事を慮ること深遠なれば
「逆に分かりやすくて助かる。餅は餅屋ってことだ。」
そう言いながら、小五郎がどこかに電話をかけはじめる。顧客がどうだの販売元の特定がどうだのと早口で捲し立てている。目まぐるしい展開に通武と東風は口を挟む暇もない。
ただ通武が「どういうことだ。」と小声で東風に訊ねると彼は神妙な面持ちで、「需要があったってことだよね。」と返答した。
「俺の下着に…需要が?」
「さむらいさん…たくさんラブレター貰ってた。」
「好意を伝えることと、下着が欲しいのは別だろう。」
「そんなことないよ。」
そう言うと東風はおもむろに自分の部屋へ向かった。後ろでは小五郎が「それをどうにかすんのがてめえの仕事だろうが‼」と怒鳴っている声が聞こえる。
「てめえ…去年マトリにパクられそうになった時、誰が面倒みてやったと思ってんだ⁉︎てめえにフダが出ねぇように、とんでもねえ金額出してやったよなあ‼︎ブタ箱より怖ぇとこにぶち込んでやろうか⁉︎あぁ⁉︎」
専門用語だらけで何を喋っているのかは分からないが、彼が電話越しの誰かを脅している、ということだけは通武にもわかった。小五郎が悪い顔で笑っているのが目に入ったからだ。
小五郎を怪訝な顔で見ていると、東風が自室から何やら両腕に大量の紙を抱えて戻ってきた。東風はその色とりどりの紙を通武の前に持ってくると、床へ座るように促してくる。
一体なんなんだ、とぼやきながら通武が床へ座る。
「…見覚えがあるな。」
東風が持ってきたのは、まだ入学して間もない頃、自分宛だと渡されたラブレターたちだった。忘れてはいけないのは全て同じ学校の男子からの恋文であり、通武は中身もろくに見ず、受取を拒否した。その後は東風が落書き用に貰っていったものと記憶している。その証拠に手紙の裏にはすでに東風のスケッチらしきものが描かれているものが多数見受けられた。
「ほら、これ。」
その手紙の中から一枚を抜き出し、東風が通武に差し出したのはピンクの便箋だった。それを渋々受け取った通武が、仕方なく内容に目を通す。そこには想像通り自分への愛の告白などが綴られていたが、最後の一文が目に入り通武は絶句した。
『もし、どうしてもだめなら、思い出に久坂くんのTシャツを一枚くれませんか。それで諦めたいと思います。もちろん洗濯していなくて大丈夫です。久坂くんの匂いに包まれたいので。』
「ギャ――――‼」
通武が恐怖のあまり手紙を投げ捨てて絶叫すると、東風が別の手紙をセレクトして朗読をはじめた。
「『久坂様の洗っていない靴下をいただけませんか。癖になりそうな匂いで興奮します。』」
「やめろおおおおお‼やめてくれえええ‼」
通武の悲痛な叫びが部屋に響く。全く知りたくない情報のオンパレードが通武のピュアな心に襲い掛かる。通武の絶叫を合図に、急に背後で電話をする小五郎が「おーおー、わかりゃいいんだよ。」と声を弾ませた。どうやら電話の向こう側の相手が、小五郎の背後から聞こえる叫び声に何か勘違いをしたようである。その後、東風の朗読と通武の絶叫をBGMに、小五郎の電話での取引はとんとん拍子に決まったようで、そこから間もなく小五郎は電話を終了した。
「でかした。気が利くじゃねえか。」
小五郎は珍しく上機嫌で通武と東風の間にしゃがみ込むと、二人の肩を労うように叩いた。
「おかげでそのスジから格安で情報提供してもらえることになった。」
どんなスジだ、と通武が若干引いていると、小五郎は「それで?」と二人に問いかけた。
「なんかおもしれーことしてたじゃねえか。」
「これです。」
「おいやめろ。」
通武の制止も虚しく、通武への恋文の内容が暴かれ、小五郎がいかにも意地悪そうな顔でニヤニヤと笑った。
「みろよ。こいつなんてイケんじゃねえのか。ワンナイトOKだってよ。後腐れなくて良いぞ。」
「良いわけあるか‼」
「硬ぇなあ。」
ハッと鼻で笑われ、通武は苦々しい顔をする。思い返せばこの男は件のラブレターを受け取り、その中からセフレ採用を行ったサイコパスヤクザだ。己と同じ倫理観を共有するのは無理というもの。
「高杉も同様だ。」と通武は苦虫を噛み潰したような顔をした。
そもそも他人宛のラブレターの内容を読み込むだろうか。それこそモラルが欠如している、と一人憤慨する通武を他所に、小五郎と東風は「パンツ、タオル、歯ブラシ。」と便箋を捲りながら言葉を羅列してゆくが、通武はそれがなんの意味を持つのか考えたくもなかった。
「思ってたよりも需要があるもんだ。こりゃ外部への販路と同様に、学園内にも小規模ながら販売ルートがあるか調べる必要がありそうだぜ。」
こいつなんて値段提示してやがる、と小五郎は呆れたように笑って手紙の差出人を確認した。
そこから閉口する。小五郎の様子を不思議に思った通武と東風が彼の手元を覗き込む。
その差出人欄には「吉田栄太」という名前が記されていた。
そう言いながら、小五郎がどこかに電話をかけはじめる。顧客がどうだの販売元の特定がどうだのと早口で捲し立てている。目まぐるしい展開に通武と東風は口を挟む暇もない。
ただ通武が「どういうことだ。」と小声で東風に訊ねると彼は神妙な面持ちで、「需要があったってことだよね。」と返答した。
「俺の下着に…需要が?」
「さむらいさん…たくさんラブレター貰ってた。」
「好意を伝えることと、下着が欲しいのは別だろう。」
「そんなことないよ。」
そう言うと東風はおもむろに自分の部屋へ向かった。後ろでは小五郎が「それをどうにかすんのがてめえの仕事だろうが‼」と怒鳴っている声が聞こえる。
「てめえ…去年マトリにパクられそうになった時、誰が面倒みてやったと思ってんだ⁉︎てめえにフダが出ねぇように、とんでもねえ金額出してやったよなあ‼︎ブタ箱より怖ぇとこにぶち込んでやろうか⁉︎あぁ⁉︎」
専門用語だらけで何を喋っているのかは分からないが、彼が電話越しの誰かを脅している、ということだけは通武にもわかった。小五郎が悪い顔で笑っているのが目に入ったからだ。
小五郎を怪訝な顔で見ていると、東風が自室から何やら両腕に大量の紙を抱えて戻ってきた。東風はその色とりどりの紙を通武の前に持ってくると、床へ座るように促してくる。
一体なんなんだ、とぼやきながら通武が床へ座る。
「…見覚えがあるな。」
東風が持ってきたのは、まだ入学して間もない頃、自分宛だと渡されたラブレターたちだった。忘れてはいけないのは全て同じ学校の男子からの恋文であり、通武は中身もろくに見ず、受取を拒否した。その後は東風が落書き用に貰っていったものと記憶している。その証拠に手紙の裏にはすでに東風のスケッチらしきものが描かれているものが多数見受けられた。
「ほら、これ。」
その手紙の中から一枚を抜き出し、東風が通武に差し出したのはピンクの便箋だった。それを渋々受け取った通武が、仕方なく内容に目を通す。そこには想像通り自分への愛の告白などが綴られていたが、最後の一文が目に入り通武は絶句した。
『もし、どうしてもだめなら、思い出に久坂くんのTシャツを一枚くれませんか。それで諦めたいと思います。もちろん洗濯していなくて大丈夫です。久坂くんの匂いに包まれたいので。』
「ギャ――――‼」
通武が恐怖のあまり手紙を投げ捨てて絶叫すると、東風が別の手紙をセレクトして朗読をはじめた。
「『久坂様の洗っていない靴下をいただけませんか。癖になりそうな匂いで興奮します。』」
「やめろおおおおお‼やめてくれえええ‼」
通武の悲痛な叫びが部屋に響く。全く知りたくない情報のオンパレードが通武のピュアな心に襲い掛かる。通武の絶叫を合図に、急に背後で電話をする小五郎が「おーおー、わかりゃいいんだよ。」と声を弾ませた。どうやら電話の向こう側の相手が、小五郎の背後から聞こえる叫び声に何か勘違いをしたようである。その後、東風の朗読と通武の絶叫をBGMに、小五郎の電話での取引はとんとん拍子に決まったようで、そこから間もなく小五郎は電話を終了した。
「でかした。気が利くじゃねえか。」
小五郎は珍しく上機嫌で通武と東風の間にしゃがみ込むと、二人の肩を労うように叩いた。
「おかげでそのスジから格安で情報提供してもらえることになった。」
どんなスジだ、と通武が若干引いていると、小五郎は「それで?」と二人に問いかけた。
「なんかおもしれーことしてたじゃねえか。」
「これです。」
「おいやめろ。」
通武の制止も虚しく、通武への恋文の内容が暴かれ、小五郎がいかにも意地悪そうな顔でニヤニヤと笑った。
「みろよ。こいつなんてイケんじゃねえのか。ワンナイトOKだってよ。後腐れなくて良いぞ。」
「良いわけあるか‼」
「硬ぇなあ。」
ハッと鼻で笑われ、通武は苦々しい顔をする。思い返せばこの男は件のラブレターを受け取り、その中からセフレ採用を行ったサイコパスヤクザだ。己と同じ倫理観を共有するのは無理というもの。
「高杉も同様だ。」と通武は苦虫を噛み潰したような顔をした。
そもそも他人宛のラブレターの内容を読み込むだろうか。それこそモラルが欠如している、と一人憤慨する通武を他所に、小五郎と東風は「パンツ、タオル、歯ブラシ。」と便箋を捲りながら言葉を羅列してゆくが、通武はそれがなんの意味を持つのか考えたくもなかった。
「思ってたよりも需要があるもんだ。こりゃ外部への販路と同様に、学園内にも小規模ながら販売ルートがあるか調べる必要がありそうだぜ。」
こいつなんて値段提示してやがる、と小五郎は呆れたように笑って手紙の差出人を確認した。
そこから閉口する。小五郎の様子を不思議に思った通武と東風が彼の手元を覗き込む。
その差出人欄には「吉田栄太」という名前が記されていた。
