朝三暮四
「絞りだすって?」
「まず残っている中で、一年普通科の部屋は除外する。」
「え、なんで?」
「調査済みだ。」
小五郎が呟きながら1年普通科の在室欄に赤ペンで×をつける。その返答にカオルが通武に視線を送ると、彼も神妙な顔をして頷いてみせた。
「夜間中に検めさせてもらった。」
「なるほど…真夜中に大樹から連絡が来たのはそれか~…。」
はは、とカオルが乾いた笑い声を出して遠い目をした。
俊輔の同室の奴らが押し入ってきた!とグループトークに畑中少年から悲痛なメッセージが流れてきたのは記憶に新しい。これは何か事態が動いていることを確信したカオルは本日寮へ帰ることを決心したのだ。
「俺はまんまと釣られたってわけだ。」
「は、嬉しいねえ。撒き餌した甲斐があるってもんだぜ。」
鼻で笑った小五郎へ恨みがましい視線を送ったカオルに、紅茶を飲んでいた栄太がため息を漏らした。同室者がまんまと小五郎の企みにかかってしまったことが不服らしい。
「短慮は愚かだよ。お前はもっと悪賢くならないとね、カオル。」
「素直な俺を評価してくれよ…。」
不本意ではあるが、こうやって協力体制を取れたのはカオルが行動を起こしたからに他ならない。違う?とカオルが情けない顔をしたが、栄太はもうカオルから視線を外してゆっくりと紅茶を味わっている。そんなやり取りをしていると、「できたぞ。」と小五郎から声がかかった。
彼の言葉にカオルをはじめ通武、山縣が頭を寄せ合って用紙を覗き込む。
「…1階フロアの線が消えたな。残っているのはほとんど2、3年生…学科もバラバラか。」
カオルの発言に小五郎が顔をあげた。
「あいつは、上級生との接触はあるのか?」
「いや…どうだろう。俊輔、部活には入ってないし、食事や掃除の当番ぐらいにちょっと喋るだけだと思うけど…。ストーカー的にはどう?」
カオルが問うと、山縣がいつもよりキリッとした表情でハキハキと応える。
「俺調べによると接触はほとんど無いな。あったとしても一方的にお前ら同室者のことで絡まれているのが大半だ。ちなみに伊藤に害を成した連中のリストなら俺の部屋にあるぞ。」
「こわっ。俺調べってなに?」
さも当たり前のように答えた山縣に、話を振った張本人のカオルが顔を引き攣らせる。当の山縣は明後日の方向を見ながら「大丈夫だよ安心してくれ伊藤。俺がギュッと抱きしめてそっと口付けてやるからなはぁはぁはぁはぁ。」と幻想の俊輔と会話しているようだ。「やめろ‼こえーから‼」と喚くカオルを尻目に、通武は眉を顰めてみせた。
「一方的な悪意ならある、か。だがそれがあいつを連れ去る理由になるだろうか。」
「さあな。」
そう言いながら小五郎は俊輔のケータイを操作しながら連絡先一覧を確認する。だがリストの中に候補の2、3年生の名前は誰一人としてない。小五郎があまりにも躊躇なく人のケータイを操作するので、カオルは少々居たたまれない気持ちで声をかけた。
「なあ、あんまり人のケータイをいじくるなよ。いくら本人が居ないからって、プライバシーがあるだろ。」
「不可抗力だ。この中にあの気狂い野郎が必死で回収したがっている“何か”があるはずだ。」
「そりゃそうだろうけど…。誰にでもあるじゃん…人に見られたくないものとかさあ…。」
カオルが浮かない表情をしてみせると、通武が?を沢山浮かべて首を傾げた。それを見たカオルが「久坂くん無いの?」と訝し気な表情をすると通武は頷いた。
「無いな。設定が分からなくなったり、もとの画面に戻せず人に見てもらう機会も多い。集合写真も送ると言われるが保存の仕方もよく分からん。そもそも連絡を取るのと時間を見る以外、何に使うんだ。」
「シニアじゃん‼」
嘘だろ⁉と驚嘆するカオルと山縣の横で小五郎がケータイを操作しながら悪どい笑みを浮かべた。俊輔のケータイの画像を漁っていたらしい小五郎は、通武の前にケータイの画面を差し出しながら「こういうことだよ、クソ眼鏡。」と意地の悪い顔をしてみせた。
「ん?」
その画面を覗き込んだ通武は途端にビシッと固まったかと思うと、そのまま物凄い勢いで後ずさり、勢い余って壁に激突した。
そこには美女たちの、それはそれはあられもない姿の写真が映し出されていた。
「久々に見たが悪くねえ。男も良いが啼かすなら女が一番だ。っつーかこいつセーラー服好きだな。部屋のエロ本も制服特集だったわ。童貞丸わかりの趣味がすげえ。」
可笑しくてたまらない、という表情の小五郎に対して山縣は画像を見てスン、としたままカオルの肩を叩いた。
「なぁカオル…この画像よりかだったら、まだお前の方が魅力あるぞ。」
それにどう返答してよいか分からず、カオルは心を無にして遠い目をするほかなかった。ただひたすらに「すまねえ俊輔…お前のおかずは今、日の下にさらされている…」と俊輔への謝罪を繰り返した。その羞恥たるや彼の心中を察するに涙を禁じ得ない。
カオルが俊輔への謝罪を繰り返していると、小五郎が一通り画像を漁ったあと、怪訝な顔をする。
「少し良いか。てめぇらみてーな童貞が画像フォルダに慰め用のエロ画像を大量に保管することは分かった。」
「もうやめてあげてくれよお‼」
泣きながら床に突っ伏したカオルに、小五郎は「だが」と言葉を発する。
「エロ画像のみってのは、妙じゃねえか?」
「…は?」
「“普通”はもっと、好きなモンや興味があるモンや、それこそダチの写真なんか撮るもんじゃねぇのかよ。それにな、井上。」
小五郎の言葉にカオルが顔をあげる。彼は先ほどの人の悪い笑みを消して、どこか訝しげな表情だ。
「連絡先のリストに、てめぇの名前がねえぞ、このケータイ。」
「まず残っている中で、一年普通科の部屋は除外する。」
「え、なんで?」
「調査済みだ。」
小五郎が呟きながら1年普通科の在室欄に赤ペンで×をつける。その返答にカオルが通武に視線を送ると、彼も神妙な顔をして頷いてみせた。
「夜間中に検めさせてもらった。」
「なるほど…真夜中に大樹から連絡が来たのはそれか~…。」
はは、とカオルが乾いた笑い声を出して遠い目をした。
俊輔の同室の奴らが押し入ってきた!とグループトークに畑中少年から悲痛なメッセージが流れてきたのは記憶に新しい。これは何か事態が動いていることを確信したカオルは本日寮へ帰ることを決心したのだ。
「俺はまんまと釣られたってわけだ。」
「は、嬉しいねえ。撒き餌した甲斐があるってもんだぜ。」
鼻で笑った小五郎へ恨みがましい視線を送ったカオルに、紅茶を飲んでいた栄太がため息を漏らした。同室者がまんまと小五郎の企みにかかってしまったことが不服らしい。
「短慮は愚かだよ。お前はもっと悪賢くならないとね、カオル。」
「素直な俺を評価してくれよ…。」
不本意ではあるが、こうやって協力体制を取れたのはカオルが行動を起こしたからに他ならない。違う?とカオルが情けない顔をしたが、栄太はもうカオルから視線を外してゆっくりと紅茶を味わっている。そんなやり取りをしていると、「できたぞ。」と小五郎から声がかかった。
彼の言葉にカオルをはじめ通武、山縣が頭を寄せ合って用紙を覗き込む。
「…1階フロアの線が消えたな。残っているのはほとんど2、3年生…学科もバラバラか。」
カオルの発言に小五郎が顔をあげた。
「あいつは、上級生との接触はあるのか?」
「いや…どうだろう。俊輔、部活には入ってないし、食事や掃除の当番ぐらいにちょっと喋るだけだと思うけど…。ストーカー的にはどう?」
カオルが問うと、山縣がいつもよりキリッとした表情でハキハキと応える。
「俺調べによると接触はほとんど無いな。あったとしても一方的にお前ら同室者のことで絡まれているのが大半だ。ちなみに伊藤に害を成した連中のリストなら俺の部屋にあるぞ。」
「こわっ。俺調べってなに?」
さも当たり前のように答えた山縣に、話を振った張本人のカオルが顔を引き攣らせる。当の山縣は明後日の方向を見ながら「大丈夫だよ安心してくれ伊藤。俺がギュッと抱きしめてそっと口付けてやるからなはぁはぁはぁはぁ。」と幻想の俊輔と会話しているようだ。「やめろ‼こえーから‼」と喚くカオルを尻目に、通武は眉を顰めてみせた。
「一方的な悪意ならある、か。だがそれがあいつを連れ去る理由になるだろうか。」
「さあな。」
そう言いながら小五郎は俊輔のケータイを操作しながら連絡先一覧を確認する。だがリストの中に候補の2、3年生の名前は誰一人としてない。小五郎があまりにも躊躇なく人のケータイを操作するので、カオルは少々居たたまれない気持ちで声をかけた。
「なあ、あんまり人のケータイをいじくるなよ。いくら本人が居ないからって、プライバシーがあるだろ。」
「不可抗力だ。この中にあの気狂い野郎が必死で回収したがっている“何か”があるはずだ。」
「そりゃそうだろうけど…。誰にでもあるじゃん…人に見られたくないものとかさあ…。」
カオルが浮かない表情をしてみせると、通武が?を沢山浮かべて首を傾げた。それを見たカオルが「久坂くん無いの?」と訝し気な表情をすると通武は頷いた。
「無いな。設定が分からなくなったり、もとの画面に戻せず人に見てもらう機会も多い。集合写真も送ると言われるが保存の仕方もよく分からん。そもそも連絡を取るのと時間を見る以外、何に使うんだ。」
「シニアじゃん‼」
嘘だろ⁉と驚嘆するカオルと山縣の横で小五郎がケータイを操作しながら悪どい笑みを浮かべた。俊輔のケータイの画像を漁っていたらしい小五郎は、通武の前にケータイの画面を差し出しながら「こういうことだよ、クソ眼鏡。」と意地の悪い顔をしてみせた。
「ん?」
その画面を覗き込んだ通武は途端にビシッと固まったかと思うと、そのまま物凄い勢いで後ずさり、勢い余って壁に激突した。
そこには美女たちの、それはそれはあられもない姿の写真が映し出されていた。
「久々に見たが悪くねえ。男も良いが啼かすなら女が一番だ。っつーかこいつセーラー服好きだな。部屋のエロ本も制服特集だったわ。童貞丸わかりの趣味がすげえ。」
可笑しくてたまらない、という表情の小五郎に対して山縣は画像を見てスン、としたままカオルの肩を叩いた。
「なぁカオル…この画像よりかだったら、まだお前の方が魅力あるぞ。」
それにどう返答してよいか分からず、カオルは心を無にして遠い目をするほかなかった。ただひたすらに「すまねえ俊輔…お前のおかずは今、日の下にさらされている…」と俊輔への謝罪を繰り返した。その羞恥たるや彼の心中を察するに涙を禁じ得ない。
カオルが俊輔への謝罪を繰り返していると、小五郎が一通り画像を漁ったあと、怪訝な顔をする。
「少し良いか。てめぇらみてーな童貞が画像フォルダに慰め用のエロ画像を大量に保管することは分かった。」
「もうやめてあげてくれよお‼」
泣きながら床に突っ伏したカオルに、小五郎は「だが」と言葉を発する。
「エロ画像のみってのは、妙じゃねえか?」
「…は?」
「“普通”はもっと、好きなモンや興味があるモンや、それこそダチの写真なんか撮るもんじゃねぇのかよ。それにな、井上。」
小五郎の言葉にカオルが顔をあげる。彼は先ほどの人の悪い笑みを消して、どこか訝しげな表情だ。
「連絡先のリストに、てめぇの名前がねえぞ、このケータイ。」