決戦は土曜日(後編)
だが和田の方は相当苛々としているらしく、ライターを片手で弄びながら本日何本目かの煙草に火を付けた。
もともと和田は喧嘩が好きで虎組に入ったと言っても過言ではない。
最近では他の組との抗争がないため、新しく入ったメンバーの教育係に徹していたが、いざ喧嘩となると人が変わった様に凶悪になるタイプだった。
そしてまた、他のメンバーも和田に触発されたのか険のある目つきで、入り口付近の男達を見ている。
平和ボケしていて、喧嘩のやり方も忘れてしまっていのではないかと、前に和田が心配していたが、そんなことも無さそうだ。
まあ、あちこちで小さい小競り合いみたいなのは頻繁に起きているから、個人的な喧嘩はちょくちょくしているんだろう、と和仁は推測した。
だけど、と和仁は珍しく眉を寄せる。
「(まいったなぁ。こっちはこっちで今から面白くなる予定なんだけど…。)」
そう考えながら一人、メンバーの目線とは反対の窓の外を眺める。
その視線の先には千葉隆平。
あのアホ面を観察できるゲームを中断させるのはいただけない。
そうして一人、困った困った、と呟いた。
それから約二時間程前…。
康高は一人難しい顔をして考え込んでいた。
隆平がまた暢気な顔で待ち始めたのは良いが、やはり九条大雅が来る気配はない。
普通約束をしておいて、こんなに待たせるのも可笑しな話だ。
となれば、九条は最初から来る気がなかったのか。
だが、そうであれば何故隆平はこんなに長く待っていなければならないのだろう。
誰かしら連絡をしてやらないのか。
あのお節介な大江和仁なら隆平に怪しまれないために如何にも世話を焼きそうなものだが。
そして、他にも腑に落ちない事がある。
隆平が財布をスられかけた際に、犯人を捕まえた虎組のメンバー。
偶然にしては、少し妙だ。
当然向こうは隆平の顔も知っているだろうから、顔見知りで助けてやったのかも知れない。しかし隆平の話では屋上では邪険にされていると、先日聞いたばかりだ。
そんな扱いを受けている隆平を気まぐれで助けたりするものだろうか。
康高が悶々と考え込んでいると、一人放って置かれた紗希が、康高の前に座り康高の眉間をチョン、と突いた。
それに「おお」と答えると紗希が顔を覗きこんでくる。
「どーしたの、こわーい顔して。」
「いや。」
なんでもない、と言った康高に紗希がその伸びきった前髪を掴んだ。
「嘘。なんか難しい事考えてる。」
また秘密のするの?と問われて、康高は困った様に笑う。
「少し考えていただけだ。何も秘密にしちゃいない」
ふぅん、と少し疑わしげな目で見てから、紗希はまぁいいか、と呟いて立ち上がった。それから,康高が教えてやった宿題やら何やらを鞄に詰め込んでゆく。
「なんだ、帰るのか」
「うん。学校に呼ばれてるの。学園祭が近いから準備でね。」
「なんだ。お袋が紗希に夕飯を食べて貰えるって張り切っていたのに。残念だったな。」
「えぇ~!!うそ!悲しい…。」
そう言って落ち込む姿は隆平にそっくりだ。
それが妙に可笑しくて、康高は眉尻を下げて笑う。
この双子は顔があまり似ていないので、知らない人間に双子と言われるとよく驚かれるのだが、話すときの癖や、笑った時の顔や、こうして拗ねる時の仕草が驚くほど似ている。
「また機会があったらお袋に付き合ってやってくれ。」
「ありがとう。あの…隆ちゃんをお願いね。」
そう言って部屋を後にした紗希の背中を康高は黙って追った。
それから紗希は居間に控えていた由利恵にすみません、と挨拶をする。
謝りながら母親と談笑する紗希を眺めて、康高は漠然と頭にある思いが、ふと頭をよぎった。
それから失礼します、と玄関の扉に手をかけた紗希に、康高は声を掛けた。
「なあ、紗希。」
もともと和田は喧嘩が好きで虎組に入ったと言っても過言ではない。
最近では他の組との抗争がないため、新しく入ったメンバーの教育係に徹していたが、いざ喧嘩となると人が変わった様に凶悪になるタイプだった。
そしてまた、他のメンバーも和田に触発されたのか険のある目つきで、入り口付近の男達を見ている。
平和ボケしていて、喧嘩のやり方も忘れてしまっていのではないかと、前に和田が心配していたが、そんなことも無さそうだ。
まあ、あちこちで小さい小競り合いみたいなのは頻繁に起きているから、個人的な喧嘩はちょくちょくしているんだろう、と和仁は推測した。
だけど、と和仁は珍しく眉を寄せる。
「(まいったなぁ。こっちはこっちで今から面白くなる予定なんだけど…。)」
そう考えながら一人、メンバーの目線とは反対の窓の外を眺める。
その視線の先には千葉隆平。
あのアホ面を観察できるゲームを中断させるのはいただけない。
そうして一人、困った困った、と呟いた。
それから約二時間程前…。
康高は一人難しい顔をして考え込んでいた。
隆平がまた暢気な顔で待ち始めたのは良いが、やはり九条大雅が来る気配はない。
普通約束をしておいて、こんなに待たせるのも可笑しな話だ。
となれば、九条は最初から来る気がなかったのか。
だが、そうであれば何故隆平はこんなに長く待っていなければならないのだろう。
誰かしら連絡をしてやらないのか。
あのお節介な大江和仁なら隆平に怪しまれないために如何にも世話を焼きそうなものだが。
そして、他にも腑に落ちない事がある。
隆平が財布をスられかけた際に、犯人を捕まえた虎組のメンバー。
偶然にしては、少し妙だ。
当然向こうは隆平の顔も知っているだろうから、顔見知りで助けてやったのかも知れない。しかし隆平の話では屋上では邪険にされていると、先日聞いたばかりだ。
そんな扱いを受けている隆平を気まぐれで助けたりするものだろうか。
康高が悶々と考え込んでいると、一人放って置かれた紗希が、康高の前に座り康高の眉間をチョン、と突いた。
それに「おお」と答えると紗希が顔を覗きこんでくる。
「どーしたの、こわーい顔して。」
「いや。」
なんでもない、と言った康高に紗希がその伸びきった前髪を掴んだ。
「嘘。なんか難しい事考えてる。」
また秘密のするの?と問われて、康高は困った様に笑う。
「少し考えていただけだ。何も秘密にしちゃいない」
ふぅん、と少し疑わしげな目で見てから、紗希はまぁいいか、と呟いて立ち上がった。それから,康高が教えてやった宿題やら何やらを鞄に詰め込んでゆく。
「なんだ、帰るのか」
「うん。学校に呼ばれてるの。学園祭が近いから準備でね。」
「なんだ。お袋が紗希に夕飯を食べて貰えるって張り切っていたのに。残念だったな。」
「えぇ~!!うそ!悲しい…。」
そう言って落ち込む姿は隆平にそっくりだ。
それが妙に可笑しくて、康高は眉尻を下げて笑う。
この双子は顔があまり似ていないので、知らない人間に双子と言われるとよく驚かれるのだが、話すときの癖や、笑った時の顔や、こうして拗ねる時の仕草が驚くほど似ている。
「また機会があったらお袋に付き合ってやってくれ。」
「ありがとう。あの…隆ちゃんをお願いね。」
そう言って部屋を後にした紗希の背中を康高は黙って追った。
それから紗希は居間に控えていた由利恵にすみません、と挨拶をする。
謝りながら母親と談笑する紗希を眺めて、康高は漠然と頭にある思いが、ふと頭をよぎった。
それから失礼します、と玄関の扉に手をかけた紗希に、康高は声を掛けた。
「なあ、紗希。」