屋上事変

「いだぁー!なにすんの!」

「胸に手を当ててよく考えてみろぉおお!!」

「え…やだ九条、こんな所で…」

「自分の胸に、だ!」

「ぐぇ」

なぜか恥じらいながら九条の胸に手を添えてきた和仁に、九条は鳩尾へさらにもう一発お見舞いした。
そしてボロボロになりながら尚、和仁は笑顔を崩さず九条の肩を叩く。

「まぁそんなわけだから、きちんとお昼は相手をしてあげてね。」

「するか。死ね。」

不機嫌をあらわにした九条は腹を擦る和仁を見もせずに渡り廊下をズンズンと進んだ。

「そーんなこと言って。ちゃーんとオレと約束したでしょ~、オレが決めた子と一ヶ月付き合うって。それとも早くも約束破る気?」

和仁の言葉にピタリ、と九条の足が止まる。
ニコニコと笑う和仁を振り返ると九条はちっ、と舌打ちを零した。

「何もキスしろセックスしろなんて言ってるわけじゃないんだ。昼飯一緒に食うだけ。簡単でしょ~」

「…わーったよ。」

たかだか一ヵ月と括っていたが、これはとんだ罰ゲームだ、と九条は苦々しい顔をした。

「クソ、見返りがあるわけでもなし。」

頭をガリガリとかきながら吐き捨てた九条に、和仁は笑った。

「それは九条次第じゃん。恋人としての重要な第一歩だ。初っ端から印象悪くするようなことしちゃダメだよ~。」

「なんだそりゃ…。」

朝から疲れた顔をした九条の背中を叩いて、機嫌良くスキップをしだした和仁は、そう言えば、と思い出したように手を叩く。

「千葉君のクラスに比企康高がいたね。」

「誰だよ。」

「有名人じゃん。すげー頭が良いってさ。てかうちでも一回スカウトしてるんですけどね?覚えてない?」

「…?」

怪訝な顔をする九条に、珍しく「はは、無関心なのね。」と乾いた笑いを零した和仁は頭を弱々しく振った。

「いや別に知らなくても良いんだけどさ~。千葉君が比企の後ろに隠れてたから仲良いのかなぁ、と思って。」

「あぁ?」

それが俺に何の関係があるんだ、と言いたげな九条の顔を眺めて、和仁は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「オレさ~苦手なんだよね~、比企康高。性格悪そうなとこが、なんかオレと似ててさぁ。」

同族嫌悪か、と興味無さ気に呟いた九条に、和仁は声も無く笑った。
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