黒猫
5.start(スタート)
日本の春は、桜の花が綺麗だと聞いていた。セントラルパークの桜も綺麗だったけれど、日本には公園だけでなく、学校や通り沿いなど、あちらこちらで桜が咲いている。ピンク系のさまざまな種類の桜が咲いていて、とても美しかった。
でも僕が入学する頃には、その桜の花も終わってしまう。なんだか寂しい。
入学式当日。樹とふたりで学園の正門から敷地内へ入り、互いのクラスへと向かう。樹は五組で、僕は一組だ。
教室の机には、名前が書かれたプレートがあった。僕は「立花葵」と書かれた席を見つけ、そこへ座る。
「アオイ」
後ろから声をかけてきたのは、あの大山リアムだった。
「リアム! 君も一組だったんだね」
「同じクラスで良かった」
リアムも僕も、嬉しさのあまり見つめあってしまった。
周りのクラスメイトたちが、何かヒソヒソと話をしている。でも、そんなことは気にもしなかった。
「蒼野樹は何組だった?」
「五組だよ。ほかの人たちはどうしたかな? 結城くんとか、空閑くん。それと……高梨くん」
「まだ時間があるから、探してみるか?」
「ちょっとした冒険だね」
僕の心臓がドキドキしているのを感じた。
まずは隣の二組だ。前の扉から教室の中を見渡すと……。
「空閑くん!」
「あっ?! 立花! 何組だった?」
「僕は一組だよ」
「えっ?! 大山リアム……」
「君って、意外と有名人?」
「でかいからな」
リアムが苦笑いを浮かべる。
「今、ほかのみんなを探しながら、探検しているんだよ!」
「探検て……お子ちゃまか?」
「いいの! 行くよ」
「お、おい!」
僕は空閑くんの手を引いて三組へと向かった。
三組、四組を覗いても、知っている顔はなかった。
「残り四人は、五組に集結だな」
空閑くんのちょっぴり寂しそうな声が聞こえた。そういえば、空閑くんだけ一人だったな。
「イツキ! 僕リアムと一緒だったよ!」
「よう、セイヤも一緒か?」
「残念ながら、俺は二組で一人きりだ」
「アオイ、こいつリベロの山田健太(やまだけんた)。まだ紹介してなかったよな。ちっさいけど、俺らの守護神」
「山田くん、初めまして。立花葵です」
僕は、いつものように右手を差し出した。
「ちっさいけど、バックの守りは誰にも負けないから」
そう言いながら、樹の顔を睨みつけている山田くんは、負けず嫌いなのかもしれない。
「お前ら、そろそろ時間だ。クラスへ戻れ」
樹の一言で、僕たちはそれぞれのクラスへ戻った。
クラスに戻ると、担任らしき教師が、廊下へ並べと促した。
「軍隊みたいだね」
「集団で動く時なんてこんなもんだろ?」
リアムの「こんなもん」が僕には不思議に思えた。
だってここは軍隊じゃないのに。
講堂の二階席には、新入生の保護者たちが席に着いている。そして、一階席には新入生たちが並んで入ってくる。
「何かステージでパフォーマンスでもやるの?」
「バカ! えらい大人たちが長話をするだけだよ」
(長話かぁ……。寝てしまってもいいのかしら?)
「これより、第……」
司会者の掛け声で、入学式が始まった。
「新入生挨拶。一年一組、立花めぐみ」
(えっ?! めぐみって……)
「アオイ、お前と同じ苗字だな」
「僕のいとこだよ」
「今あそこにいるってことは、試験の成績はトップなんだろうな」
「そういう決まりがあるの?」
「まぁ、だいたいそうだな」
「成績トップか……」
リアムが言う通り、大人たちの長い話が延々と続いた。眠気と戦いながら、どうにか式を終えた。新入生たちは、それぞれの担任に付き従いクラスへと戻って行った。
クラスへ戻るとまず、担任が自己紹介を始めた。
「坂井徹。テツと書いてトオルと読ませる。どうだ、かっこいいだろ?」
「てっちゃん!」
「誰だ! 担任に対してちゃん呼ばわりするやつは?」
「……」
誰も答えない。自分の行動に責任が持てないのだろうか……。
「坂井先生、初日から愛称で呼ばれるなんて、愛されていますね」
「立花、お前か? ちゃん呼びしたのは」
「違いますよ! 僕は何も言っていません。責任が持てない行動はしない主義ですから」
一番後ろの席で、背中を丸めている生徒がいる。彼が叫んだ張本人だろうか? 僕の言葉の意味を、わかってくれるといいのだけれど。
「まぁいいだろう。これからは、高校生らしくあるようにだな……」
「先生!」
「なんだ! またお前か? 立花」
「何をもって『高校生らしく』なんでしょうか?」
「何をもって……理屈をこねるな! 明日からはオリエンテーションなど、生活態度についての話をします。教科書はまだいらないが、筆記用具などは忘れないように。今日はこれで終わります」
初日から僕は、担任をイラつかせたようだった。
「アオイ、担任に喧嘩売ってどうするよ?」
「喧嘩なんて売っていないよ。そもそも喧嘩は売らないでしょ。でも売るってどういう意味なの?」
「アオイが担任に対して、喧嘩をしかけたように見えたんだよ。それを『 売る』って使うんだ」
「リアム賢い」
拍手で賞賛……この光景、どこかで見たような気がする。
「あなた、立花葵でしょ?」
突然、僕の目の前に現れたのは、いとこの立花めぐみだった。
「あなた、将棋部に入りなさい!」
「どうして? 僕が入る部を、なぜ君が決めるの?」
「どうせ日本に来て友達なんていないんでしょ? 私が部長を務める『将棋部』に入れてあげるわよ」
「僕がやるのは『チェス』だし、それに入る部はもう決めているよ」
「はぁ?!」
「彼と一緒にバレー部に入るんだ」
そう言ってリアムの顔を見た。
めぐみは、かなりの角度で首を上に向けていた。見ているだけで首が辛そうだ。
「あっそ! 身長が足りなくて、バレー部に入れなかったら、いつでも拾ってあげる。フン!」
(立花家の女は、母さまといい気が強い人ばかりなのかな?)
僕がリアムと廊下を歩いていると、二組から空閑くんが出てきた。
「立花、五組へ行くのか?」
「うん」
僕たちは三人で五組へ向かった。
教室の中から、先生が大きな声で冗談を言っている。すると、生徒たちの笑い声が聞こえた。このクラスはきっと明るいクラスなんだろうな。
「それじゃあまた明日。気をつけて帰れよ!」
「先生、さよなら!」
教室から次々と生徒が出てくる。
「アオイ! 迎えに来てくれたの?」
「……かな?」
「かなって……おかしいだろ! その言い方」
「イツキ、相変わらず立花には冷たくあしらわれとんな」
「うるさい!」
「なあ、バレー部の入部志願者全員そろてるよ。体育館行かん?」
「何? 早口言葉か何か?」
「立花、これ早口でもなんでもないやろ?」
「高梨くんの話し方おかしい」
僕は高梨くんに対して不貞腐れて見せた。
「相変わらず似非関西人だから、勘弁してやって」
空閑くんのフォローも、相変わらずだと思った。
「アオイ、体育館寄っていかないか?」
「構わないよ」
僕らは七人揃って、体育館へ向かう。その体育館は、ホールとは違い明るく広い空間だった。
バレーボールコートが四面もあり、ちょっとした大会ならここで開かれそうな広さだった。実際地区予選の会場になることもあると、後で樹に聞いた。
二階には観覧席が設けられており、試合の時は校内外問わず、大勢の観戦者が来るらしい。
体育館の扉の向こうに、懐かしい人物の顔を見つけた。僕の足が勝手にその人物へと走り出し、そのまま飛びついた。
「ユウ!」
「アオイ、入学おめでとう」
「ありがとう」
周りの目が冷ややかなことに気がついた僕は、優一の体から離れた。
「お前たちは新一年生か?」
優一より身長は低いが、しっかりとした筋肉をまとった中年の男が、僕たちに声をかけてきた。
「はい!」
いつの間にか僕の後ろには、樹たちが揃っていた。
「ほとんどは中学からの持ち上がりか。いちばん背が高いのと……岩田に張り付いたお前、出身校とポジションを言ってみろ」
随分偉そうにものを言う……。
「神楽台中学出身、ミドルブロッカーです」
「身長は?」
「190センチです」
「よし。次、お前」
「……」
「どうした? 出身校を言えないのか?」
「初対面の人間に対して、随分と偉そうにされていますが、あなたはどなたですか? まずはそれをお聞きしたい!」
「おい、アオイ。バレー部の監督だよ」
樹が僕に耳打ちした。監督であろうが誰であろうが、人間としてまずは挨拶だろう! と、僕は母さまに教わった。
「これはすまなかった。俺はここのバレー部監督、菅谷だ」
「僕は、アメリカ、カリフォルニア州サンタモニカから来ました。立花葵です」
「お前が、立花か?」
「僕を知っているのですか?」
「学園長から聞いている。少し変わった経歴の生徒が入学すると」
「変わった……」
「監督、それは偏見ではないですか? 俺、アオ……立花が十二歳の時から知ってるけど、何も変わったところなんてなかったですよ」
「岩田、どういう知り合いだ?」
「四年前の世界大会で知り合いました。その後、サンタモニカのビーチでバレーの基礎を教えました。監督、こいつビーチでメッチャ飛んでましたよ」
「立花。その場で思い切りジャンプしてみてくれないか?」
「ここでですか?」
周りの人間が少しスペースを空けてくれた。
膝を曲げ、床を強く押す。そのまま上へと体を伸ばす。優一の頭を下に見下ろすとは思わなかった。
「高っ!」
誰かがそう叫んだ。
「よし。全員、入部希望者だな」
「はい!」
「時期は早いが、体がなまってはいけないだろう。興味があるものは、明日からでも練習に参加して良し。ただし保険加入がまだなので、怪我だけは十分に気をつけるよう、以上だ」
「はい!」
僕たちはラッキーと言わんばかりに、足取りも軽く体育館を後にした。
「アオイのジャンプ凄かったな」
「どのくらい飛んでんだろう?」
「そら、天にも届くって、てん……悪いこれ無しや!」
「ああ! また高梨くん、僕のことを『天使』とかって言いかけたでしょう?」
僕は頬を膨らませて怒ってみせる。
「ごめんやて。でも、その顔もええな」
高梨くんの目尻が異様に下がっている。ほかの男たちも何か勘違いしていないか?
「僕は、人間の男だ!」
日本の春は、桜の花が綺麗だと聞いていた。セントラルパークの桜も綺麗だったけれど、日本には公園だけでなく、学校や通り沿いなど、あちらこちらで桜が咲いている。ピンク系のさまざまな種類の桜が咲いていて、とても美しかった。
でも僕が入学する頃には、その桜の花も終わってしまう。なんだか寂しい。
入学式当日。樹とふたりで学園の正門から敷地内へ入り、互いのクラスへと向かう。樹は五組で、僕は一組だ。
教室の机には、名前が書かれたプレートがあった。僕は「立花葵」と書かれた席を見つけ、そこへ座る。
「アオイ」
後ろから声をかけてきたのは、あの大山リアムだった。
「リアム! 君も一組だったんだね」
「同じクラスで良かった」
リアムも僕も、嬉しさのあまり見つめあってしまった。
周りのクラスメイトたちが、何かヒソヒソと話をしている。でも、そんなことは気にもしなかった。
「蒼野樹は何組だった?」
「五組だよ。ほかの人たちはどうしたかな? 結城くんとか、空閑くん。それと……高梨くん」
「まだ時間があるから、探してみるか?」
「ちょっとした冒険だね」
僕の心臓がドキドキしているのを感じた。
まずは隣の二組だ。前の扉から教室の中を見渡すと……。
「空閑くん!」
「あっ?! 立花! 何組だった?」
「僕は一組だよ」
「えっ?! 大山リアム……」
「君って、意外と有名人?」
「でかいからな」
リアムが苦笑いを浮かべる。
「今、ほかのみんなを探しながら、探検しているんだよ!」
「探検て……お子ちゃまか?」
「いいの! 行くよ」
「お、おい!」
僕は空閑くんの手を引いて三組へと向かった。
三組、四組を覗いても、知っている顔はなかった。
「残り四人は、五組に集結だな」
空閑くんのちょっぴり寂しそうな声が聞こえた。そういえば、空閑くんだけ一人だったな。
「イツキ! 僕リアムと一緒だったよ!」
「よう、セイヤも一緒か?」
「残念ながら、俺は二組で一人きりだ」
「アオイ、こいつリベロの山田健太(やまだけんた)。まだ紹介してなかったよな。ちっさいけど、俺らの守護神」
「山田くん、初めまして。立花葵です」
僕は、いつものように右手を差し出した。
「ちっさいけど、バックの守りは誰にも負けないから」
そう言いながら、樹の顔を睨みつけている山田くんは、負けず嫌いなのかもしれない。
「お前ら、そろそろ時間だ。クラスへ戻れ」
樹の一言で、僕たちはそれぞれのクラスへ戻った。
クラスに戻ると、担任らしき教師が、廊下へ並べと促した。
「軍隊みたいだね」
「集団で動く時なんてこんなもんだろ?」
リアムの「こんなもん」が僕には不思議に思えた。
だってここは軍隊じゃないのに。
講堂の二階席には、新入生の保護者たちが席に着いている。そして、一階席には新入生たちが並んで入ってくる。
「何かステージでパフォーマンスでもやるの?」
「バカ! えらい大人たちが長話をするだけだよ」
(長話かぁ……。寝てしまってもいいのかしら?)
「これより、第……」
司会者の掛け声で、入学式が始まった。
「新入生挨拶。一年一組、立花めぐみ」
(えっ?! めぐみって……)
「アオイ、お前と同じ苗字だな」
「僕のいとこだよ」
「今あそこにいるってことは、試験の成績はトップなんだろうな」
「そういう決まりがあるの?」
「まぁ、だいたいそうだな」
「成績トップか……」
リアムが言う通り、大人たちの長い話が延々と続いた。眠気と戦いながら、どうにか式を終えた。新入生たちは、それぞれの担任に付き従いクラスへと戻って行った。
クラスへ戻るとまず、担任が自己紹介を始めた。
「坂井徹。テツと書いてトオルと読ませる。どうだ、かっこいいだろ?」
「てっちゃん!」
「誰だ! 担任に対してちゃん呼ばわりするやつは?」
「……」
誰も答えない。自分の行動に責任が持てないのだろうか……。
「坂井先生、初日から愛称で呼ばれるなんて、愛されていますね」
「立花、お前か? ちゃん呼びしたのは」
「違いますよ! 僕は何も言っていません。責任が持てない行動はしない主義ですから」
一番後ろの席で、背中を丸めている生徒がいる。彼が叫んだ張本人だろうか? 僕の言葉の意味を、わかってくれるといいのだけれど。
「まぁいいだろう。これからは、高校生らしくあるようにだな……」
「先生!」
「なんだ! またお前か? 立花」
「何をもって『高校生らしく』なんでしょうか?」
「何をもって……理屈をこねるな! 明日からはオリエンテーションなど、生活態度についての話をします。教科書はまだいらないが、筆記用具などは忘れないように。今日はこれで終わります」
初日から僕は、担任をイラつかせたようだった。
「アオイ、担任に喧嘩売ってどうするよ?」
「喧嘩なんて売っていないよ。そもそも喧嘩は売らないでしょ。でも売るってどういう意味なの?」
「アオイが担任に対して、喧嘩をしかけたように見えたんだよ。それを『 売る』って使うんだ」
「リアム賢い」
拍手で賞賛……この光景、どこかで見たような気がする。
「あなた、立花葵でしょ?」
突然、僕の目の前に現れたのは、いとこの立花めぐみだった。
「あなた、将棋部に入りなさい!」
「どうして? 僕が入る部を、なぜ君が決めるの?」
「どうせ日本に来て友達なんていないんでしょ? 私が部長を務める『将棋部』に入れてあげるわよ」
「僕がやるのは『チェス』だし、それに入る部はもう決めているよ」
「はぁ?!」
「彼と一緒にバレー部に入るんだ」
そう言ってリアムの顔を見た。
めぐみは、かなりの角度で首を上に向けていた。見ているだけで首が辛そうだ。
「あっそ! 身長が足りなくて、バレー部に入れなかったら、いつでも拾ってあげる。フン!」
(立花家の女は、母さまといい気が強い人ばかりなのかな?)
僕がリアムと廊下を歩いていると、二組から空閑くんが出てきた。
「立花、五組へ行くのか?」
「うん」
僕たちは三人で五組へ向かった。
教室の中から、先生が大きな声で冗談を言っている。すると、生徒たちの笑い声が聞こえた。このクラスはきっと明るいクラスなんだろうな。
「それじゃあまた明日。気をつけて帰れよ!」
「先生、さよなら!」
教室から次々と生徒が出てくる。
「アオイ! 迎えに来てくれたの?」
「……かな?」
「かなって……おかしいだろ! その言い方」
「イツキ、相変わらず立花には冷たくあしらわれとんな」
「うるさい!」
「なあ、バレー部の入部志願者全員そろてるよ。体育館行かん?」
「何? 早口言葉か何か?」
「立花、これ早口でもなんでもないやろ?」
「高梨くんの話し方おかしい」
僕は高梨くんに対して不貞腐れて見せた。
「相変わらず似非関西人だから、勘弁してやって」
空閑くんのフォローも、相変わらずだと思った。
「アオイ、体育館寄っていかないか?」
「構わないよ」
僕らは七人揃って、体育館へ向かう。その体育館は、ホールとは違い明るく広い空間だった。
バレーボールコートが四面もあり、ちょっとした大会ならここで開かれそうな広さだった。実際地区予選の会場になることもあると、後で樹に聞いた。
二階には観覧席が設けられており、試合の時は校内外問わず、大勢の観戦者が来るらしい。
体育館の扉の向こうに、懐かしい人物の顔を見つけた。僕の足が勝手にその人物へと走り出し、そのまま飛びついた。
「ユウ!」
「アオイ、入学おめでとう」
「ありがとう」
周りの目が冷ややかなことに気がついた僕は、優一の体から離れた。
「お前たちは新一年生か?」
優一より身長は低いが、しっかりとした筋肉をまとった中年の男が、僕たちに声をかけてきた。
「はい!」
いつの間にか僕の後ろには、樹たちが揃っていた。
「ほとんどは中学からの持ち上がりか。いちばん背が高いのと……岩田に張り付いたお前、出身校とポジションを言ってみろ」
随分偉そうにものを言う……。
「神楽台中学出身、ミドルブロッカーです」
「身長は?」
「190センチです」
「よし。次、お前」
「……」
「どうした? 出身校を言えないのか?」
「初対面の人間に対して、随分と偉そうにされていますが、あなたはどなたですか? まずはそれをお聞きしたい!」
「おい、アオイ。バレー部の監督だよ」
樹が僕に耳打ちした。監督であろうが誰であろうが、人間としてまずは挨拶だろう! と、僕は母さまに教わった。
「これはすまなかった。俺はここのバレー部監督、菅谷だ」
「僕は、アメリカ、カリフォルニア州サンタモニカから来ました。立花葵です」
「お前が、立花か?」
「僕を知っているのですか?」
「学園長から聞いている。少し変わった経歴の生徒が入学すると」
「変わった……」
「監督、それは偏見ではないですか? 俺、アオ……立花が十二歳の時から知ってるけど、何も変わったところなんてなかったですよ」
「岩田、どういう知り合いだ?」
「四年前の世界大会で知り合いました。その後、サンタモニカのビーチでバレーの基礎を教えました。監督、こいつビーチでメッチャ飛んでましたよ」
「立花。その場で思い切りジャンプしてみてくれないか?」
「ここでですか?」
周りの人間が少しスペースを空けてくれた。
膝を曲げ、床を強く押す。そのまま上へと体を伸ばす。優一の頭を下に見下ろすとは思わなかった。
「高っ!」
誰かがそう叫んだ。
「よし。全員、入部希望者だな」
「はい!」
「時期は早いが、体がなまってはいけないだろう。興味があるものは、明日からでも練習に参加して良し。ただし保険加入がまだなので、怪我だけは十分に気をつけるよう、以上だ」
「はい!」
僕たちはラッキーと言わんばかりに、足取りも軽く体育館を後にした。
「アオイのジャンプ凄かったな」
「どのくらい飛んでんだろう?」
「そら、天にも届くって、てん……悪いこれ無しや!」
「ああ! また高梨くん、僕のことを『天使』とかって言いかけたでしょう?」
僕は頬を膨らませて怒ってみせる。
「ごめんやて。でも、その顔もええな」
高梨くんの目尻が異様に下がっている。ほかの男たちも何か勘違いしていないか?
「僕は、人間の男だ!」
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