決戦は土曜日(後編)
「めんどくせぇ。」
「めんどくせぇ、って…」
「大体付き合ったとしても、拘束とか嫉妬とか考えるだけで駄目だ。」
「でも、好きになったら一緒にいたいと思わない?」
「さぁ。誰かと一緒にいたいなんて考えた事もねぇ。」
ものに執着しないのがなんとも九条らしいが、怜奈ははぁ、とため息をついてしまう。
いつも何かしらこうして九条の本質を引き出そうと探りを入れてみるのだが、恋愛に関しては全くと言っていいほど収穫がない。
こういう女が好みだ、とか、こういう服装はそそる、とか、こういう女の仕草が可愛いだとか。
以前和仁に話を聞いた時は、女の子の好みと、好きなプレイとやらを丸々一時間は聞かされたのに、九条に同じ質問をすると「デカい胸が揉み応えがあっていい」ということしか分からなかった。
タイプが聞き出せないのなら、せめて、九条が以前好きになったことのある女の子を手本にすればなんとか気が惹けるのでは、と思っての質問だったが、怜奈の作戦は見事に失敗したようだ。
「じゃあ今も好きな子とか居ないの?」
「いるか。」
そう言うと九条は、首に掛けていたタオルで湿った髪をガシガシと拭くと、ふと時計を見た。時計は4時半を示していた。7時まではまだ時間があるが、怜奈の化粧が長いのを計算に入れると少し余裕を見た方が良い。
そうして髪を拭きながら立ち上がった九条を、怜奈は不思議そうな顔をして見上げた。
「あれ、どこ行くの?」
「着替え。お前化粧長ぇんだからもう始めろ。五時半になったらまだ見れねぇような顔でも出るからな。」
そう言い捨てると、九条はリビングを後にして階段を上っていった。
「なによ、あいつ…!」
怜奈は「むかつく!」と言いながら、大きな化粧ポーチを取り出した。九条の家に来るときは必ずシャワーを浴びるので、スキンケアのための基礎化粧品から何から何までみんな持って行かなければならないためかなり重い。
以前怜奈がポーチの中身を机に並べている所を九条に見られたことがある。その際全てのものが違う用途で使われる、と知った九条は「大工より道具が多いじゃねえか」と零し、怜奈にドン引きされた。
だがいくら重くても、九条に馬鹿にされようと、怜奈は一つだっては欠かすことができなかった。
それは、完璧な女に自分を仕上げるためにはすべてが必要な道具だからだ。
「誰のために時間をかけて完全フルメイクすると思ってんの…!!」
全部全部九条の彼女になりたくて、綺麗になりたくてやってんだからねっ!!と、怜奈は膨れた。
「早くあたしの魅力に気が付けっつの!バカ!」
そう言いながらタオルを掴むとソファから降りて、怜奈先ほどの九条の言葉を思い返した。
『誰かと一緒にいたいなんて考えた事もねぇ。』
その言葉を頭の中で反芻しながら、怜奈は首を傾げた。
「まさか、九条…。初恋まだだったりして…」
まさか。それはないわ、九条に限って、と怜奈はしばらく考えて首を横に振った。
女遊びが激しくて、経験豊富なあの年中発情期の男に限ってそんなこと。
…そんなこと。
「…もし、もしもあたしが九条の初恋相手になったら…」
彼女候補で一番有力なのは自分。九条も他の皆も誰もが認めている、一番の女。
それで、もし九条が自分のことを好きだと言ってくれたら。
そこまで考えて、怜奈は手に持ったタオルを手に持ちながら、どこか浮き足立って、奥の洗面台に消えた。
「駅前の店に?」
連絡を受けて、康高は顔色を変えた。
さきほど、虎組の連中がまだ駅前のカフェ店内にいる、と言う報告を受け、慌てて確認をとった。
電話越しの男は、康高の情報屋の知り合いで、神代地区では大きなネットワークをはって情報を収集するかなりのやり手だった。
その管理下にあり、桜町駅前で張っていた情報員が、駅前カフェ店内で、虎組のメンバーを見つけた、と報告してきたのである。
「やっぱりな…。」
思った通りだった。
虎組のメンバーは偶然に隆平を助けたのではない。
事情があって近くで見張っていたのだ。
しかし、何のために、と康高は考える。
まさか下っ端を護衛に付けるほど大切にしている、というわけでもないだろう。
それならば、何故。
「店にいるのは、さっき外へ出た連中だけか?」
康高が問うと電話越しの相手はいや、と答えた。
『そいつらの他に多分リーダーと思われる、銀髪の奴と赤い髪の奴がいる、ということだ。』
それを聞いた康高は、一気に表情が曇る。
銀色の髪の奴は虎組のNO3と呼び声の高い和田宗一郎だ。
虎組に銀髪は一人しかいない。
そして、赤い髪というのは…。
「大江和仁…」
呟いてた康高は、ふと胸騒ぎを覚える。
なぜ忘れていたのか。一番の危険人物がそこにいる理由は、何か彼にとって「面白い事」があるからだ。
「めんどくせぇ、って…」
「大体付き合ったとしても、拘束とか嫉妬とか考えるだけで駄目だ。」
「でも、好きになったら一緒にいたいと思わない?」
「さぁ。誰かと一緒にいたいなんて考えた事もねぇ。」
ものに執着しないのがなんとも九条らしいが、怜奈ははぁ、とため息をついてしまう。
いつも何かしらこうして九条の本質を引き出そうと探りを入れてみるのだが、恋愛に関しては全くと言っていいほど収穫がない。
こういう女が好みだ、とか、こういう服装はそそる、とか、こういう女の仕草が可愛いだとか。
以前和仁に話を聞いた時は、女の子の好みと、好きなプレイとやらを丸々一時間は聞かされたのに、九条に同じ質問をすると「デカい胸が揉み応えがあっていい」ということしか分からなかった。
タイプが聞き出せないのなら、せめて、九条が以前好きになったことのある女の子を手本にすればなんとか気が惹けるのでは、と思っての質問だったが、怜奈の作戦は見事に失敗したようだ。
「じゃあ今も好きな子とか居ないの?」
「いるか。」
そう言うと九条は、首に掛けていたタオルで湿った髪をガシガシと拭くと、ふと時計を見た。時計は4時半を示していた。7時まではまだ時間があるが、怜奈の化粧が長いのを計算に入れると少し余裕を見た方が良い。
そうして髪を拭きながら立ち上がった九条を、怜奈は不思議そうな顔をして見上げた。
「あれ、どこ行くの?」
「着替え。お前化粧長ぇんだからもう始めろ。五時半になったらまだ見れねぇような顔でも出るからな。」
そう言い捨てると、九条はリビングを後にして階段を上っていった。
「なによ、あいつ…!」
怜奈は「むかつく!」と言いながら、大きな化粧ポーチを取り出した。九条の家に来るときは必ずシャワーを浴びるので、スキンケアのための基礎化粧品から何から何までみんな持って行かなければならないためかなり重い。
以前怜奈がポーチの中身を机に並べている所を九条に見られたことがある。その際全てのものが違う用途で使われる、と知った九条は「大工より道具が多いじゃねえか」と零し、怜奈にドン引きされた。
だがいくら重くても、九条に馬鹿にされようと、怜奈は一つだっては欠かすことができなかった。
それは、完璧な女に自分を仕上げるためにはすべてが必要な道具だからだ。
「誰のために時間をかけて完全フルメイクすると思ってんの…!!」
全部全部九条の彼女になりたくて、綺麗になりたくてやってんだからねっ!!と、怜奈は膨れた。
「早くあたしの魅力に気が付けっつの!バカ!」
そう言いながらタオルを掴むとソファから降りて、怜奈先ほどの九条の言葉を思い返した。
『誰かと一緒にいたいなんて考えた事もねぇ。』
その言葉を頭の中で反芻しながら、怜奈は首を傾げた。
「まさか、九条…。初恋まだだったりして…」
まさか。それはないわ、九条に限って、と怜奈はしばらく考えて首を横に振った。
女遊びが激しくて、経験豊富なあの年中発情期の男に限ってそんなこと。
…そんなこと。
「…もし、もしもあたしが九条の初恋相手になったら…」
彼女候補で一番有力なのは自分。九条も他の皆も誰もが認めている、一番の女。
それで、もし九条が自分のことを好きだと言ってくれたら。
そこまで考えて、怜奈は手に持ったタオルを手に持ちながら、どこか浮き足立って、奥の洗面台に消えた。
「駅前の店に?」
連絡を受けて、康高は顔色を変えた。
さきほど、虎組の連中がまだ駅前のカフェ店内にいる、と言う報告を受け、慌てて確認をとった。
電話越しの男は、康高の情報屋の知り合いで、神代地区では大きなネットワークをはって情報を収集するかなりのやり手だった。
その管理下にあり、桜町駅前で張っていた情報員が、駅前カフェ店内で、虎組のメンバーを見つけた、と報告してきたのである。
「やっぱりな…。」
思った通りだった。
虎組のメンバーは偶然に隆平を助けたのではない。
事情があって近くで見張っていたのだ。
しかし、何のために、と康高は考える。
まさか下っ端を護衛に付けるほど大切にしている、というわけでもないだろう。
それならば、何故。
「店にいるのは、さっき外へ出た連中だけか?」
康高が問うと電話越しの相手はいや、と答えた。
『そいつらの他に多分リーダーと思われる、銀髪の奴と赤い髪の奴がいる、ということだ。』
それを聞いた康高は、一気に表情が曇る。
銀色の髪の奴は虎組のNO3と呼び声の高い和田宗一郎だ。
虎組に銀髪は一人しかいない。
そして、赤い髪というのは…。
「大江和仁…」
呟いてた康高は、ふと胸騒ぎを覚える。
なぜ忘れていたのか。一番の危険人物がそこにいる理由は、何か彼にとって「面白い事」があるからだ。