会った時の事を思い出した。
(あいつもやはり、おれの事を、値踏みした様に見て、「こんな奴」と言った。)
(こんな奴、と。)
思い出して、隆平は胸がぎゅう、となるのを感じる。
おれが一体どういう人間だったら良かったのだろう、と隆平は考えたが、自分はこういう人間で、それ以上の何者でも無い。
だが、それでは自分は「こんな奴」という評価しか得られない。
「なんかさ、そういう不良に囲まれてると、お前に価値なんかねぇって言われてるみたいで…なんか。悲しくなるっていうか。」
隆平が困ったような顔をして笑うと、三浦は気まずそうな顔をして、それからぽつりと呟いた。
「…ごめん」
「え?」
「いや…オレも、こないだまで、お前のこと、そういう風に見てたから」
「あ」
三浦の言葉に隆平は思い出した様に呟いた。
そうだ、三浦もついこの間までは向こうの連中と一緒だったのだ。自分の事を蔑んで、見下していた一人だ。
でも。
「でも、今はオレ、違うから」
三浦は隆平を正面から見据えて、まじめな顔をした。
「今は、お前の力になりたいと思ってっから。」
呟いた三浦に、隆平は黙り込んだ。
この男を蔑んで、見下して、九条と釣り合わないと陰口を叩いて、侮辱した。
許されるとは思っていない。
でも隆平の本質を見て、その心意気に惚れて。
今は九条を崇拝するのと同じくらい、三浦は隆平に心を奪われている。
今はこの少年の一つ一つを知って、そばに居ることが楽しい。
良い奴で、優しくて、でも少し怒りっぽくて、意地っ張りな隆平を、三浦はとても好きだと感じていた。
「…。」
三浦の言葉に隆平は応えなかった。
(…そりゃあそうだよな。だって千葉隆平はオレのこと、まだ信用してねーんだし。)
俯いた三浦は「ジゴージトクだ」とてのひらを握った。
信用されていない、と考えると、なぜかじわりと視界がゆがんだ。
が、次の瞬間、俯いていた三浦の頬に隆平の両手が添えられ、三浦がえ、と思う間も無く、力任せに上を向かされた。
「ぶ」
頬を掴まれて間抜けな顔のまま隆平と視線がぶつかると、隆平は少し怒った様な顔をして、三浦を真っ直ぐに見詰めていた。
「そういうのは、人の眼を見て言ってよ」
ふぇ、と顔を挟まれたままで三浦が間抜けな声を出すと、隆平は少し拗ねたように唇を尖らせた。
「前は前だろ。今の三浦君は、ちゃんとおれに優しいよ。」
「…っ千葉隆平!」
「ぎゃあ!」
隆平の言葉を聞いた、三浦は堪らず隆平に抱きついた。
その瞬間隆平が衝撃でフェンスに頭をぶつけたが、そんな事はお構いなしだ。
「ごめんなぁああああ!!!オレ、今はお前のこと大好きだからなぁああああ!!!」
そう言ってぐりぐりと隆平に頭を擦り付けるようにした三浦を支えながら、隆平は頭の痛みで意識が飛びそうになるのを必死で耐えた。
それでも、しっかりと三浦を抱きとめながら、隆平は思う。
正直言うと、まだ完全に信用しきったわけでは無い。
だからまだ自分からはこの少年のことを友達や仲間だとは思えないし、言えないけど、そういうわだかまりを全部無くして、いつか普通に笑い会える日がくれば、と思う。
この罰ゲームが終わっても、この少年とは一緒に居たい。
だから、今は隆平も三浦が好きだとは言えないけれど。
いつかは。
いつかは、普通の友達みたいに。
おしまい。
おまけ
「でも、あいつらだって、本当は良いヤツらなんだよ、マジで」
「うん」
「あとさ!!九条先輩早く来ると良いな!!」
「いや、それは…。つか重いよ…」
「あ!わりぃ気が付かなかった!はい、じゃあ今度はオレが抱っこしてやるから!」
「抱き合う意外にないのか…」
結局、隆平は三浦に抱きかかえられたまま雑談を交わし、後から来た和田に、白い眼で見られたのは言うまでも無かった。
ほんとにおしまい。
その⑧ 三浦と隆平。
「三浦君は、何で不良なんかやってんだ?」
聞かれて、も三浦はきょとん、とした顔をした。
九条が来なくなって三日目の昼休み。
早めに来てしまった屋上で、三浦と隆平は幹部の定位置に座って、ひそひそと話をしていた。
和田が他の組員を制してから、三浦と隆平が二人だけで屋上に来ても、組員達は鋭い目付きで睨んでくるだけで、手を出そうとする者はいない。
突き刺さるような視線に晒されながら、三浦と二人、いつもの場所にちょこんと座る。
できるだけ目立たない様に、と隆平が不良たちに背を向けて座ると、三浦もそれに習って隆平と同じ方へ身体を向けた。
それから三浦は目のあった隆平に、いつもと同じ顔で笑うのだ。
友達に笑いかけるような、人懐っこい顔で。
それを見て、口を付いて出てしまった失礼な質問に、三浦は特に気にした様子も無く、あっさりと「楽しいから」と答えた。
楽しい、と聞いた隆平が「そうかなぁ」と言って眉間に皺を寄せ、首を傾げると、三浦も同じ様に首を傾げた。
「なんで?」
「だって、三浦君って優しいし、なんかあんまり不良っぽくないって言うか…」
「不良だって優しい奴はいっぱいいるぞ。」
「うん、いや、そうなんだけど…イメージ的に…。」
そう言って言葉を濁す隆平の顔を見て、三浦は目をぱちぱちとさせた。
隆平のイメージと言うのは喧嘩や授業をサボる事を意味しているのだろうか。
だが、それとも違う、何か根本的に隆平の言う「不良なんか」というニュアンスに、三浦は浮かんだ疑問を口にした。
「千葉隆平は、不良が嫌い?」
ずばり聞かれて、隆平はう、と口籠る。
自分に良くしてくれる和仁や和田、そして三浦には悪いが、未だ隆平の中で「不良」というカテゴリは「あまり宜しくないもの」として認識されている。
故に、本来なら近付きたく無いし、関わりたくないし、大っ嫌いというのが本音だった。
「なんで嫌い?」
答えずにいると、それを肯定と受け取った三浦が真面目な顔で問いかけてきた。
隆平は少し間をおいて「…うん」と応えた。
「なんか、不良ってさ。おれみたいなの、好きじゃないみたいだから。」
隆平が力無く笑う。
「おれみたいに凡人で、目立たなくて、顔も普通で、喧嘩も強くなくて、地味な奴。そういうのってさ、不良って嫌いじゃん。」
隆平は九条と最初に会った時の事を思い出した。
(あいつもやはり、おれの事を、値踏みした様に見て、「こんな奴」と言った。)
(こんな奴、と。)
思い出して、隆平は胸がぎゅう、となるのを感じる。
おれが一体どういう人間だったら良かったのだろう、と隆平は考えたが、自分はこういう人間で、それ以上の何者でも無い。
だが、それでは自分は「こんな奴」という評価しか得られない。
「なんかさ、そういう不良に囲まれてると、お前に価値なんかねぇって言われてるみたいで…なんか。悲しくなるっていうか。」
隆平が困ったような顔をして笑うと、三浦は気まずそうな顔をして、それからぽつりと呟いた。
「…ごめん」
「え?」
「いや…オレも、こないだまで、お前のこと、そういう風に見てたから」
「あ」
三浦の言葉に隆平は思い出した様に呟いた。
そうだ、三浦もついこの間までは向こうの連中と一緒だったのだ。自分の事を蔑んで、見下していた一人だ。
でも。
「でも、今はオレ、違うから」
三浦は隆平を正面から見据えて、まじめな顔をした。
「今は、お前の力になりたいと思ってっから。」
呟いた三浦に、隆平は黙り込んだ。
この男を蔑んで、見下して、九条と釣り合わないと陰口を叩いて、侮辱した。
許されるとは思っていない。
でも隆平の本質を見て、その心意気に惚れて。
今は九条を崇拝するのと同じくらい、三浦は隆平に心を奪われている。
今はこの少年の一つ一つを知って、そばに居ることが楽しい。
良い奴で、優しくて、でも少し怒りっぽくて、意地っ張りな隆平を、三浦はとても好きだと感じていた。
「…。」
三浦の言葉に隆平は応えなかった。
(…そりゃあそうだよな。だって千葉隆平はオレのこと、まだ信用してねーんだし。)
俯いた三浦は「ジゴージトクだ」とてのひらを握った。
信用されていない、と考えると、なぜかじわりと視界がゆがんだ。
が、次の瞬間、俯いていた三浦の頬に隆平の両手が添えられ、三浦がえ、と思う間も無く、力任せに上を向かされた。
「ぶ」
頬を掴まれて間抜けな顔のまま隆平と視線がぶつかると、隆平は少し怒った様な顔をして、三浦を真っ直ぐに見詰めていた。
「そういうのは、人の眼を見て言ってよ」
ふぇ、と顔を挟まれたままで三浦が間抜けな声を出すと、隆平は少し拗ねたように唇を尖らせた。
「前は前だろ。今の三浦君は、ちゃんとおれに優しいよ。」
「…っ千葉隆平!」
「ぎゃあ!」
隆平の言葉を聞いた、三浦は堪らず隆平に抱きついた。
その瞬間隆平が衝撃でフェンスに頭をぶつけたが、そんな事はお構いなしだ。
「ごめんなぁああああ!!!オレ、今はお前のこと大好きだからなぁああああ!!!」
そう言ってぐりぐりと隆平に頭を擦り付けるようにした三浦を支えながら、隆平は頭の痛みで意識が飛びそうになるのを必死で耐えた。
それでも、しっかりと三浦を抱きとめながら、隆平は思う。
正直言うと、まだ完全に信用しきったわけでは無い。
だからまだ自分からはこの少年のことを友達や仲間だとは思えないし、言えないけど、そういうわだかまりを全部無くして、いつか普通に笑い会える日がくれば、と思う。
この罰ゲームが終わっても、この少年とは一緒に居たい。
だから、今は隆平も三浦が好きだとは言えないけれど。
いつかは。
いつかは、普通の友達みたいに。
おしまい。
おまけ
「でも、あいつらだって、本当は良いヤツらなんだよ、マジで」
「うん」
「あとさ!!九条先輩早く来ると良いな!!」
「いや、それは…。つか重いよ…」
「あ!わりぃ気が付かなかった!はい、じゃあ今度はオレが抱っこしてやるから!」
「抱き合う意外にないのか…」
結局、隆平は三浦に抱きかかえられたまま雑談を交わし、後から来た和田に、白い眼で見られたのは言うまでも無かった。
ほんとにおしまい。