決戦は土曜日(後編)
なんだか聞き耳を立てているみたいで居心地が悪い。
盗み聞きはいけないことだが、生憎他に待つ場所がなく、隆平は聞こえてくる会話をなるべく聞かないように努めたが、聞かないように、と思うと逆に意識を集中させてしまうようだ。
「大丈夫だから、ちゃんと戻って来るって。」
小さいながらもはっきとと聞こえた言葉に、隆平は思わず少女達の方に視線を向けてしまった。泣いている少女の背中を擦る少女の表情もどことなく暗い。
「(もしかして誰かを待ってるのか?)」
聞こえた会話から、なぜか分からないが隆平は親しみを感じて、少女達のまるまった背中を見ながら無意識に目を細めた。
誰か大事な人が来なくて、辛くて泣いているのかと思うと、自分まで無性に悲しくなってしまう。
こんな可愛い子を待たせるなんて最低な野郎だな、と隆平は密かに憤る。
「(好きでもない奴待ってるおれだって、ちょっと辛いな、なんと思うのに。)」
それが好きな相手だったらどんなに辛いんだろう、と想像し、隆平は胸が切なくきゅう、となるのを感じて堪らず少女達から目を逸らした。
なぜか貰い泣きしそうになりながら、早くこの子達の大事な人が来てくれればいい、と隆平は1人願った。
すると、人知れず神に祈る隆平の耳に少し声を高めた少女の声が耳に届いた。
「大丈夫、九条が行ったんだから、負けるわけないよ。」
「ブッ!」
聞きなれた名前が耳に入り、隆平は固まった。
今、確かに「九条」と聞こえた。
「でもいくら九条でも三十人相手だよ!?怪我するかもしれないし。」
「(三十人!?何が!?)」
隆平は何やら嫌な予感が頭をよぎる。
「(いや落ち着こうぜ。嫌だな、おれってば。あんまりあの馬鹿虎野郎が来ないから耳がおかしくなったんじゃ…。)」
「そんなことないって、虎組の総長だよ!?」
「……。」
念のため、己の耳をかっぽじっていた隆平はピシリ、と固まった。
それから自然と浮き出てきた脂汗を浮かばせて、ギギギ、と音が出そうな程ぎこちなく、ゆっくりと首を回して二人の少女を見た。
「(まさか、この子達の大事な人って…。)」
「九条大雅はそんなやわじゃないって!!」
ニコ、と泣いていた少女に笑いかける笑顔が眩しい。
所属とフルネームが確定しました!そんな奴一人しかいない!と隆平が目頭を押さえてその場にしゃがみ込んでしまったのは無理もなかった。
「(畜生おお!物凄く可愛いわけだ!両手に花じゃねぇかコンニャロおおおお!滅びろ!滅びてしまえ、あの野郎おおおお!)」
心の中で九条に呪いをかけていた隆平は、ハッとする。
「九条先輩、ここに来てるんですか!?」
隆平は思わずベンチの肘掛に手を付きながら、身を乗り出して聞いてしまった。
そんな彼を見て、少女二人が驚いて目を丸くする。
「…あ。」
それからたちまち怪訝な顔になる少女の顔を見て、隆平も固まってしまった。しまった、と口を両手で塞いで慌てて後ずさるが、言ってしまったものはもう遅い。
慰めていた方の少女が立ち上がって、隆平をじろじろと見詰める。
その値踏みをする様な視線になんとなく、あぁ確かにあいつの彼女だわ、と隆平は妙に納得した。
人を見下すような棘がある視線に、隆平は早くも声をかけた事を後悔した。
「あんた…何、九条の事知ってんの?」
探るような問いだが、いかにも「あんたみたいな冴えない奴が九条の知り合い?」というようにしか聞こえない。隆平は返答に窮する。死んでも「罰ゲームで恋人してまーす!」なんて言えない。
「えーと。ちょっと、今日、呼ばれて、待ってたんですけども。」
「あんたが?」
「はぁ。」
「…九条とどういう関係?まさか友達なわけないよね。」
「勿論パシリです。」
即答したのち、すみません、と謝ってしまう自分を隆平は恨んだ。
そんな隆平に「ふぅん」と少女は答えて腕を組んだ。
「(なんて圧力のあるギャルだ。怖い、怖すぎる。)」
さっき友達を励ましていた可愛い女の子とはぜってー別人。と隆平は怖気づきそうになったが、勇気を振り絞って本題に入った。
「えーと、それで、何時間か待ってたんですけど、一向にいらっしゃる気配がなくてですね。今どちらにおられるかわかりますでしょうか…。」
何が悲しくて九条のことをこんな丁寧に聞かねばならんのだ、と隆平は自分を責めた。持ち前の気の弱さが抗えない自己防衛反応を発動させてしまう。
大体女の子、とくにケバケバしい派手なギャルには免疫がゼロに近いためこうして対峙すること自体、隆平にとってはただただ恐怖だ。
そんな隆平にはぁ。とため息をついて少女は長い髪を揺らしてベンチに座り足を組んだ。
「今赤レンガ近くで喧嘩してるって。えーと、大江和仁は知ってる?」
「あ、はい。」
またしても聞きなれた名前に隆平は頷く。
「その大江和仁と、あと何人かの虎組のメンバーが変な奴らに喧嘩売られて、連れてかれたの。九条はそれを助けに行った。」
「え…」
「六人で三十人を相手にしてんのよ。大丈夫だとは思うけど…。」
そう言って少女の表情が一瞬曇る。それを合図にして、もう一人の少女
がまた泣き始めた。
「喧嘩。」
そのフレーズに隆平は衝撃を受けて固まってしまった。
喧嘩?と言葉を繰り返して、隆平は回らない頭で目の前で泣いている少女を見つめる。
「(喧嘩って、おい。マジかよ。)」
隆平は覚えのある感覚にふつふつと湧き上がる何かを感じた。
盗み聞きはいけないことだが、生憎他に待つ場所がなく、隆平は聞こえてくる会話をなるべく聞かないように努めたが、聞かないように、と思うと逆に意識を集中させてしまうようだ。
「大丈夫だから、ちゃんと戻って来るって。」
小さいながらもはっきとと聞こえた言葉に、隆平は思わず少女達の方に視線を向けてしまった。泣いている少女の背中を擦る少女の表情もどことなく暗い。
「(もしかして誰かを待ってるのか?)」
聞こえた会話から、なぜか分からないが隆平は親しみを感じて、少女達のまるまった背中を見ながら無意識に目を細めた。
誰か大事な人が来なくて、辛くて泣いているのかと思うと、自分まで無性に悲しくなってしまう。
こんな可愛い子を待たせるなんて最低な野郎だな、と隆平は密かに憤る。
「(好きでもない奴待ってるおれだって、ちょっと辛いな、なんと思うのに。)」
それが好きな相手だったらどんなに辛いんだろう、と想像し、隆平は胸が切なくきゅう、となるのを感じて堪らず少女達から目を逸らした。
なぜか貰い泣きしそうになりながら、早くこの子達の大事な人が来てくれればいい、と隆平は1人願った。
すると、人知れず神に祈る隆平の耳に少し声を高めた少女の声が耳に届いた。
「大丈夫、九条が行ったんだから、負けるわけないよ。」
「ブッ!」
聞きなれた名前が耳に入り、隆平は固まった。
今、確かに「九条」と聞こえた。
「でもいくら九条でも三十人相手だよ!?怪我するかもしれないし。」
「(三十人!?何が!?)」
隆平は何やら嫌な予感が頭をよぎる。
「(いや落ち着こうぜ。嫌だな、おれってば。あんまりあの馬鹿虎野郎が来ないから耳がおかしくなったんじゃ…。)」
「そんなことないって、虎組の総長だよ!?」
「……。」
念のため、己の耳をかっぽじっていた隆平はピシリ、と固まった。
それから自然と浮き出てきた脂汗を浮かばせて、ギギギ、と音が出そうな程ぎこちなく、ゆっくりと首を回して二人の少女を見た。
「(まさか、この子達の大事な人って…。)」
「九条大雅はそんなやわじゃないって!!」
ニコ、と泣いていた少女に笑いかける笑顔が眩しい。
所属とフルネームが確定しました!そんな奴一人しかいない!と隆平が目頭を押さえてその場にしゃがみ込んでしまったのは無理もなかった。
「(畜生おお!物凄く可愛いわけだ!両手に花じゃねぇかコンニャロおおおお!滅びろ!滅びてしまえ、あの野郎おおおお!)」
心の中で九条に呪いをかけていた隆平は、ハッとする。
「九条先輩、ここに来てるんですか!?」
隆平は思わずベンチの肘掛に手を付きながら、身を乗り出して聞いてしまった。
そんな彼を見て、少女二人が驚いて目を丸くする。
「…あ。」
それからたちまち怪訝な顔になる少女の顔を見て、隆平も固まってしまった。しまった、と口を両手で塞いで慌てて後ずさるが、言ってしまったものはもう遅い。
慰めていた方の少女が立ち上がって、隆平をじろじろと見詰める。
その値踏みをする様な視線になんとなく、あぁ確かにあいつの彼女だわ、と隆平は妙に納得した。
人を見下すような棘がある視線に、隆平は早くも声をかけた事を後悔した。
「あんた…何、九条の事知ってんの?」
探るような問いだが、いかにも「あんたみたいな冴えない奴が九条の知り合い?」というようにしか聞こえない。隆平は返答に窮する。死んでも「罰ゲームで恋人してまーす!」なんて言えない。
「えーと。ちょっと、今日、呼ばれて、待ってたんですけども。」
「あんたが?」
「はぁ。」
「…九条とどういう関係?まさか友達なわけないよね。」
「勿論パシリです。」
即答したのち、すみません、と謝ってしまう自分を隆平は恨んだ。
そんな隆平に「ふぅん」と少女は答えて腕を組んだ。
「(なんて圧力のあるギャルだ。怖い、怖すぎる。)」
さっき友達を励ましていた可愛い女の子とはぜってー別人。と隆平は怖気づきそうになったが、勇気を振り絞って本題に入った。
「えーと、それで、何時間か待ってたんですけど、一向にいらっしゃる気配がなくてですね。今どちらにおられるかわかりますでしょうか…。」
何が悲しくて九条のことをこんな丁寧に聞かねばならんのだ、と隆平は自分を責めた。持ち前の気の弱さが抗えない自己防衛反応を発動させてしまう。
大体女の子、とくにケバケバしい派手なギャルには免疫がゼロに近いためこうして対峙すること自体、隆平にとってはただただ恐怖だ。
そんな隆平にはぁ。とため息をついて少女は長い髪を揺らしてベンチに座り足を組んだ。
「今赤レンガ近くで喧嘩してるって。えーと、大江和仁は知ってる?」
「あ、はい。」
またしても聞きなれた名前に隆平は頷く。
「その大江和仁と、あと何人かの虎組のメンバーが変な奴らに喧嘩売られて、連れてかれたの。九条はそれを助けに行った。」
「え…」
「六人で三十人を相手にしてんのよ。大丈夫だとは思うけど…。」
そう言って少女の表情が一瞬曇る。それを合図にして、もう一人の少女
がまた泣き始めた。
「喧嘩。」
そのフレーズに隆平は衝撃を受けて固まってしまった。
喧嘩?と言葉を繰り返して、隆平は回らない頭で目の前で泣いている少女を見つめる。
「(喧嘩って、おい。マジかよ。)」
隆平は覚えのある感覚にふつふつと湧き上がる何かを感じた。