決戦は土曜日(前編)
「それでやっちゃんは今日どうするの?」
何か邪魔するとかしないといけないんじゃない?と詰め寄ってくる幼馴染に、康高はあらぬ方向へ視線を向けると、まずは…と呟いた。
「今日はお前が宿題を見て欲しいって言ってたから、まず午前中に片付けて…。」
「片付けて?」
「その後はこれ。」
そう言って康高が示したのは、彼の部屋にあるパソコン。
それを慣れた手つきで起動させると、何やら難しい記号や数字などを打ち込みはじめる。そしてパソコン画面に表示された情報を一通り処理しきると、そこにはテレビのような動画が流れはじめた。
「なにこれ。」
紗希がその動画を不思議そうに眺めると、康高はさらに違うボタンをクリックする。
すると画面には分割された複数の場所の映像が流れ始めた。
「これは桜町駅付近の防犯カメラの今の映像。」
特に悪びれなく答えた康高の言葉に、紗希はふ~んと頷いてから、ん?と首を傾げた。何か今、とんでもないことを聞いたような気がするのだが。
「やっちゃん…。」
「ほら。隆平がここにいるだろ。」
呼びかけた紗希の言葉を聞かずに康高は駅前と思われるベンチに腰掛けてなにやら真剣に本を熟読している隆平を指差した。
それからマウスを操作し、隆平に焦点を合わせズームする。
「花の慶次か…渋いな隆平。」
ブツブツと呟くのを聞きながら、紗希は康高の服を掴み、引っ張った。
「やっちゃん…これって…。」
「あぁ。こうやって隆平の無事を確かめながら周りに何か危険がないか警戒している。ここは人目は多いが犯罪なんかも多発しているエリアだからな。」
「へえ。」
「だから万が一にもこいつに危害が及ばないようにネット上で監視体制をとっている。顔認証システムやサーモカメラも導入しているから、切り替えひとつでデータベース上から怪しいと思われる人物をいち早く特定できる。」
そう言って監視カメラの自動切換えをオンにしながら、康高は紗希の方を向いた。
紗希は胡乱な目で康高を見つめていた。
「なんだ、その顔は。」
「これ…犯罪?」
紗希が指差した画面に、康高は少しバツの悪そうな顔をすると、目を逸らしながら咳払いをする。
それを見ながら紗希は益々怪しげな顔をした。
「まさか、プライベートでもこんなことしてないよね。」
「人を犯罪者を見るような目で見るな。」
「そう言いながら、うちにも監視カメラ付けてたりして。お風呂とか…」
「………どんな変態なんだ、俺は。」
「なんで今一瞬間が空いたの。」
さらに怪訝な顔をする紗希は、いつか康高のパソコンのデータを改める必要がある、と決意した。
この男ならこのパソコンの中に「隆平フォルダ」があってもおかしくはない。
でも、と紗希は康高を見上げる。
「やっちゃんが隆ちゃんを外敵から日々守ってるのは分かったよ。でも、肝心の九条対策は?デートを妨害したりとか。」
紗希の言葉を聞いた康高は、一瞬虚をつかれたような顔をしたが、その直ぐ後に苦笑いを零した。
「俺ができるのはカメラの監視と何かあった際の対応のみだ。」
「え?」
まるで予想外の答えだったらしく、紗希はきょとんとした顔で康高を眺めた。
康高は紗希の方を見るとその頭にそっと大きな掌を乗せる。
「これはあいつなりの意地なんだ。隆平自身が考えて行動している以上、俺は口出しできない。隆平の作戦が破綻して困るのはあいつ自身だ。」
な、と言う康高に紗希は僅かに俯いてからぐ、と唇をかみ締めた。
「じゃあ、隆ちゃんにもしもの事があったら?隆ちゃんが傷つくような事になったらどうするの?」
「…」
「その、大江なんとかって言う人と、九条っていう不良に隆ちゃんがひどい目に逢わされたら、」
紗希の言葉が震えて、その瞳が僅かに潤んでいるのをみて、康高は紗希の顔を覗き込む。
「何があっても、俺はあいつの味方だし、いつでもここは隆平の駆け込み寺だ。」
それに、と康高は付け加えた。
「あいつは紗希が思っているよりも、ずっとたくましい奴だよ。」
「…うん。」
康高の言う事に素直に頷いた紗希は康高を見上げる。
この少年が自分の兄に対して、ただ守りたいだけではなく、個人の意見をきちんと尊重して認めているというのは知っている。
それが康高のやり方であるなら、紗希は何も言えなかった。
隆平に向ける様々な感情の狭間で、康高自身も色々と画策しているに違いない。
もどかしいのはきっと彼も一緒。
この幼馴染みは、兄妹である自分よりも隆平をよく知っている。それなら隆平を守ろうと奔走する彼を信じるのも、自分の役目であると紗希は考えた。
でも、やはり少し悔しいというのも紗希の本音だった。
「あ、そういえばやっちゃんへ、隆ちゃんから伝言。」
「伝言?」
「うん、おれの可愛い妹に手を出したら殺すって。」
イタズラっぽくなんとも嬉しそうに笑った紗希に、やはり康高は苦笑した。そして、パソコンの画面に映る隆平の姿を見て、呆れたように出すか馬鹿。と小さく呟いたのだった。
何か邪魔するとかしないといけないんじゃない?と詰め寄ってくる幼馴染に、康高はあらぬ方向へ視線を向けると、まずは…と呟いた。
「今日はお前が宿題を見て欲しいって言ってたから、まず午前中に片付けて…。」
「片付けて?」
「その後はこれ。」
そう言って康高が示したのは、彼の部屋にあるパソコン。
それを慣れた手つきで起動させると、何やら難しい記号や数字などを打ち込みはじめる。そしてパソコン画面に表示された情報を一通り処理しきると、そこにはテレビのような動画が流れはじめた。
「なにこれ。」
紗希がその動画を不思議そうに眺めると、康高はさらに違うボタンをクリックする。
すると画面には分割された複数の場所の映像が流れ始めた。
「これは桜町駅付近の防犯カメラの今の映像。」
特に悪びれなく答えた康高の言葉に、紗希はふ~んと頷いてから、ん?と首を傾げた。何か今、とんでもないことを聞いたような気がするのだが。
「やっちゃん…。」
「ほら。隆平がここにいるだろ。」
呼びかけた紗希の言葉を聞かずに康高は駅前と思われるベンチに腰掛けてなにやら真剣に本を熟読している隆平を指差した。
それからマウスを操作し、隆平に焦点を合わせズームする。
「花の慶次か…渋いな隆平。」
ブツブツと呟くのを聞きながら、紗希は康高の服を掴み、引っ張った。
「やっちゃん…これって…。」
「あぁ。こうやって隆平の無事を確かめながら周りに何か危険がないか警戒している。ここは人目は多いが犯罪なんかも多発しているエリアだからな。」
「へえ。」
「だから万が一にもこいつに危害が及ばないようにネット上で監視体制をとっている。顔認証システムやサーモカメラも導入しているから、切り替えひとつでデータベース上から怪しいと思われる人物をいち早く特定できる。」
そう言って監視カメラの自動切換えをオンにしながら、康高は紗希の方を向いた。
紗希は胡乱な目で康高を見つめていた。
「なんだ、その顔は。」
「これ…犯罪?」
紗希が指差した画面に、康高は少しバツの悪そうな顔をすると、目を逸らしながら咳払いをする。
それを見ながら紗希は益々怪しげな顔をした。
「まさか、プライベートでもこんなことしてないよね。」
「人を犯罪者を見るような目で見るな。」
「そう言いながら、うちにも監視カメラ付けてたりして。お風呂とか…」
「………どんな変態なんだ、俺は。」
「なんで今一瞬間が空いたの。」
さらに怪訝な顔をする紗希は、いつか康高のパソコンのデータを改める必要がある、と決意した。
この男ならこのパソコンの中に「隆平フォルダ」があってもおかしくはない。
でも、と紗希は康高を見上げる。
「やっちゃんが隆ちゃんを外敵から日々守ってるのは分かったよ。でも、肝心の九条対策は?デートを妨害したりとか。」
紗希の言葉を聞いた康高は、一瞬虚をつかれたような顔をしたが、その直ぐ後に苦笑いを零した。
「俺ができるのはカメラの監視と何かあった際の対応のみだ。」
「え?」
まるで予想外の答えだったらしく、紗希はきょとんとした顔で康高を眺めた。
康高は紗希の方を見るとその頭にそっと大きな掌を乗せる。
「これはあいつなりの意地なんだ。隆平自身が考えて行動している以上、俺は口出しできない。隆平の作戦が破綻して困るのはあいつ自身だ。」
な、と言う康高に紗希は僅かに俯いてからぐ、と唇をかみ締めた。
「じゃあ、隆ちゃんにもしもの事があったら?隆ちゃんが傷つくような事になったらどうするの?」
「…」
「その、大江なんとかって言う人と、九条っていう不良に隆ちゃんがひどい目に逢わされたら、」
紗希の言葉が震えて、その瞳が僅かに潤んでいるのをみて、康高は紗希の顔を覗き込む。
「何があっても、俺はあいつの味方だし、いつでもここは隆平の駆け込み寺だ。」
それに、と康高は付け加えた。
「あいつは紗希が思っているよりも、ずっとたくましい奴だよ。」
「…うん。」
康高の言う事に素直に頷いた紗希は康高を見上げる。
この少年が自分の兄に対して、ただ守りたいだけではなく、個人の意見をきちんと尊重して認めているというのは知っている。
それが康高のやり方であるなら、紗希は何も言えなかった。
隆平に向ける様々な感情の狭間で、康高自身も色々と画策しているに違いない。
もどかしいのはきっと彼も一緒。
この幼馴染みは、兄妹である自分よりも隆平をよく知っている。それなら隆平を守ろうと奔走する彼を信じるのも、自分の役目であると紗希は考えた。
でも、やはり少し悔しいというのも紗希の本音だった。
「あ、そういえばやっちゃんへ、隆ちゃんから伝言。」
「伝言?」
「うん、おれの可愛い妹に手を出したら殺すって。」
イタズラっぽくなんとも嬉しそうに笑った紗希に、やはり康高は苦笑した。そして、パソコンの画面に映る隆平の姿を見て、呆れたように出すか馬鹿。と小さく呟いたのだった。