覚悟(前編)
虎組の連中が和仁の駒であることは康高自身よく知っている。
和仁がまた何か良からぬ事を考えているのであれば、安易に虎組に仲間ができた、と楽観はできない。
「(十分に警戒する必要があるな。)」
そう康高が一人思案していると、隆平が「かむぞ!!お前の制服で鼻をかむからな!!」と喚き出した。
自分の腰の巻きついた隆平を片手で引き剥がしながら、康高はふと思う。
そういえば、他にも不思議な事がある。
梶原が土曜に言った言葉。
“予定外の収穫”
それは一体何なのか。
康高と梶原は同じ情報屋の仲間であり、二人共通の「ある目的」がある。
その目的を遂げるための計画というのは二人の間で着々と進められてきたのだが、どうやら梶原はその計画を円滑に進めるための「いい道具」を見つけたらしい。
計画を実行する時期はすぐそこまで迫ってきている。
それが楽に遂行できるならばそれに越したことはないが、いかんせん梶原の「収穫」というのが康高には理解できなかった。
そのことを漠然と考えながら、康高は未だ彼の腕を攻略しようとしている隆平を眺めた。
「(まぁ、こいつに害が無ければなんだって良いが…)」
そう考えながらも、康高はじ、と隆平を見詰めた。
隆平はいつもと同じ様子だ。
特別何かに落ち込んだり、滅入っている様子はない。
だが、と康高は顔を少し歪める。
目の前ではこうして普段通りの隆平だが、今回の話を聞いて、康高はある種の違和感を感じていた。
はっきり言ってしまうと、隆平の行動も不明な点がある。
康高は今まで隆平と過ごしてきた中で、彼の行動の基準というのは大抵把握していきたつもりだ。
だが今回に限っては全くの予想外だ。
確かにこの少年は幼少の頃から「女の子」は守るもの、という概念を両親から刷り込まれている。
だが康高の知っている隆平はよっぽどの事でなければ人を殴ったりしない。
「(紗希のためならば話は別だが、赤の他人のためになぜ。)」
隆平がそこまでして怒る理由が、康高にはどうしても理解できなかった。
答えの出ない問題に、康高が「はぁ」と思わずため息を漏らすと、相手にされていないと勘違いをした隆平がぶすっと顔を顰めた。
「何だよさっきからボーっとして!!良いからおれの話を聞けよ!!昨日おれがどんな恐ろしい目に遭ったかぁああ!!」
「はいはい。佳織さんに怒られたんだろう。よしよし、可哀相にな。」
間髪入れずに答えた康高は既に立ち上がったパソコンの画面を見ながら、まぁ良いか、と肩の力を抜く。
「(余計なことは考えるな、散漫になる。今大事なことはもっと他にある。)」
多くのことをいっぺんに求めてはいけない。
思考の沼に一度はまれば、抜け出すのは困難だ、と康高が頭を切り替えるためにメールチェックをしようとした瞬間、教室中が異様にざわめいた。
康高は未だ喚き続けている隆平の声しか耳に届かず、そんなざわめきに気が付きもしなかった。
「やっほ~みんな元気ぃ~?」
扉を開けると、そこには突き抜けるような青空。
すがすがしい秋晴れが広がっている。
ニコニコといつものように挨拶をすると、あちこちから少し緊張したような挨拶が次々に返ってくる。
それに満足そうに「やあやあ」と適当に返して、和仁は屋上内の所定の位置へ向かい、「あれ?」と首を傾げた。
「九条来てないの?」
近くにいた男に聞くと、「今日はまだ見てませんよ。」という返答があり、和仁は顔を顰めた。それからポリポリと頭を掻くと「まいったな。」と呟く。
土曜の一件から、何度も九条に連絡をしているのだが一向に通じない。
痺れを切らした和仁は、九条の自宅へ向かったが、家に人の気配はなかった。
侵入しようと思えばできたのだが、日曜は女の子と約束があったので和仁は渋々諦めたが、今も帰っていないのだろうか。
「逃げた、か?」
首を傾げた和仁は、九条の指定席を見詰めながら、ボソッと呟いた。
和仁がまた何か良からぬ事を考えているのであれば、安易に虎組に仲間ができた、と楽観はできない。
「(十分に警戒する必要があるな。)」
そう康高が一人思案していると、隆平が「かむぞ!!お前の制服で鼻をかむからな!!」と喚き出した。
自分の腰の巻きついた隆平を片手で引き剥がしながら、康高はふと思う。
そういえば、他にも不思議な事がある。
梶原が土曜に言った言葉。
“予定外の収穫”
それは一体何なのか。
康高と梶原は同じ情報屋の仲間であり、二人共通の「ある目的」がある。
その目的を遂げるための計画というのは二人の間で着々と進められてきたのだが、どうやら梶原はその計画を円滑に進めるための「いい道具」を見つけたらしい。
計画を実行する時期はすぐそこまで迫ってきている。
それが楽に遂行できるならばそれに越したことはないが、いかんせん梶原の「収穫」というのが康高には理解できなかった。
そのことを漠然と考えながら、康高は未だ彼の腕を攻略しようとしている隆平を眺めた。
「(まぁ、こいつに害が無ければなんだって良いが…)」
そう考えながらも、康高はじ、と隆平を見詰めた。
隆平はいつもと同じ様子だ。
特別何かに落ち込んだり、滅入っている様子はない。
だが、と康高は顔を少し歪める。
目の前ではこうして普段通りの隆平だが、今回の話を聞いて、康高はある種の違和感を感じていた。
はっきり言ってしまうと、隆平の行動も不明な点がある。
康高は今まで隆平と過ごしてきた中で、彼の行動の基準というのは大抵把握していきたつもりだ。
だが今回に限っては全くの予想外だ。
確かにこの少年は幼少の頃から「女の子」は守るもの、という概念を両親から刷り込まれている。
だが康高の知っている隆平はよっぽどの事でなければ人を殴ったりしない。
「(紗希のためならば話は別だが、赤の他人のためになぜ。)」
隆平がそこまでして怒る理由が、康高にはどうしても理解できなかった。
答えの出ない問題に、康高が「はぁ」と思わずため息を漏らすと、相手にされていないと勘違いをした隆平がぶすっと顔を顰めた。
「何だよさっきからボーっとして!!良いからおれの話を聞けよ!!昨日おれがどんな恐ろしい目に遭ったかぁああ!!」
「はいはい。佳織さんに怒られたんだろう。よしよし、可哀相にな。」
間髪入れずに答えた康高は既に立ち上がったパソコンの画面を見ながら、まぁ良いか、と肩の力を抜く。
「(余計なことは考えるな、散漫になる。今大事なことはもっと他にある。)」
多くのことをいっぺんに求めてはいけない。
思考の沼に一度はまれば、抜け出すのは困難だ、と康高が頭を切り替えるためにメールチェックをしようとした瞬間、教室中が異様にざわめいた。
康高は未だ喚き続けている隆平の声しか耳に届かず、そんなざわめきに気が付きもしなかった。
「やっほ~みんな元気ぃ~?」
扉を開けると、そこには突き抜けるような青空。
すがすがしい秋晴れが広がっている。
ニコニコといつものように挨拶をすると、あちこちから少し緊張したような挨拶が次々に返ってくる。
それに満足そうに「やあやあ」と適当に返して、和仁は屋上内の所定の位置へ向かい、「あれ?」と首を傾げた。
「九条来てないの?」
近くにいた男に聞くと、「今日はまだ見てませんよ。」という返答があり、和仁は顔を顰めた。それからポリポリと頭を掻くと「まいったな。」と呟く。
土曜の一件から、何度も九条に連絡をしているのだが一向に通じない。
痺れを切らした和仁は、九条の自宅へ向かったが、家に人の気配はなかった。
侵入しようと思えばできたのだが、日曜は女の子と約束があったので和仁は渋々諦めたが、今も帰っていないのだろうか。
「逃げた、か?」
首を傾げた和仁は、九条の指定席を見詰めながら、ボソッと呟いた。