好死を望まんと欲す
「ヒーローか…まぁ…悪漢から女の子を助けたり、誰にもできないことをしたらなれるんじゃないか?」
俊輔のぶっとんだ発言に、やや困った顔をしたダニエルだったが、返答に詰まりながらも一般的なヒーローの情報を提供してくれた。
やはりダニエルはいい奴である。
「誰にもできないようなことか…。」
ダニエルの言葉に俊輔はふむ、と考えたが、自分にだけできる事、というのが全く思いつかず、苦虫を噛み潰したような顔をしてしまった。
勿論悪漢から弱い少女を救う、というのはヒーローものでは常套手段と言える。
好きな女子を守って死ねるなら、男にとってそれは最高のフィナーレだ。
間違いない。
しかし、しつこい様だがここは男子校だ。
誰かが捕らわれの身になったとしても、男子を助けたのでは意味がない。
無意識にそれを選択肢から外すと、残るのは後者だ。
だが、何をやっても人並みの俊輔に、人よりも得意といえるものが何一つとしてない、というのは彼自身も盲点のようだった。
「心当たりが無いなぁ。」
呟いた俊輔にダニエルはハァ、と溜息をついた。
「ひとつもか?」
「ひとつも。」
「駄目じゃねーか。」
「まぁある種、人道的なものから外れる行為とかは頑張ればできるよな。全裸で授業を受けるとか。」
「…それはある意味伝説になるけど、ブタ箱行きは免れないし、英雄と言うか、犯罪者だ。」
「じゃあおれにできることなんてなんもねーよ!!バーカ!!」
「逆ギレすんな。」
はぁ、と溜息を吐いたダニエルが「諦めるんだな」と呆れた様な顔をしたので、俊輔は不満げな顔をする。
「ダニエル、魔法使ってなんとかしてよ。」
「だからハリーポッターじゃねぇって何回言えば分かるんだよ!!大体ダニエルだって単なる役者なんだから魔法使えねぇって!!」
「知ってるよ…ちょっとワガママ言ってみただけ…。」
「ぶん殴るぞ。」
「くそぅ、おれの同室者はそういう特技を持った奴等ばかりなのになぁ…。」
なぜおれだけ、と零した俊輔は同室者の面々を思い出す。
最近知ったことだが、俊輔の同室者三人は、学校では有名らしかった。
それというのも…
「あの」
控えめに声がかかり、その声に俊輔とダニエルが顔を上げると、なんとも可愛らしい顔をした少年が俊輔の机の横に立って居て何やらもじもじとしていたのである。
それを見た俊輔は、それきた、と脱力したように鼻から空気を吐いた。
同室者が有名だと知った原因のひとつが「これ」だった。
「いきなりごめんね。あの、芸能科の高杉君と同じ部屋の人だよね。」
恥ずかしそうにモジモジとしているのは何回も言うが男だ。
下には自分と同じものをぶら下げている男だ。
だが、その少年は頬を赤らめながら「お願いがあるんだけど」と、まだ幼さの残る高い声で俊輔に話しかけて来る。
「お願い」と聞いた俊輔は「あー」と何か気が付いた様な声を上げると、少々言いづらそうに目を泳がせた。
「えっと、もしかしてケータイの番号とか聞きに来た?悪いんだけどさ、おれ知らないんだ。ごめんな。」
今日何回目になるか分からない言い訳を口にしながら、俊輔は何故自分が謝らなければならないのか、と心の中で大きな溜息を吐いた。
学校に入学してもう一週間ばかり経つが、新入生の中にこうして同室者の自分を利用して、久坂通武、和田小五郎、高杉東風とお近付きになろうという輩が多数、ここ数日間で俊輔の元を訪れていた。
なんともおぞましい事に、通武、小五郎、東風の三人は、新入生の間では憧れの的だというのである。
確かに三人とも顔とスタイルが良いし、俊輔が先ほど言った「特技」とやらのお陰で大層な人気を誇っているらしかった。
詐欺だ、と俊輔は思う。
通武は一年にして既に剣道部のエース。そのしなやかな動きと、鋭い洞察力で練習試合でも負けなし。それに加えてあの容姿。勿論人気が高い。
でもバカだ。
東風はミステリアスな超美形アーティスト。作品に対する一途な姿勢と、卓越した画力は他の追随を許さない。近寄りがたい雰囲気に誰もが虜。当然人気が高い。
でも根暗でオタクだ。
そして小五郎は危険な香りのするワイルド系。学年首位の頭脳の持ち主で、そのセクシーな流し目に悩殺された者は既に数え切れないらしい。果てしなく人気が高い。
でもドSの変態だ。
そして三人とも、普通科に通う同じルームメイトを、お手伝いさんの如くこき使う性悪である。どこがいいのか、と俊輔は遠い目をするが、目の前の少年は真剣そのものだ。
このような本人達に直接近づけないオトメン達は、こぞって同室者である自分を頼りにくるので、俊輔はかなりの迷惑を被っていた。
だが。
「あ、いや、そういうのは良いんだ、えっと、勝手なお願いで悪いんだけど、この手紙を高杉君に渡して欲しくて…。」
そう言って差し出された手紙を断る事もできず、ただ渡すだけなら、と俊輔は本日六通目になる東風宛の手紙を受け取った。
それを呆れ顔でダニエルが見ていたが、俊輔は仕方無いだろ、と心の中で呟く。
この様に自分を頼ってくる子は健気な良い子が多い。
少なくとも俊輔に迷惑をかけているという自覚があるらしく、申し訳なさそうにする姿を見ると、つい「手紙くらいなら」と思ってしまう。
まぁ中には不躾にケータイの番号では飽き足らず、完全アウトな個人情報を教えてくれと頼んでくる輩もいる。
だが彼らについて本当に何も知らない、というのが事実であり、俊輔にはどうしようもない、というのが本音だった。
俊輔のぶっとんだ発言に、やや困った顔をしたダニエルだったが、返答に詰まりながらも一般的なヒーローの情報を提供してくれた。
やはりダニエルはいい奴である。
「誰にもできないようなことか…。」
ダニエルの言葉に俊輔はふむ、と考えたが、自分にだけできる事、というのが全く思いつかず、苦虫を噛み潰したような顔をしてしまった。
勿論悪漢から弱い少女を救う、というのはヒーローものでは常套手段と言える。
好きな女子を守って死ねるなら、男にとってそれは最高のフィナーレだ。
間違いない。
しかし、しつこい様だがここは男子校だ。
誰かが捕らわれの身になったとしても、男子を助けたのでは意味がない。
無意識にそれを選択肢から外すと、残るのは後者だ。
だが、何をやっても人並みの俊輔に、人よりも得意といえるものが何一つとしてない、というのは彼自身も盲点のようだった。
「心当たりが無いなぁ。」
呟いた俊輔にダニエルはハァ、と溜息をついた。
「ひとつもか?」
「ひとつも。」
「駄目じゃねーか。」
「まぁある種、人道的なものから外れる行為とかは頑張ればできるよな。全裸で授業を受けるとか。」
「…それはある意味伝説になるけど、ブタ箱行きは免れないし、英雄と言うか、犯罪者だ。」
「じゃあおれにできることなんてなんもねーよ!!バーカ!!」
「逆ギレすんな。」
はぁ、と溜息を吐いたダニエルが「諦めるんだな」と呆れた様な顔をしたので、俊輔は不満げな顔をする。
「ダニエル、魔法使ってなんとかしてよ。」
「だからハリーポッターじゃねぇって何回言えば分かるんだよ!!大体ダニエルだって単なる役者なんだから魔法使えねぇって!!」
「知ってるよ…ちょっとワガママ言ってみただけ…。」
「ぶん殴るぞ。」
「くそぅ、おれの同室者はそういう特技を持った奴等ばかりなのになぁ…。」
なぜおれだけ、と零した俊輔は同室者の面々を思い出す。
最近知ったことだが、俊輔の同室者三人は、学校では有名らしかった。
それというのも…
「あの」
控えめに声がかかり、その声に俊輔とダニエルが顔を上げると、なんとも可愛らしい顔をした少年が俊輔の机の横に立って居て何やらもじもじとしていたのである。
それを見た俊輔は、それきた、と脱力したように鼻から空気を吐いた。
同室者が有名だと知った原因のひとつが「これ」だった。
「いきなりごめんね。あの、芸能科の高杉君と同じ部屋の人だよね。」
恥ずかしそうにモジモジとしているのは何回も言うが男だ。
下には自分と同じものをぶら下げている男だ。
だが、その少年は頬を赤らめながら「お願いがあるんだけど」と、まだ幼さの残る高い声で俊輔に話しかけて来る。
「お願い」と聞いた俊輔は「あー」と何か気が付いた様な声を上げると、少々言いづらそうに目を泳がせた。
「えっと、もしかしてケータイの番号とか聞きに来た?悪いんだけどさ、おれ知らないんだ。ごめんな。」
今日何回目になるか分からない言い訳を口にしながら、俊輔は何故自分が謝らなければならないのか、と心の中で大きな溜息を吐いた。
学校に入学してもう一週間ばかり経つが、新入生の中にこうして同室者の自分を利用して、久坂通武、和田小五郎、高杉東風とお近付きになろうという輩が多数、ここ数日間で俊輔の元を訪れていた。
なんともおぞましい事に、通武、小五郎、東風の三人は、新入生の間では憧れの的だというのである。
確かに三人とも顔とスタイルが良いし、俊輔が先ほど言った「特技」とやらのお陰で大層な人気を誇っているらしかった。
詐欺だ、と俊輔は思う。
通武は一年にして既に剣道部のエース。そのしなやかな動きと、鋭い洞察力で練習試合でも負けなし。それに加えてあの容姿。勿論人気が高い。
でもバカだ。
東風はミステリアスな超美形アーティスト。作品に対する一途な姿勢と、卓越した画力は他の追随を許さない。近寄りがたい雰囲気に誰もが虜。当然人気が高い。
でも根暗でオタクだ。
そして小五郎は危険な香りのするワイルド系。学年首位の頭脳の持ち主で、そのセクシーな流し目に悩殺された者は既に数え切れないらしい。果てしなく人気が高い。
でもドSの変態だ。
そして三人とも、普通科に通う同じルームメイトを、お手伝いさんの如くこき使う性悪である。どこがいいのか、と俊輔は遠い目をするが、目の前の少年は真剣そのものだ。
このような本人達に直接近づけないオトメン達は、こぞって同室者である自分を頼りにくるので、俊輔はかなりの迷惑を被っていた。
だが。
「あ、いや、そういうのは良いんだ、えっと、勝手なお願いで悪いんだけど、この手紙を高杉君に渡して欲しくて…。」
そう言って差し出された手紙を断る事もできず、ただ渡すだけなら、と俊輔は本日六通目になる東風宛の手紙を受け取った。
それを呆れ顔でダニエルが見ていたが、俊輔は仕方無いだろ、と心の中で呟く。
この様に自分を頼ってくる子は健気な良い子が多い。
少なくとも俊輔に迷惑をかけているという自覚があるらしく、申し訳なさそうにする姿を見ると、つい「手紙くらいなら」と思ってしまう。
まぁ中には不躾にケータイの番号では飽き足らず、完全アウトな個人情報を教えてくれと頼んでくる輩もいる。
だが彼らについて本当に何も知らない、というのが事実であり、俊輔にはどうしようもない、というのが本音だった。