覚悟(後編)
覚えているのは、激しい雨。
そして
驚くほど悔しかったこと。
激しい雨の音がする。
九条は、窓を叩きつける雨を眺めていた。
倉庫を出て、すぐにタクシーを拾えたのは幸運だった。ドアを開けたタクシーの運転手が、しとどに濡れた九条を見て顔を顰めたが、構わずに乗り込んだ。
手短に行き先を告げて、タクシーが発進する。
車内から、雨に濡れてツヤツヤと光る赤レンガがチラ、と目に入ったが、遠ざかる倉庫を九条はもう振り返る事はなかった。
置き去りにした少年が一瞬九条の脳裏を掠めた。
去り際に見た顔は、酷く混乱しているようだったが、言葉をかけてやる気にもなれなかった。