禍を転じて福となす
「カオルー…てめぇオレを出し抜いたな…。」
「うるせーな、誰も俊輔がこんなとこにいるとは思わねぇし、真っ先にお菓子コーナーへ走っていったお前が悪いんだろーが。大体お前とは俊輔に対する気持ちの面で既にベクトルが違うんだよ。」
ウザそうな顔をして耳の穴に指を突っ込んだダニエルと反対に、その少年は形の良い眉を顰めると唸るような声を発した。
そんな二人のやり取りを見た俊輔が少し戸惑いがちにダニエルを呼ぶ。
「ダニエル…」
その声に「あっ」と気が付いたような顔をしたダニエルは少し困ったように笑うと「わりぃ」と零した。俊輔を放って、彼が少し寂しそうな顔をしていたのに気が付いたのである。だが、彼が怪訝な顔をしたのはダニエルが知らない誰かと親しく話しをしていたからではなかった。
「…お前さ、カオルって名前だったんだな…。」
「そこかー!!!!」
寂しげな表情をする俊輔にダニエルは「お前が知らないわけねぇだろー!!!」と怒鳴ると俊輔はしれっと「怒るなよ、ジョークだよ」と言ってのけた。
それを見た茶髪少年は「な、仲よさげにして…!!」と益々顔を歪める。そんな茶髪少年にダニエルはハァ、と溜息をつくと「あー…」と声を出し、俊輔を見た。
「俊輔…こいつは…えーとあんまり紹介したくないんだけど…。」
「なんだとてめぇ!!しっかり…!しっかり紹介しろ!!」
なぜか必死にダニエルの肩を揺さぶる茶髪少年は、よくよく見るとなかなか整った顔をしており、雰囲気で言うと某少年事務所に居いそうな甘く爽やかな容姿であったが、とびきり美形というわけでもなく、どこか親近感の沸く顔をしていた。
そんな彼の観察をまじまじとしていると、ダニエルが何もかも諦めたような、悟りを開いたような顔で、俊輔を見た。
「俊輔…こいつは、俺の同室者で、山縣 辰也 …。前言わなかったっけ…ほら、俺んとこの同室の奴でお前のこと可愛いって言ってたやつが居るって…。」
「…。」
ダニエルの言葉に、俊輔は動揺したまま、彼の言葉を頭の中で反芻した。
そして、確かに教室でその手の話を笑いながら聞いたのを思い出した。
そして思わず茶髪…いや、山縣の顔を見ると、俊輔と目の合った彼はなんとも人好きするような顔で照れくさそうにニコ、と微笑んだ。
その微笑みはまこと、好青年であった。
途端、俊輔は反射で微笑んだまま、ダニエルと同様に悟りを開いたような顔になったのは言うまでもなかった。
その後、買い物を終わらせ、ダニエルと山縣と仲良く寮の帰路についた俊輔は終始悟りを開いたような顔で山縣の質問に答えていた。
「伊藤って彼氏いんの?」
「いないっす。」
「伊藤ってどんな奴が好み?」
「純粋で白いワンピースが似合う子。」
「ワンピース?華奢な奴が好きなの?え?伊藤ってもしかしてタチ?」
「華奢っていうか、まぁ部分的な肉付きは良いほうが好みだよな。」
「え、でも筋肉粒々の奴がワンピース着ても萎えねぇ?オレ女装プレイはやっぱ華奢な奴の方が似合うと思うんだけどさ。伊藤はネコになる気はねぇ?ダメ?」
「駄目だダニエル、山縣君は言葉が通じねぇ。」
俊輔が真顔で自分の尻を撫で回す山縣の手の感触に鳥肌を立てながら、ダニエルに助けを求めると、ダニエルは「俊輔、目が死んでる」とこちらも未だ悟りを開いたような顔をしていた。
連れ立って帰ってから彼はこの調子である。
山縣辰也、15歳。
彼はダニエルこと井上カオルと同室で有り、一年医学科の生徒である。
本人曰く、生粋のガチホモであるというが、美形、美少年系はハイパーアウトオブ眼中で、俊輔のような平凡、地味系な少年がストライクゾーンど真ん中で、俊輔は彼の好みのストライク中のストライクである豪語する、なんとも失礼な少年だった。
入学当初、ダニエルが仲良さげに俊輔と話していたのを見かけた際、ビビビと来て以来、俊輔と話せるチャンスをずっとうかがっていたのだという。
俊輔としては友達の友達という関係を無下にすることもできず、律儀にも最初はニコニコと彼の話を聞いていた。
もしかして、ダニエルや山縣の意地の悪い冗談かも知れないし、何よりも自分に(大きな意味で)好意を持ってくれる人間というのは珍しかったのだ。
だが、彼の口から出る言葉は、伊藤ってすげぇオレの好みなんだだとか、マジで可愛いだとか、付き合いたいだとか、そんなことばかりである。
そして妙にべたべたと俊輔の身体中を触りながら挙句「やべぇ、勃ちそう」と、ことに真剣な顔で変態発言をする始末であり、これには流石の俊輔もすぐに音を上げた。
「っつーか平凡、普通っつーならダニエルだって範囲内じゃねぇか。」
ボソボソと俊輔が恨みがましくダニエルに囁くと、ダニエルはスッと目線を逸らした。
「いや、同じ系統でもちょっとした違いはあるだろ。」
「なんだよ、お前。それ、つまりおれよりお前の方がちょっといい男だって言いてぇのかよ。」
「お前そんなこと思ってたの?」
ダニエルが俊輔の言葉に少し可笑しそうに笑うと、俊輔は益々機嫌を悪くした。
そして苦虫を噛み潰すような顔をしてしまった俊輔に困った様に笑いかけた、ダニエルは「お前だって十分カッコいいじゃん」と俊輔の頭をポン、と軽く叩いた。
それに図らずも俊輔がきゅん、となると、ダニエルは「つまり…」と少し考えるようにすると眼鏡の奥の目を俊輔に向けた。
「お前の言う、純情で白いワンピースが似合う子ってのも色々あんだろ。どっちが好みかっていう話で。」
そう言ったダニエルの言葉に、俊輔は頭の中で白いワンピースをはためかせる少女達を思い浮かべながら「なるほど」と、やけに納得をしてしまったのだった。
「うるせーな、誰も俊輔がこんなとこにいるとは思わねぇし、真っ先にお菓子コーナーへ走っていったお前が悪いんだろーが。大体お前とは俊輔に対する気持ちの面で既にベクトルが違うんだよ。」
ウザそうな顔をして耳の穴に指を突っ込んだダニエルと反対に、その少年は形の良い眉を顰めると唸るような声を発した。
そんな二人のやり取りを見た俊輔が少し戸惑いがちにダニエルを呼ぶ。
「ダニエル…」
その声に「あっ」と気が付いたような顔をしたダニエルは少し困ったように笑うと「わりぃ」と零した。俊輔を放って、彼が少し寂しそうな顔をしていたのに気が付いたのである。だが、彼が怪訝な顔をしたのはダニエルが知らない誰かと親しく話しをしていたからではなかった。
「…お前さ、カオルって名前だったんだな…。」
「そこかー!!!!」
寂しげな表情をする俊輔にダニエルは「お前が知らないわけねぇだろー!!!」と怒鳴ると俊輔はしれっと「怒るなよ、ジョークだよ」と言ってのけた。
それを見た茶髪少年は「な、仲よさげにして…!!」と益々顔を歪める。そんな茶髪少年にダニエルはハァ、と溜息をつくと「あー…」と声を出し、俊輔を見た。
「俊輔…こいつは…えーとあんまり紹介したくないんだけど…。」
「なんだとてめぇ!!しっかり…!しっかり紹介しろ!!」
なぜか必死にダニエルの肩を揺さぶる茶髪少年は、よくよく見るとなかなか整った顔をしており、雰囲気で言うと某少年事務所に居いそうな甘く爽やかな容姿であったが、とびきり美形というわけでもなく、どこか親近感の沸く顔をしていた。
そんな彼の観察をまじまじとしていると、ダニエルが何もかも諦めたような、悟りを開いたような顔で、俊輔を見た。
「俊輔…こいつは、俺の同室者で、
「…。」
ダニエルの言葉に、俊輔は動揺したまま、彼の言葉を頭の中で反芻した。
そして、確かに教室でその手の話を笑いながら聞いたのを思い出した。
そして思わず茶髪…いや、山縣の顔を見ると、俊輔と目の合った彼はなんとも人好きするような顔で照れくさそうにニコ、と微笑んだ。
その微笑みはまこと、好青年であった。
途端、俊輔は反射で微笑んだまま、ダニエルと同様に悟りを開いたような顔になったのは言うまでもなかった。
その後、買い物を終わらせ、ダニエルと山縣と仲良く寮の帰路についた俊輔は終始悟りを開いたような顔で山縣の質問に答えていた。
「伊藤って彼氏いんの?」
「いないっす。」
「伊藤ってどんな奴が好み?」
「純粋で白いワンピースが似合う子。」
「ワンピース?華奢な奴が好きなの?え?伊藤ってもしかしてタチ?」
「華奢っていうか、まぁ部分的な肉付きは良いほうが好みだよな。」
「え、でも筋肉粒々の奴がワンピース着ても萎えねぇ?オレ女装プレイはやっぱ華奢な奴の方が似合うと思うんだけどさ。伊藤はネコになる気はねぇ?ダメ?」
「駄目だダニエル、山縣君は言葉が通じねぇ。」
俊輔が真顔で自分の尻を撫で回す山縣の手の感触に鳥肌を立てながら、ダニエルに助けを求めると、ダニエルは「俊輔、目が死んでる」とこちらも未だ悟りを開いたような顔をしていた。
連れ立って帰ってから彼はこの調子である。
山縣辰也、15歳。
彼はダニエルこと井上カオルと同室で有り、一年医学科の生徒である。
本人曰く、生粋のガチホモであるというが、美形、美少年系はハイパーアウトオブ眼中で、俊輔のような平凡、地味系な少年がストライクゾーンど真ん中で、俊輔は彼の好みのストライク中のストライクである豪語する、なんとも失礼な少年だった。
入学当初、ダニエルが仲良さげに俊輔と話していたのを見かけた際、ビビビと来て以来、俊輔と話せるチャンスをずっとうかがっていたのだという。
俊輔としては友達の友達という関係を無下にすることもできず、律儀にも最初はニコニコと彼の話を聞いていた。
もしかして、ダニエルや山縣の意地の悪い冗談かも知れないし、何よりも自分に(大きな意味で)好意を持ってくれる人間というのは珍しかったのだ。
だが、彼の口から出る言葉は、伊藤ってすげぇオレの好みなんだだとか、マジで可愛いだとか、付き合いたいだとか、そんなことばかりである。
そして妙にべたべたと俊輔の身体中を触りながら挙句「やべぇ、勃ちそう」と、ことに真剣な顔で変態発言をする始末であり、これには流石の俊輔もすぐに音を上げた。
「っつーか平凡、普通っつーならダニエルだって範囲内じゃねぇか。」
ボソボソと俊輔が恨みがましくダニエルに囁くと、ダニエルはスッと目線を逸らした。
「いや、同じ系統でもちょっとした違いはあるだろ。」
「なんだよ、お前。それ、つまりおれよりお前の方がちょっといい男だって言いてぇのかよ。」
「お前そんなこと思ってたの?」
ダニエルが俊輔の言葉に少し可笑しそうに笑うと、俊輔は益々機嫌を悪くした。
そして苦虫を噛み潰すような顔をしてしまった俊輔に困った様に笑いかけた、ダニエルは「お前だって十分カッコいいじゃん」と俊輔の頭をポン、と軽く叩いた。
それに図らずも俊輔がきゅん、となると、ダニエルは「つまり…」と少し考えるようにすると眼鏡の奥の目を俊輔に向けた。
「お前の言う、純情で白いワンピースが似合う子ってのも色々あんだろ。どっちが好みかっていう話で。」
そう言ったダニエルの言葉に、俊輔は頭の中で白いワンピースをはためかせる少女達を思い浮かべながら「なるほど」と、やけに納得をしてしまったのだった。