パラレル兄弟
さて、一方小学校では。
兄弟を置いていった大雅は遅刻を免れ、授業も滞り無く受けていた。
彼の頭には、置いていった兄弟の心配などは欠片も無い。
いつも通り友達とふざけながら、おおいに学校生活を満喫していた。
そして昼休み、野球をしようと仲間と教室から飛び出た大雅は、上着のポケットに入れていたケータイが震えたのに気が付いて、不意に立ち止まる。
誰だろう、と護身用に持たされているキッズケータイのディスプレイを開いてみると、そこには新着メール有り、との表示。
「げ。」
そこに表示された名前を見て、大雅は眉を顰めた。
メールの送り主は宗一郎で、メールには簡潔に「今日7時間目まで授業。隆平たのむ。」と書いてあった。
瞬間、大雅は一気に気分が落ち込んだ。高校が7時間目まであるという事は、宗一郎が家に帰るのは早くても大体六時半ぐらい。それまであの愚弟の面倒を見てやらなければならない。
と、いうことは…
「迎えも俺が行くのかよ。」
クソ、と怒り任せにケータイを閉じると、急に立ち止まった大雅の元へ戻ってきた友達が「早くしろよー」と急かしたので、大雅は不機嫌そうに顔を歪め、怒り任せに持っていたグローブをその友達に投げ付けた。
「何すんだよ‼大雅‼」
「うっせーな。」
そう言って目を細めると、他の友達が「また弟の迎えか?」とニヤニヤしながら聞いて来たので、大雅は深いため息を吐き、片手でケータイを弄りながら答えた。
「家から近いのに、わざわざ迎えに行く意味がわかんねぇ。」
大体今日は友達みんなで集まってゲームをする予定だったのに余計な仕事させんなよな、と苛々しながら大雅はケータイ電話を睨み付ける。
「えーオレは妹とか弟居るのがうらやましいけどな。ちっちゃい子って可愛いじゃん。」
兄弟のいない友達の暢気な言葉に、大雅は苦々しい顔をした。
「全然可愛くねーよ。今日も俺のシャツヨダレまみれにするし、すげーバカだし。一緒に居るとめちゃくちゃ疲れる。」
「またまた。」
「正直マジでどっかに消えてくれれば楽なのに、って毎日思って、ブッ⁉」
彼の言葉が終わるか終わらないかの所で、スパンッ、と気持ちの良い音が廊下に響いたかと思うと、大雅の頭に激痛が走った。
思わずケータイを握ったまま頭を押さえて後ろを振り向くと、そこには長身の男が出席簿で、肩をトントンと叩きながら大雅を見下ろしていた。
その涼しげな顔を見て、大雅は鋭い目付きで男を睨み、ほぼ反射的に怒鳴り声を上げる。
「いってー‼何すんだ暴力メガネ!!」
「メガネじゃなくて、『比企先生』だろ。」
噛み付いてきた大雅を軽くあしらったのは彼らの担任、比企康高だった。
康高は未だ頭を押さえている大雅を見据えると、首を少し傾げる。
「…なんだよ。」
不機嫌なオーラを隠そうともせず、上背がある康高を射殺すばかりに睨みつけてくる大雅に、康高は溜息をついた。
「俺がお前を叩いた理由が分かってるのか?」
「知るかよ、バーカ。」
悪態をつきながら、大雅は先ほど弟のことを消えればいい、と言った事を思い出した。
「弟の事かよ。」
そんな事をたかだか担任の教師に諭される謂れは無い。
盛大に顔を顰めた大雅に、康高は少々間を置くと、無言で大きな掌を大雅の頭の上に手を伸ばした。
「!」
大雅は一瞬殴られるかと思って身構えたが痛みはなく、ただ掌から何かサッと抜き取られた。
あれ、と思い康高を見ると、彼は青とオレンジ色の小さな機械を手に持ってニヤリと笑った。
「学校内でのケータイの使用は緊急時を除き、禁止。」
没収、と言って人の悪い笑みを零した康高は踵を返して廊下の曲がり角を曲がっていってしまった。
それを見送った大雅と友人達は。ポカンとしたままその背中を見送ったのだった。
兄弟を置いていった大雅は遅刻を免れ、授業も滞り無く受けていた。
彼の頭には、置いていった兄弟の心配などは欠片も無い。
いつも通り友達とふざけながら、おおいに学校生活を満喫していた。
そして昼休み、野球をしようと仲間と教室から飛び出た大雅は、上着のポケットに入れていたケータイが震えたのに気が付いて、不意に立ち止まる。
誰だろう、と護身用に持たされているキッズケータイのディスプレイを開いてみると、そこには新着メール有り、との表示。
「げ。」
そこに表示された名前を見て、大雅は眉を顰めた。
メールの送り主は宗一郎で、メールには簡潔に「今日7時間目まで授業。隆平たのむ。」と書いてあった。
瞬間、大雅は一気に気分が落ち込んだ。高校が7時間目まであるという事は、宗一郎が家に帰るのは早くても大体六時半ぐらい。それまであの愚弟の面倒を見てやらなければならない。
と、いうことは…
「迎えも俺が行くのかよ。」
クソ、と怒り任せにケータイを閉じると、急に立ち止まった大雅の元へ戻ってきた友達が「早くしろよー」と急かしたので、大雅は不機嫌そうに顔を歪め、怒り任せに持っていたグローブをその友達に投げ付けた。
「何すんだよ‼大雅‼」
「うっせーな。」
そう言って目を細めると、他の友達が「また弟の迎えか?」とニヤニヤしながら聞いて来たので、大雅は深いため息を吐き、片手でケータイを弄りながら答えた。
「家から近いのに、わざわざ迎えに行く意味がわかんねぇ。」
大体今日は友達みんなで集まってゲームをする予定だったのに余計な仕事させんなよな、と苛々しながら大雅はケータイ電話を睨み付ける。
「えーオレは妹とか弟居るのがうらやましいけどな。ちっちゃい子って可愛いじゃん。」
兄弟のいない友達の暢気な言葉に、大雅は苦々しい顔をした。
「全然可愛くねーよ。今日も俺のシャツヨダレまみれにするし、すげーバカだし。一緒に居るとめちゃくちゃ疲れる。」
「またまた。」
「正直マジでどっかに消えてくれれば楽なのに、って毎日思って、ブッ⁉」
彼の言葉が終わるか終わらないかの所で、スパンッ、と気持ちの良い音が廊下に響いたかと思うと、大雅の頭に激痛が走った。
思わずケータイを握ったまま頭を押さえて後ろを振り向くと、そこには長身の男が出席簿で、肩をトントンと叩きながら大雅を見下ろしていた。
その涼しげな顔を見て、大雅は鋭い目付きで男を睨み、ほぼ反射的に怒鳴り声を上げる。
「いってー‼何すんだ暴力メガネ!!」
「メガネじゃなくて、『比企先生』だろ。」
噛み付いてきた大雅を軽くあしらったのは彼らの担任、比企康高だった。
康高は未だ頭を押さえている大雅を見据えると、首を少し傾げる。
「…なんだよ。」
不機嫌なオーラを隠そうともせず、上背がある康高を射殺すばかりに睨みつけてくる大雅に、康高は溜息をついた。
「俺がお前を叩いた理由が分かってるのか?」
「知るかよ、バーカ。」
悪態をつきながら、大雅は先ほど弟のことを消えればいい、と言った事を思い出した。
「弟の事かよ。」
そんな事をたかだか担任の教師に諭される謂れは無い。
盛大に顔を顰めた大雅に、康高は少々間を置くと、無言で大きな掌を大雅の頭の上に手を伸ばした。
「!」
大雅は一瞬殴られるかと思って身構えたが痛みはなく、ただ掌から何かサッと抜き取られた。
あれ、と思い康高を見ると、彼は青とオレンジ色の小さな機械を手に持ってニヤリと笑った。
「学校内でのケータイの使用は緊急時を除き、禁止。」
没収、と言って人の悪い笑みを零した康高は踵を返して廊下の曲がり角を曲がっていってしまった。
それを見送った大雅と友人達は。ポカンとしたままその背中を見送ったのだった。