罰ゲーム開始
だが待てよ、と九条はハッと気がつく。
「もし、向こうが断って来たらどうすんだ?」
健全な男子高校生の正常な思考であれば男同士で付き合うなどというのは狂気の沙汰だ。
向こうが常識人なら断られる可能性が高い。そうすればこの趣味の悪いゲームもすぐに終わるのではないか、と九条は淡い期待を寄せた。
すると和仁はぷっくりと腫らした頬を撫でながら真顔で言い放った。
「まあ彼が駄目なら、候補はあと3人おりますけれども。」
「早く言えよ、それを。」
クソが、と悪態をつく九条を他所に、和仁はポケットからメモを取り出して読み上げる。
「あとはえー、逆三角形の肉体美が眩しいリアルゲイか、マゾヒストデブか、女装コスプレオタクっすね。全員男性でバリタチです。」
「あいつで良い。」
断られたら後がない。
九条は(様々な意味で)追い詰められたのだった。
そして冒頭の告白に至る。
目の前の平凡な少年はタラタラと脂汗を流して、信じられない、というような目で九条を見ている。
無理もない。
いきなり不良から呼び出されて告白されるなんて誰も思わないだろう。
しかも自分も男、相手も男だ。
俺だって好きでこんな酔狂な真似するか、と九条は脳内で必死に言い訳を繰り返した。だが、もうどうしようもない。
「おい。」
固まったまま動かない少年を前に、九条はイライラとしながら声を掛けた。
「返事は」
とにかく付き合う、という名目のもと一ヶ月何事もなく過ごせればそれで良い。
とっとと返事を貰い今日はやり過ごそう、と考えていた九条に、目の前の少年は震えた声で呟いた。
「あ…あの…」
「あ?」
「おれ、男なんです、けど…。」
「だからなんだっつーんだ、コラ。」
「ヒィッ」
地を這う様な声をだし睨み付けてやると、少年は咄嗟に目を瞑り、両腕で頭を防御するような仕草をみせた。
その一挙一動にイライラとしながら、九条は圧力をかけるようにさらに低い声で返答を促す。
「返事」
「あ、あの、おおおお付き合いってのは、ちょっと…おれ…」
「んだとコラ‼」
「ぎゃ!!!」
拒絶の言葉に九条は思わずガン、と近くにあった壊れた椅子を蹴り飛ばした。
それが少年の立っているすぐ横の壁にぶつかり、彼は益々縮こまってしまった。
傍目から見たら完璧に恐喝である。
それを近くの物陰から見ていた和仁は「あちゃー」と、頭に手を当てた。
「何やってんだよ九条~!あんなの脅迫じゃん。」
あれではイラついた九条が彼のことを殴ってしまうのは時間の問題だ。
「頼む、なんとか一ヶ月間持たせてくれよ~。」
和仁は祈るような気持ちで二人のやり取りを見つめている。
できるだけ長い時間観察できますように、と気が付けば手を合わせていた。
傍若無人の九条大雅にあの少年がどんな風にいたぶられるのか、逆に九条があの少年によってどんな醜態を晒すのか、と想像するだけで和仁の世界は途端にキラキラと輝きはじめた。気分が高揚して浮足立っている。
遠足前日の小学生のように心がはずんでいるのだ。
暇つぶしのためならば、他人の迷惑は顧みない。
これが大江和仁が愉快犯たる所以である。
「神様仏様、どうか最高の罰ゲームになりますように…!」
そんな彼の胸中を知るものはここには誰もおらず、和仁は一人胸をときめかせながら、これから始まる一か月に思いを馳せた。
一方、先程の行為に完璧に怯えた少年は、涙目で今にも倒れてしまいそうなほど顔を青くしていた。
それを確認した九条は一段と声色を低くする。
「俺と、付き合え」
それは断る事を許さない、紛れも無い命令。
「は…はひ」
まじで殺られる、と感じたのか。
少年…千葉隆平は涙目で一回だけ、コクリと深く頷いたのだった。
つづく
「もし、向こうが断って来たらどうすんだ?」
健全な男子高校生の正常な思考であれば男同士で付き合うなどというのは狂気の沙汰だ。
向こうが常識人なら断られる可能性が高い。そうすればこの趣味の悪いゲームもすぐに終わるのではないか、と九条は淡い期待を寄せた。
すると和仁はぷっくりと腫らした頬を撫でながら真顔で言い放った。
「まあ彼が駄目なら、候補はあと3人おりますけれども。」
「早く言えよ、それを。」
クソが、と悪態をつく九条を他所に、和仁はポケットからメモを取り出して読み上げる。
「あとはえー、逆三角形の肉体美が眩しいリアルゲイか、マゾヒストデブか、女装コスプレオタクっすね。全員男性でバリタチです。」
「あいつで良い。」
断られたら後がない。
九条は(様々な意味で)追い詰められたのだった。
そして冒頭の告白に至る。
目の前の平凡な少年はタラタラと脂汗を流して、信じられない、というような目で九条を見ている。
無理もない。
いきなり不良から呼び出されて告白されるなんて誰も思わないだろう。
しかも自分も男、相手も男だ。
俺だって好きでこんな酔狂な真似するか、と九条は脳内で必死に言い訳を繰り返した。だが、もうどうしようもない。
「おい。」
固まったまま動かない少年を前に、九条はイライラとしながら声を掛けた。
「返事は」
とにかく付き合う、という名目のもと一ヶ月何事もなく過ごせればそれで良い。
とっとと返事を貰い今日はやり過ごそう、と考えていた九条に、目の前の少年は震えた声で呟いた。
「あ…あの…」
「あ?」
「おれ、男なんです、けど…。」
「だからなんだっつーんだ、コラ。」
「ヒィッ」
地を這う様な声をだし睨み付けてやると、少年は咄嗟に目を瞑り、両腕で頭を防御するような仕草をみせた。
その一挙一動にイライラとしながら、九条は圧力をかけるようにさらに低い声で返答を促す。
「返事」
「あ、あの、おおおお付き合いってのは、ちょっと…おれ…」
「んだとコラ‼」
「ぎゃ!!!」
拒絶の言葉に九条は思わずガン、と近くにあった壊れた椅子を蹴り飛ばした。
それが少年の立っているすぐ横の壁にぶつかり、彼は益々縮こまってしまった。
傍目から見たら完璧に恐喝である。
それを近くの物陰から見ていた和仁は「あちゃー」と、頭に手を当てた。
「何やってんだよ九条~!あんなの脅迫じゃん。」
あれではイラついた九条が彼のことを殴ってしまうのは時間の問題だ。
「頼む、なんとか一ヶ月間持たせてくれよ~。」
和仁は祈るような気持ちで二人のやり取りを見つめている。
できるだけ長い時間観察できますように、と気が付けば手を合わせていた。
傍若無人の九条大雅にあの少年がどんな風にいたぶられるのか、逆に九条があの少年によってどんな醜態を晒すのか、と想像するだけで和仁の世界は途端にキラキラと輝きはじめた。気分が高揚して浮足立っている。
遠足前日の小学生のように心がはずんでいるのだ。
暇つぶしのためならば、他人の迷惑は顧みない。
これが大江和仁が愉快犯たる所以である。
「神様仏様、どうか最高の罰ゲームになりますように…!」
そんな彼の胸中を知るものはここには誰もおらず、和仁は一人胸をときめかせながら、これから始まる一か月に思いを馳せた。
一方、先程の行為に完璧に怯えた少年は、涙目で今にも倒れてしまいそうなほど顔を青くしていた。
それを確認した九条は一段と声色を低くする。
「俺と、付き合え」
それは断る事を許さない、紛れも無い命令。
「は…はひ」
まじで殺られる、と感じたのか。
少年…千葉隆平は涙目で一回だけ、コクリと深く頷いたのだった。
つづく