屋上事変
「仕方ない、隆平これを持っていけ。」
「何これ。」
隆平に渡されたのは小型のワイヤレスイヤホンと、マイク。
「俺が開発した超小型トランシーバーだ。」
「ドラえもんかお前は。」
お手製のハイテク機械を目の前にして、隆平は冴えないツッコミを入れてしまった。
一体これをどうしようというのだろう。
「困ったら小声で俺に助けを求めろ。的確な指示を与えてやる。もし万が一の事があったら助けに行ってやらんでもない。あ、ちなみに俺の声が聞きにくかったらここでボリューム調節できるから。どこかに監禁されたとしても高性能なGPSも付いているから心配ない。録音機能もばっちりだ。」
「お前は本当に高校生か?」
「今の所は。」
康高が笑ったのを見て、なぜこの男はこんなレベルの低い学校へ来たのだろうか、と隆平は怪訝な顔をする。
そして使い方によっては犯罪行為に繋がる機器を常に持ち歩いているこの幼馴染は敵にまわすまい、と誓った。
「それに虎組の内部調査には良いチャンスだ…。奴等の情報は高く売れるからな…」
怪しい笑みを携えた康高に、隆平は瞬間的に心に北風が通り過ぎたのがわかった。そうだ、こいつはこういう奴だ。
「結局おれは行かねばならんのですね。」
「当たり前だ。こんな面白いチャンスはまたとないだろうが。」
机の下で友情って…と呟く隆平を眺めながら、康高は先ほどの九条と和仁のことを思い返す。あれだけ人目がある場所で呼び出しとは、流石に人気者はやることが違う。
だがしかし、と康高は手をあごに添えた。
隆平に呼び掛けてきたのは九条ではなく和仁だった。
隆平に告白して来たのは九条のはずだろう。なぜ和仁が?
しかも呼びかけている和仁を置いて、九条は先に進んでいた。
照れていたのだろうか。
いや、照れているというよりあの態度はまるで興味が無いという感じだった。
果たしてあれはなんなんだ、と康高は僅かに目を細める。
「事と次第によっちゃ、タダでは済まされんな。」
「何が?」
思わず口に出してしまった言葉に隆平が食い付いて来たが、何でもない、と康高は首を横に振った。
「なんでもいいがお前、大江和仁には気をつけろよ。」
「え?九条じゃなくて?」
きょとんとした顔をした隆平を尻目に、康高は先ほどの和仁の表情を思い出していた。
明るい笑顔の奥に底知れない深い闇が滲み出ていた。
「あいつ相当性格悪いぞ、たぶん。」
康高の言葉に、隆平は遠い目をして明後日の方向を見ながら「へえ、そうなんだ」と力なく答えるほかなかった。
所変わってこちらは中庭に続く渡り廊下。
最初から授業に出席することは念頭にないらしく、九条と和仁は雑談をしながら屋上へと続く東階段を目指していた。
「お前、よくあんな恥ずかしい真似ができるな。」
「え?何?」
ニコニコと笑う和仁に、九条はゲンナリとした顔をしてみせた。
「所かまわず大声出すな。隣にいる俺の身にもなれ。」
「なんだよ~!!今日はお前のために図ってやったんだぞ~感謝しろ!!」
頬を膨らませてプン!!とそっぽ向く和仁に、なーにが感謝だ…、と九条は朝から苦虫を噛み潰した様な顔をした。
しかし少し考えてからピタリ、とその足を止めた。
その九条の背中に後から来た和仁がぶつかり「ふご」と情けない声をだした。
「ちょっと~!オレ昨日から九条にぶつかってばっかだよ!も~!」
「オイ…。お前さっきなんつった…。」
「え?オレ昨日から九条にぶつかってばっかだよ?」
「その前」
「感謝しろ?」
「その前!!」
「昨日オレん家、賞味期限切れた豆腐食って家族みんなで下痢したんだよねぇ~?」
「それは聞いてねえ。聞きたくもなかった。」
なぜか昨晩の大江家の便通事情を聞いてしまった九条は本気で顔をしかめた。
「お前さっき、俺のためとかなんとか言ってなかったか。」
「あぁうん、九条のために九条の彼氏を、お昼に誘っておいた。」
その言葉を聞いた瞬間、九条が石の様に固まった。
「…じゃあ、さっきちばなんとかって奴に向かって叫んでいたのは…」
九条の言葉を聞き、和仁は苦笑する。
「九条~恋人の名前くらいは覚えとかないと~。」
「知るか!お前が勝手に決めた相手だろーが!名前なんか…じゃねぇ、何余計な事してくれてんだテメェ!」
「だって、恋人になったらランチは一緒に!ってド定番イベントじゃない?」
そう言って両こぶしをあごに添えてぶりっこポーズをした和仁に、九条が全力で殴りかかったのは至極当然のことと言えた。
「何これ。」
隆平に渡されたのは小型のワイヤレスイヤホンと、マイク。
「俺が開発した超小型トランシーバーだ。」
「ドラえもんかお前は。」
お手製のハイテク機械を目の前にして、隆平は冴えないツッコミを入れてしまった。
一体これをどうしようというのだろう。
「困ったら小声で俺に助けを求めろ。的確な指示を与えてやる。もし万が一の事があったら助けに行ってやらんでもない。あ、ちなみに俺の声が聞きにくかったらここでボリューム調節できるから。どこかに監禁されたとしても高性能なGPSも付いているから心配ない。録音機能もばっちりだ。」
「お前は本当に高校生か?」
「今の所は。」
康高が笑ったのを見て、なぜこの男はこんなレベルの低い学校へ来たのだろうか、と隆平は怪訝な顔をする。
そして使い方によっては犯罪行為に繋がる機器を常に持ち歩いているこの幼馴染は敵にまわすまい、と誓った。
「それに虎組の内部調査には良いチャンスだ…。奴等の情報は高く売れるからな…」
怪しい笑みを携えた康高に、隆平は瞬間的に心に北風が通り過ぎたのがわかった。そうだ、こいつはこういう奴だ。
「結局おれは行かねばならんのですね。」
「当たり前だ。こんな面白いチャンスはまたとないだろうが。」
机の下で友情って…と呟く隆平を眺めながら、康高は先ほどの九条と和仁のことを思い返す。あれだけ人目がある場所で呼び出しとは、流石に人気者はやることが違う。
だがしかし、と康高は手をあごに添えた。
隆平に呼び掛けてきたのは九条ではなく和仁だった。
隆平に告白して来たのは九条のはずだろう。なぜ和仁が?
しかも呼びかけている和仁を置いて、九条は先に進んでいた。
照れていたのだろうか。
いや、照れているというよりあの態度はまるで興味が無いという感じだった。
果たしてあれはなんなんだ、と康高は僅かに目を細める。
「事と次第によっちゃ、タダでは済まされんな。」
「何が?」
思わず口に出してしまった言葉に隆平が食い付いて来たが、何でもない、と康高は首を横に振った。
「なんでもいいがお前、大江和仁には気をつけろよ。」
「え?九条じゃなくて?」
きょとんとした顔をした隆平を尻目に、康高は先ほどの和仁の表情を思い出していた。
明るい笑顔の奥に底知れない深い闇が滲み出ていた。
「あいつ相当性格悪いぞ、たぶん。」
康高の言葉に、隆平は遠い目をして明後日の方向を見ながら「へえ、そうなんだ」と力なく答えるほかなかった。
所変わってこちらは中庭に続く渡り廊下。
最初から授業に出席することは念頭にないらしく、九条と和仁は雑談をしながら屋上へと続く東階段を目指していた。
「お前、よくあんな恥ずかしい真似ができるな。」
「え?何?」
ニコニコと笑う和仁に、九条はゲンナリとした顔をしてみせた。
「所かまわず大声出すな。隣にいる俺の身にもなれ。」
「なんだよ~!!今日はお前のために図ってやったんだぞ~感謝しろ!!」
頬を膨らませてプン!!とそっぽ向く和仁に、なーにが感謝だ…、と九条は朝から苦虫を噛み潰した様な顔をした。
しかし少し考えてからピタリ、とその足を止めた。
その九条の背中に後から来た和仁がぶつかり「ふご」と情けない声をだした。
「ちょっと~!オレ昨日から九条にぶつかってばっかだよ!も~!」
「オイ…。お前さっきなんつった…。」
「え?オレ昨日から九条にぶつかってばっかだよ?」
「その前」
「感謝しろ?」
「その前!!」
「昨日オレん家、賞味期限切れた豆腐食って家族みんなで下痢したんだよねぇ~?」
「それは聞いてねえ。聞きたくもなかった。」
なぜか昨晩の大江家の便通事情を聞いてしまった九条は本気で顔をしかめた。
「お前さっき、俺のためとかなんとか言ってなかったか。」
「あぁうん、九条のために九条の彼氏を、お昼に誘っておいた。」
その言葉を聞いた瞬間、九条が石の様に固まった。
「…じゃあ、さっきちばなんとかって奴に向かって叫んでいたのは…」
九条の言葉を聞き、和仁は苦笑する。
「九条~恋人の名前くらいは覚えとかないと~。」
「知るか!お前が勝手に決めた相手だろーが!名前なんか…じゃねぇ、何余計な事してくれてんだテメェ!」
「だって、恋人になったらランチは一緒に!ってド定番イベントじゃない?」
そう言って両こぶしをあごに添えてぶりっこポーズをした和仁に、九条が全力で殴りかかったのは至極当然のことと言えた。