決戦は土曜日(後編)
そう言って梶原は和田と、その奥にいる和仁を真っ直ぐに見据えた。
「俺たちはただ利用させて貰っただけ。予想外だったのはみーんなおんなじ。千葉隆平がここに来るなんて思ってもみなかった。そーでしょ?」
その梶原の言葉を聞いて、やはりかと和仁は梶原に対して不敵な笑みを返した。
奴等は全て知っている。
千葉隆平が九条と罰ゲームで付き合わされ、その上、今日自分達が千葉隆平を使って賭けをするために駅前で張り込んでいた事を。
それを知って「虎組幹部を倒す」というような名目で人を集めて自分達を煽り、喧嘩に持ち込んだのだろう。
それが千葉隆平に伝わったのは、すれ違い、隆平と会わなかった九条が、伝言を頼まれた麻里から話を聞き、隆平も喧嘩に巻き込まれたのではないかと勘違いをしてここ来てしまったことが要因に挙げられる。
さらに九条が駅に残してきた女によって千葉隆平に情報が洩れてしまったのだろう。
そして激怒した千葉隆平がここへ来て今に至る。
「(ざっとこんな感じか。)」
和仁はようやく頭の中の整理がついて一息つく。
だがこれではっきりとした。
やはりこの計画を仕込んだのは、彼だ。
「(これがバレたら「虎組」を敵にまわす事になるだろうに。そんな事もお構いなしか。)」
だが、と和仁は笑った。
さすがに九条が来るとは計画には入っていなかったのだろう。
ましてや千葉隆平が、九条の後を追ってここまで来てしまうなんて、誰が考えた?
「(お陰でオレは楽しい思いをさせて貰ったけど。)」
今頃慌てている頃かな?と和仁は思わず笑った。
「分かった。千葉君とアンタ達はグルじゃない。でもどうすんの?そんな少なくなっちゃってさ。」
おそらくは和仁達を「囲む」だけの非戦闘要員と怪我人等を先に逃がし、烏合の衆であるチンピラを逃し、最後に彼等が残ったのだろう。
向こう側の相手は梶原を含め、見覚えのある南商の生徒計十数人と言った所だ。南商ではそこそこ名の知れた連中だ。
しかしいくら最前線の戦闘要員だとしても九条の前では分が悪い。何か考えがあるのだろうか。
「それとも、アンタ達自身も「囮」なの?」
和仁が隆平をちら、と見てからからかうようにして笑うと、梶原は「そうなれればねぇ」と少し困った様に笑った。
「俺たちもそうやすやすと捕まるワケには行かないんだわ。」
そう梶原が言うと、南商の男の一人がロープでぐるぐる巻きにした「何か」を自分達の前に出した。
それを見た和仁、和田、九条が頭を抱えてため息、という珍しく同じ反応を返した。
そんな虎組幹部の顔をニコニコと笑いながら梶原は首を傾げた。
「これなら、人質になるでしょ?」
「ちくしょ~何するんすか!!離せ!!バカ!!」
そこには見慣れた少年が先ほどの隆平よろしくロープでぐるぐる巻きにされ、床に転がされていた。
「あの馬鹿…」
はぁ、と心底疲れた様にため息を付いた和田は、思わず頭を垂れて、また胃がキリキリと痛むのを何とか堪える。
どうりでさっきから静かなはずだ、と和田が呟く。
連中は、どさくさに紛れて逃げるついでに、倒れた仲間を起こしにかかって居た三浦を人質にとったらしかった。
和田は呆れたような、感心した様な気分に駆られ、空ろな目で地面に転がされながらぎゃーぎゃーと喚く後輩を見詰めた。
「おっけー取引しましょ。「それ」が人質なんて癪だけど…」
こちらも呆れたようにして、和仁が掌でしっしっと払うと梶原は満面の笑みで子供の様に「やった」と笑った。しかしそれで済むかと思うと、梶原は「もうひとつ」と口を開いた。
「どうか千葉隆平を手荒に扱わないでほしい。」
その子は大事な子なんだ、と念を押すように梶原は、未だ隆平の腕を掴んだままの和田を見据えた。それに気が付いた和田はうっすらと笑うと皮肉めいた口調で返す。
「安心しろよ、そっちみてぇにロープでぐるぐる巻きなんて事はしねぇから。」
それを聞いた梶原はふ、と笑って踵を返し、「それじゃあ、また近々。」と言うと、残った十数人の連中と共に、赤レンガの先の闇に溶けていった。
それを見送りながら、ふぅ、と和田が息を吐く。
それと同時に掴んでいた隆平の腕を離してくれた。隆平はそれに反応は示さず、俯いたままだ。それに和田が気が付いて首を傾げた。
「どうした?」
そう聞いてやると、隆平は消え入りそうな声で「ごめんなさい。」と小さく呟いた。
「なんだか騙したみたいで…。」
そう言って顔を上げない隆平に、和田は苦笑してからその大きな掌を隆平の頭にポン、と乗せた。
「関係ねぇよ。」
そう和田が言うと、隆平は「え」と顔を上げた。
その隆平の表情が本当にただの平凡な少年のもので、和田は目を細めた。
先ほど九条に掴みかかっていた人物とはまるで別人だ。
「おめぇは九条と話をしたかった。それだけだろーが。」
そう言ってぐりぐりと隆平の頭を撫で付けると、和田は隆平の横を通り抜けて、未だ地面に転がっている三浦の元へ近寄り、騒ぎ立てる三浦の頭にゲンコツを一発食らわせたのだった。
「俺たちはただ利用させて貰っただけ。予想外だったのはみーんなおんなじ。千葉隆平がここに来るなんて思ってもみなかった。そーでしょ?」
その梶原の言葉を聞いて、やはりかと和仁は梶原に対して不敵な笑みを返した。
奴等は全て知っている。
千葉隆平が九条と罰ゲームで付き合わされ、その上、今日自分達が千葉隆平を使って賭けをするために駅前で張り込んでいた事を。
それを知って「虎組幹部を倒す」というような名目で人を集めて自分達を煽り、喧嘩に持ち込んだのだろう。
それが千葉隆平に伝わったのは、すれ違い、隆平と会わなかった九条が、伝言を頼まれた麻里から話を聞き、隆平も喧嘩に巻き込まれたのではないかと勘違いをしてここ来てしまったことが要因に挙げられる。
さらに九条が駅に残してきた女によって千葉隆平に情報が洩れてしまったのだろう。
そして激怒した千葉隆平がここへ来て今に至る。
「(ざっとこんな感じか。)」
和仁はようやく頭の中の整理がついて一息つく。
だがこれではっきりとした。
やはりこの計画を仕込んだのは、彼だ。
「(これがバレたら「虎組」を敵にまわす事になるだろうに。そんな事もお構いなしか。)」
だが、と和仁は笑った。
さすがに九条が来るとは計画には入っていなかったのだろう。
ましてや千葉隆平が、九条の後を追ってここまで来てしまうなんて、誰が考えた?
「(お陰でオレは楽しい思いをさせて貰ったけど。)」
今頃慌てている頃かな?と和仁は思わず笑った。
「分かった。千葉君とアンタ達はグルじゃない。でもどうすんの?そんな少なくなっちゃってさ。」
おそらくは和仁達を「囲む」だけの非戦闘要員と怪我人等を先に逃がし、烏合の衆であるチンピラを逃し、最後に彼等が残ったのだろう。
向こう側の相手は梶原を含め、見覚えのある南商の生徒計十数人と言った所だ。南商ではそこそこ名の知れた連中だ。
しかしいくら最前線の戦闘要員だとしても九条の前では分が悪い。何か考えがあるのだろうか。
「それとも、アンタ達自身も「囮」なの?」
和仁が隆平をちら、と見てからからかうようにして笑うと、梶原は「そうなれればねぇ」と少し困った様に笑った。
「俺たちもそうやすやすと捕まるワケには行かないんだわ。」
そう梶原が言うと、南商の男の一人がロープでぐるぐる巻きにした「何か」を自分達の前に出した。
それを見た和仁、和田、九条が頭を抱えてため息、という珍しく同じ反応を返した。
そんな虎組幹部の顔をニコニコと笑いながら梶原は首を傾げた。
「これなら、人質になるでしょ?」
「ちくしょ~何するんすか!!離せ!!バカ!!」
そこには見慣れた少年が先ほどの隆平よろしくロープでぐるぐる巻きにされ、床に転がされていた。
「あの馬鹿…」
はぁ、と心底疲れた様にため息を付いた和田は、思わず頭を垂れて、また胃がキリキリと痛むのを何とか堪える。
どうりでさっきから静かなはずだ、と和田が呟く。
連中は、どさくさに紛れて逃げるついでに、倒れた仲間を起こしにかかって居た三浦を人質にとったらしかった。
和田は呆れたような、感心した様な気分に駆られ、空ろな目で地面に転がされながらぎゃーぎゃーと喚く後輩を見詰めた。
「おっけー取引しましょ。「それ」が人質なんて癪だけど…」
こちらも呆れたようにして、和仁が掌でしっしっと払うと梶原は満面の笑みで子供の様に「やった」と笑った。しかしそれで済むかと思うと、梶原は「もうひとつ」と口を開いた。
「どうか千葉隆平を手荒に扱わないでほしい。」
その子は大事な子なんだ、と念を押すように梶原は、未だ隆平の腕を掴んだままの和田を見据えた。それに気が付いた和田はうっすらと笑うと皮肉めいた口調で返す。
「安心しろよ、そっちみてぇにロープでぐるぐる巻きなんて事はしねぇから。」
それを聞いた梶原はふ、と笑って踵を返し、「それじゃあ、また近々。」と言うと、残った十数人の連中と共に、赤レンガの先の闇に溶けていった。
それを見送りながら、ふぅ、と和田が息を吐く。
それと同時に掴んでいた隆平の腕を離してくれた。隆平はそれに反応は示さず、俯いたままだ。それに和田が気が付いて首を傾げた。
「どうした?」
そう聞いてやると、隆平は消え入りそうな声で「ごめんなさい。」と小さく呟いた。
「なんだか騙したみたいで…。」
そう言って顔を上げない隆平に、和田は苦笑してからその大きな掌を隆平の頭にポン、と乗せた。
「関係ねぇよ。」
そう和田が言うと、隆平は「え」と顔を上げた。
その隆平の表情が本当にただの平凡な少年のもので、和田は目を細めた。
先ほど九条に掴みかかっていた人物とはまるで別人だ。
「おめぇは九条と話をしたかった。それだけだろーが。」
そう言ってぐりぐりと隆平の頭を撫で付けると、和田は隆平の横を通り抜けて、未だ地面に転がっている三浦の元へ近寄り、騒ぎ立てる三浦の頭にゲンコツを一発食らわせたのだった。