好死を望まんと欲す




「それで、原因はどっちだ」

黒皮のソファに踏ん反り返るようにして座った小五郎を前に、俊輔と通武は騒動の理由を問いただされた。
小五郎登場のすぐ後、二人は弾がのめり込んだ壁を背にして正座をさせられ尋問を受ける羽目となった。勿論小五郎の手元にはいつでも発射可能のリボルバーがあったので、俊輔も通武も大人しく従ったのは言うまでも無い。

「(マジでぶっ放すんだもん、この人…)」

反発しようもんなら半年を待たず海の藻屑となる運命を辿るのは間違いなかった。
この人、一体どういう神経をしているんだろう、と俊輔の意識が遠い所へ行ってしまいそうになった瞬間、隣に姿勢正しく座った通武の声が聞こえた。

「俺のせいではない。こいつが悪い。」

「はいーちょっと待った。」

迷い無く言い放った通武の言葉に、俊輔は空ろな目をしたまま間髪入れず抗議を入れた。
そんな俊輔に、冷静に前を向いていた通武は、少々ムッとした顔をして俊輔を睨み付けてくる。

「何だ。」

「おかしいだろ、今のくだりは。何でおれが100%悪いみたいな言い方なわけ。」

「往生際が悪いぞ。」

「悪くねぇよ、お前の甚だしい間違いに対し異議申し立てしてるだけだっつの。」

苦々しい顔をして通武を睨み返すと、通武は俊輔を侮蔑した目で見る。

「貴様が男が好きか、などと気色の悪い事を言って俺を誘惑しなければこんなことにはならなかっただろ」

「誰が誘惑だよバカ。そんな趣味はねぇって何回言や分かるんだよ。」

「馬鹿に馬鹿呼ばわりされる覚えは無い!」

「一回言ったことを三歩歩いて忘れる様なトリ頭をバカって言わねぇでなんて言うんだよ!!」

「なんだとこの変質者が!!!」

「やるかこのバカ眼鏡!!!」

互いに正座していた理由を忘れ、横に置いた獲物を手に掴んで第二ラウンドが始まろうとした、正にその時だった。
ズドン!!!
という重い銃声音が再び部屋に響いて、互いに木刀と洗濯籠を手に持ったまま、視線を仰いだ先の天井に、また一つ黒い穴がぽっかりと空いたのを見た俊輔と通武は、二人とも黙って獲物を横に置くと、また姿勢を正して座り込んだ。

天井からは、「何だ!!今の銃声か!!!」「え、下から聞こえた気がするけど!!!???」と慌てふためく住人の声がくぐもって僅か聞こえたが、全く気にした素振りは見せず、小五郎は眉間に深い皺を携えたまま天井に向けた銃を静かに降ろした。
火を噴いた銃口から昇る白煙をフッと吹き消しながら、小五郎がイライラとしているのが分かり、俊輔と通武は肘で「お前が」「お前が」という小競り合いを続けたが、小五郎が乱暴に拳銃を机の上に置いた音に驚いて、二人とも腕を引っ込めてしまった。


小五郎が、ズボンのポケットから新しいタバコを取り出して銜えると、丁度、東風の部屋のドアが開いて、俊輔と通武は場の空気の重さから、反射的にそちらを見た。
ドアからは寝起きと思われる東風が、上下スウェット姿でのっそりと出てきて、四方八方に髪が飛び跳ねる頭をバリバリとかきながら、こちらの騒ぎには目もくれず、一直線に冷蔵庫に直行しているところだった。

「(少しは気にしろよ…。)」

思わず恨めしげな目をしてしまった俊輔だったが、小五郎が口から煙を吐いてトントン、と灰皿に置いたのを見て、思わず姿勢を正す。

「つまり…」

眉間に皺を寄せた顔が上がり、ギラリ、と目が光ったのを見て、ごくり、と喉を鳴らすと、小五郎は思いがけない言葉を口にした。


「コイツがホモで、久坂に抱いて貰いたくて迫ってきたっつーわけだな。」

「ちょっと待てぃ。」


全く予想外の結論に、俊輔が眉間に皺を寄せると、隣の通武が冷静にさも当然と頷きながら「逆も考えられるが。」と答えたのを聞いた俊輔は激昂して「誰が好き好んでお前なんか襲うか!!」と怒鳴ったが、その訴えはまるっきり無視されてしまった。

「情けねぇな。一人でマスかきゃ良いだろうが。」

「だから違うってんじゃねぇかああ!!」

「でもまぁ久坂のところに行ったってのは残念だったなぁ。」

呆れた様にハァ、と白い煙と共に溜息を付いた小五郎に、俊輔は立ち上がりかけて抗議したが、その大きな掌にガッチリと頭をホールドされて、耳元にフーと息が注がれる。

「オレの所に来てたらよ、ぶっといバイブ、上にも下にも銜えさせて意識飛ぶまで遊んでやったのにな。」

「あ…さいですか…。」

その言葉に血の気の引いた俊輔は、初めに声をかけたのが通武で、心の底から良かったと痛感した。
この男の所を訪れていたら、完璧に食われていた。
しかも、レベル1でラスボスを倒しに行くというハードプレイ。
間違いなく初めのターンで全滅である。

だが、ここで誤解を残したまま解散というわけにも行かなかった。
俊輔には目的があるのだ。
ここでホモ疑惑を拭えないまま、「ただの奴隷」から「ホモの奴隷」になるのは真っ平ごめんである。

「だー!違う!!おれが言いたいのは!!」

「うるせぇな、ホモ野郎。」

「うわあああんコノヤロー!!!」

真面目な顔をして呟いた小五郎に、ぐわっと顔を歪めて怒った俊輔は、勢いよく立ち上がって自分の部屋に行くと、机の上にあった学生鞄をひったくってまたリビングに戻った。
その際、水を飲んで部屋へ戻ろうとしていた東風の首根っこをしっかりと掴んで、リビングに引きずると、俊輔は鞄の中身を盛大にぶちまけたのである。
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