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「あの日あの時あの二人」
その⑦ 和仁と和田。
「うひょ~今年もまぁガラの悪そ~な連中がたくさん入って来たこと!!」
入学式を終えて校内を徘徊する見慣れない連中を屋上から眺めた和仁は、どこか嬉しそうにその連中を見下ろしながら笑った。
四月。
和仁と和田は神代北工業高校の二年になった。
入学式に出席をしなかった和仁は、すでに新入生の名簿を確保して、せっせと新入生の顔と名前の一致を図っている。
その隣でフェンスに寄りかかりながらプカプカとタバコをふかした和田が、双眼鏡を持った和仁を一瞥して大きなため息をはくと、和仁が「ちょっとちょっと」と、和田を足でつついた。
「和田チャンもちゃんと探してよぉ~面白そうな奴には目ぇ付けてさぁ」
双眼鏡から目を離すこと無く、はい、と、どこからともなく現れたもう一つの双眼鏡を差し出され、和田はゲンナリとした顔で受け取りながら、短くなったタバコを床に押し付けた。
「何やってっかと思えばオモチャ探しか…」
「なんだと思ったのさ」
「虎組のメンバー集めじゃねぇのかよ…」
呆れた和田が新しいタバコを取り出し火を付ける。
そのウンザリした顔を見て、和仁はノンノン、と言いながら相変わらず双眼鏡を覗き、フェンスから乗り出すようにして校舎内や校庭に目を光らせている。
「プラス、かわいい女の子探しだよ~ん。あ、あのこ良いねぇ!いいおしり!!」
名簿をパラパラ捲って名前と顔の確認を取る和仁に、和田ははぁ~、と再度重いため息をついた。
和田が虎組に入り、この大江和仁という男と付き合う様になってからもうすぐ一年になる。
一番最初に対峙した際は、へらへらとしていて、随分とまぁ弱そうな野郎だと思っていたが、それは大きな誤算だった。
赤く揺れる髪が流れるように棚引いて、相手がその鮮やかな髪に目を奪われている合間に、大抵の勝負はついてしまっていた。
その顔は、いつもニコニコとしていて、全く悪意を感じない。
返り血を浴びた顔が無邪気に笑っているのを見たときは、流石の和田も鳥肌が立ったものだ。
自分は九条や和仁と互角の力を持っている、と世間体では言われているが、とんでもねぇ間違いだ、と和田は思う。
初めて和仁と対峙した時、この男が本気では無いと知って、ひどく肝が冷えた事を、和田は今でも鮮明に覚えている。
和仁を見ていると、無邪気な外見とは他に、底知れない闇が渦巻いている様な気がするのだ。
和田は虎組に入ってから、何度も大きな抗争や喧嘩を体験してきたが、やはり和仁の「本気」を見ることは無かった。
それが喧嘩だけでは無く、大江和仁は全ての物事に対して、斜に構えた態度なのだと言うことを、和田は知ることになる。
喧嘩も、女も、友達も。
この男にとっては全て「遊び」なのだ。
「おい、おめぇ一昨日の女どうしたんだよ、二年の。ちょっとぽっちゃりした奴。」
わりと可愛い女子で、一昨日声をかけられた和仁が、その子を大層気に入って、お持ち帰りをしたのはまだ記憶に新しい。
すると和仁は「いやぁ、それがさぁ。」と呟いて、和田の方を見た。
「ガバガバでつまんなかったから一回やって、後はバイブで後ろと前をオレ好みに調教してやろうかと思ったら逃げられちゃった。」
たはは、と笑った和仁に和田は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「…そりゃあ最悪だな」
「ほんとぉ。変な病気移されてないかしらぁ~」
「おめぇがだよ!!この変態!!!」
ごん、と音がするほど思いっきりぶん殴ってやると、痛みに悶えながら転げまわった和仁が「なんでぇ」と非難の声をあげた。
そんな和仁に苛々とした和田は、どかりと床に座り込むと、タバコをくわえて一気に息を吸い込んだ。すると見る見るうちに煙草の柄が焼けて、灰が床に落ちる。
その灰を目で追いながら、和仁は殴られた頭を擦って再び双眼鏡を拾い上げた。
「だめだぜ和田チャン。お堅く考えってっとハゲちゃうよ。」
「だれのせいだと思ってやがんだ…。ふざけんのも大概にしやがれ。」
そう毒づいてやると、和仁はあはは、と声をあげて笑いながら座り込んだ和田を見た。
「ふざけてる?そりゃいいや」
けらけらと笑う和仁に和田が怪訝な顔をすると、和仁は息を整えながら和田を見てニヤ、と笑った。
「和田チャンからそう見えるって事は、オレが人生を楽しんでいる証拠」
「結構結構」と呟きながら、再び双眼鏡を覗き込んだ和仁を見上げ、和田はわずかに目を細めた。
和仁の言葉の真意を図りかねて、和田は眉間に皴を刻み込んだままため息を付いて、背もたれにしていたフェンスにズルズルと寄りかかる。
(あぁ、なんだって俺はこんな奴とつるんでいるんだ…。)
流れる雲を見上げながら、こいつが本気になる瞬間なんてあるんだろうか、と考える。
もし見れるのだとしたら、それはよっぽど大変な事態に陥った時だろうか。
(どんな事態だ、そりゃあ。)
少し考えて、和田は少し背筋が寒くなった気がした。
見たいような気もするが、できれば見ないままの方がこの先平和に暮らせるのではないか。
短くなった煙草を吐き捨てて、新入生の名前を確認して一人はしゃぐ和仁の声を聞きながら、和田はそんなことを静かに思っていた。
おしまい
その⑦ 和仁と和田。
「うひょ~今年もまぁガラの悪そ~な連中がたくさん入って来たこと!!」
入学式を終えて校内を徘徊する見慣れない連中を屋上から眺めた和仁は、どこか嬉しそうにその連中を見下ろしながら笑った。
四月。
和仁と和田は神代北工業高校の二年になった。
入学式に出席をしなかった和仁は、すでに新入生の名簿を確保して、せっせと新入生の顔と名前の一致を図っている。
その隣でフェンスに寄りかかりながらプカプカとタバコをふかした和田が、双眼鏡を持った和仁を一瞥して大きなため息をはくと、和仁が「ちょっとちょっと」と、和田を足でつついた。
「和田チャンもちゃんと探してよぉ~面白そうな奴には目ぇ付けてさぁ」
双眼鏡から目を離すこと無く、はい、と、どこからともなく現れたもう一つの双眼鏡を差し出され、和田はゲンナリとした顔で受け取りながら、短くなったタバコを床に押し付けた。
「何やってっかと思えばオモチャ探しか…」
「なんだと思ったのさ」
「虎組のメンバー集めじゃねぇのかよ…」
呆れた和田が新しいタバコを取り出し火を付ける。
そのウンザリした顔を見て、和仁はノンノン、と言いながら相変わらず双眼鏡を覗き、フェンスから乗り出すようにして校舎内や校庭に目を光らせている。
「プラス、かわいい女の子探しだよ~ん。あ、あのこ良いねぇ!いいおしり!!」
名簿をパラパラ捲って名前と顔の確認を取る和仁に、和田ははぁ~、と再度重いため息をついた。
和田が虎組に入り、この大江和仁という男と付き合う様になってからもうすぐ一年になる。
一番最初に対峙した際は、へらへらとしていて、随分とまぁ弱そうな野郎だと思っていたが、それは大きな誤算だった。
赤く揺れる髪が流れるように棚引いて、相手がその鮮やかな髪に目を奪われている合間に、大抵の勝負はついてしまっていた。
その顔は、いつもニコニコとしていて、全く悪意を感じない。
返り血を浴びた顔が無邪気に笑っているのを見たときは、流石の和田も鳥肌が立ったものだ。
自分は九条や和仁と互角の力を持っている、と世間体では言われているが、とんでもねぇ間違いだ、と和田は思う。
初めて和仁と対峙した時、この男が本気では無いと知って、ひどく肝が冷えた事を、和田は今でも鮮明に覚えている。
和仁を見ていると、無邪気な外見とは他に、底知れない闇が渦巻いている様な気がするのだ。
和田は虎組に入ってから、何度も大きな抗争や喧嘩を体験してきたが、やはり和仁の「本気」を見ることは無かった。
それが喧嘩だけでは無く、大江和仁は全ての物事に対して、斜に構えた態度なのだと言うことを、和田は知ることになる。
喧嘩も、女も、友達も。
この男にとっては全て「遊び」なのだ。
「おい、おめぇ一昨日の女どうしたんだよ、二年の。ちょっとぽっちゃりした奴。」
わりと可愛い女子で、一昨日声をかけられた和仁が、その子を大層気に入って、お持ち帰りをしたのはまだ記憶に新しい。
すると和仁は「いやぁ、それがさぁ。」と呟いて、和田の方を見た。
「ガバガバでつまんなかったから一回やって、後はバイブで後ろと前をオレ好みに調教してやろうかと思ったら逃げられちゃった。」
たはは、と笑った和仁に和田は苦虫を噛み潰した様な顔をした。
「…そりゃあ最悪だな」
「ほんとぉ。変な病気移されてないかしらぁ~」
「おめぇがだよ!!この変態!!!」
ごん、と音がするほど思いっきりぶん殴ってやると、痛みに悶えながら転げまわった和仁が「なんでぇ」と非難の声をあげた。
そんな和仁に苛々とした和田は、どかりと床に座り込むと、タバコをくわえて一気に息を吸い込んだ。すると見る見るうちに煙草の柄が焼けて、灰が床に落ちる。
その灰を目で追いながら、和仁は殴られた頭を擦って再び双眼鏡を拾い上げた。
「だめだぜ和田チャン。お堅く考えってっとハゲちゃうよ。」
「だれのせいだと思ってやがんだ…。ふざけんのも大概にしやがれ。」
そう毒づいてやると、和仁はあはは、と声をあげて笑いながら座り込んだ和田を見た。
「ふざけてる?そりゃいいや」
けらけらと笑う和仁に和田が怪訝な顔をすると、和仁は息を整えながら和田を見てニヤ、と笑った。
「和田チャンからそう見えるって事は、オレが人生を楽しんでいる証拠」
「結構結構」と呟きながら、再び双眼鏡を覗き込んだ和仁を見上げ、和田はわずかに目を細めた。
和仁の言葉の真意を図りかねて、和田は眉間に皴を刻み込んだままため息を付いて、背もたれにしていたフェンスにズルズルと寄りかかる。
(あぁ、なんだって俺はこんな奴とつるんでいるんだ…。)
流れる雲を見上げながら、こいつが本気になる瞬間なんてあるんだろうか、と考える。
もし見れるのだとしたら、それはよっぽど大変な事態に陥った時だろうか。
(どんな事態だ、そりゃあ。)
少し考えて、和田は少し背筋が寒くなった気がした。
見たいような気もするが、できれば見ないままの方がこの先平和に暮らせるのではないか。
短くなった煙草を吐き捨てて、新入生の名前を確認して一人はしゃぐ和仁の声を聞きながら、和田はそんなことを静かに思っていた。
おしまい