決戦は土曜日(前編)
『きっと今頃「見てねぇよ!!」とか言って身近なもの蹴っ飛ばしてますね~。オレの友達、超短気なんですよ~』
その言葉にこの家のどこかに監視カメラが付いているのではないかと、九条は辺りを見回した。少し焦ったのは、この男ならば本当にやりかねないと思ったからだ。
しかしふと我に返り「んな非常識な…」と頭を振った。急に馬鹿馬鹿しくなって再びソファに身体を預けると冷静になろうと深呼吸をする。
『へぇ、そのお友達もカッコイイのかな?』
笑いながら機嫌の良いアナウンサーに、和仁はこれまた愛想良く答えた。
『はい。オレなんかよりもずっとカッコ良いですよ。でもそいつ恋人いるんです~。性格悪いくせに。』
「やかましい!!」
冷静になろうとした努力も虚しく、九条は最早完全に画面越しの和仁に遊ばれていた。そうして九条が「いつかシバく…」と画面の和仁を睨んでいると、ふ、と和仁とアナウンサーの遥か後ろのベンチでもぞもぞと動く物体を発見した。
「…!!?」
画面に近づいてよくよく目を凝らすと、それは見知った人物だった。
私服姿だが間違い無い。
紛れもなく、和仁が先ほど言った、九条の恋人(仮)だった。
「…どんな偶然なんだよ…。」
何やら楽しげに会話をする和仁とアナウンサーは、近くで人気の店の話で盛り上がっていたが、それに構うことなく九条は豆粒程のサイズの少年を凝視した。
ベンチに一人座り掌で顔を押えている少年の仕草は、まるで。
「…泣いてんのか…?」
しきりに掌で目元を擦るような動作を繰り返す少年のそれは、流れる涙を拭うような動作に見える。
それを見た九条はわずかに良心が痛んだような気がして、よく確認しようと更にテレビ画面に顔を近づけた。だがその丁度いい場所へアナウンサーが移動し、奥の隆平は見えなくなってしまった。
「!!」
『沢山お話してくれて有難うございました~。それでは今から、和仁君に聞いた、若者に人気のお店を訪ねたいと思います。』
勝手に訪ねろ!!さっさとどけ!!と九条はアナウンサーの後ろの隆平を気にするが、その横で和仁が良い笑顔で手を振るのが見えて、画面が切り替わった。
「…」
テレビからは陽気な音楽と、清涼飲料水の宣伝。
そのCM画像を唖然としたまま眺めて、ハッと我に返った九条は怒りのままにテレビの電源を切った。
すると静かになった部屋に無機質な着信音が響く。その発信音を辿りソファに無造作に投げ出されていたケータイを手に取る。
表示されたディスプレイを眺めて、九条は心の底からはらわたが煮えくり返るような気持ちに駆られた。
暫く無機質な音を発したケータイの通話ボタンを押して耳に当てると、想像した通りの間延びした声が聞こえた。
『やっほ~、寝てた?』
それは先程テレビに出ていた、紛れもない九条の幼馴染。
『聞いて聞いて~、オレさっきねぇ、駅でインタビューされてテレビ出ちゃったぁ~。見てた?』
「見てねぇよ、じゃあな」
そう一言で返し、九条は和仁の次の言葉も聞くこと無く電話を切った。
するとまた直ぐに電話がかかって来て、九条は苛々とする頭を押さえながら、またその電話を取る。
そしてケータイから聞こえたのはやはり和仁だった。
『いきなり切らないでよね~!!あとでネット配信もされるみたいだから一緒にみようね。』
「いらねぇよ、じゃあな」
更に怒りが増してくる九条は、何とか冷静を保ち電話を切る。
だが、三度ケータイが鳴り始めたのには、さすがの九条も耐えられなかったらしく、その無機質な呼び出し音についに怒りを爆発させた。
素早くケータイを掴み、電話に出ると九条はケータイに向って大声で叫んだのである。
「しつけぇんだよテメェは!!俺は何も見てねぇし、いらねぇっつてんだろ!!大体なんであのガキは泣いてんだ!和仁てめぇ、あのガキにいつまでも待ってねーでさっさと帰れって伝えとけ!!!」
一息で怒鳴り散らすと、電話越しで「はぁ?」と和仁のものでは無い、高い声が聞こえた。
『誰に何を伝えんの。』
それは鼻にかかるような甘ったるい声をした女のもので、九条は怪訝な顔をした。
「…誰。」
『ちょ、あり得ないんですけど。』
いきなり怒鳴るとかウケるし、と笑う女の声に九条は溜息をついてその正体を悟った。
九条と関係のある女の中で、こんな風に甘い声を出す奴がいた、と思いだしたのだ。
「なんか用か。」
間違えて怒鳴ってしまった怒りは後で和仁にぶつける事にして、九条は素っ気なく要件を聞く。苛々としている所に女の甘い声は更にそれを増長させるような効果がある。
『も~冷たい。せっかくテレビに和仁君が出てたから教えてあげようと思って電話してあげてたのに。』
誰も頼んでねぇ、と九条が答えると電話越しの女は不満げな声を上げた。
その言葉にこの家のどこかに監視カメラが付いているのではないかと、九条は辺りを見回した。少し焦ったのは、この男ならば本当にやりかねないと思ったからだ。
しかしふと我に返り「んな非常識な…」と頭を振った。急に馬鹿馬鹿しくなって再びソファに身体を預けると冷静になろうと深呼吸をする。
『へぇ、そのお友達もカッコイイのかな?』
笑いながら機嫌の良いアナウンサーに、和仁はこれまた愛想良く答えた。
『はい。オレなんかよりもずっとカッコ良いですよ。でもそいつ恋人いるんです~。性格悪いくせに。』
「やかましい!!」
冷静になろうとした努力も虚しく、九条は最早完全に画面越しの和仁に遊ばれていた。そうして九条が「いつかシバく…」と画面の和仁を睨んでいると、ふ、と和仁とアナウンサーの遥か後ろのベンチでもぞもぞと動く物体を発見した。
「…!!?」
画面に近づいてよくよく目を凝らすと、それは見知った人物だった。
私服姿だが間違い無い。
紛れもなく、和仁が先ほど言った、九条の恋人(仮)だった。
「…どんな偶然なんだよ…。」
何やら楽しげに会話をする和仁とアナウンサーは、近くで人気の店の話で盛り上がっていたが、それに構うことなく九条は豆粒程のサイズの少年を凝視した。
ベンチに一人座り掌で顔を押えている少年の仕草は、まるで。
「…泣いてんのか…?」
しきりに掌で目元を擦るような動作を繰り返す少年のそれは、流れる涙を拭うような動作に見える。
それを見た九条はわずかに良心が痛んだような気がして、よく確認しようと更にテレビ画面に顔を近づけた。だがその丁度いい場所へアナウンサーが移動し、奥の隆平は見えなくなってしまった。
「!!」
『沢山お話してくれて有難うございました~。それでは今から、和仁君に聞いた、若者に人気のお店を訪ねたいと思います。』
勝手に訪ねろ!!さっさとどけ!!と九条はアナウンサーの後ろの隆平を気にするが、その横で和仁が良い笑顔で手を振るのが見えて、画面が切り替わった。
「…」
テレビからは陽気な音楽と、清涼飲料水の宣伝。
そのCM画像を唖然としたまま眺めて、ハッと我に返った九条は怒りのままにテレビの電源を切った。
すると静かになった部屋に無機質な着信音が響く。その発信音を辿りソファに無造作に投げ出されていたケータイを手に取る。
表示されたディスプレイを眺めて、九条は心の底からはらわたが煮えくり返るような気持ちに駆られた。
暫く無機質な音を発したケータイの通話ボタンを押して耳に当てると、想像した通りの間延びした声が聞こえた。
『やっほ~、寝てた?』
それは先程テレビに出ていた、紛れもない九条の幼馴染。
『聞いて聞いて~、オレさっきねぇ、駅でインタビューされてテレビ出ちゃったぁ~。見てた?』
「見てねぇよ、じゃあな」
そう一言で返し、九条は和仁の次の言葉も聞くこと無く電話を切った。
するとまた直ぐに電話がかかって来て、九条は苛々とする頭を押さえながら、またその電話を取る。
そしてケータイから聞こえたのはやはり和仁だった。
『いきなり切らないでよね~!!あとでネット配信もされるみたいだから一緒にみようね。』
「いらねぇよ、じゃあな」
更に怒りが増してくる九条は、何とか冷静を保ち電話を切る。
だが、三度ケータイが鳴り始めたのには、さすがの九条も耐えられなかったらしく、その無機質な呼び出し音についに怒りを爆発させた。
素早くケータイを掴み、電話に出ると九条はケータイに向って大声で叫んだのである。
「しつけぇんだよテメェは!!俺は何も見てねぇし、いらねぇっつてんだろ!!大体なんであのガキは泣いてんだ!和仁てめぇ、あのガキにいつまでも待ってねーでさっさと帰れって伝えとけ!!!」
一息で怒鳴り散らすと、電話越しで「はぁ?」と和仁のものでは無い、高い声が聞こえた。
『誰に何を伝えんの。』
それは鼻にかかるような甘ったるい声をした女のもので、九条は怪訝な顔をした。
「…誰。」
『ちょ、あり得ないんですけど。』
いきなり怒鳴るとかウケるし、と笑う女の声に九条は溜息をついてその正体を悟った。
九条と関係のある女の中で、こんな風に甘い声を出す奴がいた、と思いだしたのだ。
「なんか用か。」
間違えて怒鳴ってしまった怒りは後で和仁にぶつける事にして、九条は素っ気なく要件を聞く。苛々としている所に女の甘い声は更にそれを増長させるような効果がある。
『も~冷たい。せっかくテレビに和仁君が出てたから教えてあげようと思って電話してあげてたのに。』
誰も頼んでねぇ、と九条が答えると電話越しの女は不満げな声を上げた。