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「あの日あの時あの二人」

その②  康高と隆平。



高校の進路は違っていても、おれ達いつまでも友達だからな!!


そう言って卒業式の日に泣きながら叫んだのは記憶に新しい。
おいおいと情けないくらいに泣いてしまって、康高が呆れながら頭を撫でてくれたので、余計に泣いてしまって、散々困らせた。

そうして、別れを告げた男が、今。
新しい高校、新しい教室、新しい隆平の生活の中にいる。
当たり前の様に溶け込んで、隆平の直ぐ隣の席で腰を下ろし、悠々と学校案内パンフレットを眺めている。

「おい、やすたかっ。」

入学式の後、直ぐにHRが始まって話しかけるタイミングが掴めなかった隆平は、声を潜めて康高を呼んだ。

その声に、康高が少し笑ってこちらに顔を向けてきてくれて、隆平は不覚にも泣きそうになって、言葉を詰まらせる。

本当に、本物の康高なんだ。

教室では先生が、高校生活に大事なありがた~い訓示を説法して下さっているが、教室は入学一日目にして三分の一の席が空いていた。
流石不良校。知ってはいたが、想像以上だ。
不良に巻き込まれないには、という話に入った教師の口調が、他に比べて若干熱くなるのは無理もない。

それをいい事に隆平は少し横に乗り出しながら、ひそひそと話し続ける。

「お前、なんでこの学校に居るんだよ。」

「前を向け。十分に聞こえる。」

そう言って黒板を眺めたまま、康高が答えたので、隆平も、黙って前を向いた。

「お前、全寮の松下に行くんじゃなかったのか。」

そう言いながら目線だけで康高を見ると、康高は片手で肘をついたまま、話す事に熱中している先生を眺めながら顔色一つ変えずに「蹴った」と言った。

「けっ…!!?」

「うるさい。」

思わず叫びそうになったのを、康高に遮られ、先生がこちらをチラ、と見たが、ポーカーフェイスな康高を観て、直ぐ話の続きを説法し始めた。
それにドキドキとしながら、隆平は声を更に低くして怪訝な顔をする。

「なんでっ」

問われて、康高は視線だけ隆平に向けると、意地悪く笑った。

「さぁ、どうしてでしょう。」

その顔を見て、隆平は胡乱な目付きをすると、康高を眺めた。

「あんまり性悪で入学拒否されたとか…。」

「お前にしてはいい線行っているな。」

おぉ、と隆平が嬉しそうにするのに顔色を変えず、康高は「全く違うけど」と付け加えて、たちまち隆平の顔が引きつった。

「じゃあ何でだよ。」

少し苛々としながら聞きだす隆平の顔をちら、と見ると、康高は微かに笑って、秘密、と答えた。
その憎たらしい表情を見て、隆平は苦虫を噛み潰した様な顔をすると、なんだよお前、と毒づいた。
そうして弧を描く康高の顔を見て、隆平はふ、と気がつく。

「つうか、前髪切んないの?顔がよく見えねぇよ。」

中学を卒業した時も大分伸びていたが、今では、康高の前髪は眼鏡を半分隠す位に伸びきっていて、彼の表情を隠してしまっていた。
カッコいいのに、勿体無い事をする。

「あぁ、このまま。」

「何で。オタクみたいだぞ。」

「オタクに見えるか。そいつは結構。俺は高校三年間はオタクキャラで行くつもりなんでな。」

康高が爆弾発言をさらりと零して、隆平は固まった。

「お前、どうしちゃったわけ?」

声を潜めて聞くと、康高はニヤニヤと笑いながら隆平を見ている。完全に困惑している隆平を見て楽しんでいる。
隆平は何が何やらチンプンカンプン、という顔をしていたが、そんな隆平に、康高は今まで前を向いていた顔を、少しだけ隆平に向けて笑った。

「なんだよお前。俺と一緒で嬉しくないのか?」

そう言われて、隆平は思わず、しまりの無い顔で笑ってしまった。
今まで我慢していた気持ちが漏れて、緩んでしまう。

「ばかっ」

今にも大笑いしたい。耐えていた感情が溢れて、話す言葉が上ずった。

嬉しくないのか、だって。

この高校の三年間、また一緒に居られる。
入学式も、遠足も、体育祭も、文化祭も、修学旅行も、毎日の昼ごはんも、登校下校、みんな、みんな、また康高が隣に居て、康高と同じ時間を過ごす事が出来る。

「超嬉しいに決まってるだろっ。今すぐやったー!!って大声で叫びたいっ」

そう言って前の生徒に隠れながら、机に伏す様にして笑った隆平を見て、康高は優しく目を細めたが、隆平には見えていなかった。
堪えられないのか、ふふ、と笑っていた隆平は、前をちらっと確認してから、康高に拳を突き出した。

二人で居れば怖いものはない。

「また、三年間、よろしくなっ」

そう、小さな声で言った隆平に、康高は声無く笑って、隆平に応えるように、自分の拳を隆平の拳に軽くぶつけた。



おしまい 2008.6/1~6/8
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